886.惹起篇:読み手を離してはならない
今回は「焦らし」についてです。
平板な流れの小説にはなんの魅力もありません。
読み手を離してはならない
小説とくに長編小説・連載小説は、一度つかんだ読み手を手放してはなりません。
どういったときに読み手は小説から離れていってしまうのでしょうか。
平板な流れは読み手が離れる
小説で平板な流れが続くと、読み手は現実に返ります。
物語には「山」と「谷」が必要です。
盛り上がりを高めていく「山」と、そこからゆっくりと下りてくる「谷」の部分があります。
しかし「谷」でスタート時点より盛り上がりが下がることは絶対に避けてください。
この「スタート時点」が鍵で、ここを下回ったら間違いなく読み手は離れていきます。
ここで言う「スタート時点」とはプロローグとしての「書き出し」ではありません。
本編としての「書き出し」です。
プロローグとしての「書き出し」は、読み手の興味をつかむため、盛り上がった状態からスタートします。
それを受けて、本編としての「書き出し」は最初の「谷」に当たる部分です。
以降の物語ではこの最初の「谷」を下回ってはなりません。
+1からスタートして±0の「谷」に入る。そして物語が進んでいって+2の盛り上がりの「山」を作ったら+1の「谷」に入る。次に+3の盛り上がりの「山」を作って「
+2の「谷」で期待感が残ったまま終わりますから、続編を希望する読み手が多くなります。
+1の「谷」まで物語を片づけてもよいのですが、続きが読みたくなるかと言われると、+2の「谷」よりも要望は少なくなるのです。
これが+からスタートして±0の「谷」に入る。そして話は進めどいっこうに盛り上がりが高まってこない±0のままだと、読み手はすぐに飽きます。
だから平板な流れは読み手が離れていってしまうのです。
盛り上がりと鎮静を繰り返して、読み手の期待をどんどん煽り続けてください。
焦らすのも効果的
盛り上がりがプラスのうちに焦らしてみるのも、読み手を離さない仕掛けのひとつです。
読み手は盛り上がっていますから、続きが読みたいと飢えています。
でも焦らすだけ焦らすのです。
しかし盛り上がりがかなり高いときならよいのですが、低いうちに焦らしても逃げられるだけ。
盛り上がり+2の状態なら、一回焦らして+1まで盛り上がりが下がり、次も焦らすと±0まで落ちる。ここで離れてしまう読み手が多いのです。
だから単に「焦らす」だけでなく、盛り上がりもきちんと入れて+1を+2にして、また焦らして+1に戻す。そしてまた盛り上げて+2まで上げるようにすれば、巧みな焦らし戦術と言えます。
基本的に小説の書き手はサディスティックでなければなりません。
読み手を焦らすだけ焦らして、適度にご褒美をあげたらまた焦らす。
続きが読みたい状態を維持しながら、焦らすだけ焦らすのです。
マンガの青山剛昌氏『名探偵コナン』は、主人公である工藤新一が小学生の江戸川コナンとなって、この姿にした「黒の組織」を追い詰めていく物語です。
しかし、本筋のストーリーはなかなか進んでくれません。すると読み手は焦れますよね。
そこで新一とヒロインの毛利蘭との恋愛や、服部平次と遠山和葉それに後れて登場した大岡紅葉との三角関係、警視庁の高木渉と佐藤美和子の恋愛。白鳥任三郎と小林澄子、千葉和伸と三池苗子の小学校時代からの両片想いの初恋、宮本由美と羽田秀吉、鈴木園子と京極真など、とにかく恋愛要素がたくさん出てきます。これらを使って「黒の組織」を追い詰めない「エピソード」で恋愛模様を読ませて読み手にご褒美をあげているんですね。
そうしたら新エピソードが始まって、また焦らすを繰り返します。
とりあえず恋愛が進展していけば、読み手は付いてきてくれるのです。
しかしそろそろダレるなと思ったら、「黒の組織」につながる「エピソード」を出します。最近ではそういう「エピソード」の頻度が高くなりました。世良真純の「領域外の妹」メアリー・世良の情報が次々と明らかになっていますから、そろそろ仕込みは万全といったところでしょうか。
このように読み手はマゾヒスティックなものだと思って、焦らすだけ焦らして、適度にご褒美をあげたらまた焦らす、を繰り返しまょう。
このさじ加減が正しければ、あなたの小説から読み手は目が離せなくなります。
マンガを例に挙げましたが、鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』や渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』などでも、同様の焦らしのテクニックは用いられているのです。
あなたが書いている小説には、ちゃんと「山」と「谷」はありますか。
あれば、それを巧みに使いこなしてください。
なければ、「山」と「谷」を意識して「あらすじ」を構成しましょう。
飽きられないように波乱を起こす
読み手をワクワクさせるような構成が出来あがったらそれで終わりではありません。
焦らしとご褒美の使い分け、アメとムチの使い分けだけでは、どうしても物語がワンパターンになりがちです。
そこで読み手がストーリーを飽きないために、物語に「波乱」を起こしましょう。
「波乱」があれば読み手はハラハラ・ドキドキし始めます。
「波乱」は「山」に当たるのです。「波乱」を起こしてそのままその回の投稿が終わっていたら、先が気になって仕方がなくなりますよね。
田中芳樹氏『アルスラーン戦記』も、毎巻最後に大きな「波乱」を起こして読み手を惹きつけていたのです。
連載小説でも、基本的には単行本一冊ぶんくらいで物語に決着をつけます。
しかし、終わりに「波乱」を書くことで、決着した話でも、次巻を読みたくなるような仕掛けが作れるのです。
「プロの書き手」となったとき、次巻が確実に売れなければ「連載終了」の戦力外通告されてしまいます。
次巻を確実に売るためには、「
最後に
今回は「読み手を離してはならない」ことについて述べました。
平板な物語は読み手がすぐに飽きて離れていってしまいます。
盛り上がりを意識して「あらすじ」を構成し、読み手を煽り続けてください。
そしてある程度盛り上がってきたら、適度に焦らしましょう。
進展するかな、後退するかな、現状維持かな。
そうやって焦らすのです。
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