805.構成篇:氏名、国籍、住所、年齢、経歴、役職

 今回は「履歴書」の中で変わる可能性があるもの、確実に変わるものについてです。

 まずは「氏名、国籍、住所、年齢、経歴、役職」を見てみましょう。





氏名、国籍、住所、年齢、経歴、役職


 人物の設定の中で一生を通じて変わるものもあります。

 その代表的な設定が「氏名」「国籍」「住所」「年齢」「経歴」「役職」「趣味嗜好」「目指すもの」「性格」「身長、体重、体つき、容貌」です。

 これらはいつどんなタイミングで変わるかわかりません。だからこそ、人物の履歴書キャラシート年表ストーリーラインに、いつ変わったのかを記載するようにしましょう。




氏名

 氏名(姓名)は生まれたときに授けられます。そして江戸時代までの日本なら、元服を迎えると改名するのです。明治以降は基本的に姓名の変更は限られた場合だけ認められています。

 まず「結婚」をすることで姓を変えられます。国会において「夫婦別姓」の議論がなされていますが、現在はまだ「夫婦同姓」が原則です。

 次に「襲名」が挙げられます。歌舞伎・能などの芸能分野、相撲などの神事においては名跡みょうせきを継いで名前が変わるのです。たとえば近々「市川海老蔵」氏が歌舞伎界の中心に位置する「市川團十郎」の名跡を継いで改名します。

 また「特別な事情」があると、役所で改名の手続きが行なえるようにもなっているのです。たとえば読みにくい漢字や俗にいう「キラキラネーム」を穏当な名前に変えることは判例で認められています。「キラキラネーム」によってイジメが起こることがあるからです。

 意外と知られていませんが、「同じ漢字であれば別の読みに改名することは比較的ハードルが低い」とされています。

 また会社やご近所付き合いなどで特定の氏名を名乗り続けている方は、その氏名に改名できるそうです。私が初めてこの制度を知ったときは十年使い続ける必要がありました。

 ただ、今は戸籍の名前を変えるのはそれほど難しくありません。

 生まれたときに他人が付けた姓名は、後になってある程度変えられます。

 だからこそ、氏名を変更したタイミングは履歴書に書き添えておくべきなのです。




国籍

「国籍」は生きている間に変わることもありえます。

 最もイメージしやすいのは「国際結婚」でしょう。日本国籍の女性とアメリカ国籍の男性が結婚したら、日本国籍かアメリカ国籍かいずれかを選ばなければなりません。日本国籍で生まれてきても、アメリカ国籍を取得して日本国籍を抜けるからです。

 基本的に日本国籍を選ぶと、他の国籍を放棄することになります。現在のところ日本の法律では二重国籍を認めておりません。国際化の現代においてもこの制度が変わらないのは、日本国政府の怠慢です。在留資格と税制上の理由かもしれませんが、組織が硬直しているような印象さえ受けます。

 またアメリカのグリーンカードのように永久滞在が認められれば「国籍」も取得できるのです。

 また名誉国民のような形で便宜上の「国籍」を授かることもあります。こちらは芸人の猫ひろし氏がリオ・オリンピックのマラソン種目へ出場するために「カンボジア国籍」を授かった例があるのです。

 このように「国籍」は変えようと思えばいくらでも変えられます。




住所

 住所はそうコロコロ変わるものではありませんが、重要な情報のひとつです。

 引っ越しをすることになった場合は一大イベントになります。

 住んでいる町はどこか。学校や会社へはどのように通っているのか。所要時間はどれほどか。近所に誰が住んでいるのか。茅葺屋根か木造住宅か鉄筋建築か。一戸建てかアパート・マンションなどの集合住宅か。それによって自然が豊かかどうか、またご近所付き合いのあり方も変わってくるのです。

 スタジオジブリの宮崎駿氏『となりのトトロ』が良い例ではないでしょうか。

 住所を定めるだけでわかることがかなりあります。

 青春をこじらせた人は、自分が好きになった異性の住所を探すなんていうストーカー行為をしませんでしたか。被害者はそう簡単に引っ越せないため、ストーカー被害は止めようがないのです。

 だからこそ、ストーカー行為は法律で禁止されています。




年齢

 前回にも話しましたが、連載小説の場合、だいたい数年単位の時間の経過を書くことになります。そうなると年齢も上がっていきますよね。

 だからまず物語開始時の年齢を決めておきましょう。そして時間を経るごとに一歳ずつ加えていけばよいのです。

 また人物の過去を決める際に、年齢がわかれば何年前に何歳だったのかを把握しやすくなるので、設定上の矛盾が出にくくなります。

 こちらはサンライズの安彦良和氏&富野由悠季氏『機動戦士ガンダム』と、安彦良和氏『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』でのザビ家の年齢が参考になるでしょう。国父ジオン・ズム・ダイクンを暗殺して施政権を簒奪したザビ家一党は、そのときに『機動戦士ガンダム』の年齢設定ではギレンもキリシアも中学生くらいの年齢でなければならないのです。中学生が暗殺するものですかね。ということで『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では年齢を高めて帳尻を合わせています。

