842.創作篇:アイデアをミックスするとオリジナルになる

 今回は「オリジナリティー」についてです。

 全世界で何千万冊、何億冊り小説が発売・発表されてきたのでしょうか。

 今から小説を書く場合、そこに「オリジナリティー」はないのかもしれません。

 ですが「オリジナリティー」はある程度意図的に作り出せます。





アイデアをミックスするとオリジナルになる


 必死になってアイデアを考えて「よしこれで行こう」と決めたとします。

 そのアイデアは「小説賞・新人賞」のほとんどが踏襲しているものかもしれません。小説投稿サイトで数多く掲載されているかもしれません。

 そうなると「差別化」が図れずに、「その他大勢」の列に加わってしまうだけです。

 独自性オリジナリティーのあるアイデアを生み出すには、どうしたらよいのでしょうか。




ひとつのアイデアだけで勝負しない

 小説を書く際、ひとつのアイデアを思いついて「このアイデアなら面白い作品が書ける」と喜んではなりません。

 たったひとつのアイデアだけでは、前述のとおり多くの競合が待ち受けています。その中であなたの作品が読まれる可能性は少なくなるのです。競合が百冊あれば、読まれる確率は百分の一になります。小説投稿サイトでは毎日数千・数万の新作が生まれているのです。そんな中で百分の一に賭けるのは馬鹿げていると思いませんか。

 では、思いついたひとつのアイデアを活かして小説を書き、多くの方に読まれるにはどうすればよいのでしょうか。

 アイデアを掛け合わせるのです。


 アイデアがひとつだけでは、必ず競合作が多くなります。

 しかしアイデアをふたつ掛け合わせれば、競合する作品の数が減りますので、確率も高くなるのです。たとえば千分の一が百分の一にまで高くなる可能性があります。

 もしアイデアを三つ掛け合わせれば、さらに競合作は減るのです。百分の一が十分の一に、つまりより独自性オリジナリティーのある作品が生まれます。ここまでくれば「凡百」の作品とは一線を画すはずです。




三題噺さんだいばなしはなぜ今でも新しいのか

 落語に『三題噺さんだいばなし』というものがあります。

 寄席のお客様から個別に三つのお題を頂いて、即興でオチのある作品を創造して披露する話芸です。

 小説を書きたいあなたに落語の『三題噺』をしたのには理由があります。

 ひとつのアイデアだけではどんな作品にすればいいのか、幅が広すぎて決められないのです。

 もうひとつアイデアを頂くと「このふたつのアイデアだとこんな展開が書けるかな」というものが見えてきます。

 そして三つ目のアイデアを頂くことで「こんな展開にこれを加えたらこんなことが起こりそうだ」と当たりをつけてもらいたいのです。


 では三つのアイデアを生み出すにはどうすればよいでしょうか。

 アイデアはかけ離れていればいるほど、面白い作品に仕上がります。

「魔王」「学校」「刀鍛冶」とアイデアが三つある。

 いろいろな物語が考えられますよね。順番どおりなら「魔王が学校で刀鍛冶の授業を受ける」話、「魔王の学校で生活する刀鍛冶」の話ができそうです。他にも「学校の友人である刀鍛冶から伝説の一振りを譲り受けて魔王を退治する」話にもできます。「魔王を倒すためには、伝説の一振りを造るしかないので、刀鍛冶の学校へ通って名剣を生み出す」ことだってできるのです。

 同じアイデアが三つあったとしても、生まれる物語は限りなくあります。書き手に求められるのは「着想力」です。

「三題噺」で思いついた物語を短編小説として書いてください。それを投稿するのもよい方法です。できればショートショートとして必ず「オチ」をつけましょう。「オチ」を考えることで、よりアイデアのミックスがしやすくなります。

 せっかく書いたのだから、できるだけ多くの方に読んでいただきたいですよね。反面、練習する過程を読み手に見せるのは恥ずかしいと思う方も多いでしょう。そういうときは、本命の小説投稿サイト以外のところに掲載してください。




三はマジックナンバー

 三はマジックナンバーと言われています。

 例を三つ挙げる「三例法」や、能の「序破急」やハリウッド脚本術の「三幕法」、論文の「序論・本論・結論」のように「三」が重要な意味を持つことが多いのです。

 なぜだと思いますか。

「脳が無理なく憶えられる個数」が「三」つだからです。人間の脳には「ワーキング・メモリー」が備わっています。「ワーキングメモリー」は一般の方で三つから五つあるとされるのです。つまりほとんどの方が「三つ」なら確実に憶えられます。

 これを活かしたのが「三例法」です。「今から三つの話をします」「重要な点はこの三つです」のように、読み手に納得させたいのなら三つの例を挙げるだけで読み手にすんなりと受け止められます。

 私は五個も十個憶えられるから、例も五個や十個挙げたって皆わかってくれるはず。

 そう思うのが落とし穴なのです。

 確かにあなたは十個だって憶えられるかもしれません。しかし一般の方々は三つが限界であることが多いのです。

 だから「三例法」はとても理に適っています。


 また椅子を作るとき、脚は何本立てると座面が安定するか知っていますか。多くの椅子は四脚ですが、どんな斜面でも安定する椅子の脚の数は三本なのです。四本あっても一本短いだけでグラつきます。しかし三本なら必ずすべての脚が接地するのです。だから机でも椅子でも、グラつかない安定したものを作ろうとすれば「三本脚」になります。


『三題噺』も理に適った創作方法なのです。もしお題を四つも五つも聞いていたら、おそらく噺はまとまらないと思います。自由な発想のためにも、お題は三つがちょうどよいのです。


 独自性オリジナリティーあふれるアイデアなんて、世の中ではもう出尽くしています。

 せいぜい世の流行りを逸早く取り入れることで目新しいアイデアに仕立てるくらいです。

 その他の場合、ありふれたアイデアはミックスして独自性オリジナリティーを出しましょう。

 ミックスすることで、新しいアイデアに気づけるようになります。

『三題噺』を思いつけない場合は、ふたつのアイデアをあれこれ関連づけてみましょう。

 共通点はないか。相違点はないか。どんな分野なのか。

 関係性がわかれば、物語のタネが出来あがります。

『三題噺』もやり方は同じです。共通点・相違点・分野の違いを認識して、それを最大限活かした噺を仕立て上げましょう。





最後に

 今回は「アイデアをミックスするとオリジナルになる」ことについて述べました。

 ひとつのアイデアだけでは誰かの作品とバッティングするでしょう。

「小説賞・新人賞」に応募したい、「トップランカー」になりたいのなら、誰かと一緒のアイデアでは目立てません。

 さりとてほとんどのアイデアは書き尽くされており、新しいアイデアといえば最新技術を盛り込むくらいしかできないでしょう。たとえばMMORPGが生まれたら『ソードアート・オンライン』を思いつくのような。ですが『ソードアート・オンライン』はVRバーチャル・リアリティーというアイデアも含まれています。そこに「デスゲーム」のアイデアを含んでミックスしたことで生まれたのです。

 アイデアをミックスするだけで新鮮味が出せる好例でしょう。



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