841.創作篇:プロか多くの方に読んでもらいたいか
今回は皆様の将来像について考えましょう。
「プロの書き手」を目指す方、「小説投稿サイトでトップランカー」を目指す方、できるだけ大勢の方に読んでもらえればそれでよい方。実にさまざまです。
プロか多くの方に読んでもらいたいか
小説投稿サイトが活況を呈す中、「多くの方に読んでもらいたい」と思っていた書き手がプロになる必然性がなくなりました。(『カクヨム』でロイヤリティプログラムが始まったため、なおさらプロの優位性が薄くなり始めています)。
小説投稿サイトで数万人もが読んでくれるのと、「紙の書籍」で十万人にも満たない人が読んでくれるのとでは桁がひとつ違いますからね。
それでもプロを目指す方は、なにが目的なのでしょうか。
プロの書き手を目指す方は、小説を書くことで生計を立てたいはずですよね。
たった一冊「紙の書籍」を出版しただけでは、「夢の印税生活」なんて送れません。せいぜいちょっとした小遣いが入ってくる程度です。だから早い段階で今の仕事を辞めるべきではありません。
プロ一本でやっていきたい方は、「紙の書籍」の連載が十冊近くになるまで今の仕事と兼業しましょう。
それで「紙の書籍」の連載が終了したとして、次の連載が始められるのか否か。それがあなたの小説を市場が要求しているかの目安となります。
プロの書き手は「書きたい物語が書けない」職業です。市場の需要があるジャンルと属性の物語が書けなければ、毎年コンスタントに新作を出版し続けることはできません。
「好きでもない物語を読み手が喜ぶように書ける」才能をお持ちの方が、プロの書き手になれるのです。
市場から求められなくなったら、その書き手の商品価値はなくなります。
「契約解除」要するに「クビ」です。
「自分の好きなものが書けない」「好きでもないものを書かなければならない」という状態でも、「小説を書く」行為そのものが好きだ。
そういう方だけがプロの書き手として成功できます。
かなりストイックな職業ですよね。
多くの方に読んでもらいたい
かつて「多くの方に自分の小説を読んでもらう」には、紙媒体の「小説賞・新人賞」を授かって「紙の書籍」として書店に流通させるしかありませんでした。
それよりも圧倒的に狭い範囲ですが、「同人誌」を創って即売会で頒布していた時期もあります。
しかし小説投稿サイトが整備された現在、多くの方に作品を読んでもらおうと思えば、小説投稿サイトに掲載するだけでよくなったのです。
小説投稿サイトは「自分が好きなものが書ける」「どれだけの人が読んでくれたかわかる」「反響が確実に届く」と、よいことだらけです。
難点があるとすれば、いくら小説を書いてもお金にならないことくらいでしょう。
プロになって「紙の書籍」を発売すれば原稿料と印税が入りますし、同人誌を発行してもやはり利益を出せます。
そう考えると「毎日苦労して小説を書いているのに一銭にもならない」状態は、割り切れる方以外頭を悩ませるものです。
この状況に対して現在、ショートメッセージ型SNS『LINE』が展開しようとしている『LINEノベル』と出版社KADOKAWAが共同運営している『カクヨム』で、投稿作品に対して「収益化」を図って他の小説投稿サイトと差別化を図るべく準備しています。(これを「ロイヤリティプログラムと言います」)。もしこの試みが成功すれば、「紙の書籍」を目指すプロ志望の方が「小説賞・新人賞」を狙わず、『LINEノベル』『カクヨム』に良質な作品が集中してくる可能性があるのです。
そうなれば、KADOKAWAも「紙の書籍化」にこだわらず、ネット内で完結するエコシステムを構築できますから、今後「小説賞・新人賞」に変わる書き手の受け皿ともなりえます。
現在小説投稿サイトと言えば『小説家になろう』が筆頭ですが、『カクヨム』や『LINEノベル』が取って代わることも想定されます。『小説家になろう』はその構造上、収益を分配することが難しいからです。システムの大幅改修が不可避ですし、それに伴う決済事業も必要になります。その点『カクヨム』は営利団体が運営していますから、決済事業も整備されているのです。もちろん現在無料のシステムを改修する必要はあります。ですが『小説家になろう』ほどの大改修にはならないはずです。このあたりも出版社が共同運営している強みと言えます。
