788.回帰篇:同時に複数のことをしない

 今回は「同時に複数のことをしない」ことについてです。

 執筆効率を上げたければ、執筆だけに集中すべきです。

「音楽を聴きながらのほうが筆が乗る」とおっしゃる方もいます。しかしそれは錯覚です。





同時に複数のことをしない


 小説の執筆時に、テレビをつけっぱなしで書ける人と書けない人がいます。

 書けない人が劣っているわけではありません。書ける人がすぐれているわけでもありません。

 その人その人で脳に傾向があるからです。




マルチタスキング

 物事を同時にいくつもこなせる人がいます。

 よく「女性脳」と呼ばれるもので、「マルチタスキング」にすぐれた脳力です。

「マルチタスキング」つまり「並列処理能力」にすぐれているため、なにかをしながら別のことができます。

 履歴書キャラシートや資料を読みながら小説を執筆していくことにも長けているのです。

 ひじょうに効率のよい執筆手法であり、履歴書キャラシートや資料を頻繁に読む必要がある歴史小説・時代小説・推理小説などを書く際に威力を発揮します。

 反面履歴書キャラシートや資料よりも世界観の作り込みが重要となるファンタジー小説やSF小説などでは、作り込みの底が浅くなりがちです。

 また複数の人物が同時に別々のことをしているような場合や、複数の人物の経歴を矛盾なく構築できるのも「マルチタスキング」にすぐれた書き手へ有利に働きます。

 よい方向に働けば、同じ時期に複数の小説を連載できるのです。

 普通の方は一本の小説を連載するだけでも難しい。複数を難なくこなせる方は、同時に複数の「小説賞・新人賞」を狙ってみるのもありです。

 悪い方向に働くと、作品ひとつひとつの底が浅くなってしまいます。

 本来ならひとつの作品を奥深く作るべきなのですが、同時にあれこれやっているうちに、深く考えられなくなるのです。

「マルチタスキング」にすぐれた方は、同時になにかをするのではなく、ひとつのことつまり小説を一本書くことだけに集中するようにしてください。

 テレビを観ながら、ラジオや音楽を聴きながら、履歴書キャラシートや資料を読みながら。そういった「ながら」をやめるのです。

 現代は「ながら」をする人が圧倒的に多い。音楽を聴きながら、スマートフォンを操作しながら、歩いたり自転車に乗ったり自動車を運転したり。「ながら運転」で事故を起こす人が跡を絶ちません。

 小説を書くときも気分が乗らないからとクラブ・ミュージックを聴いたり、文学小説を書くためにクラシック音楽を聴いたり。「ながら」をしなけば小説が書けないと「思い込んで」しまうのです。

 そう。すべては思い込みなのです。

「マルチタスキング」にすぐれているとはいえ、人間には脳がひとつしかなく、意識もひとつしかありません。もし意識が複数ある方は「精神疾患」の可能性がありますから、心療内科へ行くことをオススメします。

 どのようにして「マルチタスキング」を実現しているかというと、その人の中にある「インターバル」で音楽を聞く、小説を書くを高速で切り替えているだけです。つまり切り替えが速すぎるため同時にこなしているように見えるだけ。だから小説を書く集中力が減衰して作品の底が浅くなってしまうのです。

 では「マルチタスキング」能力のある方が奥深い小説を書くにはどうしたらよいのでしょうか。

「シングルタスク」の説明をしたあとに答えを書きます。




シングルタスク

 ひとつのことに集中してのめり込んでいく人がいます。よく「男性脳」と呼ばれるもので、「シングルタスク」にすぐれた脳力です。

「シングルタスク」脳力では同時にひとつのことしかできません。「マルチタスキング」脳力のある人のように複数のことを同時に行おうとすれば、注意力が散漫になってどれもまともにやり遂げられなくなります。(かくいう私も「シングルタスク」です)。

