830.構成篇:ジャンル7:冒険

 今回もブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CAT!』のジャンルからです。

 冒険といえばマンガの尾田栄一郎氏『ONE PIECE』が挙げられるでしょう。

 まぁ現在はただのバトルマンガと化していますが。

 バトルマンガになる前の同作を念頭に置いてください。





ジャンル7:冒険


 冒険ジャンルにおいて大事なのは、目的地ではなくその旅路のほうです。

 冒険ジャンルを簡単に言えば、ひとりの冒険家が大勢の仲間を集めて、自分を王にしてくれる力を持つ宝物を求めて大冒険の旅に出る話です。当然、旅の途中であらゆる苦難困難に出遭います。

 つまり誰もが大好きな波乱に満ちた物語の原型なわけです。(要するに『桃太郎』のような話です)。


 皆さんもご存知のとおり、旅ものの肝は目的地ではありません。

 どこかの地理的な目標とか宝物とか褒美とか物理的なものではなくて、冒険そのものが肝なのです。

 なにかを求める旅。旅の途中で立ち寄る場所、寄り道、それがドラマになります。

 そして旅ものでなにより重要なのは、旅の途中で見つける「なにか」です。旅の途中で発見する自分。少なくとも、すぐれた旅もの小説は自分を発見する旅であるべきです。

「私は旅ものを書いているわけじゃないし」と他のジャンルに移ろうとする前に少しお待ちください。

 このジャンルには収まる作品はたくさんあります。


 実は旅ものでない作品にも、この冒険ジャンルに含められる作品があるのです。

「冒険」ジャンルには嬉しいことに、いわゆる「強盗・強奪計画」ものも入ります。(『ルパン三世』のような)。

 その場合の「旅路」は強奪実行までの計画の道のりになり、計画実行が第三幕になります。

 さらに壮大な「探索クエスト」ものも「冒険」ジャンルに含まれます。この場合「旅路」はどこか遠くにある宝物、商品や褒美、出生にかかわる秘密を探す旅になります。(『アーサー王伝説』の聖杯探求のような)。




冒険ジャンルの三要素

「冒険」ジャンルの三大要素は「道」「仲間たち」「褒美」です。


「道」というのは、旅の舞台です。主人公パーティーは、その長い道のりを旅しなければ、探索クエストや使命を果たせないのです。

 でも実際に道路である必要はありません。道は別次元の世界でも、どこかの太陽系でも、仮想空間でもかまわないのです。もちろん暗喩としての「道」でもかまいません。

 ともかく、主人公が成長したことがわかればいいのです。

 主人公の成長がわからなかったら、「冒険」ジャンルになりません。

 旅の行程に合わせて主人公の変容の道のりをたどれるように設計できるのが、このジャンルの特徴です。

「冒険」ジャンルの作品を考えているのなら「主人公パーティーはどこかへ旅をするのか。旅の進展にあわせて主人公パーティーの成長がたどれるのか」を考えてください。

「冒険」ジャンルに収まる小説には、主人公が冒険の旅のどのへんを進んでいるかを読み手が理解しやすい仕掛けが施されている必要があります。まったくあてどない旅では、いつ終わるのか書き手にすらわかりません。

 もうひとつ「冒険」ジャンルで普通に登場する仕掛けに「道の真ん中に落ちている障害物」というのがあります。もう一歩で達成、というところで旅を完全に中断させてしまうなにか。これは文字どおり(または比喩的に)障害物を意味し、主人公と仲間たちに迂回を強い、作戦の再考を迫り、ひびの入った人間関係の修復を要求し、自分たちをじっくり見つめ直させて、それぞれが備えた真の力や技術を発見させる仕掛けです。


 主人公に同行する「仲間たち」は、大所帯でも少人数でも、書き手の好みでかまいません。

「冒険」のサブジャンルである「相棒もの」も人気の高いジャンルです。主人公と相棒のふたりきりで話は進みます。旅のお供が三人、またはそれ以上でもかまいません。

「冒険」の変種として、「一匹狼もの」もあります。これは主人公ひとりで始まった旅の途中で、助けてくれる仲間が増えていくという展開です。(まさに『桃太郎』です)。

 仲間の人数にかかわらず、「冒険」ジャンルの物語の「本当に必要なもの」を巡る物語の肝には友情や愛情を据えるのが一般的です。

 主人公が誰と一緒に(場合によっては嫌々)旅立つかという判断は、書き手にとって重要なものになります。

 その仲間が複数なら、全員が「本当に必要なもの」を巡る物語にふさわしい役割を与えなければなりません。そして、旅で必要になる才能やスキルを持たせてやります。知性、体力、心、なんでもかまいませんが、小説の冒頭で主人公に欠落しているものがよいでしょう。だからこそ、主人公は特定の仲間を必要とするのですから。

