843.創作篇:読みたい・書きたい・書ける
今回は読み手が「読みたい」もの、書き手が「書きたい」もの、書き手が「書ける」ものがそれぞれ異なっていることが多いのです。
その制約が小説の独創性を決めます。
読みたい・書きたい・書ける
読み手には「読みたい」物語があります。
書き手には「書きたい」物語があります。
そして書き手に「書ける」ことは限られているのです。
読みたい物語
読み手が「読みたい」と思っている物語があります。
それを作品として具現化し、読み手に提供できた書き手は読み手から称賛されます。
では読み手が「読みたい」物語とはどのようなものでしょうか。
これがわかれば誰だってベストセラーの書き手、トップランカーになれます。
しかし実際にベストセラーやトップランカーとなった書き手は数少ないのです。
それほど読み手の「読みたい」を知ることはたいへんなのです。
そうは言っても本コラムは曲がりなりにも「小説の書き方」コラムと銘打っていますから、お茶を濁すわけにもいきません。
では、改めて問いましょう。
読み手が「読みたい」物語とはどのようなものでしょうか。
あなたは現在どの小説の販売数が多いのか、またランキングの上位にいるのか、分析したことはありますか。
私はときどきリサーチがてら『amazon』の本のランキングを見たり、アカウントを持っている小説投稿サイトの『小説家になろう』『カクヨム』のランキングをジャンル別にチェックしています。
すると、案外似通った「あらすじ」や「キーワード」「タグ」作品がランキングの上位に並んでいることに気づくのです。
よく売れた小説、よく読まれた小説なら、それだけ「需要」があります。
そこで「なるほど、これが読まれている小説なのか」と早合点してはなりません。
実はこの「分析」、ある程度小説が書ける方なら誰でも行なっています。つまりこれから同じような作品が爆発的に投稿されるのです。そんな中に駆け出しの書き手が同じ土俵で戦って勝てるものでしょうか。普通に考えて勝てるはずがありません。
読み手が現在「読みたい」小説には、多くのハイエナが待ち受けているのです。
これは中国春秋戦国時代にたとえられます。
弱小国家は周囲を大国に囲まれ、それでも国を維持しようとあるときは斉と協力したり、あるときは晋と協力したりしてなんとか生き残りを模索していました。今のあなたが置かれている状況とそっくりですね。
ではこの弱小国家は生き残れたのでしょうか。結果的に大国に併呑されてしまいました。
つまり駆け出しで「
これに対し大国・斉の桓公は、経済面において諸国を支配して「覇者」として名を轟かせました。桓公を支えた宰相の管仲は塩の独占販売と各地の特産品を他の国へ転売することで斉の国庫を満たしていったのです。
つまりネームバリューがあれば、それを生かして最も利益の出るところを独占し、ベストセラーにもトップランカーにもなれます。
ではネームバリューがない書き手はただ埋もれていくだけなのでしょうか。
その事態を打開したのが「呉王
当時隣の強国・越との戦いで苦戦していた呉に、二人の人物が現れます。将軍になる
伍子胥は勇猛果敢にして思慮深く、敵国の状況を見極めて戦端を開くよう闔閭に進言します。そして孫武は十三篇の兵法書『孫子』を携えて将軍の列に加わりました。彼はまず目の上のたんこぶである越は無視して、近隣の越に従う弱小国を次々と攻略していきます。そうして越の国力を削いだうえで、伍子胥とともに越の攻略に乗り出します。越を降した呉は北上して領土を拡大し、中原の「覇者」として名が知れわたるようになったのです。
呉からわかることは、「真正面から強敵と戦わない」ことと「強敵の周辺をひとつずつ攻略していく」ことです。
「異世界転生ファタンジー」が大人気で「俺TUEEE」「チート」「主人公最強」「ハーレム」「追放」「スローライフ」「ざまぁ」がランキング上位に最もよく出てくるとします。
あなたがそれらを用いた小説を書いてもウケるでしょうか。
おそらくウケません。閲覧数は微小ですがないこともない。ですがただそれだけで、ランキング上位に入ることはまずできないのです。
ではどうするか。
ランキング上位とくにトップランカーの作品を分析して、テンプレート化されていない要素を見つけ出すのです。
元々「追放」「スローライフ」「ざまぁ」も「異世界ファンタジー」では当初から一般化されていたわけではありません。ある日突然「勇者パーティーを追い出された」者の話を誰かが書いて、それがじょじょにヒット作を生むようになったのです。
このように「強敵」を知り、どこが強みとなっているのかを知る。普通の人では気づかない「物語を面白くしている要素」を見極められるかどうか。
それこそ読み手が「読みたい」と思っている作品を生み出す原動力となるのです。
書きたい物語
書き手であるあなたには「書きたい物語」があるはずです。
今までも書いてきましたが、プロになると「書きたい物語」は書けなくなります。
