821.構成篇:ハリウッド「三幕法」(セクション14・15)

 今回で『SAVE THE CAT!』の全15セクションが出揃いました。

 あなたの作品ではどれか抜けていませんか。抜けていたらすぐに補いましょう。

 セクションは多少の前後が許されているものです。

 書かずに終われば低評価。後れてでも書けば合格点をもらえます。





ハリウッド「三幕法」(セクション14・15)


 ハリウッド脚本術であるブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CAT!』もいよいよ最後のセクションを迎えました。

「起承転結」の「結」に相当します。

 いよいよ最終決戦を行なって雌雄を決するときです。




14.フィナーレ(80〜99%)

 セクション13で主人公はついに悪あがきをやめてなにをすべきか理解しました。

 のんびり座って「変わったぜ」と言うのと、実際に行動に移すのでは天と地の差があります。立ち上がって「13.変わるべきことを悟る」して考えた作戦を実行するときが来たのです。

 この「14.フィナーレ」セクションはかなり長くなるのです。複数場面シーンや複数エピソードで構成され、基本的に第三幕の大半を占めます(小説全体の20%近く)。

 そんなにたくさんのページでなにか起きるのでしょうか。

 主人公が新しい作戦を実行します。それを飽きさせず、急ぎすぎずに第三幕全体に引っ張る方法はないのでしょうか。

 その答えが「フィナーレの五段階」と呼ばれる方法です。


「フィナーレの五段階」とは「14.フィナーレ」のセクションをさらに五つのサブセクションに割ったものです。

 小説という長い旅の最後の部分に、さらに細かく道路標示をつけます。フィニッシュラインはもうすぐです。もうずっと走りっぱなしで、疲れたし、眠い。小さなゴールをいくつも設けて、一回の走行距離を減らしながら、なんとか終着点までたどり着きましょう。

「フィナーレの五段階」は第三幕という「攻略目標」を攻略する設計図です。

「フィナーレの五段階」を使えば、最大限に興味深い第三幕にするための攻略作戦を、見事に遂行することができます。



第一段階 チーム招集

 主人公が「攻略目標」に攻め入るには、同じ志を持つ仲間(助っ人)が必要です。だからまずは戦力を集める必要があります。

 本当の兵士たちの場合もありますが、仲の良い友達でもかまいません。

 忘れないでほしいのですが、第二幕の「11.追い詰められて喪失」の後ですから、中には口も利かなくなった友達がいるかもしれません。だから助けを求める前に仲直りしてください。

 実はそれが「チーム招集」というサブセクションの(そして第三幕そのものの)大事な役割なのです。

 主人公は仲違いを修復し、非を認め、なにも見えていないバカは自分だったと認めることです。これも「主人公が変わる」軌跡の一部になります。

 主人公は絶対にチームを招集しなければ「攻略目標」の攻略ができないというわけではありません。独りで攻め入る主人公の話はたくさんあります。このサブセクションは「道具集め(武器の装着、計画立案、物資確保、ルートの選択等々)」としても使えます。

 大いなる計画を実行するための準備の時間でもあります。



第二段階 作戦実行

 チームを招集し、武器を装着し、物資を集め、攻撃ルートを決めたのです。これで準備は完了しました。

 このサブセクションでは、いよいよ「攻略目標」を攻めます。

 主人公とそのチーム(または独り)が作戦を実行するに際して、「どんなに頑張っても無理だろう」という空気が必須になります。無謀な作戦に見えなければなりません。

 そしてチームが力を合わせて作戦を遂行するにつれ、次第に増す達成感も必須。つかみどころのないキャラクターに個人的な見せ場を与えるならここです。小説のどこかでお膳立てした「変わったスキル、道具、または妙なクセ」がここで役に立つように仕組むこともできます。

 少しずつですが、作戦が「うまくいっているように」見せます。チームは作戦を成功させるのでは。もしかして、無謀な作戦じゃなかったのでは。もしかしたら簡単に終わるのでは。

