802.構成篇:履歴書を作る

 今回は「登場人物の履歴書を作る」ことについてです。

 これまでは「人物の設定は必要になったときに作ればよい」としてきました。

 ですが連載小説を書くとなれば話は別です。連載小説は長い時を経ますから、変わっていくものもあれば変わらないものも出てきます。それらの設定が今の時点でどうなっているのかがわからないと、連載している間に必ず矛盾が生じるのです。

 矛盾が出ないようにするには「履歴書」を書着ましょう。黒髪の人物が金髪になってしまうことを防げます。





履歴書を作る


 これまで「登場人物キャラクターの設定は必要なときに必要なところだけ作ればよい」と書いてきました。

 しかしワンランク上の書き手になるためには、「登場人物の履歴書キャラ・シート」を作成しておくべきです。

 ある程度長編小説を書き慣れてくると「登場人物の履歴書キャラ・シート」がなくても三百枚の作品を矛盾なく書けます。しかし連載小説となったらどうでしょうか。

 とくに「紙の書籍」化された際には、あなたの長編小説は連載小説に変わります。その際、最初の一、二巻は書き手の記憶力だけでなんとか乗り切れるでしょう。しかし三巻以上書くときは、書き手の記憶力だけでは矛盾が生じてしまう可能性が高い。

 連載小説に求められるのは「登場人物の履歴書キャラ・シート」を作って管理する能力です。




登場人物の履歴書はプロファイル

登場人物の履歴書キャラ・シート」と書いていますが、要はプロファイルすることです。

 主人公には家族がいて、祖母と父と母と妹との五人で一軒家に住んでいる。

 家族との関係はどうなっているのか。厳格な父から厳しく躾けられてきたのか、寛容な祖母から可愛がられてきたのか。妹はなんでも器用にこなす優秀な人物なのか。

 住んでいる町はどんなところか。何県何市のどこでしょうか。

 通っている学校や職場はどのようなところにあるのか。そこでの役職や成績はいかほどか。通勤通学には片道何時間何分かかり、電車かバスか自家用車で通っているのか。

 どんなものに興味があり趣味にしているのか。特技はなにか。

 取り組んでいるスポーツや資格試験などはどんなものか。

 どこの学校出身で偏差値はどの程度か。どのクラブに所属しているのか。

 身長や体重、体つき、容貌、髪や瞳や肌の色、血液型、生年月日は。

 誕生日に祝ってくれる友達や仲間はどのくらいいるのか。

 誰のことが気になっているのか、好きなのか、愛しているのか。片想いなのか両想いなのか。

 最先端技術に詳しいのか疎いのか。

 使っている携帯電話はどこの製造元のフィーチャーフォンなのかスマートフォンなのか。

 よく聴く音楽はどのジャンルのなんという歌手や作曲家の楽曲なのか。

 地域のコミュニティにおいてどんな役目を負っているのか。

 等々、決めるべき項目は多岐に及びます。


 これらを決めておけば、連載小説でキャラ設定のブレはなくなります。

「長編小説」ではこれらを書き手の「記憶」だけで書き分けられました。しかし「連載小説」では時間の経過が長いため、一度決めた設定がどうしても思い出せなくなったり、途中で設定が変わっているのにそれを忘れて古い設定を書いてしまったりするのです。

 読み手に統一されたキャラクターの情報を提示することが、書き手の義務だと心得てください。




小説は人と人とのぶつかりあいで出来ている

 小説は人間の本質を掘り下げる芸術です。そこには人と人とのぶつかりあいが避けて通れません。それこそが小説の醍醐味なのです。

 人と人が出会えば、そこに「ドラマ」が発生します。一目惚れかもしれませんし、不倶戴天の敵かしれません。いずれの場合も、そこから物語が広がっていき、エピソードが作られるのです。

 エピソード作りとは、突き詰めると「出会い作り」だと言えます。

 エピソードが面白くなるか否かは「出会い作り」で決まるのです。

 主人公と「対になる存在」との性質が正反対であればあるほどエピソードは盛り上がります。あらゆる面で主人公は「対になる存在」と対極に位置するため、出会えば多くの面でぶつかりあうことが確実です。

「純文学」「文学小説」はとくに正反対な人物の対立を描きます。

 芥川龍之介氏『蜘蛛の糸』では主人公である地獄に落ちた罪人カンダタと天界のお釈迦様との対比で成り立つのです。

「エンターテインメント小説」では属性の異なる人物の対立がキモです。

 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』はSF戦争ものなので、銀河帝国側の主人公ラインハルト・フォン・ローエングラムと、自由惑星同盟側の主人公ヤン・ウェンリーはともに軍人です。ラインハルトは権力志向の美貌の野心家であり、ヤンは歴史家志望の冴えない文民統制下の中尉さんといった趣きを持っていました。そういう意味では反対の性質を持っていたとされます。

「恋愛小説」では基本的に「男性」と「女性」が主人公と「対になる存在」になります。『シンデレラ』だって継母や義姉たちから下女扱いされる女性シンデレラと、すべての女性が憧れる男性の王子による物語です。

