854.創作篇:登場人物を創る

「企画書を創る」流れで、主人公のあらかたの設定も決まりました。

 そこでさらに主人公の設定を明確にし、その他のキャラも生み出していきます。





登場人物を創る


「企画書」の時点で、主人公の設定をある程度詰めました。

 その流れで、主人公の設定を明確にし、他の登場人物についてもある程度固めていきましょう。

 ここで決めたことが絶対ではありません。話の流れ方次第で設定を柔軟に変更して対処してください。




主人公には憧れを

 主人公に求められるのは「こんな人物になってみたい」と読み手から憧れられることです。憧れを抱けない主人公は惹きが弱くなります。それではとても三百枚を最後まで読ませる力はありません。

「こんなに勇気のある人物になりたいな」とか「こんな綺羅びやかな人物になりたいな」とか。読み手を惹きつけるものを持っている主人公は強いのです。

 男性向けなら「強さ」こそ魅力の最たるものです。とは言ってもどんな「強さ」があればよいのでしょうか。

 実はなんでもいいのです。

 格闘技が「強い」、剣術が「強い」、足が「速い」といった身体的技術的な強さ。勇気がある、根性がある、負けん気が「強い」といった精神的な強さが一般的です。

 また「精力絶倫」であったり「無類の女好き」であったりといった性的な「強さ」は青年マンガや成人マンガの主人公としてよくある設定ですし、成人向け小説では定番となっています。マンガの弘兼憲史氏『課長島耕作』なんて青年マンガ誌に枕営業で成績アップする男性会社員・島耕作を描いて一大ブームを作り上げました。

 女性向けなら「優雅さ」が魅力の最たるものです。綺羅びやかさ、華やかさ、艶やかさなど、とにかく「女性の読み手が思わずうっとりせずにいられない女性主人公」が求められます。女性向け恋愛小説なら、優雅さがあり愛される「エッチシーン」というのも強い惹きになります。(成人向けにカテゴライズされますが)。

 性的な身体的成長は一般的に男性よりも女性のほうが早く、男子コミックにはエッチシーンがほとんどないのに、少女マンガでは耽溺するようなエッチシーンや暴力的なエッチシーンなどが描かれているのです。

 これってちょっと不公平ではありませんか。

 よく「男性がマネをするので、エッチシーンはけしからん」と息巻く女性たちが、自ら読むエッチシーンは不問に付すわけですから。

「愛のあるエッチ」はOKなのかと思いきや、少女マンガでは陰湿な性暴力を描いたエッチシーンもあります。

 もうなにがよくてなにが駄目なのか。男性の創作者からすれば、まったくわかりませんよね。


 話が逸れました。

 とにかく男性は「強さ」に、女性は「優雅さ」に憧れます。それは間違いないでしょう。

 乱世に奮い立つのが男性で、平和を謳歌するのが女性だともいえます。そもそも乱世で生き生きとしている女性は想像がつきませんからね。


「強さ」への憧れでは単に格闘技世界最強であったり、ゲーム内最強であったり、東大首席卒業だったり。能力が高いことを「強い」と感じます。「なにができるか」の引き出しの多さに惹かれるわけです。

 また人に好かれる、すぐ人と仲良くできる、性根(芯)がしっかりしている、誰にでも優しいといった、性格がよいものを「強い」と感じることもあります。「どう考えて行動するか」のバリエーションの多さに惹かれるわけです。

 またハーレムであったり、大金持ちであったり、後宮を有する皇帝であったりと、立場がよいものを「強い」と感じることもあります。「どんな状況に置かれているか」の多様性に惹かれるわけです。

 これらが主人公の「強さ」を物語ります。


 では「優雅さ」についてはどゔでしょうか。

 まず「平穏な時代」であることが必要です。戦乱の世に「優雅さ」を求めると、マリー・アントワネット王女のように庶民の反感を買います。

 次に「華やかな時代」であることも必要です。王宮では毎夜のごとくダンスパーティーが開かれて、色とりどりの華やかなドレスを身にまとい、イケメン男性との色恋に走る、というような時代に「優雅さ」を感じます。江戸時代の武士と町娘との恋愛を書くとき、町娘の衣装はボロ布のつぎはぎですし、武士は揃ってちょんまげを結っています。まったく「華やかさ」を感じませんよね。そういった時代の恋愛模様を描く小説もありますが、一般的な恋愛小説よりも需要は少ないでしょう。江戸時代なら髪型がかなり緩くなった幕末が限界だと思います。

「優雅さ」を演出するとき、読み手にとってどれだけ「馴染みのある舞台」かも重要です。馴染みがあれば「優雅さ」に現実味リアリティーを感じます。馴染みがなければ現実味リアリティーを感じません。白々しくなってしまいます。




