822.構成篇:STC式物語の作り方
今回はブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CAT!』の観点からの物語の作り方についてです。
元々ハリウッド映画の脚本術である書籍ですが、エンターテインメント小説ならなんにでも当てはまります。
ハリウッド映画はテンションの高低差が激しいですからね。そのぶん感情も大きく揺さぶられます。
STC式物語の作り方
物語を作る前にやらなければならないことがあります。
「主人公を決める」ことです。
主人公の骨格を作る
小説で活躍する主人公には、三つの要素を設定しましょう。
「不完全ゆえの問題」「求めるもの」「本当に必要なもの」です。
これが決まると、第一幕「日常」の世界とその中で生きる主人公のありさまが定まってきます。
「勇み足」が問題の主人公なら、周りの人たちが主人公のフォローに奔走して、主人公はそれがさも自分の手柄かのように語るでしょう。
「権限がない」ことが問題の主人公なら、主人公は不満を抱えながらも権力者の言いなりになるしかないでしょう。
「優柔不断」が問題の主人公なら、周りの人たちがすべて決めてしまって、主人公自身はなにも決めないのかもしれません。
「騎士になる」ことを「求めている」主人公なら、騎士道に則った行動をするかもしれません。
「年金暮らし」を「求めている」主人公なら、今の問題を手早く解決して楽をしようとするでしょう。
「異性たちとの関係を壊さない」ことを「求めている」主人公なら、他人からどう見られようと構わずアタックし続けるかもしれません。
つまり「求めている」ものがわかれば物語の「展開」が見えてくるのです。
「本当に必要なもの」が「民衆の安寧」であったり「戦争のない世界」であったり「意中の異性と結ばれる」であったりすることで、物語の「
ここでネタばらしです。
「勇み足」が問題で、「騎士になる」ことを求めているが、本当に必要なのは「民衆の安寧」というのは、水野良氏『ロードス島戦記』の主人公パーンです。
「権限がない」のが問題で、「年金暮らし」を求めているが、本当に必要なのは「戦争のない世界」というのは、田中芳樹氏『銀河英雄伝説』の自由惑星同盟側の主人公ヤン・ウェンリーです。
「優柔不断」が問題で、「異性たちとの関係を壊さない」ことを求めているが、本当に必要なのは「意中の異性と結ばれる」ことというのは、マンガのまつもと泉氏『きまぐれオレンジ☆ロード』の主人公・春日恭介です。(私が読んだ数少ないラブコメなので、古いマンガの話で申し訳ないです)。
つまり「問題」と「求めるもの」と「本当に必要なもの」の三つが揃えば、第一幕「日常」の世界は出来たも同然であり、物語は半分完成するようなもの。あとはこれをどう読ませるかです。
主人公が「嫌われ者」という設定の場合、読み手が感情移入しにくくなります。そこでたったひとつでもいいので、読み手に好かれる要素を加えましょう。
そうすることで「この主人公はそれほど嫌な奴じゃないんじゃないか」と思わせます。すると読み手は「嫌われ者」の主人公にも感情移入してくれるようになります。
どんなにひどい主人公であっても、それよりもひどい人物が存在すれば、読み手の同情を買えます。こんなひどい奴がいたから、主人公はこんなにひどい状態になったんだなという具合に。
主人公の設定を『SAVE THE CAT!』式に落とし込む
そのうえで『SAVE THE CAT!』式の構成術で土台となる五つのセクションを抜き書きします。
第一幕
4.打破(10%)
第二幕
6.新しいことを試みる(最初の20%くらい。全体の1/4に来る前に、一度幕を引くべき)
9.中間点(50%)
11.追い詰められて喪失(75%)
第三幕
13.変わるべきことを悟る(80%)
主人公の三つのポイントを決めたので第一幕の世界観は定まっています。
●そこにどのような大事件が起きた結果、主人公は現状の「日常」世界から新しい「非日常」世界へ追い立てられるのでしょうか。これが決まると「4.打破」が決まります。
●第二幕の「非日常」世界はどういうもので、主人公はどんな感じなのでしょうか。そこは第一幕の「日常」世界とどう違うのでしょうか。それで「6.新しいことを試みる」がどうなるのかが決まっていきます。
