855.創作篇:たまには対になる存在から創る

 今回は「主人公がマンネリ化してしまう」方への提案です。

 あなたが考えられる主人公のバリエーションは限られます。

 しかし「対になる存在」を先に決めてから主人公を生み出せば、まったく目新しい主人公に出会えるのです。





たまには対になる存在から創る


 いつも同じような主人公を創って、結果としていつも同じような「対になる存在」になってしまうことがよくあります。代わり映えしない作品になるのです。

 書き手が無理なく書ける主人公像は限られています。書き手の引き出しにない主人公を思いつくことは絶対にありません。

 また突飛な主人公を考えついたからといって主人公に据えると、その突飛さを生かすようなエピソードを思いつくのが困難です。またそれにふさわしい「対になる存在」を考えつくのも難しくなります。

 では「主人公のマンネリ化」を防ぐには、どうすればよいのでしょうか。




対になる存在から作ってみる

 今回の提案である「対になる存在」から作ってみてはいかがでしょうか。

 代わり映えしない物語になってしまうのは、書ける主人公のバリエーションが少ないから。であれば、まず「対になる存在」を創ってから、正反対に当たる主人公を生み出してみることも考えられます。

 この手法のよいところは、あなたが思いもしなかった主人公になる点です。


「異世界ファンタジー」だからといって、主人公がいつも「勇者」ではまったく代わり映えしませんよね。そして戦う相手がいつも「魔王」です。

 小説投稿サイトをよく利用する方で、「異世界ファンタジー」に「勇者と魔王の戦い」を求めている方がどれだけいるのでしょうか。

 たとえば「対になる存在」にメドゥーサを据えて、では主人公はどんな人物がふさわしいか。それを考えます。

 すると映画『座頭市』のような「盲目の剣士」がメドゥーサと対決する佳境クライマックスを思いつくかもしれませんよね。

 では、あなたが主人公から物語を考えたとき、「盲目の剣士」という人物像は思い浮かんだのでしょうか。おそらく思いつかなかったはず。

 これが「対になる存在」を先に決めたときの優位点です。

 書き手が「主人公から」だけ案を出していたら、いつのまにか没個性な主人公にしかならなかった。

 しかし「対になる存在」は実に多種多様です。不死、巨人、魔獣、ドラゴン、魔王、魔神、神、世界など、さまざまな「対になる存在」が考えられます。

 先に決めた多彩な「対になる存在」との決戦が最も自然かつ盛り上がる主人公を決めるのです。

 中にはあなたが書けそうにない主人公も生まれます。

 ですが、書き手にとっては本望です。自分の引き出しにないキャラなら、是が非でも形にしてみたいと躍起になります。

 挑戦を通じて、書き手として成長していけるからです。

 こうして生み出された主人公は、明確な「対になる存在」を攻略することに最適化されています。




手に余る主人公は三人称視点で

 メドゥーサに対する「盲目の剣士」は、主人公側から思いつこうとしてもまず思いつきません。

「メドゥーサの瞳を見ると石化する」という前提条件があるからこそ、「盲目の剣士」は生み出されました。

 しかし「盲目の剣士」を主人公にすると、いろいろと不都合なことがあります。

 たとえば「目が見えません」から情景描写ができません。他人の容姿を説明できません。日常をどうやって過ごしているのかを考えることすら困難です。

 このような主人公にする場合は「三人称視点」を用いましょう。

「主人公の一人称視点」にこだわるから書けないと思い込むのです。

 視点は柔軟に考えましょう。「盲目の剣士」は「主人公の一人称視点」では書ける情報が少なくなります。しかし「三人称視点」にすることで、主人公の考えていることもわからなくなりますから、よりミステリアスな主人公にできるのです。映画『座頭市』も主人公の考えていることがわからないように構成されていますよね。あのイメージです。




意外性のある主人公

 不死の王と戦う主人公なら、やはり神官ですかね。死者の頂点に君臨する「不死の王」と生を司る「神官」の対比が出来ます。また不死の王は情け容赦なさそうですが、神官なら慈悲深そうですよね。慈悲深さを際だたせるために「女性の神官」が主人公でもよいでしょう。主教や司祭といった身分の高い神官では対比として浅くなるので、駆け出しの神官に設定します。

 では、あなたが小説を書こうと思って何十も創った「企画書」の中に「女神官」が主人公の物語はあったでしょうか。おそらくなかったはずです。

「剣と魔法のファンタジー」でのバトル小説なら、主人公は断然男性のほうが映えると思いますよね。だから「女神官」が主人公のバトル小説なんて考えることもなかったはずです。

 ですが「対になる存在」から考えれば「女神官」が主人公というアイデアもこのようにすぐ浮かびます。普段のあなたなら考えもつかなかった主人公と出会うには、「対になる存在」から考えても「あり」なのです。

 こちらは「盲目の剣士」と異なり、情景描写もできますし、他人の容姿も説明できます。

 だから「女神官」を主人公にするなら「一人称視点」にしましょう。

 ただし、現代日本人は特段とくだん信じる宗教がありません。神仏に身を捧げる者の日常生活はわからないと思います。その場合は「取材」しましょう。わからないときは即「取材」、これが小説書きの鉄則です。

 神社や寺院や禅寺などでは体験修行ツアーを開催しているところもあります。そういうものに参加するのもよいでしょう。教会のミサを訪れてみるのもよい勉強になるはずです。

 また「異世界ファンタジー」の「女神官」であれば、日頃のお努めや修行がどのようなものかは世界の創造主たる書き手のあなたに委ねられます。現実の「神官」のお努めや修行などを参考にしつつも、どんな日常を送っているのかをすべて決められるのです。そうであれば「取材」せずとも「女神官」を書けるようになります。





最後に

 今回は「たまには対になる存在から創る」ことについて述べました。

 主人公から創るのは、書き手の引き出しが多いことが前提です。もしどの主人公もそんなに代わり映えしないようなら、いっそ「対になる存在」から創り出してみましょう。

 そうすれば、あなたが今まで考えつかなかった主人公に気づけます。

 読み手にとって「予想外の主人公」を考えつくには、書き手自身にとっても「予想外」ならなおよいのです。

 主人公の「新鮮さ」は物語全体の「新鮮さ」につながります。物語がテンプレートに則っていても、主人公がまったく異なるだけで細部に違いが現れてくるのです。



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