870.創作篇:『秋暁の霧、地を治む』箱書き作例

 箱書きはこれまでやり方だけ書いてきたので、私がやっている「だいたいの箱書き」をお見せします。

 時間と場所と天気と人物とセリフのうち、セリフはほぼ書いていません。

 これは頭の中ですでに会話が「出来あがっている」からです。書かなくてもまったく支障がないのであえて書いていません。

 だいたいのセリフは「プロット」の作例で書いていますのでそちらをお待ちくださいませ。

 まぁそちらもそれほど書いてはいないのですが。





『秋暁の霧、地を治む』箱書き作例


 今回は「箱書き」の作例をお見せ致します。

 いつ、どこで、天候は、誰と誰が、おおまかな動作はある程度書いてありますが、セリフがないですよね。

 この『秋暁の霧、地を治む』は中編小説『暁の神話』の連載版になりますので、セリフのあらかたはそちらを参照できるので、あえて書いていません。




箱書き作例(エピソード1)

1) 士官学校入学から十年の時を経て、ミゲルとガリウスは中隊長となり、帝国軍との戦いに臨む。ミゲル中隊が帝国軍大将を討ち取るが、結果的に参加した将軍七名が全員戦死した王国軍の大敗によって終結する。

 -1:八月。エビーナ大将とアマム軍務長官との「テルミナ平原の戦い」。快晴。

  帝国軍参加:エビーナ大将、レミア第二重装歩兵大隊長、クレイド騎馬中隊長他

  王国軍参加:アマム軍務長官、タリエリ将軍、ミゲル中隊長、ガリウス中隊長他

  アマム軍務長官が数をたのみ、エビーナ大将の軍へ正面からの激突を図る。

  すぐに帝国軍の不利に傾く。エビーナ大将との連絡が断たれた帝国軍左翼に位置するクレイド騎馬中隊長が手勢を率いていったん戦場を離脱し、帝国軍・王国軍に視認されない場所まで撤退する。


 -2:タリエリ将軍の配下であるミゲル中隊長とガリウス中隊長は、戦場を離れたクレイド騎馬中隊が王国軍の死角から突撃してくるのではないかと報告する。しかしタリエリ将軍はアマム軍務長官から疎まれていたため、アマム軍務長官に上申しても聞き入れられず後詰めを強いられる。

  図らずや王国軍右翼側背からクレイド騎馬中隊が突撃をかけてきた。

  アマム軍務長官たちは手柄欲しさに、前面の帝国軍重装歩兵大隊を突破してエビーナ大将を討ち取らんとしていてクレイド騎馬中隊の突撃に気が回らなかった。


 -3:後詰めのタリエリ将軍は、ミゲル中隊長とガリウス中隊長の進言が当たっていたことから、ふたりに指示を与えた。ガリウス中隊がアマム軍務長官を守護するためにクレイド騎馬中隊からの防壁として布陣し、ミゲル中隊はエビーナ大将を直接討ち取るべく手薄な帝国右翼側から突撃させることにした。


 -4:巨躯を駆るクレイドが殺到する威容さに圧倒された王国諸将は、対面している帝国軍重装歩兵大隊を突破しようと躍起になっていたため、クレイドへの対処が後手に回った。

  将軍がひとりまたひとりとクレイド騎馬中隊に倒され、アマム軍務長官まであと一息というところでガリウス中隊が鉄壁の防御陣を形成してクレイド騎馬中隊の進撃を完全に食い止めた。

  その間にミゲル中隊は“無敵”のナラージャ小隊長を先頭にして、エビーナ大将へ向けて突撃していた。それに呼応してタリエリ将軍はミゲル中隊の突撃を前面から支援する。


 -5:ナラージャ小隊長がエビーナ大将を攻撃圏内に入れたとき、すでにクレイド騎馬中隊の突撃によりアマム軍務長官とタリエリ将軍以外の六将軍が討ち取られていた。さらにクレイドはアマム軍務長官に迫るも鉄壁を誇るガリウス中隊に行く手を阻まれ、軌道を変えざるをえなくなった。その際タリエリ将軍がエビーナ大将を脅かしているのを見て取ると、攻撃対象をアマム軍務長官からタリエリ将軍に切り替えて突撃する。


