817.構成篇:ハリウッド「三幕法」(セクション6・7)

 セクション1からセクション7までが「起」です。

 15もセクションがあるのに、そのほぼ半数が「起」になってしまいます。

 それだけ「起」ではやることが多いのです。





ハリウッド「三幕法」(セクション6・7)



第二幕

 第二幕は第一幕とは正反対の世界になります。

 第一幕は「命題の世界」でしたが、第二幕は「反対命題の世界」です。

「非日常」の世界でもあります。




6.新しいことを試みる

(最初の20%くらい。全体の1/4に来る前に、一度幕を引くべき)

「6.新しいことを試みる」は一場面ワン・シーンまたは一章ワン・エピソードのセクションです。

 このセクションはどんな主人公でも、なにか新しいことをやってみる覚悟を見せましょう。

 第二幕に入ったのにただひたすら座り込んで自分の問題に対してなにもしない怠け者の主人公の話など、誰も読みたいとは思いません。

 もし「5.逡巡」のセクションで主人公が「どうすればいいのか」と考えたのなら「これをやるんだ!」と言っているのが「6.新しいことを試みる」の主人公です。

 主人公は必ず「自らの意志で」なにか新しいことを試みなければなりません。誰か他の登場人物に選択肢を与えられたのだとしても、決断は読み手から主人公だけに与えられた特権だからです。

 新しい人間関係、違った生き方、新しい仕事、学校での新しい振る舞い(比企谷八幡の当初企図した「高校デビュー」のような)、主人公が実際でも比喩的でも旅に出ます。古い世界と古いやり方に決別し、新しい考え方を手に新しい世界へ入っていく瞬間になります。

 第一幕で設定開示した「欠点」がどんなものであっても――優柔不断でも愚かでも向こう見ずでも自己中心的でもこすくても――このセクションで主人公は、読み手の応援を受ける価値があり、小説を読むに値するなにかを持っていることを証明しなければなりません。


 主人公はもう「本当に必要なもの」「伝えたいことメッセージ」を理解して、自分の問題を修復する方法に気づいたということではありません。それはまだ先の話です。

 主人公にはきちんと表の「求めるもの」「テーマ」と裏の「本当に必要なもの」「伝えたいことメッセージ」を設定したと思います。

 主人公に「問題だらけの人生、どうすればうまくいくと思うか」と尋ねたらきっと答えは「もっといい仕事!」「新しい彼女!」「世界大会で優勝!」「家族を皆殺しにした邪悪な魔王を殺す!」といった表面的な表の「求めるもの」「テーマ」になるはずです。

 しかし表の「求めるもの」「テーマ」を求めても、自分の問題である裏の「本当に必要なもの」「伝えたいことメッセージ」は表出しないのです。

 できると信じているけどできません。「必ずできる」「絶対にできる」と信じています。でも最終的に主人公をましな人間にしてくれるのは、内面的で精神的な魂のゴール。つまり裏の「本当に必要なもの」「伝えたいことメッセージ」だけなのです。

 この時点で、主人公は「6.新しいことを試みる」ために能動的な判断をしましたが、まだ表の「求めるもの」「テーマ」に引っ張られて行動しています。今のところ、まだ表面的なゴールである表の「求めるもの」「テーマ」を追い求めているのです。

 表の「求めるもの」「テーマ」は手に入るかもしれないし、入らないかもしれません。でも小説が終わる頃にはどちらでも関係ないのです。

 物語の最後には裏の「本当に必要なもの」「伝えたいことメッセージ」を手に入れているはずだから。


 第二幕は「直しているつもりで壊す」幕なのです。

 このセクションでは主人公は意識して重い腰を上げて、「私、頑張れ!」と自分を鼓舞しているところです。書き手が第一幕で仕掛けた問題を解決するために、必死になんとかしようとしています。そこは褒めるべきポイントです。

 でも主人公が下した決断は、見当違い。「求めるもの」に引っ張られて動いているからです。表の「テーマ」を追う「表の物語」になっています。

 第二幕で主人公はいろいろ格好のよいことをするのです。

 ドラゴンを退治したり、銀河大戦で敵艦隊を撃滅したり、ミステリーを解決したり、意中の異性とキスしたり。でもどれも「答え」ではありません。

 ただ勘違いしないでください。

 ドラゴン退治や異性とのキスなどは読み手としては当然観たいのです。それこそが素晴らしい小説を素晴らしくしている材料になっています。

 小説は最初から最後まで丸々表の「求めるもの」「テーマ」と裏の「本当に必要なもの」「伝えたいことメッセージ」で構成されています。裏に設定してある「伝えたいことメッセージ」だけで構成された小説なんて書けませんよね。あまりにも退屈です。楽しく読むためには「求めるもの」が明確な「表の物語」が必要です。


 第二幕セクション6に突入するときに主人公が下したのは、一時的な決断です。心の傷にごまかしで絆創膏を貼っただけ。それでは本当の心の癒やしは得られません。

「欠点」は消えておらず、まだいろいろ悪さをしています。その主人公が現在抱えるに至った問題の原因は、まだ心に刺さっています。

 第二幕セクション6に突入した時点では、主人公は心の深い部分にある問題にいっさい触れていないのです。この時点では主人公は直しているつもりで壊しています。

 主人公が正しい方法を知るには、まず間違える必要があります。

 間違った方法を試みるこのセクションは、構想するのがとても楽しいところです。「8.お楽しみ」のセクションにつながっていますので、楽しさを堪能してください。

 その前に、新しい人を主人公と読み手に紹介しましょう。




7.メッセンジャー

(22%。普通「6.新しいことを試みる」の直後にくるが、もっと早くても良い。始めの25%までに来るようにすること)

