814.構成篇:悲劇を迎える物語

 今回は「悲劇バッド・エンド」についてです。

 最近のライトノベルではあまり見かけなくなりましたが、「悲劇バッド・エンド」の物語にも需要があります。

 文学小説では「人の心のあり方」を表現することが求められます。だから「大団円ハッピー・エンド」よりも「悲劇バッド・エンド」のほうが好まれるくらいです。





悲劇を迎える物語


「ライトノベル」では基本的に明るく朗らかな「結末エンディング」が好まれます。気楽に読む小説であるがゆえに、暗い「結末エンディング」を受け入れられるほど心の強い中高生が少ないことも理由でしょう。

 トラウマになってしまうような衝撃の「結末エンディング」を迎えるような作品は、多くの読み手の心を鷲づかみします。




悲劇的な真実を知る物語

 たとえば「内面の未熟さ」を自覚した主人公は、「内面の未熟さ」を克服することにします。しかし、克服した先に待っていたのは「悲劇的な真実」だったのです。

 この場合「真実」を知らなかったほうが主人公は幸せだったことでしょう。とくに楽天的で明るい主人公がどんどんつらく厳しい「真実」「現実」に触れて鬱屈していくのです。

「真実」は必ずしも望ましいものばかりとは限りません。素晴らしいと思っていた希望や成功は、達成したあとで「これは望んではいけなかったものなのだ」と気がつくのです。


構成としては

 1.主人公は日々の暮らしの中で「内面の未熟さ」を正しいものだと信じている

 2.あるとき主人公が出来事イベントに巻き込まれ「内面の未熟さ」で後れをとる

 3.危機感を持って「内面の未熟さ」が間違っているものだと気づく

 4.魅力的なことが起こって、目指すべき「真実」を見出だす

 5.「内面の未熟さ」を克服しようと決意する

 6.現状の「内面の未熟さ」と目指すべき「真実」の双方を深く理解するべく努力する

 7.「内面の未熟さ」が取り返しのつかない出来事イベントを引き起こしてしまう

 8.周囲できな臭い出来事イベントが起こるが、それでも「真実」を追い求めて前進をやめない

 9.「真実」を武器に「対になる存在」と戦う。勝敗に関係なく、多くのものを失う

 10.主人公は戦いのあとに厳しい「現実」を知り、戦うことの無意味さに気づく。長年抱えていた憤りのために破滅しすべてを失ってしまう

 11.主人公が最終的にどんな悲劇に見舞われたのか。そして世の中に与えた影響はいかばかりか。それによって世の中はどんな希望を見出だすのかを書く。

 といったところですね。




内面の未熟さを改めない物語

 また「内面の未熟さ」を自覚しても、主人公はそれを改善しようとせず、かえってさらにひどい「内面の未熟さ」に陥ってしまう物語もあります。

 悲劇では最も多いパターンです。「内面の未熟さ」を抱えながら、「真実」を選ばないのです。どんどん悪いほうへ悪いほうへと転落していきます。たいていは主人公だけでなく他人をも巻き込むのです。行き着く先は狂乱、不道徳、死など人格破綻となります。


