840.創作篇:人生経験と時代を捉えるアンテナ

 今回は「人生経験」と「アンテナ」のたいせつさについてです。

 なにごとも経験すれば説得力を持って書けます。

 経験していないことには説得力がありません。





人生経験と時代を捉えるアンテナ


 小説を書く方は、毎日PCへ向かって椅子に座っていることと思います。

 しかしそれだけで傑作が生まれるかと言えばどうでしょうか。私は簡単に言い切れます。

 生まれないのです。

 小説に登場する人物の情報が生きていること。生きていないと、現実味リアリティーがなくなってしまいます。


 たとえば「管理職」「経営者」が主人公であれば、そういった立場の方と話をして生きた情報を得る必要があります。

 もしくは自ら「管理職」「経営者」となって、現実を見つめることで生きた情報が手に入るのです。

 ですが、小説の書き手が「管理職」「経営者」であるとはかぎりません。

 そこで「管理職」「経営者」のことを知りたいのならインタビューするのが最も確実です。でもインタビューには金銭が発生します。予算的に難しい、人脈がないのでアポイントメントがとれないということも多いのです。

 ではどうすればよいのでしょうか。多くのビジネス書や自己啓発本を読みましょう。とくに「管理職」向けの書籍と「経営者」向けの書籍は分かれていますから、書籍代がかさむことは想定しておいてください。ですが「管理職」の心構えと、「経営者」の心構えには大きな差があります。「管理職」は上司からの命令を、部下へ効率的にまわして達成する役職です。「経営者」は自ら会社の問題点を見つけだし、「管理職」に命令を出して改善させる役職となります。

 その差をわきまえずに企業小説を書いても、「管理職」「経営者」のどちらの支持も得られません。

 私は書店でアルバイトから社員となり主任、店長、本部係長と経歴を重ねてきました。今は闘病中で隠居生活を行なっていますが、「管理職」としての主任、本部係長と、「経営者」としての店長のどちらも経験しています。さらに一兵卒であるアルバイトも経験しているので、私にとっては企業小説ならいくらでも書けるジャンルです。

 しかしそんな経験をしてきた方は少数でしょうから、ビジネス書や自己啓発本を多く読んで「知識」を得ましょう。

 できればアルバイトでもパートタイマーでもよいので、実際に書きたい業界の内側に潜り込んで、生きた情報を得るべきです。それが嫌なら、毎日のようにそのお店や会社に通ってみてください。常連になれば、生きた情報も得られます。


 このように、経験は生きた小説を書くうえで鍵を握るのです。とくに「人生経験」はとても得がたい。特殊な「人生経験」をした方は、その分野についての企業小説を書くべきです。

 私も書店を舞台にした企業小説のひとつでも書いてみましょうか。さまざまな魑魅魍魎ちみもうりょうとの戦いは、読み手としても関心が持てると思います。




さまざまな人との付き合いが多様なキャラにつながる

「人生経験」はさまざまな人物との出会いの経験でもあります。

 誰もが経験しているのは「村人A」、農家を営んでいれば「農民A」、商売をしていれば「商人A」です。

 オタクが集うライブに参加することで、「まったく考え方の違う種族」を想像でも作れます。しかもアニメによってファンたちの考え方も異なるものです。

 SNSで作品Aのファンが作品Bを非難する。すると作品Bのファンは作品Aを非難する。この場面を見て、エルフとドワーフの仲の悪さを見出だす人もいるのです。

 今はSNSが発達していますのです、自分の好奇心外の情報を目にする機会が増えました。さまざまな立場の方の意見を読むことで、「世の中にはこんな意見を持っている方がいるんだ」と知れます。

 想像だけで書くことになりますが、多様な意見に触れた書き手と触れていない書き手とでは、現実味リアリティーが根本的に異なります。もちろん実際に体験したほうが圧倒的に現実味リアリティーは高まるのです。

 だから、いつまでも机にかじりついていないで、家の外に出てさまざまな人と出会ってください。

 新しいタイプの人と出会うことで、さまざまな人物を書き分けられるようになります。

 あなたのキャラは生き生きとしていますか。




時代を捉えるアンテナ

 物語には「同時代性」が求められます。だから現実世界の物語には、現在の最先端技術がふんだんに盛り込まれるものです。

「私が書くのは異世界ファンタジーだから、同時代性なんて関係ないですね」とはなりません。

 世の中は流行りと廃りで成り立っています。クレープが流行ったりナタデココが流行ったりミルフィーユが流行ったりと次々と新しいものが流行るのです。ですが、新しい流行りが生まれれば、古くなった流行りは廃れていきます。

「異世界ファンタジー」であっても、そのときに現実世界で流行っているものによって画期的な作品が生まれることがあるのです。冬原パトラ氏『異世界はスマートフォンとともに』なんて、スマートフォン全盛の現在だからこそ書ける作品ですよね。MMORPGが登場した際に川原礫氏『ソードアート・オンライン』が生まれました。これも「同時代性」がもたらした傑作です。

 今の読み手層になにが響くのか、なにがもう響かなくなったのか。それを見極める目が求められるのです。





最後に

 今回は「人生経験と時代を捉えるアンテナ」について述べました。

 世の中にはどんな意見を持った人がいるのか。自分の足で見つけ出してみましょう。それが難しいのなら、そういった意見の専門書を買うのもよいですね。

 企業について詳しく書きたいなら、事情通になるくらいビジネス書や自己啓発本を読み込んでください。「デイトレーダー」について書きたいなら、株式取引やFX取引について詳しくなければなりません。今なら仮想通貨の知識は不可欠でしょう。

 そして今どんなものが流行っているのか、どんなものが廃れていったのか。それを見極める目を持つのです。



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