その制約が嫌で、早々に引退して小説投稿サイトに活躍の場を移す方もおられるようです。
でも「書きたい物語」を「紙の書籍」として販売する方法もなくはありません。
「羊の皮をかぶった狼」です。
基本的に読み手が「読みたい」物語を書きますが、それだけで終わってはなりません。あなたが「書きたい」物語をそこに潜ませます。つまり一本の作品に二本の物語を並行させるのです。
最初のうちは難しいと感じるでしょう。ですがコツさえ憶えれはそれほど難しくはありません。
コツは「読みたい」物語は主人公に割り振り、「書きたい」物語をサブキャラに割り振ることです。
簡単に言えばアニメの安彦良和氏&富野由悠季氏『機動戦士ガンダム』のアムロとシャアです。受け手が追いたい物語をアムロに割り振って、一般人がニュータイプへと成長していく物語を書きます。その裏で書き手が書きたい物語をシャアに仮託して、戦いは非情であるというテーマを打ち出しました。このようにオモテとウラの物語が絡み合うと、受け手はアムロに感情移入しつつ、シャアの魅力も捨てがたいと感じてくれるようになります。もしシャアを主人公にしていたら、『機動戦士ガンダム』はそれほど人気は得られなかったでしょう。
二面性を持った作品は多くの読み手から支持されます。それはふたつの物語が同時並行して展開されるからです。しかし読み手の意識としては、主人公が好きだという思いがあります。ウラの物語は知らず知らずのうちに心に染み入るのです。
書ける物語
読みたい物語、書きたい物語がわかったと思います。
では、その物語は「あなたが書ける範囲内の物語」でしょうか。
実はこれこそが小説を書くうえで最も重要な因子なのです。
書き手の能力には限界があります。
今のあなたにはとても「手に余る物語」というものもあるのです。
たとえば「壮大なファンタジー巨編」を書きたいと思っても、駆け出しのあなたには構想するだけの力がない「手に余る物語」になります。無理に書こうとしても、とても満足のいく出来にならないのです。
書き手はまず己の技量を知らなければなりません。知ったうえで、「これから書く」物語が要求するレベルの高さをわきまえるのです。そして要求されるレベルに、あなたの技量が追いついていなければ、その小説を書くべきではありません。力がつくまで温めておきましょう。
「三百枚」の長編小説なら、ほとんどの方が書けます。そのつもりで書いたのに中編小説の分量にしかならなかったということもよくあるものです。これを繰り返すことで、あなたが書ける分量を理解できます。「三百枚」のつもりで構想したのに、「二百枚」にしかならなかった。それなら「四百五十枚」のつもりで構想すれば「三百枚」になる計算が立ちますよね。
また説明や描写をしっかり行なって「百枚ぶん」増やすこともできるのです。こちらは元々描写と説明が足りなかった場合にのみ行なえます。
もし説明と描写を尽くしたのに「二百枚」になってしまったのなら、それは
もし書きたかったエピソードと
芥川龍之介賞を授かったお笑い芸人ピースの又吉直樹氏『火花』も中編小説です。だから「中編小説にしかならなかった」のは「小説」としてはとくに問題ありません。ただ「三百枚」の長編小説を求めている「小説賞・新人賞」に応募したのに「三百枚」に満たないのでは論外です。
だからこそ、何回でも長編小説に挑戦して、実際何枚の作品になったのかを確認しましょう。それを繰り返すことで、「三百枚」の要求に応えられる小説が書けるようになります。
最後に
今回は「読みたい・書きたい・書ける」ことについて述べました。
読み手が「読みたい」作品がどのようなものか。それを測りたいのなら『amazon』で小説のランキングをチェックしたり、小説投稿サイトのランキングを確認したりしましょう。
しかしその結果を鵜呑みにしないでください。すでに多くの書き手がそれらの作品のフォロワーとなって新作を連載開始しているか準備中です。今から書いて他のフォロワーを出し抜けるだけの速筆であれば挑戦してもよいでしょう。
しかしたいていの方は速筆ではないので、人気作品の縁にある「この作品がとくに人気である要素」を見抜く眼力を培ってください。それがブームの先駆けとなる可能性があります。「追放」「スローライフ」「ざまぁ」にしろ、すべて人気作品の縁にあった「この作品がとくに人気である要素」を巧みに見抜いたからこそ生まれたキーワードなのです。
「書きたい」物語があっても、もし読み手が「読みたい」とは思わない作品であれば、「読みたい」作品とミックスした物語を書くようにしてください。そうすれば、あなたにしか書けない、読み手が「読みたい」小説が書けるようになります。
ですが書き手の「書ける小説」には限度があるのです。「三百枚」を書いたつもりが「二百枚」になったなんてことはざらにあります。その場合は
以上を踏まえれば、書き手にも読み手にも納得の作品が書けます。
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