869.創作篇:箱書きを創る

 今回は「箱書き」についてです。

「エピソード」を場面シーンで区切ります。それを「箱」に書くから「箱書き」と呼ぶのです。





箱書きを創る


「あらすじ」を創ったら、次は「箱書き」です。

 改めて述べるまでもないかもしれません。

「箱書き」とは「箱」と呼ばれるB6サイズの小さな紙片に、「あらすじ」に必要な場面シーンの情報を書いたものです。

 いつ・どこで・天気は・誰々が・どんなことをするのか・どんな会話をするのか。その結果人間関係がどう変わったのか。

 まさに場面シーンを構成する要素がすべて盛り込まれます。




箱書きの並べ方であらすじを体現する

「あらすじ」にはエピソードを単に「主人公が森を歩いていたら追っ手に囲まれて、それをすべて倒して誰の指図かを問い詰める。王国宰相の指示だったらしい。」と書いてあったら、それを場面シーンに分けていくのです。

 まず必要なのは「森を歩いている」場面シーンです。

 たとえば小雨が降る中、同行者はなく、ひとりで夕刻の草深い森の中を歩いていた場面シーンだとします。

 ひとりで歩いていますが、早めに宿のあるところにたどり着くか、野宿するかを決めなければなりません。ひとりで野営するのは命の危険を考えればするべきではないですよね。とくに何者かの探索の手が伸びている状況では、なおさら危険です。

 それでも夕刻の草深い森の中を歩くのはなぜか。「追っ手を逃さない」ためです。

 その意図はこの場面シーンで暴露する必要はありません。最終的に追っ手をすべて退治して「何者の指図か」を聞き出した際にその意図がわかればよいのです。

 だから、主人公はなに食わぬ顔をして森の中で野営の準備に取りかかります。そのさまを何者かが見ていることに気づきますが、意に介したふうをせず周囲から着々とたきぎを拾い集めて、かまどの準備をし、夕食が出来あがります。

 ここまで追っ手はまったく主人公に襲いかかろうとしません。この場面シーンでは、あくまでも平穏を装った緊迫した場面シーンを演出するだけです。


 そんなことまで場面シーンを分けなければならないのか、とお思いの方もいらっしゃいますよね。これは「時間が隔たっているから」分けるのです。

 追っ手が襲撃者に変貌するのは、主人公が寝入ろうとするときになります。食事をする場面シーンの「箱書き」まで追っ手はただの傍観者にすぎません。だから場面シーンを分けるのです。

 場面シーンが異なりますから「箱書き」も当然分けます。

 そして肝心の野宿の場面シーンで、追っ手が襲撃者へと変貌し、主人公の寝首を掻こうとするのです。

 ここでの大立ち回りは先ほどまでの安穏とした雰囲気とは明らかに異なります。バトルアクションが存分に表現されなければなりません。このように「安穏」と「危機」が明確に異なる場合も場面シーンを分けるべきです。

 今回の例としては「追っ手との大立ち回りの末、最後のひとりから黒幕の名を聞き出す」ところまでが同じ場面シーンになります。




箱は場面シーンにつき一枚

「箱書き」は「あらすじ」のエピソードを場面シーンで区切ったものです。

 今いつですか、今どこにいますか、今誰といますか、今なにをしていますか、今どうなっていますか、今どんな天候ですか。

 これらがひとつの場面シーンを作ります。ひとつの場面シーンが「箱」に収まるのです。

 ひとつの「箱」の中で時間が経過したり、場所が移り変わったりしてもかまいませんが、それらは連続させるようにしてください。隔たってしまったら別の「箱」に書かなければなりません。

 このように「箱」は場面シーンごとに一枚必要です。

 時間が隔たったり、場所が隔たったり、展開が隔たったりするたび、新たに「箱」を作ります。

 最初のうちは面倒くさいかもしれません。しかし慣れてくると物語の進め方が視覚化され、わかりやすくなります。




箱書きは伏線の埋設に最適

「箱書き」のよいところは場面シーンの「並べ替え」をいつでも行なえる点にあります。

 また「佳境クライマックスから結末エンディング」までの箱書きを決めてから、遡る形でエピソードを積み上げていきましょう。

 そうやって場面シーンの箱書きを創れば、「伏線」を容易に仕込めます。

 物語を強力に推し進める力が「伏線」です。

「伏線」のない小説は淡々として退屈にすぎます。

 ワクワク・ハラハラ・ドキドキ、スリル・ショック・サスペンスのない小説に魅力はありません。

「伏線」こそが小説を読むときの大きな魅力なのです。だから「伏線」のない小説を書こうとしないでください。

 推理しない推理小説は面白いのでしょうか。つまらないと思いますよね。

「伏線」のない小説は「推理しない推理小説」と同じです。

 小説がただの散文と異なる理由が「伏線」の有無にあります。

 以前にも書きましたが「フィクション」を書くなら「因果」をはっきりさせることです。ある出来事が起こるのは、以前あることをしたから。そうでなければ「フィクション」に現実味リアリティーを持たせられません。

