890.惹起篇:それでもなぜ書けないのか

 今回は「それでもなぜ書けないのか」という根本についてです。

 毎日連載を800日以上続け、コラムも890本目となりました。

 なぜあなたは小説が書けなくて、私はコラムが書けるのでしょうか。





それでもなぜ書けないのか


 毎日連載800日突破、コラム890本目を迎えた現在において、なお小説が書けない方もいらっしゃることと存じます。

 あなたはなぜ書けないのでしょうか。



どうしても伝えたいことがありますか

 あなたには、読み手にどうしても「伝えたい」、切実な思いがありますか。

 今でも書けない方は、総じて「伝えたい」ほど切実な思いがないのです。

「伝えたい」切実な思い、つまり「メッセージ」であり「テーマ」です。

「伝えたいテーマ」のない小説は、書きようがありません。

 なにを書けばよいのかがわからなくて手が止まる方もいます。考えすぎて手が止まる方もいるのです。

 ですが少なくとも、読み手に笑ってもらいたいのか、泣いてもらいたいのか、憤ってもらいたいのか、哀れんでもらいたいのか、喜んでもらいたいのか。そのくらいは決められるのではないでしょうか。

 まずはそこから始めてみましょう。


 ここでは「喜んでもらいたい」を取り上げたいと思います。いわゆる「ハッピー・エンド」です。

 では、どんな「ハッピー・エンド」が思い浮かぶでしょうか。

 両想いの意中の異性と結婚して終わる。王子様に見初められて玉の輿婚で終わる。「デスゲーム」をクリアして現実へ生還して終わる。生き別れの親と再会して終わる。解散の危機を脱してバンド活動を再開してメジャー・レーベルからお声がかかって終わる。魔王を倒して世界に平和が訪れて終わる。

 ちょっと考えてしまいますが、これもそんなに詰まることなく出てくるのではないでしょうか。

 ここでは「魔王を倒して世界に平和が訪れて終わる」を選んだとします。


 では「魔王を倒して世界に平和が訪れてハッピー・エンド」の作品を通して、あなたが読み手に「どうしても伝えたいこと」はありますか。

 改めてそう問われると、浮かんでこない方が多いのです。

 あまり考え込まないでください。

 たとえば、ひとりの若者が勇気に目覚めて世界を変革する。そうして「勇気」のたいせつさを伝えたい。勧善懲悪(善を勧めて悪を懲らしめる)の物語で、よいことをすれば報われると伝えたい。魔王が抱える闇を照らし出して仲直りすることで、どんな人とも仲良くなれると伝えたい。

