813.構成篇:結末とスーパーヒーロー

 今回は「結末」についてです。

 また「スーパーヒーロー」型の物語とはどのようなものでしょうか。

 合わせて見ていきたいと思います。

 はい、双方とも分量が足りなかっただけですね。






結末エンディングとスーパーヒーロー


結末エンディング」は「佳境クライマックス」の後で登場人物や世界がどう変わったのかを示す重要な部分パートです。

 これは「書き出し」のエピソードと対をなします。

「内面の未熟さ」が丸出しだった「書き出し」の頃の主人公と、「内面の未熟さ」を克服して「対になる存在」との関係が決着した今の主人公との差を読み手に知らせるのです。

 なぜ知らせないといけないのでしょうか。

 本コラムで何回か書いていますね。

 小説は「主人公の成長を読ませる」物語だからです。

 成長を実感するには、某「結果にコミットする」ダイエットジムのテレビCMのように、ビフォーとアフターを提示するのが最もわかりやすい。

 ビフォーは「書き出し」、アフターは「結末エンディング」です。

 このふたつが同じような場面で、主人公の対応にどのような変化が起こっているのか。そこを読み手に見せます。




伏線の回収と新たな伏線

 場合によっては「書き出し」で提起されて「内面の未熟さ」ゆえに未解決となっていた問題が残っていることがあります。そのときは「結末エンディング」で成長した主人公が、それにきっちりと答えてください。これで物語を通していた太い伏線が回収されます。

結末エンディング」でこれまで物語に張っていた伏線はすべて回収しましょう。

 回収されない伏線が残っていると、読み手が「これって結局どうなったの」と消化不良を起こすのです。

「あえて」伏線を残すこともあります。続編を計画しているときや、その伏線が残ることで読み手の想像力を喚起して妄想してもらいたいときなどです。

 さらに高等テクニックとして「結末エンディング」で新たな伏線を書くこともあります。

 これは続編を予告することにもなりますので、読み手の期待値を高めることになるのです。

 ですが、実際に続編が書かれるかは書き手であるあなたに委ねられます。もちろん続編を書いたほうが読み手の期待に応えられますが、書かないことで本作の人気を高められるのです。

 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』では主人公の銀河帝国皇帝ラインハルト・フォン・ローエングラムに奇病(膠原病の一種)が判明したときから、小説の「結末エンディング」の時間軸よりも後の出来事を「意図的に」書いています。つまり「結末エンディング」の後に向かって伏線をいくつも張り巡らせていったのです。その結果『銀河英雄伝説』は続編の要望が今でも高く、作品の魅力もいや増しました。




後日談は読み終えてくれた方への贈り物

 成長した主人公たちは、「佳境クライマックス」の後、どのような日常に戻っていくのでしょうか。

 冒険を通じて知り合った人物たちと、どのような関係に発展して、その後の日常が始まるのかもしれません。

 たとえば魔王を倒す旅をともにした主人公とパーティーメンバーとの恋愛であったり結婚であったり。コテコテの「剣と魔法のファンタジー」なら魔王を倒した勇者は王国の姫と結婚して国王になることが多いですよね。そういったテンプレートであっても、必ず「その後」つまり後日談を書くようにしてください。

 ショートショートや短編小説なら「佳境クライマックス」が終わったらそのままストンと「結末エンディング」を数行書いて終わらせるのも味があります。語らないことがすべてを物語ることもあるのです。

 ですが連載小説なら、最後まで何十万字・何百万字も読み終えてくれた方に、なんらかの贈り物をしましょう。

 これまで命を懸けてともに旅をしてきた人物は、「佳境クライマックス」の後にどのような行動をとることになるのか。それを提示するのです。


 水野良氏『ロードス島戦記 灰色の魔女』では魔女カーラの額からカーラの意志が宿るサークレットを、盗賊のウッドチャックが外します。ここが「佳境クライマックス」です。しかしウッドチャックはカーラのサークレットを自ら装着してしまいます。これによりウッドチャックはカーラの意志に支配されて歴史の闇へと消え去ってしまいます。

