912.文法篇:一文一意

 今回は「一文一意」についてです。

 日本語はひとつの文に多くの意味を載せることができます。

 しかし、できることとやっていいことは異なるのです。

 できるかぎり「一文」が「ひとつの意味」を指すように意識しましょう。

 そして、どうも味けないなと感じたときに、重文や複文にして「ふたつの意味」を持たせるようにしてください。





一文一意


 文章が書けるようになると、一文の中に複数のことを盛り込み始めます。

 しかし基本は「一文一意」。つまり一文ではひとつのことしか言及しないことです。

 複数の意味を盛り込んでしまうと、その文でなにが言いたいのか、読み手はわからなくなります。




重文に注意

「一文一意」は「単文を重視する」ということです。

 重文にすると、句点から句点までの一文で、複数の意味を持たせられます。

 つまり重文こそが「一文一意」を妨げる要因なのです。

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 私には独立する夢があり、希望する職種があるのですが、御社で経理を募集しておられましたので簿記一級のスキルが生かせると思って応募しましたが、私の趣味は読書で、とくに太宰治をよく読んでいて、中でも『走れメロス』が大好きで、毎年必ず読み返しているくらい気に入っており、メロスのように悪を憎む心を持って誠実に職務を全うし、もし御社の末席に加わることが叶いましたら、全力を挙げて職責を全うしたく、ぜひとも御社のますますのご発展のために採用いただければと存じます。

――――――――

 例文でさすがにここまでの重文にする必要はないですよね。ですが過剰なほうがわかりやすいと思い、あえて盛り込みまくりました。


 さて、この例文で語り手は受け手になにを伝えたいのかわかりましたか。

「一文一意」ではないので、なにを伝えたいのか、すぐにはわからなかったはずです。

 伝えたいこととしては

(1)独立する夢がある。

(2)希望する職種がある。

(3)御社で経理を募集していた。

(4)簿記一級のスキルが生かせると思って応募した。

(5)趣味は読書。

(6)とくに太宰治をよく読む。

(7)中でも『走れメロス』が大好きで毎年必ず読み返しているくらい気に入っている。

(8)メロスのように悪を憎む心を持って誠実に職責を全うする。

(9)御社の末席に加われたら全力を挙げて職務を遂行したい。

(10)ぜひとも御社のますますの発展のために採用してください」

 と、なんと十の意味を一文に持たせています。

 これを一読して理解しろ、というのはかなりの無理筋です。

 この文章はエントリーシートを意識して書いたものですが、内容が意味不明だと思いませんか。

――――――――

 私には独立する夢があります。希望する職種があります。御社で経理を募集しておられました。簿記一級のスキルが生かせると思い、応募しました。もし御社の末席に加わることが叶いましたら、全力を挙げて職責を全う致します。ぜひとも御社のますますのご発展のために採用いただければと存じます。

――――――――

 まず「一文一意」を徹底し、不要な文を削除しました。

 エントリーシートで志望動機を書く欄に「趣味は読書」という内容は必要でしょうか。

 要りませんよね。なので丸ごと削除しました。

「一文一意」にしたからこそ、不要な内容を切り分けられたのです。




修飾語を加えると複文になる

 単文に切り分けて「わかりやすく」していくと、どうしても「わかりやすすぎる」ようになります。

 そこで「修飾語」を加えると複文になってしまうのです。

 たとえば先ほどの例文の(4)は「簿記一級のスキルが生かせる」という文が「と思って」の「修飾語」となっています。「と思って」は「応募した。」という述語の「修飾語」になるのです。

 つまり「「「主語+述語」+述語」+述語」という複文の構造になっています。

 これは「簿記一級のスキルが生かせる。そう思って応募した。」という単文を複文にしたものです。しかし「こそあど」が出てしまうので、それを回避するためにあえて複文にしました。

 (7)は「修飾語+主語+述語」、「「修飾語+述語」+修飾語+述語」という複文の重文構造です。

「中でも『走れメロス』が大好きだ。」「毎年必ず読み返している。」「そのくらい気に入っている。」という三つの単文があり、これは三文目に「こそあど」が出てしまうのでここは複文にして回避します。すると「中でも『走れメロス』が大好きだ。」「毎年必ず読み返しているくらい気に入っている。」と分けることもできます。

 あえて重文にしたのは、私の「気分」です。

「気分」で文法の法則を無視してよいのか、という説もあります。

 しかし、小説は書き手の「気分」を文章で表した一次元の芸術です。

「気分」が乗らない書き方をするよりも、「気分」の乗った書き方をすれば、書き手の個性が現れます。

 (8)は特殊で最初に主語が書かれていません。「「修飾語+述語」主語+述語」、修飾語+述語」という、やはり複文構造になります。

 (9)は「修飾語+述語」「修飾語+述語」「修飾語+述語」の形です。


 このように短く区切ったからといって、必ず単文になるわけではありません。

 気づかない形で複文や重文を用いています。

 とくに複文は、単文に「修飾語」を入れるとほとんどの場合で成立するのです。

 また書き手の「気分」によって、単文にするよりも複文や重文にしたほうがよいと判断したら、切り替えてもかまいません。





最後に

 今回は「一文一意」について述べました。

 文の基本は「単文」です。

 しかし修飾語を加えるとどうしても「複文」になってしまいます。

 そして書き手の「気分」で「重文」に仕立ててもかまいません。

 書き手の「気分」は執筆のモチベーションにつながります。

 楽しく連載を続けるためには、「気分」を重視して構成してください。



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