858.創作篇:現実世界は意外な穴場

 今回も「世界観」についてです。

 ライトノベルの多くが「剣と魔法のファンタジー」であることは周知の事実です。

 ではなぜ多くの書き手が異世界を舞台に選ぶのでしょうか。





現実世界は意外な穴場


 ライトノベルの多くが「剣と魔法のファンタジー」つまり「異世界ファンタジー」です。

 それを不思議に思わないで受け入れている方が多いと思います。

 なぜライトノベルの多くが異世界ファンタジーなのでしょうか。




なぜ異世界ファンタジーなのか

 それは「現実離れしている」からです。

 はい? 意味がわからない?

 手っ取り早く言えば「現実世界にドラえもんがいない」からです。

 はい? もっとわからなくなった?

 つまり「現実世界では不思議なことが起こらない」からです。

「剣と魔法のファンタジー」なら「魔法」という不思議なことが起こります。でも現実世界に「魔法」はありませんよね。

 正体不明の野獣や魔族もいません。まぁまだ見つかっていないだけで、マリアナ海溝や日本海溝、北極海や南極大陸、北欧のフィヨルドなどに未確認生物が潜んでいたり眠っていたりする可能性はあります。先頃「ホラアナライオン」の子どもの死骸が永久凍土から発掘されましたからね。

 ですが人類が住む地上において「未踏の地」はほぼなくなりました。

 もう「現実世界では不思議なことは起こらない」のです。

 現実世界で起こることには、物理法則で説明のつく明確な因果関係があります。

 だからこそ「現代人は不思議なことが大好き」なのです。

 世界でいちばん初版本が売れた小説は、J.K.ローリング氏『ハリー・ポッター 死の秘宝』だと言われています。また世界でいちばん売れた小説はC.S.ルイス氏『ナルニア国物語』だとされています。

 ともに「異世界ファンタジー」ですよね。「不思議なこと」が起こりますよね。

 だから世界一売れたのです。

 世界中「不思議なこと」が大好きなのです。


 推理小説も「不思議なこと」が起こります。なぜその人物が死んだのか、姿を消したのか。犯行の手口や犯人のことについてはわからないことだらけです。

 人間、わからないことがあると知りたくなります。「不思議なこと」も正体が知りたくなります。

 だからこそ「ファンタジー」小説は最も売れるのです。




現実世界が舞台でも

 しかし恋愛小説や青春小説などはたいてい現実世界が舞台ですよね。

 もちろん異世界の恋愛小説や青春小説もあるでしょう。

 ですが異世界だと「ファンタジー」になりやすいので、説明は前項と同じになってしまいます。

 そこでここでは現実世界を中心に話を進めます。

 恋愛小説では、同じ高校に通う男子と女子の恋模様、同じ会社に勤めるサラリーマンとOLのオフィス・ラブ、引退した老人と子育てが終わった女性との老いらくの恋などが思い浮かぶのではないでしょうか。

 まったく「ファンタジー」なことがありませんね。

 これ、面白いんでしょうか。

 読み手と等身大の主人公が、さまざまな状況シチュエーションで恋愛模様を繰り広げるのです。

 人はひとつの人生しか体験できません。そんな中でさまざまな状況シチュエーションの恋愛模様を読むことで、甘い想像の世界を味わえます。

 高校時代に叶わなかった「あの人」との恋愛がもしできていたら、どんなことが味わえたのだろうか。それが知りたくて恋愛小説を読むのです。

 渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』がなぜ男性からこれほど支持を集めているのか。まさしくその答えです。

「高嶺の花」「深窓の令嬢」とのお付き合いは男のロマンだと思います。

 女性なら「玉の輿」を夢見ますよね。

 ですが、そもそも「高嶺の花」「深窓の令嬢」も「玉の輿」も、そんなお相手にはなかなかお目にかかれません。

 これは「フィクション」であり、一種の「ファンタジー」です。

 であるなら、現実世界が舞台の恋愛小説でも「ファンタジー」は成立します。 

 ことさら異世界を舞台にしなくても「ファンタジー」なのです。

 それをどうとらえるかは意見が分かれるでしょう。

 しかし私は「高嶺の花」「深窓の令嬢」も「玉の輿」も「ファンタジー」だと断言します。

 そんな人は早々いませんよ。

 親の収入がとんでもなく高い人、また本人の収入がとんでもなく高い人。

 景気が落ち込み始めている日本で、そんな人はごく少数。しかも恋愛適齢期で高収入なんて万分の一もいないでしょう。

 恋愛小説や青春小説ではよく「病弱な人」が出てきます。

 こちらは「高嶺の花」「深窓の令嬢」や「玉の輿」よりは人数が多いでしょう。

 しかしこちらも知人が「病弱」であることは少ないと思います。

 大学病院勤務の医師や看護師、入院患者ならそんな「病弱な人」を見る機会は多いはずです。

 となれば、やはり日常ではなかなか出会わない人、という意味で「ファンタジー」ではありませんか。

 現実世界でも「ファンタジー」をいくらでも書けます。「ファンタジー」要素があるから「異世界」を舞台にするというだけでは、安直な考え方なのです。

『小説家になろう』の「ローファンタジー」(現実世界ファンタジー)のように、超常の力が使えるとか、魔物が闊歩しているとかいう大げさな「ファンタジー」ももちろんあります。しかし「現実世界恋愛」であっても「ファンタジー」要素は入れ込めるのです。

 もちろん超常の力で恋愛を進めようと思えば、それは「現実世界恋愛」ではなく「ローファンタジー」になってしまいます。

 あくまでも「現実世界恋愛」が成立すべく舞台を整え、そこに先ほど挙げた「ファンタジー」な存在、つまり「高嶺の花」「深窓の令嬢」「玉の輿」「病弱の人」を登場させるのです。

 甘々な妄想が捗る「市井の娘」と「王子様」との恋愛話「玉の輿」を読みたがる女性は多いと思います。

 男性は男性で「高嶺の花」「深窓の令嬢」のハートを射止めようと躍起になるのです。

 そして「病弱の人」は、恋愛に重ね合わせて「命の重さ」を考えさせてくれます。

「ファンタジー」な存在が現実世界に妄想の種を蒔くのです。





最後に

 今回は「現実世界は意外な穴場」について述べました。

「ハイファンタジー」が一番人気なので、私も「異世界ファンタジー」を書きます。というのは安直に過ぎます。

 先にジャンルを決めずに「あらすじ」を書いてみて、結果として「現実世界恋愛」でよい、「日常小説」「青春小説」でよい。それを判断するのです。

『小説家になろう』では、異世界を舞台にした「日常小説」が多数掲載されています。

 規約的には「ハイファンタジー」か「異世界恋愛」に相当するはずですが、「日常小説」は投稿本数が少なく競争率が低いので、狙い目だと思われているのでしょう。



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