 -6:ミゲル中隊の先鋒を務めるナラージャ小隊がエビーナ大将を討ち取ると同時に、クレイド騎馬中隊長はタリエリ将軍を槍の露に斬り伏せた。

  王国軍と帝国軍との戦闘は、古来より帝国大将、王国軍務長官が戦死した時点で強制終了することになっていた。


 -7:王国軍はガリウス中隊がアマム軍務長官を守り抜いた。その間に帝国軍エビーナ大将をミゲル中隊が打ち取ったことで戦闘は王国軍の勝利で終了した。

  しかし損害は王国軍が参加した軍務長官アマムを除く七将軍がすべてクレイド騎馬中隊に討ち取られた大敗である。

  両軍は高官の戦死者を中心に死傷者を回収して帰国の途に就いた。




箱書き作例(エピソード2)

2) 軍の最高責任者であった軍務長官アマムは将軍に降格され、宿将カートリンクが軍務長官の座に返り咲いて王国軍の立て直しを図る。残存した中隊の中で生存者の多かったミゲル中隊、ガリウス中隊を中心に再編し、ふたりを将軍へ昇格して先の戦いの生存者と新兵が割り振られた。しかし通常なら将軍は五千名を率いるのに対し、ミゲルとガリウスには二千五百名しか配属されなかった。

 -1:八月。レイティス王国王都。

  ランドル王に戦闘の報告を行なうアマム軍務長官。

  敵大将エビーナを倒したものの、参加した七将軍すべてが戦死したことを憂慮したランドル王は、アマムの軍務長官職を解して将軍へ格下げした。次の軍務長官は前職であったカートリンクが引き継ぐこととなる。


 -2:カートリンク軍務長官は、亡くなった七人の将軍の国葬を儀典庁へ手配するとともに、新たに残兵を率いる将軍の人選に着手した。

  先の戦いで兵員の生存率が高かったアマム、ミゲル中隊、ガリウス中隊のうち、ミゲル中隊長とガリウス中隊長を将軍に昇格させようとしたが、王国諸将は年齢が若すぎることを理由になかなか首を縦に振らない。通常四十歳前後が将軍への昇格の適齢期とされていたからだ。

  そこでカートリンク軍務長官は、ミゲルとガリウスを将軍に昇格させるが、率いる兵を通常の五千名から二千五百名に半減させることを提案する。それでも諸将は渋るがランドル王がこれを認めたため、全員同意せざるをえなかった。


 -3:ミゲルとガリウスは幼馴染の王姫ソフィアと昼食をともにし、そこへミゲルとガリウスの将軍への昇格を知らせる伝令が到着した。ソフィアは「愛しき兄様方」の昇格を喜び、なにか贈り物をしなければと一人思案に暮れた。

  ミゲルとガリウスは伝令から彼ら以外の昇格者がいなかったこと、率いる兵が正規の半数であることを聞くと、組織の硬直化を嘆くしかなかった。


 -4:それから一週間ののち、ミゲルとガリウスは士官学校を卒業することとなった。中隊長までは士官学校の学生が務めている。しかし将軍は士官学校を卒業した者しか就任できない決まりがあったからだ。着慣れた学生服に赤いマントをまとったふたりは、士官学校内の貴賓控え室で待機を命ぜられていた。

