815.構成篇:ハリウッド「三幕法」(セクション1・2)

 皆様もよくご覧になるであろう「ハリウッド映画」。その魅力に取り憑かれている方もいらっしゃるでしょう。

 ハリウッド脚本術に「三幕法」というものがあります。物語を「三幕」に分けて、盛り上がりをコントロールしようというものです。これにより、ハリウッド映画はつねに一定以上の質が担保されるようになりました。

 その「三幕法」を日本の小説に当てはめて構成しています。





ハリウッド「三幕法」(セクション1・2)


 ハリウッド映画の脚本術では、物語を「三幕」で構成する「三幕法」が広く用いられています。

 とくにブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CAT!』(AppleのBookアプリで電子書籍が購入できます)で詳しく語られていますが、映画脚本術であるため小説用にカスタマイズしなくてはなりません。

 さらに「起承転結」という四部構成が主流の日本において、「三幕法」をどのようにして機能させればいいのかについても心を砕かなければなりません。

 そこで今回から数回に分けて『SAVE THE CAT!』式「三幕法」の日本小説への応用について述べてまいります。




第一幕

 第一幕は「命題の世界」つまり「現状の世界」「日常」です。

 第二幕でひっくり返る前の「日常の世界」を読み手に示してください。




1.出来事イベントの渦中に放り込む(最初から全体の1%まで)

 主人公と世界が「未熟だった頃」の光景を読み手に提示します。「締め」の光景と正反対な主人公と世界が示されるのです。

 どんな「欠点」を持った主人公が成長する物語なのかを読み手に披露します。

 そのためには、主人公を「出来事イベントの渦中に放り込む」ことです。その解決に動く主人公ですが、「欠点」をあらわにし醜態を晒して失敗するのです。

 ここで出来事イベントが成功してしまうと、読み手はそれだけで満足してしまって、先を読もうという気持ちが生まれません。物語を長く楽しんでもらうためにも、「必ず失敗」させましょう。

「書き出し」で、つい独白から入ったり設定の説明から入ったりする方がいますが、それは誤りです。主人公が強気で根拠のない自信に満ちていたなら「彼は強気で根拠のない自信に満ちあふれていた。」などと書かないようにしてください。「出来事イベントの渦中に放り込まれた」主人公がどう強気で根拠のない自信に満ちあふれているか、読み手は行動で読ませてほしいのです。


 この小説のムード(明るいのか暗いのか真面目なのかふざけているのかなど)やスタイル(一人称視点か三人称視点かや文体など)やテンポ(一文が長いか短いかや地の文と会話文の比率など)もここで決まります。

 涙を誘う作品ならここで悲しくさせてください。笑いを誘う作品ならここで笑わせてください。緊迫感サスペンスに満ちた作品ならここでハラハラさせてください。読み手に「これからどんな物語になるのか」はっきり読ませるのです。


 このセクションを読むだけで「この物語はこんな感じで進むのか。それなら読もう」と反応していただきたい。

 このセクションだけでそう思わせるのは難しいように思われますが、意外と簡単です。

 主人公を「出来事イベントの渦中に放り込ん」でどういう結果に終わるのか。その過程を読ませるだけで読み手には「こんな感じの物語」だと伝わります。

「1.出来事イベントの渦中に放り込む」には、ラストの「15.終着点でたどり着いた境地」という反転した対になるセクションがあります。これは物語の「結末エンディング」に来るのです。

 最初のセクションと最後のセクションは可能な限り違った光景にしましょう。そうしないと主人公がどこへたどり着いたのかがよくわからなくなるからです。違えば違うほど読み応えも生まれます。

「1.出来事イベントの渦中に放り込む」は一場面ワン・シーンまたは一章だけのセクションです。ここが長く続くようでは、締まりがありません。


 たとえば賀東招二氏『フルメタル・パニック!』では、主人公の相良宗介がヒロインの千鳥かなめと、高校の職員室にある印刷用紙を強奪する計画から始まります。

 そして戦争ボケの宗介がヘマをしてこの計画は失敗に終わるのです。

 この短いプロローグで宗介がいかに「戦争ボケ」をしているのか、かなめがいかに勝ち気な性格なのかを読ませています。

 これがいきなり「出来事イベントの渦中に放り込む」ということです。




2.気づかれずテーマとメッセージを提示(5%、または小説全体の最初の10%以内)

 ある人物は、物語の終わりまでに主人公が手に入れなければならない表の「求めるもの」「テーマ」と裏の「本当に必要なもの」「伝えたいことメッセージ」に関するセリフを口にします。あるいは主人公の人生に関する疑問を投げかけるのです。

