846.創作篇:人はストーリーを先読みする
今回は「読み手は本文を読みながら展開を先読み」していることについてです。
例によって『シンデレラ』を分析しています。
人はストーリーを先読みする
多くの人は、物語を読みながら「このようにストーリーが展開するのなら、きっとこんな終わり方をするに違いない」と思ってしまいます。「ストーリーの先読み」です。
これは無意識・無自覚に行なわれる人間の原理と言えます。
シンデレラ
寓話『シンデレラ』において、継母や義姉たちから下女扱いされているシンデレラという女性がいました。
虐げられているのです。幸福が欠如していますよね。
人は物語で「幸福が欠如」している人物を見ると、「この人物はきっと幸福になって終わるんだな」と先読みしてしまうのです。薄幸のまま死んでしまう可能性もありますが、主人公であればたいてい幸せになって終わります。主人公が薄幸のまま死んでしまうのは『マッチ売りの少女』など少数です。
では「どうやって」シンデレラは「幸せになる」のでしょうか。そこまで推理する材料がありません。
継母と義姉たちは王子様が出席する舞踏会へと出かけていきます。
しかしシンデレラは連れて行ってもらえませんでした。では「どうやって」シンデレラは「幸せになる」のでしょうか。
すると通りすがりの魔女が登場します。
ここで多くの読み手が「これだ!!」とひらめいたに違いありません。魔女がシンデレラを「幸福にする」役割を担っているのだと。
果たして魔女はネズミとカボチャを馬車に、みすぼらしい服をドレスに、ボロ靴をガラスの靴へと変えます。
そして魔女は「この魔法は午前0時の鐘が鳴り終わったら解けるから、その前に戻ってくるんだよ」と忠告します。
ここで多くの読み手が「これだ!!」とひらめくでしょう。「午前0時までに幸せをつかんで終わるんだ」と。
シンデレラは急いで舞踏会場へ駆けつけ、王子様に見初められ時間を忘れてダンスをともにします。これで王子様の心は「貴婦人の姿のシンデレラ」に囚われました。もう戻れない「一目惚れ」です。ムードたっぷりにダンスを続けますが、午前0時を告げる鐘の音が鳴り始めます。
ここで「あれ? 午前0時までに幸せはつかめなかったの?」と疑問に思うでしょう。そして「では、どうしたらシンデレラは幸せをつかんで終われるのだろうか」を考え始めます。
次の機会で魔女にもう一度「貴婦人の姿」に変えてもらうのかなと思うかもしれません。魔法は一時的なもので、シンデレラは夢のような時間を過ごせただけで満足したのではないかと思うかもしれません。
午前0時の鐘の音が鳴り始めたところでシンデレラは我に返ります。王子様をその場に置き去りにして何も言わずに舞踏会場から駆け足で外へ逃げ出してしまうのです。王子様は我に返ってそれを追いかけますが、シンデレラはガラスの靴が脱げてもお構いなしに一心不乱にその場を立ち去ります。
私たちはもちろん物語を知っていますよね。この脱げた「ガラスの靴」を手にした王子様は公務が手につかず、いつも「貴婦人の姿のシンデレラ」のことで物思いにふけます。
「ガラスの靴」に拘泥する王子様の姿を見て、読み手は「これだ!!」とひらめきます。「ガラスの靴」が「シンデレラを幸せにして終わるのだ」と。
しかし方法は思いつきませんよね。なにせガラスの靴があろうとも、持ち主の名前が書いてあるわけでもありません。
また不思議なことにも気づきます。「ガラスの靴も魔女の魔法で作られたものだったはず。なぜガラスの靴はボロ靴に戻らなかったのだろうか」。その答えはただの「ご都合主義」なのです。しかしこの「ご都合主義」がなければ、王子様はシンデレラと再会することは絶対にありえません。
「ご都合主義」により魔法が解けなかった「ガラスの靴」を見て王子様は「この靴にピタリと合う足の持ち主が、かの貴婦人に違いない」と思い至ります。
