809.構成篇:出来事の渦中に放り込む

 今回は「人物の性格描写」についてです。

 主人公を冒頭から出来事イベントの渦中に放り込んでください。

 そこで現れる主人公の反応こそが「性格」を如実に表しています。





出来事の渦中に放り込む


 人物のことを説明したければ、定義して「説明」するよりも「出来事の渦中に放り込ん」で人物がどう反応するのかを見せましょう。そのほうが手っ取り早く、また「説明」感も薄れます。




設定の中でとくに描写すべきこと

 最初の出来事イベントには必ず主人公を登場させましょう。これは物語の基本原則です。

 童話『桃太郎』『竹取物語』も最初の出来事に登場しています。おばあさんが川で「大きな桃」を拾ってくる。おじいさんが「光り輝く竹」を見つける。これらはともに最初の出来事イベントです。

 稀に「対になる存在」が先に出て、主人公はそのあとに出てくることがあります。こういう構成が好きな方もいらっしゃるはずです。この場合は「対になる存在」の場面シーンをできるだけ短くしてください。長く書くから主人公と勘違いされます。本当の主人公が登場したときに「じゃあ最初の人物はなんなのさ」と思われるのです。

 こういった誤解を生まないためにも、できるかぎり最初の出来事には主人公を登場させましょう。


 では主人公の設定は最初の出来事イベントでどれを説明すべきだと思いますか。

 まずは名前です。名無しのままで出来事イベントを終えることも可能ですが、そうすると名無しさんの出来事が宙に浮いてしまいます。名前が確定して出来事イベントが地に着き、「そういうことだったのか」と合点がいくのです。

 次に性別、年齢などの変わらない要素や、職業や身体的特徴などの変わる可能性がある要素を述べます。年齢、性別、職業、身体的特徴がわからないと、どんな主人公が出来事イベントの渦中にいるのか読み手がイメージできません。

 そして最も重要な「性格」「性向」「特技」のような内面的特徴を描写します。主人公が出来事にどう対処するのかを読ませるのです。

 これによって読み手の共感を呼び、関心を深めてくれます。この段階で「内面の未熟さ」を露呈するのも、共感と関心のためです。

 主人公が読み手にとって魅力的に映るのか。長所と欠点を両方紹介しているか。そして物語を先に進められるか。これが要求されます。

 長所と欠点の紹介に関しては、まず長所をじゅうぶんに説明してから、欠点があらわになるようにすべきです。あなたの周りにも「欠点はあるけど好かれる人」がいますよね。そういうキャラを読み手に印象づけたいのなら、まずは「好かれる」ところつまり「長所」を先に書いて読み手の共感を得てから、「内面の未熟さ」である「欠点」を出して窮地に陥るようにするのです。




日常世界を描く

 出来事イベントが終わったら、日常世界を書きましょう。

 なぜ日常世界を書かなければならないのか。不思議に思っている方もおられますよね。

出来事イベント」という非常時が終わると、小説内の世界は平穏を取り戻すからです。

 ここで世界がどうなっているとか、社会の仕組みがどうなっているとか、主人公の社会的立場はどうだとか。そういった設定を読ませることになります。

 小説を書き慣れない書き手の方は、「書き出し」にこれらの説明を持ってこようとしますが、それは誤りです。

「書き出し」は「出来事の渦中に主人公を放り込む」役割があります。これで性格や知識などを読ませて主人公に感情移入できるものかどうか。それが「その先も読ませる小説になるかどうか」を左右するのです。

 もし「書き出し」に日常世界を描写してしまったら、読み手は感情移入すべき人物が見当たらず、その部分だけで先を読まなくなります。

 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』で「序章」として銀河の歴史つまり「日常世界の説明」を延々と行なっているので、小説とはそういうものだと勘違いされる方が多いのです。本来なら『銀河英雄伝説』の書き方はお手本にはなりません。しかし「序章」を飛ばして「第一章」から読む場合「書き出し」から「これから戦争(会戦)が始まる」ことを表しています。「出来事イベントの渦中に主人公を放り込ん」でいるわけです。ここに出てきた登場人物の性格や態度などを「出来事」を通じて巧みに書き分けています。

『銀河英雄伝説』は「序章」をどうとらえるかで評価が分かれる小説です。「序章」も本編の一部として読むと「設定厨」の「こじらせ筆者」のように見えてしまいます。しかし「序章」は読まなくてもよいと考えると、「序章」はあくまでも「読んでおくと物語がより楽しめますよ」という「おまけ」「付録」のような性質を帯びるのです。実際私は「序章」は飛ばして読み始め、時間が空いたときに「序章」をちょこちょこと読んでいました。だから「『銀河英雄伝説』は傑作だ」と今でも思っているのです。