 ウィリアム・シェイクスピア氏『ロミオとジュリエット』は仇敵の家に生まれた男性ロミオと女性ジュリエットによる悲しい恋愛劇であることは言うまでもありませんね。

「ライトノベル」では勇者と魔王、勇者と追放者、凡人と天才、兄と妹といった対立が作品を彩ります。こちらは皆様がよく読まれていると思いますので、今さら言及するまでもないでしょう。

 このように、小説が主人公と「対になる存在」との対比によって成り立つのであれば、可能なかぎり正反対なキャラ作りをしたほうが対比がより際立ちます。

「学園もの」では生徒と教師、男子と女子、底辺と頂点といったキャラ作りがありますが、脇役にいずれかの対比要素を振り分けることで、登場人物の存在に必然性を生み出せるのです。

「ライトノベル」で「剣と魔法のファンタジー」の他に「学園もの」が人気なのは、読み手の主要層と同じことの他に、対比要素を作りやすいからだと思われます。




物語が進むと変わるものと変わらないもの

 履歴書キャラ・シートを作るとき、意識しておきたいのは「物語が進むと変わるものと変わらないものがある」ということです。

 生年月日は変わりませんが年齢は変わります。血液型(例外があります)や星座は変わりませんから占いの結果も変わらないのです。髪を切っていなければショートヘアがロングヘアになります。勉強をしていれば学力やスキルが向上し、スポーツをやっていれば筋力やテクニックが向上するのです。

 どの学校に通っていたのか。どのキャラと幼馴染みなのか。いつ頃からその人のことを好きになったのか。好きになったきっかけは何か。そういったものも決めてください。

 心を寄せる人物も、以前はAさんだったのに、今はBさんに心変わりすることだってありえます。

 以前は性別も変わらないものでした。しかし今ではLGBT運動により戸籍上の性別を変えられるようになりました。婚姻関係相当と扱って同性を人生のパートナーにして遺産相続などの対象とすることも、地域によっては可能です。

 人間関係も親子などの血の繋がり(血脈)は変えられませんが、養子縁組や両親の結婚や再婚によって家族に加わる。友人や仲間や敵は物語が進むと立場も変わるかもしれません。

 名前も結婚すれば名字が変わる人がいますし、襲名することで名前のほうも変わる人がいるのです。

 過去の経歴は変わりませんが、これから加わる経歴は起こる出来事イベントによって変わってきます。

 写真を付ける代わりに身長や体重や面立ちや髪型、肌と髪と瞳の色などを書きましょう。これらのうち身長、体重、面立ち、髪型は変わるものであり、肌と髪と瞳の色は変わらないものです。(髪の色は染めれば変わりますし、肌の色も昔はガングロと呼ばれる黒っぽい顔が流行りました)。

 通常の履歴書では書かない「性格」も書いておきましょう。もちろん性格はたやすく変わるものなので、履歴書を書いた時点の性格でかまいません。


 プロファイルの項目が思いつかなければ、市販されている履歴書を用意しましょう。

 それに書き込むだけでも、かなりの情報をひとまとめにできます。

 その他に、変わる情報を書いておく「ストーリーメモ」か「年表ストーリーライン」をキャラクターぶん用意してください。


 物語ストーリーが進むとキャラクターに影響を与えます。それによってキャラクターが変化するのです。そのような出来事を余さず「ストーリーメモ」「年表ストーリーライン」に書き加えていけば、いつどの段階からそのキャラクターはそうなったのか一目瞭然で、管理がしやすくなります。性格や境遇の変化なども「ストーリーメモ」「年表ストーリーライン」に書いてあれば把握しやすくなるのです。


 キャラクターは物語が始まったときにその年齢で生まれてくるのではなく、「その物語の中ですでにその年齢ぶんの人生を歩んできたのだ」ということを忘れないようにしましょう。

 そうすればキャラクターの線が太くなり、ブレなくなります。





最後に

 今回は「履歴書を作る」ことについて述べました。

 私は当初「登場人物キャラクターの設定は必要になったときに作ればよい」と書きました。

 それは三百枚の長編小説では事実です。

 しかしそれを大きく超える連載小説を書く場合、履歴書キャラ・シートがないとキャラの特徴や経歴をすべて憶えきれるものではなく、結果として情報がブレてしまうことになります。

 たとえば田中芳樹氏『銀河英雄伝説』において、すべての登場人物キャラクターを「必要になったときに作ればよい」で書けば、必ずや人物像がブレてしまうでしょう。

 瞳の色、髪の色、髪型、容貌、体躯などの特徴ですら、全員ぶんを記憶しておくことなど常人にできはしません。

 まったく同じ設定の人物が複数登場していたら気をつけてください。同じ役回りの人物はひとりに集約させるべきです。長編小説なら登場人物キャラクターの設定を憶えていられるので、こういった重複が起こることはまずないでしょう。

 ですので「三百枚の長編小説を書くときは、登場人物キャラクターの設定は必要になったときに作ればよい」「連載小説を書くときは、履歴書キャラ・シートを作ってひとりずつ管理すればよい」のです。



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