主人公には共感も必要

 主人公には「憧れ」だけでなく「共感」できる要素も必要です。

 読み手が「共感」できる主人公には、「自分と変わらない部分があり」ます。

 ある場面シーンで主人公がある行動をします。それは読み手もそうすべきだと思ったことでしょうか。読み手が喜ぶようなところで主人公も喜んでいるのか。読み手が怒るようなところで主人公も怒っているのか、読み手が悲しむようなところで主人公も悲しんでいるのか、読み手が楽しんでいるところで主人公も楽しんでいるのか。

「喜怒哀楽」以外にも「つらさ」「苦しさ」のようなものも読み手と主人公が同じように感じてくれる。だから読み手は主人公に感情移入できるのです。

 また主人公に「欠点」を作ることで、読み手に「主人公は完璧超人じゃない」と思わせ、感情移入を誘えます。「強さ」という「長所」だけでなく、「弱さ」という「欠点」を必ず設定するようにしましょう。


 川原礫氏『ソードアート・オンライン』の主人公キリトが読み手の「共感」を呼ぶのは、発表当時インターネットでのMMORPGが開始され、それをプレイした人たちが、「これは自分のための小説だ」と思ったからです。そして時代が進みVRヴァーチャル・リアリティーが確立した現在、「こんな物語が本当に起こるかもしれない」と思っているからです。だからキリトは人々の「共感」を得られました。

 渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の主人公である比企谷八幡も、人付き合いで挫折したことのある読み手の心を撃ち抜く主人公像に設定されています。

 勇者志望の男の子には『桃太郎』が、お姫様志望の女の子には『竹取物語』が「共感」を呼ぶのも、桃太郎が勇者として活躍し、かぐや姫がお姫様としてちやほやされるからです。『シンデレラ』が女の子にウケるのも、「白馬の王子様とのラブロマンスを夢見る少女」という共通点が「共感」を呼ぶからです。


 結局男の子や男性はつねになにかと戦っていたいし、女の子や女性はつねに誰かに愛されたいものなのかもしれません。

 もし主人公がシャーロック・ホームズのように感情移入しづらい場合は、助手のワトソン博士を主人公にするのもありです。(というより『シャーロック・ホームズの冒険』はワトソンによる二人称小説ですから、気難しいホームズよりも一般的なワトソンのほうが読み手に近いのです。だから同作は人気が出ました)。




人物の設定項目

 登場人物の設定項目は多岐にわたりますが、これをできるだけ少なくする「私なりの」キャラ設定方法をお教えします。

 まず【名前】を決めます。名前がないことにはどんな役割のキャラだったのかわからなくなります。

 次に【年齢】【経歴】を決めます。物語は本文が始まってからヨーイドンでスタートするものではありません。物語以前から前提を調えるための行動を起こしてきたはずです。それを【経歴】に書きます。

【肉体的特徴】を決めます。身長・体重・体型・髪の色・瞳の色、他にも傷跡があったり、影が薄かったりといったことを書くのです。

【精神的特徴】を決めます。その人物はどのようなときにどんな行動をとる人物なのか、エピソードを交えて書いていきます。【経歴】にも影響を与えるのです。誰とどんな関係にあるかも、【精神的特徴】の中に含めています。

【用兵の特徴】は、私が今書いているのが戦争小説だから設定しているのです。ただし【精神的特徴】とかぶる部分もありますので、このふたつはあまり意識して分けないようにしています。分けることを意識しすぎると、形骸が表に強く出てしまうのです。

 これが恋愛小説なら【人間関係】を設定するとよいでしょう。

 誰と誰が付き合っていて、人物は誰のことが好きなのか、また距離をとりたい相手は誰か。これらを設定することで、恋愛小説が破綻しなくなります。


 だいたいこれらの項目が埋まれば、完璧なキャラ設定ができます。

 もっと細かい設定もあればよいのですが、あまりに細かすぎると執筆するときに苦労するのです。

 年齢を決めても生年月日や血液型は決めないこともあるのです。必要な情報を絞ったほうがキャラの印象は強くなります。

 物語の展開によって項目の内容は変化していくものです。

 だから、一度決めた項目だからと頑なにならず、柔軟に変わっていくものだと割り切ってください。変わったら都度【経歴】なり【精神的特徴】なりに追記していけばよいのですから。




最後に

 今回は「登場人物を創る」ことについて述べました。

 長編小説の登場人物は、できるだけ数を絞ってください。短編と違って分量が多いぶん、どうしても登場人物が増えてしまう傾向があります。ですが、だいたい主人公パーティー六人と、魔王と四天王がいればたいていの長編小説は書けるのです。つまり十一人いれば済みます。残りは雑魚やモブにしてしまって差し支えありません。



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