789.回帰篇:かけた時間と質は比例しない

 今回は「時間効率」についてです。

 時間をかけたから質が高くなるとは限りません。

 時間の密度を高めなければ「ただ時間をかけただけ」で終わってしまいます。

 前回の「同時に複数のことをしない」ことは、「時間の密度」を高めるためです。





かけた時間と質は比例しない


 一方で時間が有り余っているニートの方が小説を書いたとします。

 もう一方で学業や仕事で執筆する時間がほとんどとれない方が小説を書いたとします。

 では問題です。どちらの書く小説のほうが質が高いのでしょうか。

 答えは「わかりません」。

 投げやりになっているわけではありません。

 小説は執筆にかけた時間と質が比例する作業ではないからです。

 ニートが時間をたっぷり使って書いた小説と、学生や社会人が手隙の時間を見つけて書き溜めた小説では、どちらのほうが質が高いかは読み比べるまで誰にもわかりません。




かけた時間の密度を高める

 ここで前提条件をもう一回見てみましょう。

 ニートは「時間をたっぷり使って書いた」のに対し、学生や社会人は「手隙の時間を見つけて書き溜めた」のです。

 どちらのほうが時間をかけたのかは一目瞭然。

 ですが現実は、ニートの書いた小説の質が悪く、学生や社会人の書いた小説の質が高いことが多いのです。

 なぜだかわかりますか。

「時間の密度が異なる」からです。

 たとえばニートが八時間執筆にあてていたとして、ただ漫然と書いていただけでは「普通の小説」にしかなりません。しかし学生や社会人が帰宅後一時間だけを執筆にあてて集中して「時間の密度」をニートの八倍に高めれば、かけた「時間換算」ではまったく等しくなります。まぁ八倍はさすがに現実的ではないのですが。

 ニートが八時間執筆すると書きましたが、テレビを観たり音楽を聴いたりゲームをしたりして、実際に八時間をすべて執筆に費やすということはまずありません。実際に小説を書いているのは正味二、三時間がいいところです。であれば学生や社会人はまとまった時間をできるだけ多く確保しつつ、時間の密度を二、三倍に高めれば対等に戦えるということです。

「時間の密度」を高めるにはどうすればよいのか。

 集中力を高めることです。

 前回にもお話ししましたが、他のことと同時並行で執筆するより、執筆することだけに集中してください。

 たとえば学校の宿題や会社の持ち帰り仕事で毎日二時間とられてしまう方は、そういったものを一時間の枠内で終わらせるように集中力を高めましょう。そして残った一時間で小説を書くことに集中するのです。そうすれば自宅で使える二時間の中で執筆する時間を生み出せます。

 もはや「かけた時間と質は比例しない」ことは明確ですね。




密度を高めるための要領

 今まで二時間かかっていたことを一時間に圧縮するのはとてもたいへんです。

 でもこれができないかぎり、学生や社会人は執筆時間を確保できません。

 どうすればよいのでしょうか。

 同時並行で取り組もうとしてはなりません。必ずどちらの質も下がります。

 ひとつの作業に複数の意義を持たせることで、時間あたりの密度を高めるのです。

 英語の宿題なら、単語を憶えることと発音を憶えることと文法を憶えることというのが大筋でしょう。それなら文法の勉強に覚えるべき単語を含めて、出来あがった文章を音読してください。どうですか。これまで別々に行なっていた作業がたったひとつのことに集約してしまいました。

 国語の宿題も、漢字を憶えることと読み方を憶えることと用例を憶えることが主です。それなら憶えるべき漢字で例文を作成し、出来あがった文章が読めたらそれでよい。こちらもひとつに集約できました。

「時間の密度」を高めるには、課題となっている複数のことをできるだけひとまとめにして作業量を減らす「要領」を身につけることです。


 あなたの周りに「要領のよい方」はいませんか。たとえばあなたのお母様をご覧になってください。食材を買ってきて毎度の食事を作る、洗濯して干してたたむ、掃除をして清潔さを保つ。これらを「要領よく」こなしています。「要領のよい方」はひとつの作業で空いた時間を見つけてはそこに集中して別のことをしているのです。

