797.回帰篇:読み手の理解力は高くない

 今回は「読み手の理解力」についてです。

 書き手は自分の知識が平均的だと思い込みます。

 だから「読み手もこのくらいのことはわかっているだろう」と独り合点して表現を割愛してしまうのです。

 すると読み手はなんのことだかわからない、ということが起こります。

「読み手の理解力」はあなたが思っているよりも高くないのです。

 噛んで含めるように説明を尽くしてください。





読み手の理解力は高くない


 小説を好んで読む方は「理解力」「読解力」が高いと思われがちです。

 しかし実際の読み手の「理解力」「読解力」はそれほど高くありません。

 まずこのギャップを理解してください。

「この書き方だと読み手に伝わらない」「この言葉の意図するところがわからない」ということがあるのです。

 これは学校の現代国語の授業を見てもわかると思います。もし多くの読み手が正しい「理解力」「読解力」を有しているのならどうなるでしょうか。クラス全員、学年全員、学校全体で、まったく同じ「理解力」「読解力」を有していており、試験は必ず全員が満点になるはずです。しかし実際にはそんなことは起こりえません。

 それは「理解力」「読解力」には個人差があり、それほど高くない人のほうが多いからです。




読解力の低い方に向けて書く

 小説を書くとき、「読解力」の低い方に合わせて語彙選びや言い回しを考えてください。

 元々「読解力」の高い人に向けて執筆すると、難しい語彙や言い回しが多用され、どんどん難解な小説に仕上がってしまいます。

 そうなると「読解力」に自信のある方さえも二の足を踏むのです。

 わざわざ自分から読まれない理由を作っているようにさえ映ります。

 もし「読み手は読解力が低い」んだという前提で小説を書けばどうなるのでしょうか。

 誰にでもわかる語彙や言い回しで書かれているため、誰でもすらすらと読めます。そして読み間違えられることもなくなるのです。つまり誰もが同じ情景、同じ人物像、同じ人間関係を思い浮かべられます。漢字の割合が減り、カタカナ言葉の割合も減り、紙面の濃淡がほどよい具合に整うのです。

「このくらいなら読み手はわかってくれるだろう」「この文章で伝わるだろう」と慢心してしまうと足をすくわれます。

 読み手はあなたと同じくらい「読解力」があるわけではないのです。とくに文章のやりとりでは。

 あなたと同じ「読解力」があるとしても、より丁寧に書かなければ誤った内容が伝わってしまうこともあります。だからメールにしてもSNSにしても、「話すように書く」のではなく、「書き言葉で書く」必要があるのです。

「書き言葉」は話し言葉よりも丁寧に書きます。いつもメールのやりとりをしている方に対しても、面と向かって話すよりも恭しい文章を書かなければ、あなたは文章で相手に失礼を働くかもしれません。

 だから「読み手は読解力が低い」ことを念頭に置いて、よりわかりやすい文章を目指しましょう。

「文豪」のような難解な語彙に憧れる気持ちもわかります。しかしその憧れが、あなたの小説の読み手を減らしてしまうのです。

 今は「文学小説」より「ライトノベル」が売れる時代になりました。より多くの人に読んでもらい、楽しんでもらいたいのなら、「あなたよりも読解力の低い方」向けに書くべきなのです。

 あなたが「文学小説」の「小説賞・新人賞」を目指しているのであれば、難解な文章を含蓄する書き方も「あり」でしょう。ですが「ライトノベル」の「小説賞・新人賞」を狙っているのであれば、平易でわかりやすく多くの方が楽しんで読める文章を目指すべきです。




論理の飛躍をなくす

 惰性で文章を書いていると「論理の飛躍」も生まれます。

「AはBである。BとCは似ている。よってAはCである」

 これが論理の飛躍です。基本的な三段論法に見えますが「BとCは似ている」のであって「同じ」ではないのです。だから「AはCである」と断定できません。

 三段論法は「AはBである。BはCである。よってAはCである」が正しいのです。数式に直すと「A=B B=C よってA=C」となります。

 改めて比べてみれば違いは一目瞭然ですよね。でも惰性で書いていると、つい「論理が飛躍」してしまいます。

 ぼうっとしながら漫然と小説を書いていると、三段論法のはずが「AはBである。BはCである。よってAはDである」や「よってCはDである」のように三段論法にすらなっていない文章を書きがちです。