 ここからが「結末エンディング」です。

 残された主人公パーティーは犠牲となったドワーフのギムを弔います。そして主人公パーンとハイエルフのディードリットがウッドチャック・カーラを探す旅に出るのです。司祭のエトは神聖王国ヴァリスへ向かって国体を建て直す意志を示し、続編でヴァリスの国王として登場します。魔術師のスレインはカーラの支配から解き放たれたレイリアを、彼女の母親が住むターバの町まで連れて行くことをギムに誓うのです。そして続編ではスレインとレイリアは結婚し、娘のニースをもうけます。


 このように「佳境クライマックス」の後で、人々はどうなったのかを示唆するのです。連載を読み終えてくれた方へのかけがえのない贈り物になります。

 もし連載小説で「佳境クライマックス」の後に「後日談」が書いていないと、読後感が今ひとつになるのです。「ストーリー評価」が下がってしまう原因を自ら招いています。

『ロードス島戦記』は硬派な「ヒロイックファンタジー」ですから、「後日談」も続編を見据えた重々しいものになっているのです。

 一般的な「ライトノベル」であれば、ほとんどの登場人物には、新たな希望が待ち受けています。困難を乗り越えてきた勇者は人々から賞賛され、家庭を築き、子をもうけて楽しく暮らしているさまを読み手にプレゼントするのです。




スーパーヒーロー型の物語の流れ

 最初から主人公は完成されていて、「未熟な世の中」を変えようとしているかもしれません。

 恋愛小説なら「書き出し」の段階からすでに「イケメン」「優しい」「いざとなると頼りになる」と三拍子揃っていたら。そんな主人公は言い寄ってくる女性たちの人生を変えることになります。しかも主人公はいっさい変わりません。

 マンガの北条司氏『CITY HUNTER』の主人公・冴羽リョウは、裏世界ナンバーワンのスイーパーとして完成された存在です。そこに毎度美女の依頼を引き受けては彼女たちの人生を変えてしまいます。そんなエピソードを起こしながらも、主人公はいっこうに変わらないのです。

 冴羽リョウには奥深い過去があります。それがリョウの魅力を引き立てているのです。

 四部構成の場合、第一部では依頼人を含む人物や世界観を読み手に説明しましょう。

『CITY HUNTER』なら冴羽リョウが美女の依頼を引き受けて、彼女を狙う悪役の手下が登場する。彼らをリョウが退治して美女を守ります。

 しかしこの最初の戦いで黒幕を含めたすべての敵を倒すことはありません。そもそも彼女を付け狙う悪役の手下はあくまでも手下でしかなく、彼女が今後いっさいの憂いを絶つためには、黒幕も含めて掃滅する必要があるからです。だからあえて悪役の手下は逃します。

 リョウは敵の情報収集を始めます。手下を捕まえてボスの名前を吐かせたり、尾行して割り出したり。確実に相手の黒幕まで明らかにしたのち、リョウは反撃に転じます。

 しかし黒幕とその組織はリョウの実力を過小評価し、嘲笑するのです。

 リョウは依頼人の美女に、なぜ彼女自身が狙われてるのかを説明します。そしてここから、主人公は能動的に立ち回って付け狙っていた悪役の手下を倒しますが、その最中に肝心の依頼人の美女をさらわれてしまいます。

 リョウは準備を整えて、依頼人の奪還と黒幕の排除を決意するのです。

 反撃に出た主人公は獅子奮迅の活躍を見せます。さすがの黒幕も命乞いをするのです。しかしその程度で判断基準がブレるリョウではありません。

 そして最終的に、黒幕と悪役の手下たちは全員リョウに敗北するのです。

 戦いが終わり、依頼人の美女は「書き出し」の頃とどのように変化したでしょうか。

 これがスーパーヒーロー型の物語の展開です。





最後に

 今回は「結末とスーパーヒーロー」について述べました。

結末エンディング」では生き残った登場人物が、のちの世界でどのような立場についたり結婚したり、悪を追い詰めたりするさまを描くのです。

 スーパーヒーロー型の物語では、完成された主人公の成長物語ではなく、「脇役の成長物語」になっている点が異なります。また物語の展開は普通の物語とは若干異なるのです。

 スーパーヒーロー型の物語を書きたい場合は、異なる点に留意してください。



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