816.構成篇:ハリウッド「三幕法」(セクション3〜5)

 今回もハリウッド脚本術ブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CAT!』をもとに、小説への応用をまとめました。

 次回の「セクション7」までが「起承転結」の「起」に当たります。





ハリウッド「三幕法」(セクション3〜5)


 今回は前回に引き続き第一幕のセクション3・4・5について述べます。

「三幕法」と言いますが、この第一幕は全体の20%までです。第二幕の「7.メッセンジャー」が全体の22%であり、それを含めて「起承転結」の「起」に当たります。

 だから「起承転結」の「起」のつもりでお読みください。




3.設定を開示する(1〜10%)

「1.出来事の渦中に放り込む」で、あなたの物語が垣間見られるよう、主人公が生きる世界のわずかな手始めを読み手に披露しました。今度は主人公と主人公が生きる世界そのものの設定をしっかり読ませるのです。

「3.設定を開示する」は主人公が生きる「日常」つまり現状の世界に存在する人を全員紹介するところになります。

 まず主人公の設定を読み手に開示しなければ始まりません。どんな人なのか、なにが欲しいのか、主人公は目標を持っていることが大事です。

 友人たち、家族、同級生、悪友、上司、同僚、教師、敵など。小説が始まったとき、主人公の世界が変わる前の世界で重要な人たちも紹介しましょう。「求めるもの」「テーマ」つまり「表の物語」を代表するので、彼らは「表の物語の登場人物」と呼びます。

 小説の始まりで主人公は「なにかを求めて」行動していなければなりません。物語が終わるまで同じものを追い求めなくてもよいのですが、「3.設定を開示する」時点ではとりあえずなにかを求めているべきです。

 この「なにか」があれば、主人公は自分の人生の問題を解決できると「思い込ん」でいます。しかし現状で解決できるかというと、できません。必要なのは「本当に必要なもの」「伝えたいことメッセージ」であって、「求めるもの」「テーマ」ではないからです。

「3.設定を開示する」でいちばんたいせつなのは、主人公の問題を最大限に見せ尽くすことです。抱える「欠点」や問題が、いかに人生のあらゆる局面に影響しているのか。

 たとえば利己的で欲深い主人公は、職場だけで利己的で欲深いとは限りません。家でも家族に対して利己的で欲深いかもしれませんし、友達といても同じかもしれないのです。それを見せる最適な方法は、それぞれ、家、仕事、そして遊びの時間を見せる場面シーンまたはエピソードを書くことです。

 つまり「3.設定を開示する」ではちょっと時間をかけて、家にいる主人公(家族がいれば親兄弟と配偶者また子どもなども)を見せ、仕事中の主人公(職場または学校等で)を見せ、さらに遊ぶ主人公(友達と、または独りでリラックスするなどプライベートな時間)を見せます。

 主人公のいろいろな日常を見るほど、読み手は人間としての主人公を深く理解するようになるのです。

 しかし主人公が満ち足りていては駄目なことは忘れないでください。満ち足りたらそこで物語が終わってしまいます。

 主人公の世界は、問題でがんじがらめでなければなりません。早い話が主人公の人生に溜まっているさまざまな問題のリストを作るのです。(必要ならいくら長くてもかまいません)。

 可能性は無限ですが、やるべきことはただひとつ。

「なぜ主人公は自分を変える旅に出なければならないのか」

 それを読み手に納得させるのです。

 この第一幕の「日常」の世界では、何もかもがうまくいっていないから、主人公は旅に出ます。満ち足りた主人公は、旅に出る動機がありません。

「3.設定を開示する」は複数場面シーンにまたがって構成されています。つまり何場面シーンまたは何エピソードか使って主人公の日常である設定を調ととのえるということです。結構な大仕事となります。


「問題」は物語が進むにつれ何度も顔を出し、主人公の旅路の道すがらなにがどう変化したかを測る目印になります。書き手は「今どんな感じ? まだ数学の勉強が嫌い? まだイジメられてる?」とチェックしていきます。

 なかなか変わらないなにかがあったら、主人公とその世界に起きる変化が少なすぎるということです。

 冒頭10%までにやるべきことはたいへん多い。ですが、ここで土台をしっかりと築いておけば、最終的にはより満足のいく読書体験を読み手に与えられます。


 主人公はいつまでも現状の世界に留まれないのですが、あなたもいつまでも「3.設定の開示」にいてはなりません。あなたの「3.設定の開示」が上手なら、変わるきっかけが逸早く訪れなければ主人公は絶体絶命であることを、読み手はすでに察しているはずです。

 なにかが変わらなければ、すべてがあっという間に崩壊することを読み手に教えます。

 具体的に停滞すれば死を迎えることを示すにしろ、具体性なしで事態の緊急性を読み手に伝えるにしろ。主人公が自分の人生を変える必要が明示されなければ、読み手を引っ張って残りの旅路を続けるのがとても難しくなります。

