810,構成篇:内面の未熟さに気づく

 今回は「第二部」についてです。

「起承転結」の「承」、「主謎解惹」の「謎」に当たります。

 第一部では主人公を「出来事イベントの渦中に放り込ん」で、その人となりを読ませました。

 第二部ではいよいよ主人公の「内面の未熟さ」を読み手に提示致します。





内面の未熟さに気づく


手痛い船出

 初デートへ誘うことに成功したら、当然初デートの場面を書く必要がありますよね。

 しかし主人公の「内面の未熟さ」ゆえに、どんなに頑張ったとしても初デートはうまく進みません。「内面の未熟さ」から「困難に陥って」いるのです。主人公は「こんなはずじゃなかったのに」と思う場面を迎えます。つまりこの段階でまた「内面の未熟さ」を原因として出来事イベントに失敗してしまうのです。

 そこでなにかを手に入れようと必死になっているかもしれません。とくに「内面の未熟さ」を繕うに足るものだと思い込んでいるものです。しかし求めているのはあくまでも他人から与えられたり欲したりするものですから、「内面の未熟さ」は克服できません。

 このとき主人公は自らの「内面の未熟さ」と改めて向き合うことになります。

 どのようにすれば「新世界」へ順調に漕ぎ出せるのか。

 しかし「ピンチ」は知らぬ間に主人公のそばへ近づいてきます。その「ピンチ」の存在を読み手へわずかに提起して憶えてもらうのです。

 今の精神的な「内面の未熟さ」によって主人公はどんな苦難と直面しているのでしょうか。




内面の未熟さに気づく

 主人公が自らの「内面の未熟さ」になんとなく気づいたら、知らず識らずのうちにそれに対処し始めます。それは些細な出来事イベントかもしれません。

 これまで拘泥していた「内面の未熟さ」に価値を見出だせなくなった主人公は、そこからの脱却を図ろうとするのです。

 これまでの「内面の未熟さ」によって変化しなかった環境・状況に対して、環境・状況に「ふさわしい心構えとはなにか」を模索し始めます。

 ここではまだ「内面の未熟さ」と「ふさわしい心構え」との板挟みになるのです。

「今のままの自分でもいいんじゃないか」「変わりたくない」という怠惰の声、「今変わらないと人生もよくならない」「変わるべきなんだ」という理性の声がせめぎ合います。

 そして「ふさわしい心構え」が主人公にとって「望ましい内面」なのだと気づく必要があるのです。

 気づきが得られれば、これまで出来事の受け手であった主人公が、一転して攻め手にまわります。これにより主人公は「能動性」を有するのです。

「内面の未熟さ」を行動で変えようと考えます。今までに欠けていた「望ましい内面」を手に入れるための行動です。

 この行動は物語の中でも「ど真ん中」に据えられます。

 ここで「望ましい内面」を手に入れることが、物語の「結末エンディング」つまりゴールと結びつくのです。

 そして「内面の未熟さ」を克服するための「ヒント」を手に入れます。それは脇役が助言をくれたからでしょうか。それともお手本を見せてもらったからでしょうか。神託があったのかもしれません。

「ヒント」には「対になる存在」との最終決戦へ挑むのに必要なものが列記されているのです。最終決戦の前に「内面の未熟さ」を克服していなければなりません。「ヒント」を提示して、主人公になにが足りていないのかを読み手へ知らせます。同じく主人公に対しても知らせるのです。そして主人公が「内面の未熟さ」に気づいてそれを取り除くべく行動を起こしてもらうのです。

 それをやろうとすれば、「起承転結」の「承」の機能が果たせます。


「推理小説」であれば、名うての警部が物的証拠と状況証拠の山を前にして思案に暮れていると、部下がなにげない「言葉」を口にします。すると警部がその「言葉」から「ヒント」を得て、推理の突破口を見つけ出すことになるのです。

 そうです。主人公は今までの「内面の未熟さ」を克服すべく「新世界へ船出」します。

「それから主人公は修行に励みました。」という一文で克服するなんてヘボなことはしないでください。こういう情報は「説明」するのではなく、実際になにをして克服しようとしているのか。その過程を読ませましょう。