 しかし現在、小説投稿サイトで『銀河英雄伝説』を連載したとするならどうでしょうか。「序章」を書いてから「第一章」を綴ったら、たいていの方が「序章」で見切ります。いくら「第一章」から本編が始まるので少し待ってねと言っても、読み手にとっては「序章」こそがあなたの小説の「書き出し」に違いないのです。

「書き出し」は主人公を「出来事イベントの渦中に放り込む」べきであり、世界観を長々と「説明」すると読み手から「駄作」と切り捨てられます。

 だからこそ「書き出し」は主人公を「出来事イベントの渦中に放り込み」、それが終わってから逐次設定を「説明」していけばよいのです。必要になったときに必要なぶんだけ設定を「説明」していきましょう。

 小説に書いていいのは「物語」で意味を持っている情報だけです。「履歴書」を細かく書いたからといって、そのすべてを書くべきではありません。「出来事イベントの渦中」で説明できなくても、これだけは「説明」しておかなければ以後の物語の展開が強引になってしまうから。それならその情報は書くに値します。


 主人公の「内面の未熟さ」が生まれた環境というものを想定するのです。どんな世界なら主人公は「内面の未熟さ」を抱えたまま生活できたのか。それを考えて読み手に提示します。

「日常世界を書く」とは、つまり「物語に関係するものを最初にすべて読み手に見せておく」のです。

 推理小説の鉄則に「犯人は最初から物語に登場している人物でなければならない」「凶器も最初から物語に登場している物でなければならない」というものがあります。もし犯人が途中から降って湧いてきた人物であった場合、無意味な文章を読ませていたことになるのです。また凶器も途中から出てくるようでは、読み手には思いつきだけで推理小説を書いているように見えてしまいます。

 底の浅い推理小説ほど、興が醒めるものはありません。




内面の未熟さを改善する方法の提示

 日常世界の「説明」がひと通り終わったら、次は「出来事イベントの渦中に放り込ま」れた主人公があらわにした「内面の未熟さ」をどのようにして克服していくのか。その道筋を指し示します。

 これは次の構成への「惹き」です。

 修行の旅に出るのか、師匠を見つけて弟子入りするのか、勉強に励むのか、自習に努めるのか、とにかくあがいてみるのか。どんな行動をとるべきなのかをここで示します。そうすれば読み手は「第二章から修行の旅に出るのか」と次の展開をワクワクして待つことができるのです。

「内面の未熟さ」はなかなか払底できないものであり、解決するには物語の終盤になってからということもよくあります。そうであっても「第二章」の展開を暗示することが、読み手にとって強い「惹き」を生むことは否定できません。


 主人公はどのようにして「内面の未熟さ」を解決しようとするのでしょうか。

 多くの場合は日常世界から離れて新世界へと冒険の旅に出かけます。具体的には、実際に日常世界を離れて「内面の未熟さ」を克服すべく新世界へ踏み出す冒険者となるか、日常世界から精神的に解き放たれ、危険な新世界へ飛び込む状態となるかです。

 アクション小説なら放置できない敵と戦うか否かの選択の機会であり、恋愛小説なら初デートに踏み出す機会でもあります。

 この出来事イベントが起きること起こすことで、主人公はもはや日常世界へ戻る口実を失うのです。恋愛小説なら、初デートをすればデート前のお友達だった状況に戻ることはできませんよね。そして初デートをしたら、物語は主人公と「対になる存在」との恋愛模様を追うものになります。

 つまりこの出来事によって、以後のストーリーが大筋で確定するのです。





最後に

 今回は「出来事イベントの渦中に放り込む」ことについて述べました。

 物語は主人公が「出来事イベントの渦中に放り込まれて」始まります。

 そこで主人公がどんな活躍や醜態を見せるのか。どうやって解決しようとするのか。戦って活路を見出そうとするのか、知恵を絞って解決しようとするのか、逃げ回って振り切ろうとするのか。そういったもので読み手に主人公へ関心を寄せてもらい、感情移入させるのです。

 出来事イベントが終わったら、日常世界を書きましょう。ここで世界観を「物語に必要なだけ」説明していくのです。

 この順番を誤らないようにしてください。

 先に日常世界を書いてしまうと、読み手は感情移入する対象が見つけられず、あなたの小説を放り投げてしまいます。

 そして最後に「出来事イベント」であらわになった「内面の未熟さ」をどう克服していこうとするのかを指し示しましょう。



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