 たとえば家族の朝食と作って食べさせて弁当を持たせて学校や職場へ送り出します。すると次の食事は昼食になりますからそれまで時間が空きます。

 そこで洗濯を始めるのです。汚れ物を洗濯機に放り込んで洗剤を入れたらスイッチオン。すると洗濯が終わるまでに時間が空きます。昨日干して乾燥した洗濯物をたたんで各自の部屋へ持っていくのです。するともう少し時間が空きますので、とりあえず掃除を始めます。掃除は基本的に掃除機とフローリング磨きとゴミ拾い、つまりどんなに短い時間でも取り組める作業です。掃除がある程度済むと洗濯が終わりますので、シワにならないうちに衣類を干します。干し終わったら食料品や日用品を買い出しに出かけるのです。帰宅したらたいてい昼食どきですから、昼食を作ります。食べ終わると掃除の続きを行ない、お風呂掃除をするのです。それが済んだらやっと一息つけます。

 たいていの方はここでテレビを観て楽しんでことでしょう。この時間で小説を執筆している方もおられるはずです。そうこうしていると子どもが帰ってくる時間になりますので、夕食の準備にとりかかります。このとき夫の晩ご飯のぶんも作っておけば食後に行なう作業を減らせます。

 子どもをお風呂に入れさせている間に食器を洗うのです。その後自分もお風呂に入ります。

 ここから夫の帰宅までに空き時間が生じるのです。この時間でテレビを観て過ごすのか、小説を執筆するのか、さまざまなことができます。

「要領のよい方」は「何もしない時間を作らない」こと、つまり「時間の短縮」に長けているのです。

 一見すると「同時並行」しているようですが、それぞれに「空き時間」が存在するからシングルタスクでも器用にこなせます。

 家事は行なう順番を決めておけば、すべてをまとめて「ひとつの作業」にできます。ひとつの時間に複数の意味を持たせる。これが「時間の密度」を高めるということです。


 それに対して「スマートフォンを見ながら道路を歩く」ことは「同時並行」になっています。どちらも満足にできていません。スマートフォンを見るために液晶タッチパネルを眺めているので、周囲になにがあるのか、ぶつかる寸前になってようやく気づきます。そんな状態で道路を歩けば、どうしても歩く速度が遅くなります。つまりどちらも満足にこなせないのです。それなのに「ながらスマホ」は跡を絶ちません。これではあまりにも時間がもったいなさすぎます。事故に巻き込まれる方、起こす方は年々増加し、もはや社会問題です。

 歩くなら歩く、スマートフォンを見るなら立ち止まって確認する。それだけで効率がよくなります。「ながらスマホ」は「歩く」と「スマートフォンを見る」を「ひとつの作業」にしている錯覚に陥っているだけなのです。

 あなたが今歩きながら、運転しながら本コラムをお読みであれば、いったんスマートフォンをしまいましょう。そして事故に巻き込まれないよう、起こさないよう身の安全を確保してください。

 ライブを観に行って、ただ演奏を楽しんで帰るだけではもったいない。セットリストを控えておけば携帯音楽プレイヤーにライブの楽曲を順番に組むこともできます。またどんなライブだったのかもSNSやブログに書き込んでシェアできるのです。

 ひとつの行動に複数の意味を持たせて「時間の密度」を高めましょう。





最後に

 今回は「かけた時間と質は比例しない」について述べました。

 小説は執筆にかけた時間と内容の質が比例することはありません。

 のんべんだらりと「ながら執筆」をしている人と、一時間集中して執筆している人と。どちらが質のよい小説になるのでしょうか。

 時間をかけるときは集中して密度を高めてください。脇目も振らず一意専心することで、「時間の密度」を高められます。

 ついでに「要領をよくする」ことに取り組んでください。時間を有効活用するには、それをする時間を生み出す「要領」があるのとないのとでは雲泥の差です。



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