851.創作篇:誰に読まれたいのか

 今回は「誰に読まれたいのか」についてです。

 書き手に「命題」があるように、読み手にも「命題」があります。

 どんな読み手の「命題」にアクセスできるかで、ヒットするかどうかが決まるのです。





誰に読まれたいのか


 前回あなたの「命題」を見つけてもらいました。

 今回は物語を「誰に読まれたい」のかを想定しましょう。




読み手を想定していないと小説は書けない

 小説は「読み手」を想定していなければ書けません。

「日本人全員に読んでもらいたい」といった漠然とした対象を想定しても書きようがないのです。

 たとえばライトノベルなら「中高生が読む」ことを想定して、語彙や言い回しや語り口の選択、物語で起こる出来事イベントの内容に枠が出来あがります。

 推理小説なら比較的年齢層は高く、社会人の三十代以上を標的ターゲットにして書けばいいのです。

 ライトノベルと推理小説とでは、用いられる語彙も言い回しも語り口も異なりますし、出来事イベントの内容にも差が生じます。

 歴史小説・時代小説は四十代・五十代以上の方がよく読みます。時代劇ドラマが好きな年齢層は基本高めですからね。『水戸黄門』『大岡越前』『遠山の金さん』『銭形平次』『必殺仕事人』『鬼平犯科帳』といった時代劇ドラマを観て育った層が主に読みます。

 SF小説も年齢層は比較的高めです。日本でスペースSFを流行らせたのはジョージ・ルーカス氏&スティーブン・スピルバーグ氏『STAR WARS』ですし、ライトSFは人形劇ドラマの『サンダーバード』とさらに古い作品が原点です。また『ウルトラマン』『仮面ライダー』『戦隊ヒーロー』シリーズを観てきた層が、SFアクションものをよく読みます。




読み手にも命題がある

 これらに共通しているのは「読み手にも『命題』がある」という事実です。

 子供の頃からSFアクションものが好きだった方なら、SFアクション小説を読みたいと思います。

 今は、ライトノベルを子供の頃から読んでいたから、大人になってもライトノベルを読み続ける、という方が多いのです。だいたい五十代が上限になるでしょうが、ライトノベルを読んで育った大人は今でもライトノベルを読みます。

 たまに他のジャンルも読みますが、帰ってくるのは必ず「命題」の作品です。

 それほど「命題」は根強い力に満ちています。




命題が変わることもある

 それほど強力な「命題」ですが、変わってしまうこともあるのです。

「衝撃を受けるほどの作品」を読んだときです。

 たとえば「ギャグ満載の小説が好き」という方がいたとします。

 その人が「世間で流行っている『ソードアート・オンライン』とやらを読んでみるか」と読み始めるのです。すると「MMORPG」に「デスゲーム」に「恋愛要素」に「奇跡の逆転劇」といったものを読んで衝撃を受ける。

「こんな小説があったんだ」「もっと読んでみたいな」となったとき、「命題」が変わる可能性があります。

 その後『ソードアート・オンライン』を既刊ぶんすべて読み「これは傑作だ」と感じたら、近しい作品も読み始めるのです。そして「こういう作品も好きかも」と感じたとき、読み手の「命題」に加わるか、置き換わります。

「そんなに簡単に『命題』が変わるものなのか」とお思いかもしれません。

 断言しますが、若年層ほど簡単に『命題』は変わります。

 若年層になるほど読んだ作品の数が少なくなるため、衝撃を受けるほどの作品に出会えば、簡単にそちらへなびくのです。

 高齢の読み手であっても、衝撃度があまりにも大きい場合は、「命題」に影響を受けます。それまで持っていた「命題」が消滅することはありませんが、「命題」に加わる可能性はあるのです。

 俗に言う「目覚める」がこれに当たります。

「ライトノベルに目覚める」「SFに目覚める」「推理小説に目覚める」などですね。




得意ジャンル以外の作品にも触れよう

 あなたもたまにはご自身の好きなジャンルだけでなく、他のジャンルの作品も読んでみてください。小説投稿サイトなら無料でさまざまなジャンルの作品が読めます。でもどの作品を読めばいいのかわからない、という方が多いでしょう。その場合はランキングを参考にしてください。

 そのジャンルをよく読む方が高く評価したからランキングの上位にいるのです。

 だから悩むことなくランク上位の作品を順に読めば事足ります。

 そして「こんな小説があったんだ」「こんなジャンルがあったんだ」「こんな展開があったんだ」と「目覚め」られるのです。

 その「目覚め」が、書き手であるあなたに新たな「ジャンル」「テンプレート」「展開」を教えてくれます。

 そうなれば書き手としての引き出しも多くなり、さまざまな「ジャンル」「テンプレート」「展開」の作品が書けるようになるのです。

 たった一作があなたの「命題」を変えてしまうかもしれません。なんら「命題」に影響を与えないのかもしれません。

 それでも新たな「ジャンル」「テンプレート」「展開」に触れることは、必ずあなたを次の高みへと導いてくれます。


 すぐれた書き手になるためには、「食わず嫌い」をしてはなりません。

 可能なかぎり「幅広いジャンル」の作品に触れてください。ひとつの「ジャンル」だけに固執すると展開が画一化しやすいのです。

 その「ジャンル」のトップランカーの作品だけを読めば、その「ジャンル」は確かにじょうずに書けるようになるでしょう。ですが読み手からすると「この作品はあの書き手の○○という作品に似ているな」という印象を覚えます。そうなった瞬間、あなたの作品をそれ以上読む必要性がなくなるのです。だって「あの○○という作品に似ている」わけですから、展開もほとんど変わらないのではと思われてしまいます。

 ひとつのジャンルに固執するとこういうことがあるのです。

 あなたが「○○という作品の劣化コピー」の書き手だと判断されれば、今作の評価はよいでしょうが、新作を読んでくれなくなるかもしれません。




書き手と読み手は紙一重

 小説は誰にでも書けます。だから読み手がいつ書き手にまわってもおかしくはないのです。

 新たな書き手がどのジャンルに照準を絞るかは、その書き手の好きに決めてかまいません。

 しかし「命題」はそれまでの読書遍歴により左右されます。

 好きなジャンルの、小説投稿サイトで上位に据わる作品だけを読んでいたら、その書き手に書ける「命題」はそれとそっくりになります。それこそ「劣化コピー」の完成です。

 あなたがすでに書き手であれば、幅を広げるためにも数多くのジャンルを読んでください。

 執筆に行き詰まったときは、とくに今書いているジャンルと異なる作品を読みましょう。

 今までの知識や流行りに流されない、腰の座った「命題」を発見できるかもしれません。「命題」までは変わらないまでも、どんな文体スタイル、どんなテンプレート、どんな展開があるのか。それがわかるだけでも、あなたの作品は差別化が図れるようになります。

 読み手はいつでも書き手になれます。書き手はいつでも読み手にまわれます。

「バカと天才は紙一重」などと昔から言われますが、書き手と読み手を隔てているのも、まさに「紙一重」なのです。あなたの小説を読んだ読み手が一枚の紙を引っ剥がして作品を書き始めるかもしれません。そしてかつての読み手があなたを飲み込んで大きな存在になることも多々あります。





最後に

 今回は「誰に読まれたいのか」について述べました。

「誰に読まれたいのか」を想定することは、読み手にとってわかりやすい表現を心がける契機にもなります。読み手の「命題」に影響を与えることもありますし、新たな書き手を生み出すこともあるのです。

 そのためにも、ターゲティングをしっかりと行ないましょう。


 

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