 だから「3.設定の開示」を使って読み手の頭の中に「変化は不可避だ」と意識に埋め込むのが書き手の仕事です。

 小説ではこのまま現状の世界に留まるという選択肢はありえません。

 そのためにはなにかが起きなければならないのです。




4.打破(10%)

「3.設定の開示」において主人公の人生・欠点・クセとその世界を創り上げました。そして友達と家族と、手にとって理解できる「求めるもの」つまりゴールを与えたのです。


「4.打破」ではその「日常」の世界を打ち破る「変化の前触れ」を書きます。

 あなたが創り上げた主人公の世界へやってきて、その破壊力の凄まじさに主人公は前と同じでいられなくなるのです。

 そのため主人公は新しいことを試さずにはいられませんし、どこかへ旅立たなければなりません。

 多くの場合「4.打破」は電話、電子メール、SNS、郵便、解雇、不治の病の宣告、死など、悪い知らせという形でやってきます。人はその身に悪いことが起きるまで変わろうとしないものです。

 悪い知らせが来なければ、主人公は問題だらけの自分の小さな世界の中に閉じこもり、問題だらけのまま満足して生きていくでしょう。そんなものを読まされたら不満がたまります。

 読み手は主人公になにかが起こることを待っているのです。

 だから主人公を「変化の旅」に出かけさせるために、悪い知らせが必要なのです。悪い知らせというのは、なにか良いことへの道も拓きます。

「4.打破」はこの一場面ワン・シーンで構成されています。

 主人公に対して起こったなにかが、主人公の人生をまったく別の方向に変えてしまいます。

 要するに「4.打破」は行動へ誘う呼び水なのです。世界を新しい視点で見るときが来たという合図になります。だから「4.打破」は大きければ大きいほどよいのです。


 良いフィクションに欠かせないのは「対立」です。良い物語には「対立」がつきもの。「対立」がなければ、読み手から「だから?」と言われる危険に満ちています。

 そうではなく「そこから立ち直るなんて無理だろう」と言わせたいのです。それでこそ効果的な「打破」になります。

「主人公はこのあと簡単に元の『日常』に戻れてしまう」ようでは「打破」が弱いのです。「絶対に無理」くらいの強さがあるなら、そのまま突き進んでください。




5.逡巡(10〜20%)

 力強い「4.打破」を受けて主人公から反応リアクションが来る複数場面シーンにまたがるセクションです。

 解雇された、破局した、逮捕された、診断を受けた、死体があった、電話やメールやSNSで悪い知らせが来た。なにが来ても、その次には必ず主人公がため息をついて座り込み「どうすればいいの?」と困惑するときが来るのです。

 このセクションは通常「問いかけ」の形をとります。

「これからどうしよう」「行ったほうがいいか。行かないほうがいいか。」「どうすれば死なないで済むか」

「この次は一体どうなるわからない。じゃあ、変えちゃおう!」なんて言う人はいないのです。

 主人公とは嫌々ながら足を引きずって進み、あがくもの。そう簡単には動こうとはしません。

 ここで変化を迫られた主人公が頑強に変化を拒む姿を見せます。

 うまい手のひとつとして、主人公を家に戻します。または仕事に行かせるか、遊びにやらせるのです。あらゆる「日常」的な環境で決断できずに悩む主人公を見せます。

 なぜかというと、あまり簡単に決断させてしまうと、読み手にご都合主義だと思われてしまう危険があるからです。

「5.逡巡」というのは一般的には決断のための問答ですが、そうとも限りません。行くべきかとどまるべきか、行動すべきかそうでないかという問題では必ずしもないのです。物語によっては考えるまでもないという場合もあります。

 迷わない場合に、主人公はなにをすればいいのでしょうか。

 待ち受ける長い旅に向けて支度を始めます。必要なものをまとめたり、訓練したり、心と身体の準備、感情の整理。このような場合の「5.逡巡」は「止められても行く。でも今のまま行って大丈夫なのか」になります。

 主人公に必要な「5.逡巡」が決断でも支度でも、その役割はただひとつ。

 第二幕で出会うなにかのために、主人公のそして読み手の覚悟を決めさせることです。

 なぜなら、第一幕の「日常」の世界からは想像できないなにかに出会うことになりますから。





最後に

 今回は「ハリウッド「三幕法」(セクション3〜5)」についてまとめました。

 第一幕がイコール「起承転結」の「起」とはなりません。第二幕の二セクションを含めてもう少しかかります。

「三幕法」と言いますが、基本的には四部構成をあえて「三幕」にした印象を受けます。とくに第二幕が長すぎるのです。そして第二幕の機能も多すぎます。

「三幕」を「四部構成」にすると、ちょうどよい長さと機能を持たせることができるのです。

 では次回は「起」の終わり「セクション6・7」となります。



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