  声がかけられるのを待つミゲルとガリウスだったが、ミゲルはふと中庭を望む廊下まで出歩いて、紅葉が暖かな陽の光に照らされたサリアスの木々を眺めている。中隊長までは士官学校の学生として部隊の生存率を追求できた。しかし将軍ともなれば戦果が求められる。多くの敵兵を殺し、敵大将や大隊長を手にかけなければならなくなるからだ。ミゲルは人の死に人一倍敏感であり、前回の戦いで双方に大きな被害が生じたことを憂いていた。紅葉を眺めれば解決する問題ではないが、つい懐かしい風景を眺めていたくなる。そこへガリウスがやってきて、そろそろ謁見式場に呼ばれそうだからと呼びにきた。ミゲルはガリウスに「人を殺すためというのなら、俺は将軍になりたくない」と語った。ガリウスは「カートリンク軍務長官が決めたことだから、それを拒否すると長官の立場がなくなる」とふたりの養い親を引き合いに出して説得し、ふたりは控え室に戻った。

 程なくして謁見式場への案内役が現れ、ふたりはその後をついていった。


 -5:すでに謁見式場には国王ランドル、王女ユリア、王姫ソフィア、宰相ムジャカを始めとする文官、カートリンク軍務長官を始めとする武官、そして士官学校のすべての学生が居並んでいた。

  国王ランドルの玉座の階下まで引率されたミゲルとガリウスは、国王に向き直ると片膝をついて敬礼した。

  まずカートリンクがミゲルとガリウスを国王に紹介する。先の戦いでどれだけ戦果を挙げたかを称揚し、「将軍にふさわしい」と武官を代表して述べた。

  宰相ムジャカはこれまでのふたりの軍功を並べ上げて、「将軍にふさわしい」と文官を代表して述べる。

  ランドルはまずガリウスに将軍としての志を問う。「タリエリ元将軍のような知勇兼備の将軍になります」と即答する。

  次にランドルはミゲルに志を問う。わずかに逡巡したミゲルは「私はできるだけ人を殺さない将軍を目指します」と語った。これにアマム将軍が嫌味を放つが、ムジャカが「国王の御前である」と一喝し、減らず口を黙らせた。

  考えてみれば、戦争をする際に必ずしも敵兵を数多く殺せば戦が終わるという法則はない。不文律である「敵大将を倒せばその時点で戦を終える」ことが徹底されれば、最小限の人命でも勝敗は着くのである。また、帝国を圧倒する兵力が揃えられれば戦わずして勝つこともできる。

  ランドルはミゲルの志を高く評価することになった。

  ミゲルとガリウスはカートリンクから宝剣一振りと紫色のマントを手渡された。ふたりはただちに宝剣を剣帯に吊るし、それまで着用していた赤マントを外して紫のマントを着用した。赤マントはムジャカの副官に渡す。これによって即位式典は終了し、ミゲルとガリウスは将軍の末席へ促された。




箱書き作例(エピソード3)

3) そんな最中さなか、帝国軍はひと月後に再度戦端を開いた。通常いくさは一年に一回行なわれるのが通例である。率いるのは先の戦で将軍五名を自ら斬り殺して中隊長から一気に大将へ昇格した巨躯を誇るクレイドである。


 -0:舞台説明。プレシア大陸の南東部にレイティス王国が存在していた。

  テリオス湖から流れるアルビオ河とルドラ川に挟まれた『中洲』は毎年氾濫するため定住には適さないが、そのおかげで滋味に富み穀物が大繁殖しているのである。これによりレイティス王国は人口爆発を起こし、人民を他所へ移す必要が出てきた。

  そこでレイティス王国と『中洲』を挟んだ対岸にある場所を「ボッサム」(新都市の意)と名付けて、そこへ送り出すこととなった。

  しかし移民政策は難航を極めた。野獣などが跋扈する危険な地域なのに、レイティス政府から支援がいっさい受けられなかったからだ。移民行政官が幾人も殺され、都市を建築することさえできなかった。

  そんな中で新しく赴任してきた移民行政官レブニス(現皇帝の祖先)は、巧みな手法で手早く城壁の建設を完了させ、都市を建設する土台を築き上げた。

  レブニスを支援する大商人が四人いた。彼らは「ボッサム」に商売の可能性を見出だして移り住んでいたのだが、いっこうに都市が完成しないことを憂いていた。そんな中でレブニスが都市建設に欠かせない城壁建築を完了させたことにより、大商人たちはレブニスを為政者に担ぎ上げてレイティス王国と対立しようと図った。