 読み手は単に「結果」を知りたいのではなく、「結果に至る過程」が知りたいのです。その呼び水となるのが「気づき」であり「ヒント」でもあります。




連載小説の場合

 連載小説なら「主謎解惹」の四部構成ですから、第二部は「謎」の部分に当たります。「内面の未熟さ」を自覚して、「謎」の出来事イベントへ考えが及び至らないさまを書きましょう。

 たとえば「推理小説」において、ベタですが「密室殺人」が発生した現場で、刑事たちは「被害者はなぜ死んだのか」「どうやって死んだのか」「誰が殺したのか」という「謎」を背負うのです。

 この「謎」は情報が少ない今の段階で解けるはずがありません。「謎」を解くために情報収集(聞き込み)を行なうのが「謎」の大きな役割です。

 この段階で「謎」を解かないでください。ただし、捜査では便宜的に「謎解き」の種をひとつふたつ披露する必要があります。それさえもなければ「捜査陣は無能」というレッテルが貼られるのです。しかしいずれの「謎解き」も本質を突いていません。ここで犯人と犯行を完全に見極めてしまうと、以降の文章はただの字数稼ぎに堕してしまいます。

「解」の段階で「謎」を解くために必要なすべての情報は「謎」の段階で提示されるべきです。「解」の段階で新情報を出してはなりません。それは完全に「後出しジャンケン」であり、「推理小説」ではとくに忌避されます。

「謎解き」を楽しく読めるのは、「謎」の段階までで推理に必要な情報がすべて揃っているからです。

「今手元にある情報をどう組み合わせたら、事件の謎が解けるのか」

 これを書き手が答えを発表する前にああだこうだと考える時間こそ、推理小説ファン最大の楽しみであり「至福の時」だからです。




第二部では設定構築とヒントを

 四部構成の第二部である「承」「謎」において「内面の未熟さ」を抱えたまま、さまざまな出来事イベントが起こります。これに対応しながら、主人公は情報を集め、読み手に「設定」を提示し、世界観を構築していくのです。

 第三部である「転」「解」に必要な情報をすべて提示します。情報を集め終わったら。主人公はどこからか「ヒント」を得て「内面の未熟さ」に気づきます。今まで解決しそうになかった環境・状況が変えられるのではないか。そう思い始めるのです。

「内面の未熟さ」を克服して「望ましい内面」を手に入れたら、どんな展開になりそうか。どんな人物になりそうか。その一端を第二部のラストで披露してもかまいません。そうすることで、膨大な情報が詰まった「承」「謎」に、興味深い「惹きスパイス」を与えることができます。

 第二部終了直前の場面に強力な「惹きスパイス」を設けることで、後半へ向けてページをめくる手が止まらなくなるのです。

 ここで強力な「惹きスパイス」が設けられないと、第三部「佳境クライマックス」の「転」「解」が盛り上がらなくなります。


 物語開始時、第一部「起」「主」に出来事の渦中に放り込まれた主人公は、活動量が多くて活気があります。物語のピーク表でいえば、中ほどくらいまで高まっているのです。

 それが第二部「承」「謎」において「設定」を提示して世界観を構築し、主人公が数多くの情報をすべて集め終わるまで続きます。つまり物語のピーク表でいえば、どん底の状態なのです。

 もしどん底のまま第二部を終えてしまうと、読み手としては「面白くない」と感じます。

 そこで第二部のラストに強力な「惹きスパイス」を設けることで、物語のピーク表でいえばどん底から上昇カーブを描くのです。この上昇カーブが読み手の期待感を表しています。後半の展開にワクワクしてくる仕掛けが、第二部ラストの強力な「惹きスパイス」なのです。





最後に

 今回は「内面の未熟さに気づく」ことについて述べました。

 第一部では出来事イベントの渦中に主人公を放り込んでドラマチックな演出をしました。

 第二部に入ると一転して設定を提示して世界観を構築していく作業に移るのです。そして「設定」の提示と並行して主人公は情報収集し、第三部に必要な情報をすべて集め終わらなければなりません。第二部はこれほど多くの情報を読み手に与えなければならないため、どうしても中だるみしやすいのです。

 そこで第二部のラストでは強力な「惹きスパイス」を設けましょう。中だるみしていた文章が一気に引き締まり、読み手へ期待感を植え付けることになるのです。

 そして第三部の幕が上がります。

 強力な「惹きスパイス」のおかげで、読み手は先へ先へとページをめくる手が止まらなくなるのです。



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