「3.設定を開示する」のセクションで、表の「求めるもの」「テーマ」の物語の人物を導入しました。主人公の「日常」つまり現状の世界の人たちで、表面上の物語の代弁者です。

 第二幕が始まったからといってこの人たちを退場させる必要はありませんが、次第に第二幕で紹介する人物たちに席を譲ることになります。

 ここで裏の「本当に必要なもの」「伝えたいことメッセージ」の物語の人物が登場するのです。

「7.メッセンジャー」の人物|(たち)は「お助けキャラ(助っ人)」になります。主人公が表の「テーマ」を受け止めるのを、なんらかの方法で助けてあげる係です。一般的には恋愛対象とか新しい友達、師匠、宿敵といった人物が現れます。

 裏の「本当に必要なもの」「伝えたいことメッセージ」の物語の人物には「宿敵」というのも「あり」なのです。

 私はこれまで「恋愛対象」「宿敵」を総称して「対になる存在」と述べてきました。彼らは主人公を補完する人物であったり、敵対する人物であったりします。

 そしてここで初めて出てきたのが「お助けキャラ(助っ人)」という存在です。

「対になる存在」「お助けキャラ(助っ人)」として成功する人物の条件はふたつだけです。

  1.ひっくり返った第二幕の世界「非日常」を、なんらかの形で体現している

  2.なんらかの手段で、主人公が「テーマ」を受け止める助けになる


 第二幕「非日常」を体現しているというのは、第一幕「日常」の世界で主人公はこの人物に気づいていなかったということです。「4.打破」によって第一幕の世界を破壊され、第二幕の「6.新しいことを試みる」ことをした今だから「対になる存在」「お助けキャラ(助っ人)」たちは主人公の世界に現れたのです。

 このような「対になる存在」「お助けキャラ(助っ人)」たちは、全員なんらかの形で第二幕の「非日常」の世界が生んだ人物であると言えます。


 主人公は第一幕の現状の「日常」の世界では「テーマ」を受け止めて自分を変えられなかった、ということを忘れないでください。

 だから「4.打破」して主人公を第二幕の「6.新しいことを試みる」ことにさせたのですよね。主人公が「テーマ」を受け止める助けができる人は、この新しい「非日常」の世界にしかいません。そういうことにしなかったら、主人公は現状の世界を一歩も出ずに「テーマ」を理解できてしまいますから。それでは面白くもなんともありません。

「対になる存在」「お助けキャラ(助っ人)」たちが主人公を助ける方法はいろいろあります。たとえば「お助けキャラ(助っ人)」たちは「テーマ」の具現になれます。そしてゴールにたどり着くのを助けるのです。

「対になる存在」はその性格そのものによって、主人公の心から「テーマ」を引き出す役割を負うこともできます。

「対になる存在」が主人公と同じ問題を抱えている場合もあります。同じですがより誇張された問題を主人公の顔に鏡のように突きつけ、主人公がそこに映った自分の本当の姿を見るのです。(渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の比企谷八幡と雪ノ下雪乃のような関係だと思ってください)。

 どんな役目を負わせるにしても「対になる存在」「お助けキャラ(助っ人)」たちが果たすべき役割は主人公が「テーマ」を受け止めるように助けることです。

「対になる存在」「お助けキャラ(助っ人)」たちはこの一場面ワン・シーンのセクションで導入します。「対になる存在」「お助けキャラ(助っ人)」は第二幕では出ずっぱり、第三幕に出続けることもありますが、ともかく最初に登場するのはこの「7.メッセンジャー」セクションです。

 恋愛対象として、新しい友達として、新しい師匠として、または新しい敵などとして姿を現します。主人公の「欠点」を浮き彫りにして「変わりたい」と思わせられるのなら、どんな人物でもかまいません。

 第二幕の新規人物は何人でも必要なだけ導入してかまわないのです。

 ですがその中でも主人公に裏の物語である「本当に必要なもの」「伝えたいことメッセージ」を伝える大事な仕事を請け負うのは「特別なひとり」だけ。

「特別なひとり」がどの人物かわからないという方もいらっしゃるでしょう。ひとりでなくてよいのです。「双子の『対になる存在』『お助けキャラ(助っ人)』のストーリー」という手が数多くの傑作小説で使われています。たとえば師匠と恋愛対象。恋愛対象と新しい友達とか、新しい友達ふたりというのも「あり」です。

「対になる存在」「お助けキャラ(助っ人)」をふたり以上にする場合、絶対に全員がちゃんとお助けの役割を全うするようにしましょう。しかもそれぞれが違ったやり方をするようにしてください。そうでなければ何人もいる理由がありません。





最後に

 今回は「ハリウッド「三幕法」(セクション6・7)」についてまとめました。

 前回でも触れましたし、ここまで来て気づいた方もいると思います。

 ハリウッド脚本術の「三幕法」は四部構成の「起承転結」とほぼ同じなのです。

 そしてこの「7.メッセンジャー」までが「起承転結」の「起」になります。

「起」が全15セクションのうち半数を占めるのです。それだけやるべきことが多い。

 続く「8.お楽しみ」「9.中間点」が「承」を受け持ちます。



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