856.創作篇:メインキャラを三人創る

 今回は「三角関係」についてです。

 今までの説明は基本的に主人公と「対になる存在」との「一対一」の関係について述べてきました。

「一対一」が満足に書けるようになったら、ぜひ「三角関係」に挑戦してみてください。





メインキャラを三人創る


 小説には主人公が欠かせません。そして「対になる存在」も主人公が向かう先には必要です。これは今までにも述べてきました。

 今回はさらにもうひとり加えて「三人で物語を創る」利点について述べたいと思います。




危険なトライアングル

 マンガやアニメから多数引用します。

 マンガの高橋留美子氏『めぞん一刻』は主人公の五代裕作と「対になる存在」一刻館管理人の音無響子がいます。

 これまでの主人公と「対になる存在」だけの説明では、この物語がどのように面白くなるのかわかりませんよね。

 そこでテニスコーチの三鷹瞬が入って裕作・響子との「トライアングル(三角関係)」が成立します。これで恋の駆け引きが始まるのです。その後裕作のガールフレンドの七尾こずえが登場して、裕作・響子とのトライアングルに発展します。こずえが片付いたら裕作が教育実習で通った高校の八神いぶきがアタックをかけてきてトライアングルが発生するのです。

『めぞん一刻』はつねに三角関係が成立するような物語展開にすることで、読み手をぐいぐいと作品へと引きずり込みました。

 これほどではありませんが、マンガのまつもと泉氏『きまぐれオレンジ☆ロード』は主人公の春日恭介と「対になる存在」の鮎川まどかが最初から出てくるのです。そこにまどかの後輩で妹分の檜山ひかるが登場し、恭介・まどか・ひかるのトライアングルで物語が進んでいきます。

 このように、昔の作品は「ハーレム」「逆ハーレム」といった物語より、「トライアングル」を主軸にした作品が多かったのです。




三角関係がメインとなった『マクロス』

 アニメだとビッグウエスト『超時空要塞マクロス』の主人公・一条輝と、「対になる存在」でその後アイドル歌手となったリン・ミンメイの物語だけではなかったのです。ここに輝の上官である早瀬未沙が加わってトライアングル(三角関係)を形成します。その結果として輝はミンメイではなく未沙を選びました。

 マクロスといえば「可変メカ」「歌」「三角関係」がキーワードとされていますが、それを確立したのは『超時空要塞マクロスII』です。『マクロスII』は80年前後の人気アニメの続編を製作したら、視聴者がどれだけ支持してくれるかを可視化するため実験的に作られました。同時期同じように続編が試されたのが『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦場』『オーガス02』などです。結果としてセールスが際立っていた『ガンダム』と『マクロス』の続編が作られることになりました。

 そんな『マクロスII』は主人公・神崎ヒビキと「対になる存在」敵マルドゥークの歌巫女イシュタル、それに統合軍のエースパイロットであるシルビー・ジーナの「トライアングル(三角関係)」が明確に打ち出され、OAVとしては異例の大ヒットを記録しました。これにより『マクロス』といえば「可変メカ」「歌」「三角関係」の三要素が基軸だと確立したのです。こちらも「対になる存在」ではなく、もうひとりであるシルビーと結ばれました。

『マクロス』シリーズは三角関係を明確に打ち出した作品が強いのです。

『マクロスプラス』では主人公であるイサム・アルバ・ダイソンと「対になる存在」ハイスクール仲間の女性ミュン・ファン・ローンに対してイサムのライバルであるガルド・ゴア・ボーマンが登場します。ミュンを巡る男の戦いは、無骨なストーリーと緻密な戦闘描写で「大人向けのマクロス」としてきわめて高い評価を得たのです。

『マクロス7』では主人公の熱気バサラに対し、「対になる存在」であるバンドメンバーのミレーヌ・フレア・ジーナスだけでなく、毎回登場する花束の少女、敵プロトデビルンのシビルがバサラを狙っています。しかしバサラは恋愛にとんと疎く、ミレーヌのお見合い相手だった統合軍エースのガムリン木崎が現れても明確な「三角関係」は生まれませんでした。これによりバサミレやガムミレといったカップリングを視聴者が生み出して一大ムーブメントを巻き起こしたのです。

 次にOVA『マクロスゼロ』がスタートします。主人公の工藤シンと「対になる存在」サラ・ノーム、そしてサラの妹マオ・ノームが「三角関係」を演じたのです。

 そしてファンが最も多い『マクロスフロンティア』は主人公の早乙女アルトに、「対になる存在」としてあえて二人を起用しました。つまりどちらも「対になる存在」としてキャラ立てされていたのです。ひとりは“銀河の妖精”シェリル・ノーム、もうひとりは“超時空シンデレラ”ランカ・リーです。ともに歌手として競い合い、また恋のライバルとしても競い合ったのです。このキャラ立てが見事に成功し、『マクロスフロンティア』はシリーズ一位の人気を集めました。

 そうして登場したのがシリーズ最新作『マクロスΔデルタ』です。主人公のハヤテ・インメルマンに、「対になる存在」戦術音楽ユニット「ワルキューレ」の新メンバーであるフレイア・ヴィオンが明確で、そこにパイロットのミラージュ・ファリーナ・ジーナスが加わっています。ミラージュの扱いがヒロイン未満でしたので、視聴者もほぼハヤテはフレイアを選ぶんだろうなと思うのです。しかしこの「三角関係」よりも、「ワルキューレ」リーダーのカナメ・バッカニアとエースパイロットのメッサー・イーレフェルトの儚い関係が物語中盤に出たことで、「メサカナ」のカップリングがファンの間で高まりました。

