908.文法篇:修飾語を配置する順序

 今回は「修飾語の順序」についてです。

 よく「長いものから並べましょう」と言われます。

 しかし順序によっては誤解を生むケースもあるのです。





修飾語を配置する順序


 修飾語は被修飾語にさまざまな情報を付加します。

 しかし置く順序によっては混乱をきたすのです。

 今回は修飾語をどの順序で配置するのかを見ていきます。




どの語句がなにを修飾しているのかを確認する

 次のような例文を用意しました。

「珍しい室町時代の古美術商で見つけた『源氏物語』の写本を手に入れた。」

 では、例文のうち修飾語と被修飾語の関係を書き出します。

「珍しい → 写本」

「室町時代の → 写本」

「古美術商で → 見つけた」

「見つけた → 写本」

「『源氏物語』の → 写本」

「写本を → 手に入れた」

 以上が「修飾語 → 被修飾語」の関係です。

 まず被修飾語がひとつしかない修飾語を近づけてひとかたまりにします。

「珍しい → 写本」

「室町時代の → 写本」

「古美術商で見つけた → 写本」

「『源氏物語』の → 写本」

「写本を手に入れた」

 これで「写本」にかかる修飾語句が四つあることがわかるでしょう。




順序によって誤解が生じないように配慮する

 例文を再度読むと、よくわからない部分があります。

「珍しい室町時代の古美術商で見つけた『源氏物語』の写本を手に入れた。」

 形容詞「珍しい」のは「室町時代」でしょうか。上記しましたが違いますよね。

 またこれだと「室町時代の古美術商で見つけた」という文が成立するのです。まるで語り手が室町時代に行ってその時代の古美術商で見つけたような印象イメージが浮かびます。

 これは「室町時代の」が体言を修飾する語句だからです。

 日本語の文では「修飾語と被修飾語はできるかぎり近づける」という原理原則があります。

「主語と述語」「かかりと受け」はともに「修飾語と被修飾語」の関係です。

 それらはともに「近づける」よう前述しました。

 今回はさらに広げて「修飾語と被修飾語」もできるかぎり近づけるのです。

 それにより「室町時代の古美術商で見つけた」がタイムスリップしたかのような出来事に感じられます。

「室町時代の」の後に体言を置いてしまうと、それに直結してしまうのです。

 だから「室町時代の」は後に用言を置くか、直接「写本」に隣接させるかしてください。

 たとえば、以下のような順序にしてみます。

(a)「珍しい古美術商で見つけた『源氏物語』の室町時代の写本を手に入れた。」

(b)「珍しい古美術商で見つけた室町時代の『源氏物語』の写本を手に入れた。」

「『源氏物語』の」と「室町時代の」はともに「写本」を修飾します。

 ですが順番が違うだけでどちらに重きを置くのか違ってくるのです。

 (a)は『源氏物語』の中でも「室町時代の写本」ということになります。「室町時代の写本」のほうが重要ならこちらを選びます。

 (b)は「室町時代の」の中でも「『源氏物語』の写本」について語っているのです。「『源氏物語』の写本」のほうが重要ならこちらです。

 これで「室町時代の」の処理はできました。


 今度は「珍しい古美術商で見つけた」が気になるのではないでしょうか。

 先ほどの「珍しい室町時代」と同じく、「珍しい古美術商」とは「めったに見ることのできない古美術商」のような印象を受けます。

「珍しい」は形容詞の連体形です。つまり「室町時代の」と同様、続く「古美術商」を修飾してしまいます。

 そうであれば「珍しい」は「写本」の前に置いたほうがよいでしょう。

 置くパターンは六つあります。

(c)「古美術商で見つけた珍しい『源氏物語』の室町時代の写本を手に入れた。」

(d)「古美術商で見つけた『源氏物語』の珍しい室町時代の写本を手に入れた。」

(e)「古美術商で見つけた『源氏物語』の室町時代の珍しい写本を手に入れた。」

(c’)「古美術商で見つけた珍しい室町時代の『源氏物語』の写本を手に入れた。」

(d’)「古美術商で見つけた室町時代の珍しい『源氏物語』の写本を手に入れた。」

(e’)「古美術商で見つけた室町時代の『源氏物語』の珍しい写本を手に入れた。」

 まず(c)(d’)ですが、「珍しい」のは『源氏物語』でしょうか。もしそうならこの順番でもかまいません。しかし一般的に考えて『源氏物語』自体は「珍しい」ものでしょうか。現代ではありふれた古典ですよね。だから「珍しい『源氏物語』の」は根拠に薄いと思います。

 次に(d)(c’)ですが、「珍しい」のは「室町時代の」ものでしょうか。もしそうならこの順番になります。他の時代はありふれていても、「室町時代の」ものは「珍しい」。そういう意味ならこの書き方は「あり」です。

 残る(e)(e’)は「珍しい」のは「写本」ということになります。「写本」そのものが「珍しい」のであればこの書き方は「あり」です。しかし(e)「『源氏物語』の室町時代の珍しい写本」は「『源氏物語』の写本の中でも室町時代のものは珍しい」という意味ですし、(e’)「室町時代の『源氏物語』の珍しい写本」は「室町時代の写本の中でも『源氏物語』のものは珍しい」という意味になります。

 どれを選ぶかは書き手の裁量です。




長い修飾語句から順に並べる

 一般的に修飾語句は「長い」ものから順に並べるという法則があります。

 今回の例文であれば、「古美術商で見つけた」「『源氏物語』の」「室町時代の」「珍しい」の順に並べるのです。つまり(e)で並べるのが是とされています。

 しかし本当にこれが正しいのでしょうか。

 上記しましたが、書く順序が異なるだけで意味は変わってしまうのです。

 修飾語句の長さは、あくまでも目安にとどめましょう。

 意味がわかりにくい順序の場合は、読点を適度に打ってわかりやすくすることも考えられます。

(a)「珍しい、古美術商で見つけた『源氏物語』の室町時代の写本を手に入れた。」

(b)「珍しい、古美術商で見つけた室町時代の『源氏物語』の写本を手に入れた。」

(c)「古美術商で見つけた珍しい、『源氏物語』の室町時代の写本を手に入れた。」

(d)「古美術商で見つけた『源氏物語』の、珍しい室町時代の写本を手に入れた。」

(e)「古美術商で見つけた『源氏物語』の、室町時代の珍しい写本を手に入れた。」

(c’)「古美術商で見つけた珍しい、室町時代の『源氏物語』の写本を手に入れた。」

(d’)「古美術商で見つけた室町時代の、珍しい『源氏物語』の写本を手に入れた。」

(e’)「古美術商で見つけた室町時代の『源氏物語』の、珍しい写本を手に入れた。」

 読点を打つだけで少しはわかりやすくなりました。

「長い修飾語句から順に並べる」のはわかりやすくするためですよね。

 しかし必ずしもそうはなりません。

 まったく同じ語句の並び方を変えるだけで、文には複数の意味が生じるのです。





最後に

 今回は「修飾語を配置する順序」について述べました。

 あまり頓着しない方なら「長い修飾語句から順に並べる」でかまいません。

 可能なかぎり正確に伝えたいなら、意味を取り違えられない順序で並べましょう。



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