紙の書籍が消える日
現在Apple『ブックストア』、amazon『Kindleストア』などで電子書籍が品揃えを拡大しています。それも右肩上がりにです。
「紙の書籍」が急速に売上を落とし、代わりに「電子書籍」の売上が高まっています。しかし全数が「電子書籍」へ移行しているわけではないのです。「本」そのものを買う人が減ったのです。人口の減少も一因ではあります。しかし小説なら小説投稿サイトにおいて無料で読めますよね。だからあえて「本」を買うこと自体が減っていったのです。
これは日本国民の半数以上がスマートフォンを所有していることにも関係してきます。スマートフォンは維持費がかさみ、それまで「本」を買っていたお金がスマートフォンの維持費に消えてしまうのです。つまり「本」を買いたくても、読み手には買うだけのお金がないのです。
これは危機的な状況で、日本の消費のほとんどが落ち込み、スマートフォンを手がけている大手キャリアが過去最高益を更新し続けるという不均衡を生み出しました。それを受けて菅義偉官房長官の『携帯電話料金は四割ほど下げる余地がある』との発言が出たのです。
これでスマートフォンの維持費は四割下がり、「他業種に利益が分配される」はずでした。しかし料金改定案が出揃ってみたら、大手キャリアはさまざまな条件をすべて満たせば「最大四割安くなる」という詐欺行為に出ました。ほとんどの利用者は今までよりも高い料金を支払わなければならなくなるのです。
もし政府がこの料金改定案を是とするなら、日本経済は早晩立ち行かなくなります。製造業・加工業が破綻して利益を得るのは携帯大手キャリアのみとなるのです。
大手キャリアに求められていたのは「最大四割削減」ではなく「平均四割削減」だったはずなのです。そんな中で楽天が四番目の大手キャリアとして参入してきますが、「平均四割削減」の料金プランを打ち出せるかどうかで日本経済の今後が決まります。もし三大キャリアと変わらない料金プランで暴利を貪るのであれば、日本経済は完全に破綻するのです。
その波は出版業界をも巻き込み、大幅な「買い控え」が生じます。「本」が売れなくなってしまうのです。
とくに急速に売上を落としている「紙の書籍」は、どんどん縮退傾向が
KADOKAWAがオプションとして『カクヨム』を運営しているのは、そういった将来を見越しての賢明な一手であったと言えるでしょう。
そもそも小説市場で売上が伸びているのはライトノベルだけだと言われています。一般文芸はどんどん売れなくなり、「電子書籍」に活路を見出だそうとしているのです。
しかし肝心の「電子書籍」を買うお金がありません。
こうしているうちに、「紙の書籍」の小説は採算が合わなくなってくる恐れもあります。
周知の事実ですが、週刊少年マンガ誌自体は赤字を垂れ流しながら発刊されているのです。その赤字を単行本の売上で相殺しています。だから私たちは今も週刊少年マンガ誌を読むことができるのです。
しかし「紙の書籍」の小説が赤字になってしまったら、小説は「電子書籍」に完全移行して、「紙の書籍」が消えてしまうことも考えられます。
今はそういう危機的な状況なのです。
スマートフォンの維持費が値下がりしないかぎり、多くの産業は消滅していくことになるでしょう。
最後に
今回は「プロか多くの方に読んでもらいたいか」について述べました。
あなたがプロになるメリットはなんでしょうか。お金が得られますよね。ではデメリットはなんでしょうか。「好きでもない物語を書かなければならない」ことだと思います。
「どんな物語であっても、小説を書くのが好き」というくらいの心構えがなければ、プロは務まらないと思ってください。
多くの方に読んでもらいたいと思っているだけなら、小説投稿サイトがあります。お金は得られませんが、何万人に読んでもらえるのです。
しかし『LINEノベル』『カクヨム』と、小説投稿サイトでもお金を得る手段が生まれつつあります。
今後いっそうプロと、自分の書きたい小説を書くアマチュアの垣根が低くなってくるでしょう。
そんな状況の中で、あなたはどちらを目指しますか。
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