構成としては

 1.主人公は日々の暮らしの中で「内面の未熟さ」を正しいものだと信じている

 2.あるとき主人公が出来事イベントに巻き込まれて「内面の未熟さ」で後れをとる

 3.危機感を持つものの今まで安定をもたらしていた「内面の未熟さ」にしがみつく

 4.周りから「真実」について諭されるが、それでも「内面の未熟さ」にかじりつく

 5.「内面の未熟さ」の正しさを証明しようと、その世界を離れる決意をする

 6.「内面の未熟さ」が取り返しのつかない出来事イベントを引き起こしてしまう

 7.失敗を認めようとせず、欲しているものを損得勘定なしに得ようとする

 8.周囲で危険な出来事イベントが起こっても、「内面の未熟さ」に囚われて判断を誤る

 9.「内面の未熟さ」と「真実」との葛藤に敗れても「真実」を受け入れない

 10.「内面の未熟さ」で「対になる存在」と戦うが、正しくない力なので当然敗れて多くのものを失う

 11.主人公が最終的にどんな悲劇に見舞われたのか。そして世の中に与えた影響はいかばかりか。それによって世の中はどうなるのかを書く

 といったところですね。




真実に気づきながらも内面の未熟さにこだわる物語

 最初から「真実」の状態に気づいているのですが、それを拒絶して「内面の未熟さ」に籠もる物語もあるのです。

「真実」に気づいている主人公が、本来抱えている「内面の未熟さ」を優先してしまいます。自分を変える要素が分かっているのに、自堕落な選択を選んでしまうのです。


構成としては

 1.主人公は「真実」に気づいているものの、それを拒絶して「内面の未熟さ」を優先する

 2.あるとき主人公が出来事イベントに巻き込まれて「内面の未熟さ」で後れをとる

 3.危機感を持って「真実」の必要性に気づくものの居心地のよい「内面の未熟さ」に甘えてしまう

 4.居心地のよい場所から追い出されて独り立ちを迫られる

 5.「真実」と「内面の未熟さ」について理解を深める

 6.「真実」を思い知らされても、欲望が強すぎて「内面の未熟さ」を手放せない

 7.「内面の未熟さ」が取り返しのつかない出来事を引き起こしてしまう

 8.もはや「真実」を求める気は失せ、「内面の未熟さ」へと駆り立てられる

 9.「内面の未熟さ」で「対になる存在」と戦うが、当然敗れて多くのものを失う

 10.戦いののち「真実」のたいせつさを知るが、やり直しはきかない

 11.主人公が最終的にどんな悲劇に見舞われたのか。そして世の中に与えた影響はいかばかりか。それによって世の中はどうなるのかを書く。

 といったところですね。




真実を手にしているのに転落していく物語

 主人公は物語の開始時から「よいもの」を持っています。安心や幸福や成長といった正の側に立っているのです。しかし過去の出来事によって少しずつそれらを放棄します。過去に縛られてしまい、その状態から抜け出せません。そしてどんどん泥沼へとハマっていくのです。


構成としては

 1.主人公は最初から「真実」を体現し、なに不自由なく暮らせているが、なにか物足りない感じがする

 2.あるとき主人公が出来事イベントに巻き込まれて、過去の古傷に縛られてしまう

 3.過去に縛られて「真実」から少しずつ転落していく

 4.新しい「真実(内面の未熟さ)」を求めようと、今いる世界から離れて環境が変わる

 5.今までの「真実」と新しい「真実(内面の未熟さ)」との差を理解しようとする

 6.転落に気づいているもののどんどん泥沼へとハマっていく

 7.新しい「真実(内面の未熟さ)」が取り返しのつかない出来事イベントを引き起こしてしまう

 8.失敗を認めることができず、もはや以前の「真実」に立ち返るすべもなく、「真実(内面の未熟さ)」へと突き進む

 9.「真実(内面の未熟さ)」を武器に「対になる存在」と戦い、当然敗れて多くのものを失う

 10.敗れたのち、本当の「真実」はどちらかを知るが、やり直しはきかない

 11.主人公が最終的にどんな悲劇に見舞われたのか。そして世の中に与えた影響はいかばかりか。それによって世の中はどうなるのかを書く。

 といったところですね。





最後に

 今回は「悲劇を迎える物語」について述べました。

 具体例を四つ挙げましたが、これがすべてではありません。

「悲劇」にはさまざまな形があります。どんな「悲劇」があるのかは、「重い小説」を読みまくらなければなりません。たとえば「文豪」やウィリアム・シェイクスピア氏の「悲劇」の物語を研究してください。きっと「こんな物語もあったんだ」と気づけます。

 好きだからと「ライトノベル」ばかりを読んでいては、「悲劇」はなかなか書けませんよ。

「悲劇」を書ける書き手は、心を描くことが巧みであり、多くの読み手を虜にします。

 実は「喜劇」を書くことは、「悲劇」を書くよりも才能が求められるのです。

 であれば、まず「悲劇」を書けるようになりましょう。



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