 そうすると、主人公のこれからの道のりに従って物語が終わる頃には、主人公は示唆されたのとまったく同じ「求めるもの」「テーマ」と「本当に必要なもの」「伝えたいことメッセージ」を自分のものとしてしまうのです。

 主人公が学ぶべき「求めるもの」「テーマ」と「本当に必要なもの」「伝えたいことメッセージ」を最初の10%までに読み手の潜在意識へ「ほのめかして」ください。

 大々的に知らせたり長々と深掘りするのは野暮です。読み手の記憶の片隅に、気づかれないようにそっと置いてきましょう。

 ここが読み手の心を操る書き手の腕の見せどころです。


 ドラゴンや魔王と戦うファンタジー(一般的に「異世界ファンタジー」と呼ばれるもの)や、壮大な宇宙戦争や(田中芳樹氏『銀河英雄伝説』『タイタニア』のようなもの)、ため息が出るようなラブシーン(女性向け小説に多く見られる)など、あなたの小説は見せ場の連続かもしれません。


 でももし「本当に必要なもの」「伝えたいことメッセージ」がなかったら。人間であることに深い意味を見出すことがなかったら。その小説は読む価値がないのです。

 不完全な主人公が、表の「求めるもの」「テーマ」と裏の「本当に必要なもの」「伝えたいことメッセージ」に迫ることで、少しはましな人間になっていきます。

 だからこそ、登場人物の誰かに表の「求めるもの」「テーマ」と裏の「本当に必要なもの」「伝えたいことメッセージ」を言わせてしまいましょう。看板に書いてあったり新聞記事や雑誌や広告に載っていたりしてもかまいません。

 主人公は小説が始まって早々に、これから自分をわずらわせる問題の解決法を提案されます。

 しかし主人公はたいていこれらを無視するのです。というより、それが重要であることに気づきません。

 なぜなら物語が始まった段階では、主人公は変化を拒むものだからです。

 提案されたら「こいつになにがわかる」と思ってそれで終わります。でも主人公を責めないでください。ぬるま湯の日常に浸っている主人公は「変わろう」とするより、「現状を維持しよう」と思うものだからです。

 表の「求めるもの」「テーマ」と裏の「本当に必要なもの」「伝えたいことメッセージ」をほのめかすのは、無視されても無理がないように、通りすがりやたまたま同席しただけまだ信用に値しない脇役です。

 それなら主人公が聞き流しても自然ですし、読み手も主人公が気づかないことを受け入れやすくなります。

「欠点」を抱えてバカみたいな判断をしながら完全とは言えない第一幕の世界を歩んでいるのです。

 そこに誰かが現れて一言放ちます。しかし主人公は意に介さないことで現実味リアリティーを帯びます。

 人というのは誰かに忠告されたから変わろう、とは「思わない」ものです。

 自分の問題が自分の目で見えるようになってから、初めて変わろうとします。

 このセクションはこの一場面ワン・シーンで構成されています。ほとんどの小説であっと言う間に終わるのです。

 だから読み手に気づかれにくくなります。ここですでに「物語の謎の正しい解法」は明かされているのにです。


 水野良氏『魔法戦士リウイ ファーラムの剣』ではこの段階で表の「魔精霊アトンを倒せるファーラムの剣を探し出す」ことが提示されています。「ファーラムの剣さえ手に入ればアトンを倒せる」と思わせたのです。しかし現実には「ファーラムの剣」はアトンを倒すために駆け出しの魔法戦士であるリウイを、一流の魔法戦士に鍛えてアトンに抗するための試練の剣だったのです。これが裏の「本当に必要なもの」になります。


 この短いセクションの中に、「求めるもの」「テーマ」と裏の「本当に必要なもの」「伝えたいことメッセージ」を内包するのです。





最後に

 今回は「ハリウッド「三幕法」(セクション1・2)」についてまとめました。

「1.出来事イベントの渦中に放り込む」「2.気づかれずテーマとメッセージを提示」は物語開始早々にやってくる必要があります。

 まず「1.出来事イベントの渦中に放り込む」のです。そうして主人公や周りの人々がどのような対応をするのかを読み手に見せてください。それだけで読み手は、誰が主人公でどんな性格をしているのかわかります。

 そして「2.気づかれずテーマとメッセージを提示」で主人公が「求めるもの」「テーマ」を提示してください。その裏で「本当に必要なもの」「伝えたいことメッセージ」もさり気なく読み手に示しましょう。気づかれないくらいがちょうどよいのです。

 次回は第一幕の残り、セクション3〜5についてまとめます。



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