そこで役人に「このガラスの靴にピタリと合う足の持ち主を連れて参れ」と命じたのです。国中はこの話題で持ちきりになりました。
多くの女性が、ガラスの靴を履いて「自分が王子様と結婚するんだ」と期待に胸を躍らせるのです。そして足探しは国の一大イベントと化しました。
当のシンデレラはそんなことを継母や義姉たちから伝え聞きましたが、「あれは一夜の夢。忘れよう」と心に決めて、いつもの下女のような雑用を務めます。
読み手は「これだ!!」とひらめきます。「シンデレラの意志はそうであっても、ガラスの靴を履かせたらシンデレラこそがかの貴婦人だとすぐにわかる」のだと。
忙しい日々が過ぎた頃、ガラスの靴を持った役人がシンデレラの住む館にやってきました。継母と義姉たちはガラスの靴に挑戦しますが、果たしてピタリと合いませんでした。そんな姿を横目で見ながら、シンデレラは下女のように黙々と雑用をこなしているだけです。
読み手は「なぜガラスの靴を履かない! 履けばシンデレラがかの貴婦人であるとわかって王子様と結婚できるのに」とやきもきします。
しかしシンデレラにとってガラスの靴は夢の出来事の象徴です。とても名乗り出ようとは思いませんでした。役人たちが館を去ろうとしていたとき、中のひとりがシンデレラの姿を見つけて「国の女性全員に試してもらっているから、君も試しに靴を履いてみなさい」と言います。
「さぁここで一歩踏み出せばシンデレラは幸せに手が届く! 意を決してガラスの靴を履くんだ!!」と読み手の応援が聞こえてきそうですね。
しかしシンデレラは頑なに履くのを拒否します。それは国中の女性たちとは真逆な態度です。皆が「我こそは!!」と勢い込んでいるのに、このシンデレラという下女は拒否を決め込みます。それを訝しんだひとりの役人は履かなければ罰するぞとシンデレラを脅したのです。
こうしてシンデレラは渋々ガラスの靴に足を通します。そしてピタリと合いました。これでもうシンデレラは逃げも隠れもできなくなりました。
「幸せに暮らしたい」と願いつつも「今の日常が本来の自分なんだ」と思っていたシンデレラは、覚悟を決めなければならなくなったのです。
ガラスの靴に合う女性が見つかったという報は早馬で王子様のもとにもたらされ、王子様は急いで館へとやってきます。そしてガラスの靴を履いたシンデレラと再会するのです。しかしかの貴婦人が今は灰かぶりの下女の格好をしています。しかし薄汚れたその面影は、まさにかの貴婦人そのものでした。
こうして王子はシンデレラを引き取り、身だしなみを整えさせます。するとそこにはかの貴婦人が佇んでいました。シンデレラこそがかの貴婦人であると認めて、正式にプロポーズをします。こうしてシンデレラは「幸せをつかんだ」のでした。
『シンデレラ』で読み手は、つねに「ストーリーの先読み」を行ないます。
「ここでこうすればいいんだよ!!」とか「こうすれば幸せがつかめる!!」とか。
「ストーリーの先読み」が、いつのまにか「シンデレラ応援隊」を生み出したのです。
単なる「魔法的な力」ストーリーというだけでなく、応援したくなる要素が多いため、シンデレラの一挙手一投足であれこれ「先読み」してしまうのです。
『シンデレラ』の「ストーリーの先読み」は、とてもわかりやすい例です。
最後に
今回は「人はストーリーを先読みする」ことについて述べました。
『シンデレラ』の物語は、「ストーリーの先読み」に適した構造をしています。
だから多くの読み手を虜にしてきたのです。
あなたの小説は、読み手が「ストーリーの先読み」をする余地を残しているでしょうか。
「あらすじ」の段階から「ストーリーの先読み」ができる構成にすれば、多くの読み手はあなたの作品の虜になります。
「ストーリーの先読み」ができる小説こそ、人気を集める作品となるのです。
そのためには、適切な「謎」や「フリ」を提示しましょう。
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