 目聡い読み手は、頭の中に年表ストーリーラインを構築しており、そこに時系列を書き加えながら小説を読んでいるのです。時期が適正でなければ強烈な違和感を催します。これが『機動戦士ガンダム』のザビ家の年齢で顕著に見られるのです。

 だからこそ、小説が始まる前プレストーリーのことは年表ストーリーラインを構築して、「見える化」しておきましょう。

 とくに戦記もののように何十年にもわたる物語の場合は、年表ストーリーラインの「見える化」は必須です。




経歴(学歴・職歴)

 経歴は過去の積み重ねで構成されるため、現時点までのものは変えようがありません。しかしこれからのことはいくらでも変えていけます。坪田信貴氏『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』通称『ビリギャル』のように、今まで底辺だった人物が努力を重ねて難関大学に現役合格だってできるのです。

『ビリギャル』を考えるとき、まず「それまでの経歴」を書き出しておく必要があります。生まれてからどんな施設や学校に通って、どんな成績を収めてきたのか。それを書き出すのです。面倒くさいと思っても必ず書き出してください。「それまでの経歴」を確定させておくと、小説を書くときにキャラがブレません。

 これは「年齢」に登場した年表ストーリーラインが役に立つでしょう。

 三百枚から五百枚ほどの長編小説なら、ある程度の経歴がわかっていれば、矛盾しない物語が書けます。

 しかし連載小説なら、キャラの経歴をはっきりさせていないと、必ず矛盾が生じるのです。だから連載小説を書くのであれば、どんなに面倒でも経歴を履歴書に書き込みましょう。

「東大首席卒業」という一文だけで「相当頭がいいキャラなんだな」とわかります(マンガの大場つぐみ氏&小畑健氏『DEATH NOTE』の主人公・夜神月のように)。しかし履歴書の年表ストーリーラインに書いていないと、同じ年に卒業したはずなのに「東大首席卒業」がふたりも三人も出てくることがあるのです。

 平成二十二年に結婚したと思っていたけど、過去の原稿には平成二十三年に結婚したと書いてある、ということもよく起こります。

 これらは履歴書に経歴を記してあればすべて回避できます。だからどんなに面倒でも経歴を文字にして見直せるようにしておくべきです。

 と、ここまでが現実の履歴書と同じ。


 小説の履歴書はさらに「将来」の経歴を書き込みます。

 物語が進めば進学したり資格取得したり就職したり転職したり恋愛したり結婚したり家族が増えたり離婚したりするからです。それらの出来事も履歴書の年表ストーリーラインに書きながら物語を作らなければなりません。履歴書に書き込むことを怠れば、物語が進むにつれ矛盾が生じやすくなります。

 過去の経歴よりも小説が進むことで加わる経歴を漏れなく書くことのほうがより重要です。

 小説の土台を造るのは過去の経歴であり、すべての人物の経歴の上に物語が載っかります。物語を進展させるにはこれからの経歴が不可欠です。

 矛盾のない進展をさせるためには、履歴書に「未来の経歴」を書き込む手間を惜しんではなりません。

「小説賞・新人賞」で一次選考は通過するのに、二次選考を通過できない方は、えてして各キャラの「未来の経歴」に齟齬そごがあることが多い。まず文章を読んでいて違和感を覚えます。そこで経歴を書き出してみたら、噛み合っていないのです。矛盾のある小説を二次選考で通すわけにはいきません。

 もしあなたが一次選考止まりなのであれば、次の作品から「人物の履歴書キャラシート」で年表ストーリーラインを書いて過去の経歴だけでなく「未来の経歴」にも心を配ってみましょう。




役職

 経歴の中には役職が多く含まれるのです。先ほどの「東大首席卒業」もそのひとつ。

 会社務めの方はおわかりと思いますが、組織には必ず役職があります。

 新卒社員は平社員からスタートです。班長、係長、課長、部長、取締役(常務、専務、社長、会長)、顧問・相談役などですね。

 学校にも役職はあります。学級委員や図書委員、飼育係あたりはどの学校にもいるのではないでしょうか。

 軍事ものなら二等兵、一等兵、上等兵、伍長、軍曹、曹長、准尉、少尉、中尉、大尉、准佐、少佐、中佐、大佐、准将、少将、中将、大将、元帥という階級になります。「准〜」を設けていない組織もありますので、そこは注意してください。また田中芳樹氏『銀河英雄伝説』の銀河帝国側は大将と元帥の間に「上級大将」を置いているのです。

 ヘマをしなければ出世街道まっしぐらですが、一度でもヘマをすると降格や左遷もありえます。

 だからこそ、役職が変わったら都度「履歴書」の年表ストーリーラインに書き込んでおきましょう。





最後に

 今回は人物の設定において、変わるものについての前半を述べました。

「氏名、国籍、住所、年齢、経歴、役職」は最も基本的なことです。

 中でも「経歴」は矛盾が発生しやすいので、必ず年表ストーリーラインを作っておきましょう。



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