852.創作篇:テーマを設定する

 今回は「テーマの設定」についてです。

「テーマ」はあなたの「命題」からしか生まれません。

「命題」から外れた「テーマ」を掲げても、満足な小説にはならないでしょう。





テーマを設定する


 小説には「テーマ」が必要です。

 読み手に訴えかけるものもなしに小説を書いたところで、読み手はなにも考えられません。

 読む理由は「面白い」「楽しい」感覚を味わいたいからです。そのうえで訴えかけてくる「テーマ」が岩に染み入る水のように、気づかれず読み手の心へ伝わります。




テーマは命題から生まれる

 小説の「テーマ」は、書き手の「命題」から外れない範囲で設定してください。

 仮に「命題」として「異能力バトル」が大好きで、いくらでも語れるし書けるとします。

 すると「テーマ」は「異能力バトル」から派生する「世界平和に導く」であったり「地球を救う」であったり「愛する人を命懸けで守る」であったりするのです。

「異能力バトル」が「命題」なのに、「初恋の異性に告白して成就する」という「テーマ」を設定するのはかなりの無理筋です。書いて書けないことはありません。ただし効率がよくないのです。

 読み手はあなたの「異能力バトル」が読みたいのであって、恋愛小説を読みたいのではありません。

 とくに「異能力バトル」が「命題」の書き手は、「異能力バトル」を活かした小説では「水を得た魚のよう」に生き生きと小説を書けますし、その躍動感は読み手にも確実に伝わります。

 だからこそ書き手はまず自分の「命題」を見つけなければならないのです。「命題」を生かせる「テーマ」を選ばなければ、小説の質は高まりませんし、「小説賞・新人賞」を獲ることも難しくなります。

 口を酸っぱくして言いますが、「命題」が見出だせない書き手は絶対に評価されません。厳しいようですが、それが小説の世界です。

 世の中、例外というものはあるもので、「命題」を見つけずに書いた小説が「小説賞・新人賞」を獲ってしまうことがあります。これはあくまでも例外です。こういう書き手は二作目以降で必ず苦労します。「書きたいもの」と「書けるもの」の差に気づかないからです。三百万部超の芥川龍之介賞最大のヒット作『火花』を書いた、お笑い芸人ピースの又吉直樹氏は受賞後作『劇場』で苦戦しました。それも「書きたいもの」と「書けるもの」の乖離にあるのではないでしょうか。もし『劇場』の評判が良ければ、これも数百万部売れて不思議ではないのです。でも結果は芳しくありません。又吉直樹氏には、ぜひ「命題」を探し出してほしいと思います。「太宰治マニア」だけでない、又吉直樹氏の心に堆積している「命題」が必ずあるはずなのです。だからこそ『火花』が書けたと考えられます。




サブテーマは複数あってもよい

 もちろん「サブテーマ」として 「初恋の異性に告白して成就する」を設定してもよいのです。

 小説にはひとつの「テーマ」が必要ですが、複数の「サブテーマ」を抱えることもあります。そして、たいていの小説にはなんらかの「恋愛要素」が組み込まれているのです。

 それは人間であれば誰しもが抱く感情だからでしょう。私個人は養護施設育ちということもあり、「恋愛感情」が欠落しているので、どうしても無骨な小説しか書けません。

 しかしほとんどの書き手の方は幼い頃から「恋愛感情」を持っています。そしてほとんどの読み手もまた「恋愛感情」を持っているのです。人間を人間たらしめるのは「恋愛感情」だと言ってよいでしょう。

 であれば、「サブテーマ」として「恋愛要素」を組み込むことは、小説において「必定」だと思ってください。

 もちろん「テーマ」それ自体が「初恋の異性に告白して成就する」という恋愛小説であれば、「サブテーマ」に同じものは使えません。しかし脇役たちの「恋愛感情」を「サブテーマ」にして、こちらでも「恋の駆け引き」をしているけど、あちらでも「恋の駆け引き」をしているという構造にはできます。




恋の駆け引きというサブテーマ

 長編小説ではせいぜいひとつの「サブテーマ」を入れられればよいほうです。「サブテーマ」を持たない長編小説のほうが多いのですけれども。

 そこで「勇者が魔王を倒す」という勧善懲悪の典型的な「テーマ」を掲げた小説なら、「恋の駆け引き」という「サブテーマ」をひとつだけ加えてみるのです。そうすれば、単純な勇者譚から、「恋愛要素が複雑に絡んだ作品」に仕上げることができます。