 もし大勢の仲間たちを導入するのなら(強奪ものならとくに)、ここのメンバーはそれぞれ独特かつ面白い方法で紹介しましょう。上手な紹介に苦しむ書き手は多数いますが、うまくできれば読み手にとってこのうえない楽しみになります。

 大勢の登場人物を紹介するためには、かなりのページを割くことになるので、まるでスターを登場させるように華々しく書きましょう。でないと「褒美」「目当てのもの」を探す冒険が始まる前に、読み手が飽きてしまうかもしれません。

「仲間たち」は主人公のお供をして道を案内します。主人公に不足しているなにか、つまり技術、経験、態度などを象徴するものであるのが一般的です。「一匹狼もの」の場合は、道すがら主人公を助けるキャラが現れるという展開になります。


 最後に「褒美」です。それは「目当てのもの」そのものを指します。

 主人公と仲間たちが求めていたのはなんでしょうか。長く苦しく、けれども最高の旅を終えた彼らを待っているのは果たして。

「褒美」は、主人公たちが旅立つに値するもの(そして読み手が納得する価値のあるもの)でなければなりませんが、最終的にそれがなんであるかは、あまり問題となりません。途中の旅そのもののほうが大事だからです。

 重要でなくても、「褒美」は必ず誰でも価値を理解できるような「基本的で本質的」なものであるべきです。

 基本的で本質的な「褒美」は物語を動かす役目を果たすもので、多くの場合「4.打破」のセクションに投入されます。しかし主人公がひとたび手にした途端(場合によっては手にしなくても)、当初の価値を失うものです。それは主人公と仲間たちを旅立たせ、物語を動かす仕掛けにすぎません。でもそれでいいのです。「褒美」は物語の本当の肝ではないのです。

 このジャンルに属する物語の中でいちばん心に響く瞬間は、主人公が旅の途中で手に入れた「なにか」のほうが、「褒美」の何倍も素晴らしいものだったことに気づくときです。その「なにか」とは、愛、友情、仲間の連帯などといった、「本当に必要なもの」の物語の肝になります。


 ですが同じ理由で「冒険」ジャンルのプロットは立てにくいことがあります(強奪計画ものの小説はあまり多くないですよね。モーリス・マリー・エミール・ルブラン氏『怪盗紳士ルパン』シリーズは有名ですが)。

 書き手は主人公たちが通過するたびに触っていく一里塚のような目印を、一般的には主人公たちが遭遇する登場人物やなんらかのイベントという形で、旅の道すがらに配置しなければなりません。そのような目印は物語と関係がないように「見える」のですが、物語の大きな構造の中では「絶対に」関連していなければなりません

「冒険」ジャンルの物語では、目印を通過するたびに主人公を最終的な真の結末ゴールに近づけます。目印があるたびに、誰かと遭遇するたびに、主人公がどう影響されるのでしょうか。

 それを巧く書くのに必要なのは、プロットを超えた技。構成という錬金術。

「求めるもの」の物語(目印)と「本当に必要なもの」の物語(目印が主人公に及ぼす内面的な影響)を巧みに編み上げて、納得し満足のいく変容のラストへ読み手を導くのです。

 基本的に本質的で、求める価値のある「なにか」とはなんでしょうか。

 家に帰ること、宝を確保すること、自由を手に入れること、重要な目的地へ到達すること、出自が約束するものなどです。





最後に

 今回は「冒険」ジャンルについてまとめました。

「冒険」ジャンルに必要な三要素である「道」「仲間たち」「褒美」をしっかり踏まえれば、読み手が楽しめる旅路が約束されます。

 なにかを求める旅路であれば、「強奪もの」でも「探索クエストもの」でもすべて「冒険」ジャンルとして扱えるのです。



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