824.構成篇:ジャンル1:青春・日常
今回から10回にわたって「SAVE THE CAT!」の10ジャンルをどう書くかについてまとめました。
初回は「ジャンル1:青春・日常」です。
日常系ライトノベルで多用されているジャンルですので、第一に取り上げました。
ジャンル1:青春・日常
青春小説・日常小説は思春期、青春、別離、中年の危機、死別のような、人生の道に障害が現れて「自分はいったい何者なのか」と自問し直すことを読み手に迫ります。
これらは読み手の「心に痕跡を残す」物語を構成する大事な部品です。なぜなら誰もが絶対に通る道、つまり「普遍的」だからです。
ほとんどの方が人生で痛い体験をしたことがあるはず。成長や変わることでしか対応できないような「人生の難題」に直面しなかった人は、「箱入り娘」や「金持ちのボンボン」の類いくらいなものでしょう。
青春小説・日常小説は、時代も文化も人種も性別も、そして年齢をも超える「普遍的」な物語です。
人生、なんでも思いどおりになるわけがありません。ときには不公平で不親切で、こちらの
青春小説・日常小説ジャンルはほとんどの場合、「痛み」についての物語です。そして苦しみ、失望、痛い思いをして得た教訓の物語になります。
必然的に心へ重くのしかかるような内省的な物語が多くなるのです。
文学小説のほとんどはこの「青春小説」「日常小説」に分類されます。「普遍的」な「命題」を読み手に突きつけて、「この命題の答えはこれだ」と書き手が読み手に「教訓を垂れる」のが文学小説なのです。
文学小説は「人生の難題」に翻弄されながらも、それに立ち向かう人物の心に
だからどうしても「教訓を垂れる」内容になってしまうのです。
実は思いのほか多くのコメディー小説が、青春小説・日常小説ジャンルに入ります。人生が変わり種な様相を呈したら、笑ってやりすごすか、真顔で受け止めるかの二種類しかありませんよね。
そして多くのライトノベルも青春小説・日常小説ジャンルに収まります。とくに「対人関係」が「テーマ」となる作品はこのジャンルです。
あなたが書く小説が「死」にまつわる物語でも、思春期の「痛み」の話でも、中年になって迎えた「人生の危機」でも、何十年も重荷になっている「人生の問題」でも、書き手のやるべきことはただひとつ。
人生が大きく変わる瞬間でなんとか立ち向かおうとする姿を語ることだけです。
青春・日常ジャンルの三要素
青春小説・日常小説ジャンルで絶対に必要な要素は、
「人生の難題」
「その難題を解決するための間違った方法」
「主人公が避けてきた受け入れがたい真実を受け入れることで可能になる解決法」
の三つです。
見本的な物語の展開は、第一幕「日常」で主人公が解決しなければならない難題に直面し、第二幕「非日常」は解決するつもりでこじれさせ、第三幕「変化した日常」で受け入れがたい真実を受け入れて難題を解決する、という流れになります。
しかし青春小説・日常小説ジャンルの場合、生きていること自体が解決しなければならない難題だというところが違います。
青春小説・日常小説に現れる「人生の難題」は、たいてい避けようのないものです。
人として生きる以上、必ず現れる紆余曲折。成長するためには、誰しも多くのたいへんなことに直面します。しかもそれはたいてい万人共通です。
だからライトノベルのほとんどがこのジャンルに収まります。人生という旅の中でも、とくに上がり下がりの激しい時期(思春期)を掘り下げるのがライトノベルですから。
だからといって、対象とする読み手層が十代でなければということはありません。
慕っていた家庭教師が結婚して離別する、子供の頃経験した母との死に別れ、三十歳になって中年を迎えたのに結婚もできない人生の焦りもあります。
生きているだけで直面せざるを得ない問題や挑戦(思春期、青春、中年の危機、別離、死別、その他)です。
忘れてならないのは、主人公は問題を解決させるつもりでこじれさせる名人だということです。このジャンルにおいてはなおのこと。
主人公が「これが最良の解決法だ」と思っていても、それ自体が根本から間違っているのです。だから解決するつもりがこじれさせるを繰り返します。
というわけで、青春小説・日常小説ジャンルに必須の第二の要素は「難題を解決するための間違った方法」です。多くの場合、痛みや苦しみを避けようとする行動に現れます。
「人生の難題」に向き合う代わりに、一生結婚しないと誓って、友達の縁談の世話にかまける女性。ありえますよね。姉の死に正面から向き合うことができなかったが、代わりにふたりの男子(うちひとりは亡き姉の彼氏)と恋に落ちる。ない話ではありません。自分に訪れた中年の焦りにうまく対処ができず、ひとりで子育てする女性を物色しに行く。とにかく「人生の難題」が目の前にありながら、それに対処することをせず、あらぬことをしてしまうのです。
青春小説・日常小説ジャンルの場合、「間違った方法」という要素はふたつの意味を持ちます。
変化を拒む主人公を見せること、見せることで物語に目的を与えること。
人生に訪れた難題を最初から悟ったように真摯に受け入れる人が主人公だったら、そんな小説、読む意味がありませんよね。
そのような問題に、当初主人公は向き合えません。痛みを避ける努力をするなど、必ずなんらかの回避行動をとります。
青春小説・日常小説の物語は、最終的に第三の要素である「解決法」につながるなにかを受け入れることで終わります。通常これは主人公が今まで避け続けてきたことを受け入れることになるのです。
自分が受けた悲しみから逃げる事はできず、一生抱えて生きていかなければならないと悟ります。子供の頃からの親友との時間が終わったことを受け入れます。
それこそが、真の解決です。それには、変わるのは人生ではなくて自分であるという「悟り」が伴います。
このような「成長痛」を伴う物語は、どれも同じような「悟り」を得て幕を引きます。
「人生は変えられないのだから、自分が変わらなければ」という「悟り」です。
青春小説・日常小説の物語の味わい深いところは、主人公が自分についてなにか重要な発見をしたとき、読み手もそれぞれ自分について重要な発見をすることにあります。
人間は何歳になっても成長し続けますからね。
人生なんて変えようとしても他人との関係性で生じるものですからたやすく変えられるはずがないのです。本当に人生を変えたければ、まず自分が変わること。それに気づくことが青春小説・日常小説を読む意義なのです。
最後に
今回は「青春・日常」ジャンルについてまとめました。
「青春・日常」ジャンルの三要素「人生の難題」「その難題を解決するための間違った方法」「主人公が避けてきた受け入れがたい真実を受け入れることで可能になる解決法」があれば、紛うことなく青春小説・日常小説に分類されます。
芥川龍之介賞を授かったお笑い芸人ピースの又吉直樹氏『火花』もこの三要素をきっちりと押さえている文学小説です。
渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』のようなラブコメもこの三要素から外れないでしょう。この作品は「青春ラブコメ」と銘打っていますが、やっていることは主人公たちの心の「成長痛」を読ませることにあります。
とくに日常系ライトノベルを書きたい方は、この三要素を使いこなしてください。
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