 こんな程度のことでもかまわないのです。

「どうしても伝えたいこと」ひとつを高く掲げましょう。

 そして「企画書」の中にそれを書き込むのです。

 これで「どうしても伝えたこと」がなくて筆が進まないという事態は回避できます。


「伝えたいテーマ」が明確なら、どんなに拙い文章でも読み手の心に届くのです。

 そもそもどんな文章を書けば読み手に正しく「伝わる」のかは、プロの書き手にもわかりません。たとえプロでも、ときに傑作を書く人もいれば駄作を書く人もいるのです。

「どうしても伝えたいこと」がないのなら、一度ご自身の心の中へ飛び込んで、「どうしても伝えたいこと」を探し出してください。

 世間に対して是が非でも訴えたいことのひとつやふたつ、必ず見つかるはずです。

 それはあなたひとりが感じていることでもかまいません。

 さまざまな人たちが、さまざまな意見を述べること。それが民主主義の根幹です。

 だからあなたの感性に従って「どうしても伝えたいこと」を書きましょう。




本当に読み手に伝わったのか

 では「どうしても伝えたいこと」が含まれた作品を、読み手はどう感じるのでしょうか。

 次に留意したいのが「本当に読み手へ伝わったのか」です。

 ただ書きっぱなして反響を省みないのであれば、最初の投稿で「ただの書きっぱなしか」と見切られて以後誰からも読まれなくなります。

 読み手の心に届くように書けば、拙い文章でも「どうしても伝えたいこと」はじゅうぶん伝わるのです。

 読んだ人がどう感じたのか。書き手の伝えたかったことが過たず伝わっているのか。

 それが小説には求められます。

 もちろんうまい文章を書ければ、それに越したことはありません。文章が華やぎますからね。

 でも相手に伝わること。そして読み手に変化を促すこと。

 それが真の意味での「伝わる」なのです。

 ときに「バッド・エンド」を読ませて「なぜこうなってしまったのか」「こうならないためにはどうするべきだったのか」を考えてもらいます。

 これも「伝わる」ことを意味するのです。

 たとえばウィリアム・シェイクスピア氏『ロミオとジュリエット』は「バッド・エンド」ですが、さまざまな教訓を読み手に与えています。これが「伝わる」ということなのです。稀代の劇作家恐るべし。




メリットのある情報を伝える

 伝えるべきは「読み手にメリットのある情報」です。

 読み手がなんのメリットを受けない小説を読んで「面白い」と思うはずがありません。

 読み手にとってのメリットの重要なひとつは、いわゆる「属性」です。

「眼鏡っ娘」「ボクっ娘」「ぶりっ子」「ロリっ子」「清楚」「ハイソ(ハイ・ソサエティー)」「巨乳」「妹」といったキャラの特徴のことを総じて「属性」と呼びます。今なら「悪役令嬢」も「属性」に入りますね。

 これらの「属性」を持ったキャラが登場して活躍するから、読み手は楽しみながら読むのです。

 とくに『小説家になろう』では顕著です。

『小説家になろう』はコテコテのテンプレートを踏襲した作品でなければまずウケません。

 冴えない人物が「異世界転生」して「チート」な「スキル」を手に入れてひじょうに高い「ステータス」で「無双」する「主人公最強」、のような作品でなければならない。

 これが俗に言う「なろう小説」です。

 今では他の小説投稿サイトにも大量に投稿されています。

 この「なろう小説」は、中身がほとんど同じ小説です。違いは元々の主人公の年齢や職業、転生先、どんな種類の「チート」なのか、くらいのもの。

 そこから生まれたのがカウンター・カルチャーとしての「スローライフ」ものです。

 なんでもかんでも「無双」する、「主人公最強」の小説には食傷ぎみの読み手を、一気にさらっていきました。

 これにより『小説家になろう』は「無双」ものと「スローライフ」ものに二分されたのです。

「無双」ものも「スローライフ」ものも、『小説家になろう』の読み手に特化した作品であり、人気も『小説家になろう』内にとどまります。

 そんな「なろう小説」が多くのポイントを集めてトップランカーとなり、「紙の書籍」化されていくため、多くの書き手が模倣し始めたのです。

 それにより「なろう小説」であふれかえる現状を生み出しました。


 よいことなのか悪いことなのかは別として、『小説家になろう』の読み手は「なろう小説」を支持しているのです。

 それは「安定したストーリー展開が読める」という「メリットがある」からではないでしょうか。

 小説を読む時間の限られている読み手がハズレを引かないためには、このメリットこそ「至上」なのです。

 しかし『小説家になろう』以外の小説投稿サイトで「なろう小説」を投稿しても、あまり意味がありません。それぞれの小説投稿サイトで「読み手が欲している小説」が異なるからです。最大手の『小説家になろう』以外で小説を読もうとしている方々にとって、「なろう小説」は目障りな存在に映ります。

 ここまできてまだ「なろう小説」を読まされるのか。そんな慨嘆を禁じえません。

 他の小説投稿サイトでは「なろう小説」とは違う作品で勝負しましょう。

 そのほうが読み手にメリットを与えられますよ。





最後に

 今回は「それでもなぜ書けないのか」について述べました。

 読み手に「どうしても伝えたいこと」がありますか。なければ小説は書けません。

 では「本当に読み手に伝わったのか」を考えていますか。考えていなければ投稿しても反響は微々たるものです。

 また「メリットのある情報を伝える」ようにしていますか。メリットのない情報を読まされたら、読み手はすぐに別の作品へ目移りするでしょう。

 この三点をしっかりと押さえていれば、必ず「書ける」ようになります。



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