「マルチタスキング」の説明の際に「ながら」を挙げましたが、「ながら運転」をして事故を起こす人のほとんどは「シングルタスク」の人です。

 つまりスマートフォンの画面に注意がいって、その間は周りが見えていません。すでに道路には人が歩いていたことさえ気づきもしないのです。


 実はこれ「マルチタスキング」の人も同じなのです。先ほども説明しましたが、「マルチタスキング」は複数のことを「インターバル」で高速に切り替えて行なっているだけ。つまりスマートフォンに意識が向かったときには周りが見えていないのです。そのわずか〇.数秒で事故が起こります。

「シングルタスク」の方が小説を書く場合は、事前に履歴書キャラシートと資料を読み込んで記憶しておかなければなりません。執筆しながら履歴書キャラシートや資料を読んでいると、集中力が途切れてなかなか先へ進めないからです。これから書こうとしている場面シーン状況シチュエーション(時間や場所や天候など)、登場人物を把握しておかなければ、適切な場面シーンを執筆できません。

 そのため、場面シーンを書く前に「箱書き」をしっかり書いて、いつでも状況や登場人物を把握できるようにしましょう。そうすれば何度も履歴書キャラシートや資料に目を通す必要がなくなります。

「シングルタスク」の方は、執筆だけに集中してください。

 音楽を聴いたりテレビを観たりして執筆しようとしても、注意力が散ってしまい書けるはずがないからです。




時間という概念を取り払う

 実は「ながら」は「時間」という概念が意識の中で強くなったときに発生します。

 歩いているときに「時間」が気になってついスマートフォンを取り出して確認したくなるのです。

「ながら」を起こさないためには、「小説を執筆することだけ」に集中してください。

 音楽も聴かず、テレビもつけず、スマートフォンの電源も落としておくのです。カチコチ鳴る時計も無くし、カーテンも遮光性のあるものにしましょう。とにかく「時間」の経過を意識してしまう要素はすべて排除してください。

 こうして「時間」の概念を取り払えば集中力が研ぎ澄まされます。「小説を執筆することだけ」に集中できるのです。あなたが思っている以上に執筆の集中力が高まります。

 強く集中している間は、物事を深く考えられるようになっているのです。

 そうです。

「マルチタスキング」の方が奥深い小説を書くには、「時間」という概念を取り払う必要があります。

 そうすれば、微細な物事、状況シチュエーション、人物、人間関係など。すべての書き分けが深くなるのです。

 もしあなたが「小説賞・新人賞」で一次選考を通過するだけで二次選考に残れないのであれば、「時間」という概念を取り払ってみましょう。そうすれば二次選考を通過できるだけの質が担保できるはずです。




心を解放する

「時間」の概念を取り払うと集中力が研ぎ澄まされます。 

 そしてその間は「心が解放される」のです。

 誰しも本当の自分と向き合うのは怖いと思います。ですが「心を解放」して本当の自分と向き合ってみてください。

 本当のあなたはなにを書きたいのか。どのようなものを書きたいのか。それを心の奥底から拾い上げるのです。

「文豪」は尊敬されるほど小説の質が高い。彼らが活躍した時期には「時間」を意識させるものが部屋に差し込む太陽光くらいのものだったはずです。

 それに比べて現代は「時間」を意識させるものであふれています。だから「意図的」に「時間」の概念を取り払って「心を解放する」のです。この状態になれば、あなたも「文豪」並みの表現ができるようになります。





最後に

 今回は「同時に複数のことをしない」ことについて述べました。

「複数のことを同時にこなせる」と思い込んでいる方はかなりの数にのぼります。

 しかし本当は短い「インターバル」で高速に切り替えるだけなのです。脳が著しく疲れます。そんな状態で奥深い小説は書けません。

 まず「ながら」「マルチタスキング」ができないように、「時間」の概念を取り払ってみましょう。そうすればあなたの「心が解放され」て、より深く表現できるようになります。



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