 つまり「伏線」という「因」を前フリすることで、「現状」という「果」が生み出されるのです。




最も書き込まれた箱が佳境クライマックスになる

 どの「箱」つまり場所シーンの情報量が多いのか。逆に少ないのか。それがわかるだけでも、書き込みの密度を細かくするか粗くする目安になります。

 そして最も情報量の多い「箱」はたいてい「佳境クライマックス」だと思います。この小説を着想したときに、ここが最も書きたかったはずですよね。だから最も書き込みが密になるところが「佳境クライマックス」だと判断できます。

 もし「佳境クライマックス」以外の場所が最も情報量が多い場合、「見せ場が別」だということです。

 最も盛り上げたい場所はどこですか。「佳境クライマックス」ではないのですか。あえてそれ以外の場所を盛り上げたいのですか。

 もしそれ以外の場所を盛り上げたいのであれば、それはそこが「佳境クライマックス」の別の小説ということになります。

 あなたはどちらの小説が書きたかったのでしょうか。

 それによって構成を変えなければならなくなります。「あらすじ」からやり直すのです。

「あらすじ」はできるだけいじらないほうがよいのですが、「佳境クライマックス」の密度が他の箇所に及ばず、盛り上がらないようなら、「あらすじ」をいじってもかまいません。

佳境クライマックス」よりも情報量が多くなったエピソードをスリムにして、手短な「箱」になるように調整します。

 これも「箱書き」を創る利点です。最も盛り上げたいところを盛り上げる。小説では最重視されます。


 ここまで「箱書き」を徹底すれば、「あらすじ」のエピソードに含まれる場面シーンは完璧な流れに乗せられるのです。

 



応募要項に沿って箱を加減する

 この先「プロット」を経て本文を書いたとき、もし分量が「小説賞・新人賞」の応募規定に満たなければ「箱」を加えましょう。大幅にオーバーするようなら「箱」を省いてその部分を削ればよいのです。

 もし「箱書き」を作らずに分量を調整するなら、どこからどこまでを削っていいのか、エピソードや場面シーンを探すだけで大仕事になります。「箱書き」を書いておけば、「箱」の出し入れで加減できるのです。便利ですよね。

 川原礫氏『ソードアート・オンライン』は長大な原文を単行本一冊に凝縮するために、さまざまなエピソードと場面シーンを削っています。中層階を舞台にしていたはずが、エピソードが変わった途端七十四階層までひとっ飛びしたのも、そのためです。

 削れるエピソードと場面シーンは徹底的に省きます。そのために物語がスムーズに流れなくなったら、省いた前後で整合性をとりましょう。

 削っただけ、加えただけでは意味不明になることが多いのです。

 この調整がうまくできる人とできない人がいます。

 うまくできないようなら、いったん「あらすじ」まで戻って、どこをどう変えたのかを赤ペンでチェックしてください。そのうえで「箱書き」の要領でエピソードを分割します。こうすると「箱」の内容が変わりますから、当然「プロット」も変わるのです。

 これが無理せず「箱」の加減をするときのコツになります。





最後に

 今回は「箱書きを創る」ことについて述べました。

「箱書き」があるだけで、物語の分量を適切にコントロールするすべが手に入ります。

 応募したい「小説賞・新人賞」の募集要項に記されている分量を満たすには、この方法が最も手っ取り早いのです。

 もしいきなり本文を書き出したら、足りない分量をどこかの表現で水増ししたり、逆に多すぎる分量をどこかの描写で削減したりして帳尻を合わせようとするでしょう。

 しかし目の肥えた選考さんが、この小手先の手加減を見抜けないはずはないのです。必ずやマイナス方向に評価されます。

 その点「箱」の出し入れは、百戦錬磨の選考さんにも見抜けません。なぜなら「あらすじ」段階から明確な構成が作られており、場面シーン割りにも不自然さを感じさせないからです。それぞれの「箱」の中身も適切な表現や描写がなされるので、この状態を選考さんが見抜けるはずがありません。

「小説賞・新人賞」を狙っている方は、「箱書き」を創る手間を惜しまないようにしてください。



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