831.構成篇:ジャンル8:魔法的な力

 今回もブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CAT!』の10ジャンルからです。

「魔法的な力」とは平凡な主人公へ一時的に与えられる奇跡、『アラジンと魔法のランプ』に出てくるランプの精のような力です。

 特殊な力が「一時的に与えられる」だけなので、「剣と魔法のファンタジー」はこのジャンルに入りません。





ジャンル8:魔法的な力


 誰もが一度はなにかを願ったことがあると思います。そして「願いが本当に叶ったらいいな」と思ったことがありますよね。

 この「魔法的な力」ジャンルは、幾度となく語られてきた鉄板の物語です。

『アラジンと魔法のランプ』のように、主人公が抱える問題を消し去ってくれるようななにかを願うと、あら不思議。そのとおりになります。

 願えば叶うことから、読み手の心に深く響くのです。

 でもこのジャンルの売りは「願いを叶える」ことだけではありません。「呪いをかける」「守護天使を送る」「体が入れ替わる」「主人公が異世界やら平行宇宙に送られる」などでもいいのです。


 あなたが選ぶ超自然的な仕掛けがなにであっても、「魔法的な力」ジャンルの物語は、いつも同じ話です。

 ひとりの人間がなんらかの「魔法的な力」を授けられ、最終的に自分の「現実」はそんなに悪くないということを知って、物語の終わりで「魔法のように」生まれ変わります。

「魔法的な力」ジャンルに登場する魔法は、普遍的な「真実」を巧みで示唆に富んだ、しかも便利な方法で私たちに見せてくれる道具です。その「真実」というのは「魔法なんかなくても今のままで全然大丈夫」ということです。

 なぜなら、一度魔法を授かった主人公は、結局「魔法は要らなかった」ということを学ぶ羽目になります。

 だから、このジャンルには異世界系のファンタジーやSFがあまり入っていません。

 このジャンルの小説の目的は、異世界や別世界を探索することではないのです。J.K.ローリング氏『ハリー・ポッター』シリーズやJ.R.R.トールキン氏『指輪物語』とは方向性が違うのです。

「魔法的な力」ジャンルの主人公は、たいてい私たちの世界の住人で、あくまで「一時的に魔法(または呪い)」をかけられるだけです。あなたのような、ごく普通の人です。それがこのジャンルの物語の醍醐味になります。

「魔法的な力」ジャンルというのは、興味深いことですが、若い人に人気があるようです。魔法で願いが叶うという話は、十代あるいはそれより若い読み手に訴える強い力を持っています。でも、大人が楽しんではいけないことなどありません。

「魔法」で悪戯したり規則を破ったりするのは楽しいですよね。

 さらに「もし○○できたら、どうなるんだろう」という問いに答えも出せます。




魔法的な力ジャンルの三要素

「魔法的な力」の物語に必ず共通する要素は「魔法の助けを借りて当然な主人公」「魔法(または魔法のような特別な力)」「教訓」の三つです。


 あなたが書く小説の主人公は、魔法の力でもなければどうしようもないダメな人かもしれないし、ちょっと呪いでもかけて物の道理をわからせてやる必要があるような、どうしようもなく鼻持ちならない偏屈男かもしれません。

 どちらにせよ、魔法の助けを借りて当然な主人公であることです。

 そして「魔法的な力」物語の主人公には、その人だけが必要とする適切な「アラジンのランプ」を与えなければいけません。

 つまり読んだらすぐ、なぜこの主人公に魔法の助けが必要なのか理解できること。理解できればこそ、読み手がその主人公を応援したくなるのです。

「魔法的な力」物語を書くのなら「この主人公はどういう理由で、こういう魔法の助けが必要なのか」「その人は、なにをやっても報われないシンデレラのタイプなのか」(勇気をあげる系)「それとも誰かにガツンと一発言ってもらって改心しないといけないシンデレラの意地悪なお姉さんタイプなのか」(「天罰系」物語)。

 いずれにしても、ともかく読み手がすぐにわかるようにすることです。

 魔法が登場したとき(一般的には「4.打破」のセクション)、読み手が「ああ、そうだよね、もちろんそうなるよね」と言うように、主人公をお膳立てしてやるようにしましょう。

「天罰系」の物語は「勇気をあげる系」の物語を書くより難しいときがあります。嫌われタイプの主人公は、読み手が引いてしまうことがあるのです。物語が楽しくなる前に読むのをやめてしまう可能性も高くなります。意地悪な主人公がやがては意地悪い報いを受けるとしても、書き手が主人公に一発ガツンと喰らわせる前に読み手の関心を失っては元も子もありません。

 だから、ここが『SAVE THE CAT!』の法則を使ってあなたの小説を助けるところです。主人公の悪いところを見逃してあげたくなるようななにかを、一刻も早くやらせましょう。