 似たようなものに「新幹線と旅客機のどちらに乗るほうがいいですか。」と聞かれて「新幹線を使うべきだと思います。なぜなら新幹線のほうが空気が綺麗になるからです。」と答えるものがあります。

 このような場合、双方の「長所」と「欠点」を並べてから、どちらの「長所」と「欠点」のほうが有利だからそちらを選ぶという論理展開が必要です。

 改めるなら「新幹線を使うべきだと思います。新幹線は時間こそかかりますが電気を使って動いているので大気を汚しません。旅客機は短時間で到着しますが、ジェット燃料を使用しているので大気を汚染します。環境のことを考えるなら新幹線を使うべきです。」と書きます。ちゃんと双方の「長所」と「欠点」を書いて、どの点をもってそちらを選んだのか。

 これで論理がはっきりとしました。

 文章にも構成があり、そこに飛躍があってはなりません。

 ただし、これは「論理の飛躍」であって「時間の飛躍」ではないのです。


「時間の飛躍」は「あれから一週間経った。」「あれから一年経った」のような文を挟めば解消します。この飛躍した時間の中に「論理」が含まれている場合は、このような文を挟んでも「論理の飛躍」が発生するのです。その場合、挟む文の前か後に「論理」を書いておきましょう。

 たとえば「次の冒険は一週間後である。皆はそれぞれの家へと帰っていく。あれから一週間経った。その間ヨシヒコは武器屋で聖剣と名高いグラムを買っていた。今回の冒険は聖剣グラムの初披露の場となるだろう。」という文章なら論理は飛躍していませんよね。それがもし「次の冒険は一週間後である。皆はそれぞれの家へと帰っていく。あれから一週間経った。今回の冒険は聖剣グラムの初披露の場となるだろう。」と武器屋で買った事実を消してしまったらどうでしょうか。聖剣グラムはどこから手に入れたものなのか、読み手にはわかりませんよね。これでは論理的な文章とは言えません。

 ですが「小説の文章」としては、これでも「あり」なのです。なぜなら「聖剣グラム」の入手経路がわからないので気になりますよね。どうやって入手したのか。一週間の中で試練に赴いて授かったものかもしれません。上記のように武器屋から買ったのかもしれません。名も知れぬ瀕死の聖騎士から託されたのかもしれません。

 この「気になる」が小説を読み進める原動力となります。こういう意図があるのなら「小説の文章」は「あえて論理を省いて説明は後回しにする」ことも可能なのです。




読み手の理解度を理解する

 さて、不思議な一文が出てきました。「読み手の理解度」を理解するのです。

 小説を書いているときは「読み手が今どのくらい作品を理解しているのか」ということをわきまえている必要があります。そうしないと正しく伝わる小説は書けないのです。

 小説の「書き出し」での「読み手の理解度」はどのくらいあると思いますか。

 この問いを間違える方はいらっしゃらないでしょう。

 念のために書きました。答えは「理解度はゼロ」です。まったく理解していません。なにも知らないのですから、読み手にどの情報をどの順番で与えればいいのかを考えていきましょう。


 小説で最初にやらなければならないのは「主人公を登場させる」ことです。主人公は読み手が感情移入する相手ですから、小説が始まってすぐに主人公を出しましょう。

 ただ出すだけでは感情移入できません。そこで、何度も繰り返していますが「出来事イベントの渦中に放り込んで」ください。主人公を動かしながら周囲の情景や状況を少しずつ書いていけばいいのです。そうすれば自然と読み手は主人公に感情移入し、どんな世界のどんな物語なのかを正しく理解できます。

 これで「読み手の理解度」は増しました。「目的地」である「結末エンディング」にひとつ近づけたのです。

「今、読み手はどのくらい物語を理解しているのだろうか」と確認しながら執筆をしていきましょう。





最後に

 今回は「読み手の理解力は高くない」ことについて述べました。

 読み手がどれほどあなたの小説を理解しているのか。それを把握したうえで小説を構成していきましょう。

 今、読み手がどのくらい物語を理解してくれているのか。これがわからなければ、「論理の飛躍」した文章を書いてしまうのです。

 ですが小説は「論理の飛躍」を「読み手の興味を惹きつける」ために使えます。

 このあたりはかなり計算が必要になるのです。そのため、意識して書けるようになるためには、何本も小説を書くしかありません。ですが、初めから意識して書く努力をすれば、「読み手の理解力」を把握しながら、正しく小説が書けます。



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