 このサブセクションでは、脇役キャラたちが大義のために「裏の物語の犠牲」になって脱落し始めます。命を落としたり、主人公をかばって凶弾に倒れたり。あるいは主人公が輝くチャンスを与えるために、あえて身を引いたりするかもしれません。

 チームのメンバーがひとり脱落するたびに、主人公は自分の力を試されます。

 問題を解決する力を備えていると証明することになるのです。



第三段階 敵に追い詰められる

 主人公とそのチームが作戦を実行しました。「攻略目標」に攻め入り、すべては順調に見えます。

 ここで「敵に追い詰められる」が来ます。悪者たちが主人公(たち)を追い詰めてしまうのです。

 このセクションは主人公は(とそのチーム)が調子に乗りすぎたことを見せるという役割があります。

 こんな作戦、うまくいくはずなかっただろう。そんなに簡単にいくわけないだろう。

 要するに主人公が自分の価値を証明するように押しつけられたひねりのひとつです。ある意味、もう一つの「4.打破」とも言えます。

 主人公に向かって投げつけられた、対処せずには済ませられない難題。

 ここまで来ると、努力も知恵も筋肉も武器も、主人公の助けになりません。

 主人公は自分の心の奥底まで潜っていって重要ななにかを拾って来なければならないのです。



第四段階 真実を掘り当てる

「第三段階 敵に追い詰められる」がさらにもうひとつの「4.打破」なら、この「第四段階 真実を掘り当てる」はさらにもうひとつの「5.逡巡」です。

 原因と結果。アクションとリアクションです。

「14.フィナーレ」の中でもとくにみんなが待ちかねていたのがこのサブセクションです。「第三段階 敵に追い詰められる」で主人公は再び敗北し、すべてを失ったかに見えます。

 もう策がない。応援もない。希望もない。なにもない――けどひとつだけ残されたもの。主人公自身がまだ気づいていない「それ」は、心の奥深くに潜んでいる、なににもまさる強力な武器です。

 それはこの小説の「テーマ」。主人公が克服した「欠点」。自分が変わったという証拠。

 そしてなによりそれは、あなたの作品の冒頭では主人公がけっして成しえなかったことです。「欠点」だらけだったのは、遠い昔のこと。今こそ、美しく力強く成長した姿を見せるときです。

 今ここで、主人公に自分の心の奥底まで掘り進み、主人公の心の奥にずっと放置されたままだったガラスの欠片を取り除いてもらいます。問題を根本から引き抜き、すべてに打ち克つときです。

 小説には、読み手の魂に語りかけるなにかがなければなりません。

 いよいよ主人公が意を決して飛び降ります。「信ずる者は救われる」と信じて。



第五段階 新しい作戦を実行

 ついに来ました。主人公は心の奥底に潜んでいた真実を掘り当て、ガラスの欠片を取り除き、安全ネットも命綱もなしで一か八か飛び降ります。そうして初めて勝利を手にする権利を得るのです。

 このサブセクションでは、主人公は大胆不敵な新作戦を実行して、もちろん成功します。あれだけ魂の深い部分を探って自分と向き合い、散々苦労して自分を変えたんですから、成功して当たり前なのです。

 主人公のあきらめない心が、最後にはなにものにも打ち克って終わるのを、読み手は待っています。だから読み手の心が震えるのです。

 地獄めぐりをさせられ、本当に勝つまで何度も何度も戦わされ、答えを見つけるために心の底までさらけ出して、主人公はようやく物語のエンディングにふさわしい主人公になるのです。

 もし主人公が「失敗」して物語が終わるのであれば、その失敗には「意味」があります。「失敗」からも学ぶべき教訓があります。「やらずに後悔するよりも、やって後悔したほうがまし」と言いますよね。