 理想的には「4.打破」セクションまでにやらせてください。可能なら最初の10〜20ページまでに。どんなに救いようのない愚か者でも、どこかひとつくらい助けてあげるに値するものを持っているはずです。

 貴重な時間を割いてこの主人公が成長するのを見守る価値があると、早めに読み手に見せてあげます。今はどうしようもない主人公でも、待っていれば隠れた深みを必ず見せると約束するのです。

 助けが必要な主人公に勇気をあげる場合でも、天罰を受けて当然の主人公にガツンと食らわせるのでも、必ずその主人公がこういう魔法を必要としているということを、読み手がすぐに理解できるように書きましょう。


「魔法的な力」物語に必要な要素の二つ目は、もちろん「魔法」です。

 呪文をかけるとか魔法(魔法みたいなものも含む)をかけるということ。では「魔法的な力」の物語に登場するのは、どんな魔法でしょうか。

 なんでもかまいませんが、第二幕でいちばん中心的なものとして扱いましょう。それがあなたの小説が読み手に約束する前提なのです。

 本の裏表紙とかネットの解説に、その魔法について書いてないはずがありません。だから必ず読み手の期待に応えてください。

 主人公が願いを叶えるために魔法を求めるにしても、自分の意見と関係なく呪文がかけられてしまうにしても、ともかくありきたりの魔法にはしないようにしましょう。面白くて、ワクワクするような魔法なら、それがあなたの小説の売りになります。

 魔法がどのように作用するかという設定に、あまり時間をかけないようにしてください。大事なのは、魔法が「どのように」働くかではなくて、「どうして」主人公に魔法がかけられたのかという理由のほうです。

 この「魔法的な力」ジャンルの物語の肝は、魔法そのものではなくて、主人公がその魔法からなにを引き出すのが、なのです。

 だから、何ページも使って呪文の解説をしてはなりません。

 魔法がどのように作用するかより重要なのは、魔法の「約束事」です。

 自然の法則に逆らって、なんでもできちゃう魔法であっても、なにができてなにができないという規則は必要です。そして、一度決めたら絶対に曲げてはなりません。ちょっと変えるとプロットが楽に組めるからといって、絶対に変えてはなりません。読み手はあなたが書いた破天荒な小説を読むときに「ありえないじゃん」という気持ちを抑えて、「ありえないけど、面白そうじゃない」と思ってくれています。

 ですから、読み手にもらった一度だけのチャンスを台無しにしないようにしてください。

 最初に提示された魔法の「約束事」を物語の展開にあわせて変えてしまったら、読み手は裏切られたと感じ、読むのをやめます。

「魔法的な力」ジャンルの読み手は、書き手がうまくやってくれると信用して、それが自然の法則に逆らう物語だとわかっていても読むのですから、期待に応えましょう。

 魔法がどのようにかけられるにしても(人を介して、場所、物、その他)、必ずなんらかの法則性と整合性を持たせ、読み手の信頼を裏切らないように気をつけてください。。


 そして「魔法的な力」物語を紡ぐときに必要不可欠な三番目の要素は「教訓」です。

「魔法が主人公をどう変えたのか」ということ。

 このジャンルの物語は、主人公が最終的にひとつの重要な事実に気づいて変わらなければなりません。

 それは「人生の問題をなんとかするのに必要なものは、実は魔法でなかった」ということです。

「問題を抱えた本人」が問題を解決することが必要なのです。魔法は問題を形にして見せてくれただけ。

 それが「魔法的な力」ジャンルの本質なのです。

 魔法を使って、すべての問題を絨毯の下に隠してなかったことにできたら、楽でいいと思いますよね。でも、それはズルだとみんなわかっているのです。

 それに、もしすべての問題が魔法で消えてしまうという物語だったら、読み手の心を打つものがなにも残りません。魔法が現実には存在しないからこそ、「魔法的な力」の物語は、現実とか人間性に関する「教訓」が肝になるわけです。

 現実も人間も元々最高だと思わせます。人間であれば、いいこともある。だから、魔法で最大の問題を解決することはありません。魔法は途中でお話を盛り上げるちょっとした仕掛けなのです。

 というわけで、ほとんどの「魔法的な力」の物語には、第三幕で「魔法に頼らず自分でやらなればならない」というセクションがあります。普通は「14.フィナーレ」に来て「魔法なんかなくても自分は変われると証明する」瞬間になります。「自分の力だけでなんでも解決できるようになっている」という証明です。

 なぜかというと、魔法というものは、実は私たちの中にあるものだからです。

 主人公は魔法からなにを引き出し、最終的には「どうやって魔法に頼らず問題をきちんと解決するのか」ということです。





最後に

 今回は「魔法的な力」ジャンルについてまとめました。

「あんなこといいな、できたらいいな」が本当にできてしまうのが「魔法的な力」です。

 しかし、実際にはそんな「力」がなくても問題は解決できます。

 それを見せることが、「魔法的な力」ジャンルの物語の本質です。



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