823.構成篇:STC式ジャンル分け

 今回はブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CAT!』によって分けられた10のジャンルについてです。

 本コラムではジャンル名を、中高生でもわかりやすい日本語に置き換えています。

 本格的に『SAVE THE CAT!』のジャンル分けを知りたい場合は書籍が販売されていますので、そちらをご参考くださいませ。





STC式ジャンル分け


 ハリウッド脚本術であるブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CAT!』によって、すべての物語は10のジャンルに分けられます。

 ありとあらゆる物語がこの10のジャンルに分けられるのです。

 そう考えるとブレイク・スナイダー氏がいかにすごい発見をしたのかがわかると思います。

 では、その10個のジャンルをリストアップします。




10のジャンル

1.青春・日常

 人生に付き物の痛みや苦痛を乗り越えていく(死、別離、喪失、離婚、中毒、成長等々)

2.愛情・友情

(恋愛相手、友人、ペットでもそれ以外とでも)出会いによって変容する

3.組織・制度

 集団に入ろうとするか入っていてその一員となるか逃げるか集団を破壊するかする

4.勇者譚

 平凡な世界で非凡な能力や定められた特別な運命と折り合いをつける

5.ヒロイック

 平凡で疑うことを知らなかったが、突然平凡でない状況に放り込まれて対応する

6.成り上がり

 並み以下と評されるが「体制」に立ち向かい、隠し持っていた価値によって認められる

7.冒険

 なにかを求めて旅に出て、求めていたものの代わりに別のもの(己)を見つける

8.魔法的な力

 凡人が一時的に「魔法的の力」を与えられて願いを叶え、「現実」をよりよく生きる

9.ミステリー

 謎を解いて人間の暗く衝撃的な一面を暴く

10.サスペンス

 超自然的かどうかを問わず閉鎖的空間に存在する、誰かのせいで生まれた化物と対峙する


 小説のジャンルは大別するとこの10個です。

 それぞれが若干かぶっているところもあります。しかし「主人公が最終的にどうなるのか」が異なるため、それに応じて過程も変わるのです。

 以前にも書きましたが、小説のパターンは神話と民間伝承とウィリアム・シェイクスピア氏で出尽くしたと言われています。つまりそれ以外の物語は述べようがないのです。

 そのパターンをジャンル分けしたのが、上記した『SAVE THE CAT!』式ジャンル分けになります。

『SAVE THE CAT!』からわかることは、「これから書かれる小説に独自性オリジナリティーはない」ということです。あなたがどんなに独自性オリジナリティーを求めて奇抜なアイデアを考えつこうとしても、必ずこの10ジャンルに収まってしまいます。

 そうであるのなら、この際きっぱりと「独自性オリジナリティー」という呪縛から卒業してしまいましょう。10ジャンルのうちどれかを選択して、そこから物語の内容を考えたほうがよほど効率的です。




新味のある作品を書くには

 ですが「小説賞・新人賞」で、10ジャンルから選んで書いた作品は賞を授かれるのでしょうか。ただ単に10ジャンルから選んだだけでは難しいと思います。

 どこかで読んだいつも投稿されるパターンが続くと読み手である選考さんも飽きてきますよね。

 そこで10ジャンルの基本をわきまえたうえで、それを書き手なりにどう変えていくか。いつも同じジャンルなのに「新しいバージョン」をいかにして作り出すか。その能力が問われます。

「新しいバージョン」とは「同時代性」ということです。普遍的なヒロイック・ファンタジーに、その時代で新たに登場した製品や技術やサービスを取り入れるのです。

 スーパーロボットのアニメによって「搭乗型ロボット兵器」が提唱され、それに強く影響を受けたのが賀東招二氏『フルメタル・パニック!』になります。ただし「同時代性」の中でも「ソビエト連邦が崩壊していない世界」というファンタジー要素がSFライトノベルにアクセントを加えているのです。これが「新しいバージョン」ということになります。

 また「MMORPG」が登場し「VRバーチャル・リアリティー」が提唱された頃に相次いで生まれた作品が、川原礫氏『ソードアート・オンライン』であり、ゲームのバンダイ(現バンダイナムコゲームズ)『.hack』シリーズです。

 読み手が好きなジャンルを踏襲しながら、どこか新しい要素を混ぜ込んで「新味を出す」。「いつもと同じなんだけど、どこかが違う」作品は、つねに新しい製品・技術・サービスを探し当てる嗅覚を身につければ必ず生まれます。今ならさしずめ「AI」「ドローン」「自動運転車」「仮想通貨」「パラスポーツ」あたりが新しいところでしょうか。これらを混ぜ込んだ作品は、必ず「新しい作品」だと見なされます。ですが物語の10ジャンルからは出ていません。つまり「いつもと同じなんだけど、どこかが違う」作品が誕生するのです。




ジャンルを分ける理由は

 そもそも、なぜ物語を10ジャンルに分ける必要があるのでしょうか。

 それは「思いつかなくなったとき、書けなくなったときに、同ジャンルの類型作品が案内ナビゲートしてくれる」からです。

 これは「考えてから書く」「書きながら考える」のどちらのタイプでも役立ちます。

 また小説投稿サイトの読み手や「小説賞・新人賞」の選考さんに作品をアピールする際「この小説はあの作品に似ています。でもここが違います」と明確に主張できる点でも有利です。

 小説投稿サイトには「テンプレート」が存在します。この「テンプレート」も突き詰めれば10ジャンルに落とし込めるのです。

 しかし一見しただけで、あなたの小説がどのジャンルにぴたりとハマるかを見極めるには、多少の慣れを要します。その場合はとりあえず近しいものから当てはめてみて、うまく合うジャンルか確かめるとよいでしょう。

 ジャンルを変えると物語の「本当に必要なもの」も変化します。それもジャンルを見極めるポイントになります。

 ただしジャンルはあなたが書いている物語の焦点を絞る道具に過ぎないのです。そのジャンルに必要な要素を全部使っているのかどうか。それをあなたが確認するためのツールに過ぎません。

 そして本文を書いているときにも、ジャンルを変更することがあります。

 また連載小説の場合は、巻ごとに異なるジャンルとすることも可能です。





最後に

 今回は「STC式ジャンル分け」についてまとめました。

 ハリウッド脚本術であるブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CAT!』は、多くの部分で小説に応用できます。

 それは映画も小説も同じ「物語」だからです。

 ということは童話もおとぎ話も『SAVE THE CAT!』の10ジャンルで分けられることを意味します。



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