  酒宴が催され、レブニスは泥酔させられて大商人たちが示した「独立起案書」にサインさせられる。翌朝二日酔いに悩むレブニスは、大商人たちの来訪を受けて「ボッサム」をレイティス王国から独立した国にするよう懇請された。拒否するものの彼らは「独立起案書」を掲げて「もし独立を承諾しなければ、これを王国へ送ってあなたを捕らえさせますぞ」と凄まれたため、嫌々ながらも独立を承諾することとなった。

  こうして市街地を含む全区画の建設が終わった頃を見計らって、「ボッサム」はレイティス王国より独立し「ボッサム帝国」建国を宣言した。

  以後、レイティス王国とボッサム帝国は『中洲』の穀物を巡って、年に一度の大決戦が行なわれることとなった。


 -1:八月。人事考査は帝国側でも行なわれていた。

  戦死したエビーナ大将を継ぐ大将の人選である。帝国軍は三人の大将が交代で戦場に出陣している。その一角が亡くなれば、それを補う人材は不可欠なのだ。ふたりだけでは軍権をふたりの大将に握られて皇帝が介入できなくなってしまう。帝国の軍権は皇帝が司ってこそ正しく機能する。

  ヒューイット大将とマシャード大将は、エビーナ大将の第二重装歩兵大隊長レミアがよいと推薦した。しかし皇帝レブニスはそれを二の句も告げずに却下した。レミアは皇帝の妹だったからだ。そもそもレブニスはレミアが戦場に立つことを快く思っていない。

  当のレミアは、此度の軍功第一であるクレイド騎馬中隊長を推薦した。今度はヒューイットとマシャードが反対した。大将は重装歩兵大隊長から昇格させるのが通例であり、騎馬隊の一兵卒からの叩き上げでもあるクレイドを自分たちと並ぶ大将としては見られなかったからだ。

  しかしレブニスはレミアの進言に従い、クレイドを次期大将に任じてしまう。

  そもそも「惰弱帝」と蔑称されていたレブニスをたくましい青年とし、二度目の皇帝親征で大勝利をもたらしたのは、レミア以外知らない一年の間にクレイドが鍛え上げたからだ。

  皇帝の命令であっても素直に従う気にもならないヒューイットとマシャード。

  そこでレブニスはふたりにクレイドとの模擬戦を行なうよう指示を出した。


 -2:クレイド軍は旧エビーナ大将の残存兵に新兵と予備役を集めたもので、これにより帝妹レミアもクレイド直属の第二重装歩兵大隊長として残った。

  クレイドとヒューイット、マシャードとの模擬戦は各大将三戦ずつ行ない、そのすべてでクレイド大将が勝利を収めた。

  用兵の巧みさは型にハマった斜線陣のヒューイット、鶴翼陣のマシャードにはついていけないレベルだったのだ。

  クレイドの実力を実感したふたりの大将だが、それでもクレイドへ侮蔑的な対応に終始することとなった。


 -3:模擬戦を終えた三大将を招いたレブニス帝は、翌九月にクレイド大将を「テルミナ平原」へ派兵して、王国軍と戦うよう指示を出した。

  これにヒューイット大将とマシャード大将は強く反対する。

  新大将が昇格してすぐ実戦を指揮したことはなく、一年に二度の出兵も前例のないことだった。

  そもそも王国との戦争は、『中洲』の穀物を奪い合うものであり、相手を屈服させるような戦闘はしてこなかったのである。

  しかし帝国の最高権限者の命令であり、何人なんぴとも逆らえない。

  こうして九月の出兵は既定路線となった。





最後に

 今回は「『秋暁の霧、地を治む』箱書き作例」をお見せしました。

 セリフがないのは、頭の中にセリフが完璧に入っているからです。だからセリフがなくても私には物語の流れがわかっています。

 そういうときは「プロット」まで「セリフ」を書かないことが多いですね。



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