 普通「三角関係」の当事者が一番人気になるものです。こと『マクロスΔデルタ』において「三角関係」外にいるカナメに最も人気が集中しました。このあたりは丁寧に分析していくと「三角関係」では表せない「マクロス」の人気の秘訣が見えるかもしれません。そういう意味では「三角関係」が明確でない熱気バサラの人気が高いのも、説明できるのではないでしょうか。


「マクロス」シリーズを見ると、明確に「三角関係」が物語を面白くさせていることは明らかです。

「三角関係」を成立させるには主人公と「対になる存在」以外にもうひとり必要になります。その三人目がどう物語に絡んでくるのか。「対になる存在」を食ってしまうくらい存在感が強くなるのか。いつのまにか「対になる存在」に取って代わるのか。




三角関係になりにくかった『ガンダム』

 対照的に『ガンダム』シリーズは「対になる存在」が同性であり、ラブ・ロマンスとは無関係であることが多いのです。『機動戦士ガンダム』では主人公のアムロ・レイと「対になる存在」のシャア・アズナブルは戦士として戦うことになります。「三角関係」を成立させたのはララァ・スンが出てくるまでかなりの回数が消費された後でした。そのせいか『ガンダム』シリーズでラブ・ロマンスは続編を待つことになります。OAV『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』では、ほぼ主人公アルとジオン兵バーニィの物語であり、これもラブ・ロマンスとは無縁です。

『機動戦士Ζガンダム』では主人公のカミーユ・ビダンに、「対になる存在」であるフォウ・ムラサメを、第三極に幼馴染みのファ・ユイリィが絡んできます。途中でフォウが退場するとサラ・ザビアロフ、ロザミア・バダムが出てきますが、フォウのことが心残りなためかカミーユは心を開くことはなかったのです。結局カミーユが心を再び開くのは、続編である『機動戦士ガンダムΖΖ』においてになりました。

 一転して『機動戦士ガンダムΖΖ』では主人公のジュドー・アーシタの「ハーレム」で成り立っています。ジュドー自体は妹を溺愛していますが、仲間のエル・ビアンノ、途中参加のルー・ルカ、強化人間のエルピー・プルとことごとくジュドーに想いを寄せています。なんと敵の親玉「対になる存在」であるハマーン・カーンすらジュドーを見込んでいたのです。『ガンダム』シリーズでここまで「ハーレム」に徹したのは『ΖΖ』が初ではないでしょうか。

 それ以外でもなかなか「三角関係」がうまく機能していない作品が多いのです。これは『マクロス』シリーズとの差別化を意識しているからかもしれません。




三人では足りない要素を他人に託す

「トライアングル」「三角関係」だけで長編小説を支えるのは困難です。

 三人だけではどうしても足りない要素が生まれます。そこをどう処理するかで作品のスケールが変わってくるのです。

 本来であれば、足りない要素を三人以外の人物に割り振ることでバランスをとります。

 たとえば『マクロス|F(フロンティア)』では主人公の早乙女アルトは恋愛に関しておくてというかある種のコンプレックスを持っています。これでは「三角関係」がなかなか先に進みませんよね。そこで同級生のミハエル・ブランが女性に積極的な一面を担って作品全体のバランスをとっているのです。

 他にも主要な三人やその周りは十代がほとんどであるため、青年や壮年のキャラも欲しいところですよね。そこでランカ・リーの兄オズマ・リー、シェリル・ノームのマネージャーであるグレイス・オコナー、マクロス・クォーターの艦長ジェフリー・ワイルダーなどを配して年齢のバランスにも気を配っています。

『機動戦士ガンダム』は、宇宙版『十五少年漂流記』の側面がありますから、どうしても主人公アムロ・レイ側に十代の若者が集中してしまいました。しかも「対になる存在」であるシャア・アズナブルも二十歳です。ザビ家の面々としてデギン・ソド・ザビが六十二歳、ギレン・ザビが三十五歳、キシリア・ザビが二十四歳、ドズル・ザビが二十八歳、ガルマ・ザビが二十歳と総じて青年が多く、年寄りはデギン公王くらいなものです。地球連邦軍側でもレビル将軍が老齢(年齢不詳)で、地球連邦軍の上層部も高齢と見受けられます。しかし他は青年将校が多いのです。

『マクロスフロンティア』は二十五話なのでまだわかります。『機動戦士ガンダム』が四十三話と分量が多い中でこの年齢層の偏りはある種致命的です。

 物語が大きくなるにつれ、登場人物の年齢層の幅がどれだけ広くなっているかで、社会の実態を反映した作品かどうかを決めます。その意味では『機動戦士ガンダム』は幅が狭すぎました。だから四十三話で打ち切りになったのではないでしょうか。

 ミハエル・ブランに見るように、年齢だけでなく「性格の幅」もたいせつです。『マクロスフロンティア』は「トライアングル」の三人の性格をカバーするだけの「性格の幅」も持ち合わせていました。自分の気持ちをたいせつにする三人の他に、自身の栄達のために他者を陥れるレオン三島が暗躍することも「性格の幅」に一役買ったのです。





最後に

 今回は「メインキャラを三人創る」ことについて述べました。

 単純な主人公と「対になる存在」との関係だけよりも、もうひとりメインとなるキャラクターを作ることで、物語に幅と奥行きが生まれます。

 もしあなたが『マクロス』シリーズのような作品を書きたいときは、「メインキャラを三人創り」ましょう。それだけで興味深い物語が生まれます。

 渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』も主人公の比企谷八幡と、「対になる」の雪ノ下雪乃、途中から由比ヶ浜結衣が加わって「三角関係」が成立しました。

 ですが「ハーレム」だから人気があるわけではないのです。あくまでも「三角関係」に徹します。

「メインキャラは三人」と決めてあらすじを書きましょう。



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