 これはアニメのサンライズ『機動戦士ガンダム』とビッグウエスト『超時空要塞マクロス』の違いとして見ることもできます。

『機動戦士ガンダム』は「偶然ガンダムを操縦した勇者アムロ・レイが、仇のジオン公国を滅亡に追い込む」という典型的な勇者譚です。そこに恋愛感情はほとんど出てきません。せいぜいハヤト・コバヤシとフラウ・ボゥ、ミライ・ヤシマとスレッガー・ロウとブライト・ノア、ララァ・スンとアムロ・レイに恋愛感情が見られますが、「サブテーマ」と呼べるほど明確な「恋愛感情」は表現されていません。

 対して『超時空要塞マクロス』は「偶然バルキリーを操縦した勇者一条輝が、人類を脅かすゼントラーディーの首領を倒す」というこちらも典型的な勇者譚です。しかし「恋愛感情」がきちんと「サブテーマ」として語られています。とくに主人公の一条輝と、歌手志望の少女リン・ミンメイ、輝の上官である早瀬未沙の三角関係は物語を強く推進させる原動力ともなったのです。他にも地球人のマクシミリアン・ジーナスとゼントラーディー人のミリア・ファリーナの結婚であったり、輝の先輩であるロイ・フォッカーとブリッジ・オペレーターのクローディア・ラサールの年上同士の絶妙な距離感を保った恋愛であったり。とにかく「恋愛感情」がこれでもかと出てきます。つまり最初から「サブテーマ」としてしっかりと「恋愛感情(恋の駆け引き)」を描こうとしていたのです。

 これが男女の支持率の差に表れています。

『ガンダム』シリーズは全体として男性の支持率が高く、『マクロス』シリーズは女性の支持率が『ガンダム』シリーズより突出して高いのです。

 とくに近年では『マクロスフロンティア』が多くの女性に受け入れられ、劇中の曲をCDで販売するとオリコン・チャートに載るという現象を引き起こし、中でも歌姫シェリル・ノームとランカ・リーのデュエット曲『ライオン』がカラオケチャートのアニメ部門でトップ10に入り続けるというほどの人気ぶりを見せつけました。


 男性向けライトノベルだからといって「恋愛感情(恋の駆け引き)」のない作品では、女性が読まないのです。「男性向け」だからいいんだ、という方もいらっしゃると思います。ですが「男性向け」でも女性の支持を得られないとランキングを駆け上がることはできません。

『週刊少年ジャンプ』の尾田栄一郎氏『ONE PIECE』も、『週刊少年サンデー』の青山剛昌氏『名探偵コナン』も、女性人気が高いがために二十年以上の長期にわたる連載を可能にしているのです。もし「男性向け」に特化していたら、ここまでの人気は出なかったでしょう。

「男性向け」であっても女性をいかに取り込めるか。その鍵を握るのが「サブテーマ」の「恋愛感情(恋の駆け引き)」にあることは言うまでもありません。

『ONE PIECE』も『名探偵コナン』も、女性に好まれるキャラを出し、その「恋愛感情(恋の駆け引き)」で女性の心を鷲づかみしたのです。

 しかし逆に女性向けライトノベルを男性が読んでいるかとなると考えざるをえません。なぜなら「恋愛感情(恋の駆け引き)」自体は男性ウケする要素ではないからです。

 男性は本来外敵から集団を守るために戦うという本能があります。だから「バトル要素」があれば男性を惹きつけられるのです。

「サブテーマ」として「バトル要素」がある作品なら男性ウケもじゅうぶん狙えます。その恒例がアニメの武内直子氏『美少女戦士セーラームーン』シリーズと、アニメ『プリキュア』シリーズ、そしてアニメのCLAMP『魔法騎士レイアース』です。

 いずれも女性向け作品ですが、バトル要素によって男性の視聴者も増やしました。この頃からそういった男性を「キモオタ」と蔑称されるようになったのです。でもそう揶揄している男性方も食わず嫌いなだけで、バトルシーンを観ればころっと手のひら返しをするでしょう。


「サブテーマ」として「恋愛感情(恋の駆け引き)」を据えれば「女性ウケ」し、「バトル要素」を据えれば「男性ウケ」するのです。





最後に

 今回は「テーマ」について述べました。

「テーマ」は作品一作につきひとつでかまいません。他のことを盛り込もうと思ったら「サブテーマ」にしましょう。

『超時空要塞マクロス』で見たように、「テーマ」と「サブテーマ」の組み合わせから独自性オリジナリティーが生み出されることが多いのです。

 これだけ物語の数が増えてくると、「テーマ」だけでは差別化が図れなくなりました。そこで積極的に「サブテーマ」を持ちましょう。

 どんな「サブテーマ」がよいのかわからなければ、男性向け小説なら「恋愛感情(恋の駆け引き)」を、女性向け小説なら「バトル要素」を設定するべきです。



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