902.文法篇:助詞は・が・の

 今回も引き続き助詞「は」「が」について述べます。

 そこになぜか出てくる助詞「の」にはどんな意味があるのでしょうか。





助詞は・が・の


 文章を書くときに必要なのは主体や主語です。

 それを表す助詞が「は」と「が」になります。

 文章読本らしく、「は」と「が」の差を考えてみましょう。




主体の「は」、主語の「が」

「薔薇は私が最も好きな花だ。」という一文があります。

 これをそれぞれ「は」だけ、「が」だけにしてみます。

「が」抜き。「薔薇は最も好きな花だ。」

「は」抜き。「私が最も好きな花だ。」


「薔薇は最も好きな花だ。」とだけ書いたら「じゃあ他の花のことはどう思っているのか?」とか「誰が薔薇を好きなのか?」とか、疑問が湧いてきませんか。後者は「が」抜きであるから、「私が薔薇を好きなんです」と答えられます。

 では前者はどうでしょうか。これは「他の花のこと」を考える必要があります。「蘭は次に好きな花だ。」とか「チューリップはあまり好きではない。」とか。

 このときの助詞「は」の機能は「述語の範囲を決める」ことです。「助詞がかかる語と述語をイコールで結ぶ」役割を果たします。

「最も好きな花だ。」を限るのは「薔薇」だということ。「薔薇」イコール「最も好きな花だ。」であり、「次に好きな花だ。」の範囲は「蘭」だということになります。「蘭」イコール「次に好きな花だ。」です。

 だから助詞「は」は「述部の範囲を限定する」主体を指す助詞なのです。

 では助詞「は」を助詞「が」に置き換えたらどうなるでしょうか。

「薔薇が最も好きな花だ。」だと意味合いがわかりづらいですよね。「薔薇さん」が「最も好きな花だ。」のようにも読めてしまいます。これは助詞「が」だと主語になってしまうからです。

 このときの助詞「が」の機能は「述語に対応する」主語を指します。


「私が最も好きな花だ。」とだけ書いたら「いったいどの花のことだろう」と読み手は戸惑います。

 そこで前文として「庭園には色とりどりの薔薇が咲き誇っている。」が書いてあったとするならば、「あ、薔薇が最も好きなんですね」とすぐにわかるのです。前文が「庭園には花々が咲き誇っている。」と書いてあったらどうでしょう。具体的な種類が書いていないので、やはり「いったいどの花のことだろう」となってしまいますよね。

 では前文と例文を合体させるとどうなるか。

「薔薇が私が最も好きな花だ。」と書けます。

 この一文を読んだとき、すんなりと頭に入ってきません。なぜでしょう。

 それは「述語に対応する」主語を指す助詞「が」がふたつあるからです。

「最も好きな花だ。」の主語は「薔薇が」でしょうか、「私が」でしょうか。

 原文を考えれば当然「私が」ですよね。

 であれば「薔薇が」をどうにかしなければなりません。

 そこで転回してみます。

「私が最も好きな花が薔薇だ。」

 これならどうですか。先ほどよりすんなりと頭に入ったのではないでしょうか。

 ですが、これだと主語を示す助詞「が」が二回出てくるという欠点は解消されません。

 前文が「薔薇の花束を渡されて嬉しくなった。」と書いてあったら、「私が最も好きな花が薔薇だ。」という「定義」の文でも意味が通らないでもない。ですがこの場合は「私が最も好きな花が薔薇だからだ。」という「理由」の文にしたほうが意味が通ります。

 では、この「私が最も好きな花が薔薇だからだ。」という文で助詞「が」が二回出てくることに拒否反応を覚えませんか。英語なら、一文に主語がふたつ入ることはまずありません。主語と述語は一対一で接続されます。

 ですが日本語だと一文で主語が二個も三個も出てしまう。そんなことがままあります。




スマートな解決法

 実はこの問題を綺麗に解消するよい方法があるのです。

 それは片方の助詞「が」を助詞「の」に変換してしまうこと。

 試しに「私が」を「私の」に変えてみましょう。

「私の最も好きな花が薔薇だからだ。」

 これでまったく違和感のない文が出来あがりました。

 助詞「が」がふたつ出来てしまったら、重要でないほうの助詞「が」を助詞「の」に置き換えるのです。

 助詞「の」には所有・所属などの意味合いの他に、助詞「が」の代用として働く機能があります。

 先ほどの「薔薇が私が最も好きな花だ。」も「薔薇が私の最も好きな花だ。」にすれば、ちょっと引っかかりはしますが普通に読めます。




主体「は」に対応する語に近づける

 例文「薔薇は私が最も好きな花だ。」を転回してみます。

「私が最も好きな花は薔薇だ。」

 これなら言わんとしていることはより明確になったはずです。

 では「最も好きな花は薔薇だ。」はどうでしょう。

 これも主語は不明でありながらも、言いたいことがストレートに入ってきます。

 前述したとおり助詞「は」には「イコールで結ぶ」機能があるのです。

 だから語順が違っても「薔薇」と「私が最も好きな花だ。」はイコールで結ばれます。

「薔薇は私が最も好きな花だ。」は「薔薇 イコール 私が最も好きな花 だ。」、「私が最も好きな花は薔薇だ。」は「私が最も好きな花 イコール 薔薇 だ。」です。

 数式では「A=B」であれば「B=A」も成立します。

 助詞「は」もこの数式と同じなのです。





最後に

 今回は「助詞は・が・の」について述べました。

 助詞「は」は主体であり、述語の範囲を限ること。またイコールで結ぶ役割があります。

 助詞「が」は主語であり、述語と一対一の関係を持つのです。

 主語の助詞「が」が複数出てくるときは、重要でないほうを助詞「の」にするとすっきりします。

 ただし助詞「の」にできない助詞「が」もありますので、その際は助詞「は」にできないかを考えましょう。



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