845.創作篇:考えてから書く、書きながら考える(2)

 今回はもう一度「考えてから書く」と「書きながら考える」の手法の違いについてです。

 皆様は人に説明をしようとしたとき、話しながら考えていませんか。それがごく普通のことだと思われています。

 その感覚のまま小説や文章を書こうとすると、話があちこちへ飛びます。

 飛ばないためには「考えてから書く」ようにしましょう。





考えてから書く、書きながら考える(2)


 物語にはふたつの作り方があります。

「考えてから書く」と「書きながら考える」です。




書きながら考えるのは会話の延長

 一般に、他人との会話で出来事を相手に伝えようとするのは「話しながら考える」行為とされています。

 出来事をすべて頭の中でまとめて、順序どおりに話せる方はごく少数です。

 多くの方は、とりあえず話してみて、出来事がなるべく相手に伝わるよう言葉を重ねていきます。言い違いがあったら都度訂正していけばよいのです。だから怖がることなく、出来事を他人に伝えられます。

 また会話で伝える場合、相手から「ここってどういうこと?」と言われたら、もう一度話したり、噛んで含めるよう簡単な言葉に直して語ったりできるのです。

 そうして会話が弾み、相手に出来事がしっかりと伝わります。

 これは会話が双方向のコミュニケーションだから成立するのです。


 多くの人は小説も「書きながら考える」ように執筆しています。

 ですが手探りで物語を紡ごうとすると、どうしても不都合なことが起こるのです。

 小説は書き手から読み手への一方通行のコミュニケーションです。つまり読み手がいくら「ここってどういうこと?」と言っても、小説は後から補足して直せません。

 小説投稿サイトならいくらでも直せますが、「紙の書籍」になると版が変わるまで訂正できませんよね。だから小説投稿サイトで連載するときは、「いくらでも直せるから」と書くのではなく、「一度書いたら直せない」と決めて書きましょう。


 また、思いついた順に文章を紡いているため、関係ない話や文章が混じったり肝心の中身がなかったりします。

 関係ない話に意味はありません。ムダなのです。たいていの方は書いた後でムダだと気づきます。中にはムダだと気づかずに話が脱線しても意に介さない方もいるのです。

 ムダな文章ならまだ物語の本筋は追えます。ですが、肝心の中身がなかったら、読み手になにも伝わりません。そうなると意味がわからないお経のようなもので、どう楽しめばよいのかわからなくなるのです。もちろんお経はお坊さんにとっては意味のある文言で書かれています。しかし一般の方々はどんな意味のお経を読んでいるかわからないものです。極端な話、お経ではなくその場で思いついた言葉を並べただけの話を述べあげても、皆様はありがたがるかもしれません。

 つまり意味のあるお経なら霊験れいげんあらたかかもしれませんが、思いつきのお経を読まれても皆様には判別できないのです。

 小説で言い直せば、どんなに難解な文章であっても内容がきちんとしていれば読み手を納得させられます。どんなに平易な文章であっても内容がなかったら読み手は「なんの意味もないじゃないか」と憤慨するのです。

 そして難解な文章で書いてありしかも内容がなかったら、読み手は「奥深い物語だ」と勘違いします。なにも語っていないのに、高尚に語っているかのごとく見えるわけです。とくにビジネス書籍に多く見られます。




考えてから書くのは読み手の理解を促す

 それに対し「考えてから書く」ようにすれば、時系列を整理して出来事の順序どおりに書けます。

 時系列が整理されているため、読むにつれてストレートに物語を理解できるのです。

 これなら時間が行ったり来たりしないため、誤解されることも少なくなります。

 文章が書き手から読み手への一方通行のコミュニケーションである以上、情報を正確に伝えて誤解されないことは、とても重要なのです。

 ストレートに物語が理解できるから、難しさも感じません。だからこそ文豪の作品を古語で読んでも感動できるのです。

 文豪の時代であれば、時系列を整理するために書いては消し、書いては消しを繰り返して原稿用紙が真っ黒になるまで悩み続けました。

 しかし現代はコンピュータの時代です。いくらでも書いては消し、書いては消しを繰り返しても画面は最後に修正された文字がそのまま綺麗に表示されます。だからいくらでも試行錯誤できるのです。時系列を整理するのも、いつでも行なえます。


「考えてから書く」の真髄は「書き出す前に時系列を整理しておく」ことにあるのです。

 だからこそ「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」の順で作業を進めます。これなら「あらすじ」の段階で時系列が完璧に整理できるのです。「あらすじ」の時系列が完璧であれば、それに沿って「箱書き」を書いても時系列はいっさい乱れません。

 たとえばある箱書きで過去の出来事を振り返る「回想場面シーン」を差し挟んでも、全体の時系列には影響を与えません。全体は先へ先へと進んでいるからです。

 読み手は書かれている文字を読むだけで、スムーズに物語を理解できます。

「あらすじ」を必ず書くべき理由は、「時系列が乱れない」点にあるのです。


 実験小説として、「あらすじ」の段階で「一章進むごとに一日ずつ遡る」小説というものも考えられます。八章立てであれば一週間前まで遡るのです。

 でもこんな小説、とても読めたものではありません。

 なぜかといえば、一章読むごとに一日前に戻ることで、もう一度前章の内容を読み直す必要が出てくるからです。章が進むごとに読み返す分量は増します。読み手の負担があまりにも大きくなるのです。

 だからこういった何日前、何時間前に戻る「あらすじ」の場合は、一箇所(一章)に限るべきです。そのくらいなら読み手も我慢して付き合ってくれます。


 基本的に「あらすじ」のエピソードは時系列に従って並べてください。

 そうするだけで、とてもわかりやすい物語に仕上がります。





最後に

 今回は「考えてから書く、書きながら考える(2)」について述べました。

 通常は「考えてから書く」ようにしてください。

 そのほうが読み手の理解を促します。

 ですが「思いついたままに書きたい」から「書きながら考える」のもよいのではないか。

 そういう意見が多くなることもわかります。とくにおしゃべり好きな方にとっては、「話すように書く」ほうが自然だと認識しているからです。

 しかし「書きながら考える」とどうしても物語が破綻しやすく、破綻しないまでもわかりにくくなります。脱線したはいいものの、戻るべき方法がわからない、という事態も発生するのです。

 だから面倒でも「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」の順で、書くべきことをリストアップしておきましょう。

 完璧な「あらすじ」があれば、途中でいくら脱線しても本流に戻れます。



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