 以上が「フィナーレの五段階」でした。

 あなたが書いた素晴らしい変容の旅路にふさわしい最高のエンディングです。

 この瞬間に物語の「伝えたいことメッセージ」にピントが合い、読み手の心へ鮮やかに、いつまでも残るのです。考えさせるなにか。魂の奥で震えるなにかが残ります。

「フィナーレの五段階」は、絶対に必要というわけではありません。五段階以下のもっと短いフィナーレで、最高に心に残る小説はたくさんあります。

 15段階のセクションと同様、この五段階のサブセクションはあなたが書いている物語の焦点を絞り、読み手が納得の結末を書く手助けになります。

 書き方はさておき、「14.フィナーレ」は絶対に散漫にならないようにしてください。主人公が考えもしないで勝利しないようにするのです。

 なにかに気づくことなく第三幕「変化した日常」に突入して、悩むことも障害物もなく、邪魔もされずに最後の作戦を実行しないようにしましょう。

 変わるためにたっぷり努力させてください。主人公が苦労せずにさっさと終わってしまう「14.フィナーレ」には「面白い話だが、物語を畳むのが粗すぎ」という印象を覚えます。

 第一幕、第二幕と同じように、第三幕を感情的で行動にあふれて、激しくうねるように書く努力をすれば、あなたの小説は間違いなくひとつ上の高みに昇ります。

 最後のセクションが、主人公にも読み手にも、そして書いたあなた本人にも「勝ち取った」と思えるものになるのです。




15.終着点でたどり着いた境地(99〜100%)

 最後のセクションにたどり着きました。

「1.出来事の渦中に放り込む」が「ビフォー」なら、この「15.終着点でたどり着いた境地」は「アフター」です。

 これは、長い長い変容の旅を終えた主人公の姿を見せるための一場面ワン・シーンまたは一エピソードのセクションです。

 どれだけの距離を旅してきたか、なにを学んだか。人間としてどれだけ成長したか。「12.改めて向き直る」を潜り抜け、内なる悪魔と対峙し、ガラスの欠片を引っこ抜き、世界の反対側へ出ていったら、そこにはどんな光景が待っていたのか。

 主人公がよい方向に変わったことが、ひと目で読み手にわからなければいけません。

 もしあなたが書いた「15.終着点でたどり着いた境地」が「1.出来事の渦中に放り込む」と鮮烈にくっきり違わない場合は、どこかのセクションに書き直す余地があります。

 主人公の始めの姿と終わりの姿が違えば違うほど、あなたが書いた物語のキモがくっきり見えるのです。


 そう、物語はぐるぐる同じところを回るものではありません。ちゃんと「どこか」にたどり着いて終わるものです。

 ちゃんと第一幕「日常」で「欠点」のある主人公をお膳立てして、第二幕「非日常」で引っ掻き回して、第三幕「変化した日常」で自分の価値を証明させましょう。

 素晴らしい「15.終着点でたどり着いた境地」を見せることで、ちゃんとここまでの長い道のりをついてきた読み手にご褒美をあげるのです。





最後に

 今回でブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CAT!』の全15セクションをすべてお伝えしました。

 セクションはこれまで挙げてきた順番でないといけないという法則はありません。いくつか前後が入れ替わっている作品もあります。

 大事なのは、順番が違っていてもセクションはすべてあるということです。

 連載していて行き詰まったら全15セクションを見直してください。漏れがあるようなら、都度そのセクションを書き込めばよいのです。

『SAVE THE CAT!』式15セクションは、足りないエピソードを見つけ出す手助けをします。

 足りなかったセクションが埋められたら、いよいよ連載はゴールへと向かえるのです。

 この15セクションを検証するのに適しているのは、水野良氏『ロードス島戦記 灰色の魔女』、川原礫氏『ソードアート・オンライン 001 アインクラッド』だと思います。どちらも一巻で完結している話ですので、15セクションを検証するのが簡単だからです。



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