問題を抱えている主人公が「本当に必要なもの」ではなく「求めるもの」に従った結果、どんな行動をとって変わろうとして失敗するのでしょうか。これも「6.新しいことを試みる」を形作る要素になります。
●主人公は新しい「非日常」世界でうまくやるのでしょうか。それとも苦しむのでしょうか。これが決まると「9.中間点」が「偽りの勝利」「偽りの敗北」どちらで終わるかが決まります。
●どのような事件が起きて主人公をどん底に突き落としたから、主人公がちゃんと変わらないとダメだと悟るのでしょうか。これがわかると「11.追い詰められて喪失」がどうなるのか見えます。「11.追い詰められて喪失」は基本的にもうひとつの「4.打破」です。
●主人公は「本当に必要なもの」に導かれて、今度はどんな行動によって正しく変わるのか。これがわかると「13.変わるべきことを悟る」をどうするかが見えてきます。
連載小説のシリーズ構成
基本的に、連載小説の構成も「三幕法」を用いるのがハリウッド映画の特徴です。
ジョージ・ルーカス氏『STAR WARS』も3エピソードずつ三回で計9エピソードが映画化されました。ロバート・ゼメキス氏『BACK TO THE FUTURE』も3エピソードで成り立っていますよね。
このように三幕で作られた映画は面白いのです。
この場合、第二幕Aと第二幕Bを統合すると、第二幕の盛り上がりに欠けてしまいます。
ハリウッド脚本術は「三幕法」に囚われているため、小説に応用するときも三巻構成を主とするのです。
しかし日本は「起承転結」の四部構成が広く知られています。よって第二幕A、第二幕Bを分けて四巻構成にすることが多くなります。
「三幕法」を四部構成の一覧に落とし込みましたので、確認してみてください。
第一幕
1.出来事の渦中に放り込む(最初から全体の1%まで)
2.気づかれずテーマとメッセージを提示(5%、または小説全体の最初の10%以内)
3.設定を開示する(1〜10%)
4.打破(10%)
5.逡巡(10〜20%)
6.新しいことを試みる(最初の20%くらい。全体の1/4に来る前に、一度幕を引くべき)
7.メッセンジャー(22%。普通「6.新しいことを試みる」の直後にくるが、もっと早くても良い。始めの25%に来るようにすること)
第二幕A
8.お楽しみ(20〜50%)
9.中間点(50%)
第二幕B
10.坂が逆向きになる(50〜75%)
11.追い詰められて喪失(75%)
12.改めて向き直る(75〜80%)
13.変わるべきことを悟る(80%)
第三幕
14.フィナーレ(80〜99%)
第一段階 チーム招集
第二段階 作戦実行
第三段階 敵に追い詰められる
第四段階 真実を掘り当てる
第五段階 新しい作戦を実行
15.終着点でたどり着いた境地(99〜100%)
シリーズものはどの巻も手を抜けません。重要なのは三巻だけで、残りはただの埋め合わせというのは通用しないのです。
それぞれの巻には明確な目的が必要です。
「なんのため」の物語でしょうか。主人公はどういうテーマを教えられて、最終的に受け止めるのでしょうか。
そしてそれは各巻で違うものでなければなりません。つながって相関し合っているとしても、全部違うものでなければダメなのです。
だからシリーズの小説は巻によって違うジャンルに収まることが多いのです。
各巻の目的が違うのであれば、物語のタイプも違ってきて当然なのです。
最後に
今回は「STC式物語の作り方」についてまとめました。
まず主人公を作ります。
「不完全ゆえの問題」「求めるもの」「本当に必要なもの」の三つを必ず設定してください。これができれば物語は半分出来たも同然です。
次にそれを『SAVE THE CAT!』式の15のセクションに落とし込んでいきます。
これで原稿用紙三百枚・十万字の長編小説は簡単に作れるのです。
連載小説の場合は、さらに大きな15のセクションを設けて、その中で長編小説の15のセクションを展開するようにしていけば無理がなく、とても魅力的な物語の展開に仕上がります。
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