787.回帰篇:理想とする書き手を見つける

 今回は「理想とする書き手」についてです。

 あなたの作風は「理想とする書き手」に近寄っていきます。

 完全に独自の作風で書きたければ、ゼロからひとりで「これは伝わった」「これは伝わらない」と学びましょう。

 ですが、最初はやはり「理想とする書き手」を師匠としたほうがレベルアップは早いはずです。





理想とする書き手を見つける


 小説を書こうと志す方は、たいてい「理想とする書き手」を持っているものです。

「こんな物語が書けるようになりたい」「こんな言い回しができるようになりたい」「こんな書き手になりたい」という具合に。

 では「理想とする書き手」はどのような人がよいのでしょうか。




大好きな作品はありますか

 あなたは「この作品が大好きだ」という小説を持っていますか。

 そういう作品を持っていないと、「小説を書く」だけでとても苦しむのです。

 私は『アーサー王伝説』関係の書籍が好きでした。その後、藤川桂介氏『宇宙皇子』、水野良氏『ロードス島戦記』に出会い、田中芳樹氏『銀河英雄伝説』の順で好きになりました。

 そんな中で出会ったのが冴木忍氏『〈卵王子〉カイルロッドの苦難』という小説です。この作品、一見して普通の「剣と魔法のファンタジー」ものなのですが、読んでみると強く心を揺さぶられます。それまで読んできた「剣と魔法のファンタジー」はたとえば神坂一氏『スレイヤーズ』のように読んでスッキリするタイプのものが多かったのです。しかし『〈卵王子〉カイルロッドの苦難』はひたすら重い。主人公の性格も当初は結構軽いのですが、物語が進むにつれ自分自身と向き合うことになって深く考えるようになります。そして衝撃的な「佳境クライマックス」と「結末エンディング」は涙なしには語れません。この小説は電子書籍化されていないので、今も手元に『紙の書籍』として持っています。

 その後、水野良氏『魔法戦士リウイ』、賀東招二氏『フルメタル・パニック!』にも夢中になったのですが、私の心に与えた衝撃インパクトの強さは『〈卵王子〉カイルロッドの苦難』が最も高かったのです。

 となると、私は『アーサー王伝説』『ロードス島戦記』が大好きというより、『〈卵王子〉カイルロッドの苦難』が大好きなのではないかと思います。


 では皆様にとって「大好きな作品」はなんでしょうか。すぐに思い浮かびますか。

 私のように読書遍歴を振り返ってみて、どの作品に心を強く揺さぶられたのか。それを見つけ出すのもひとつの方法です。

「最初に読んだ小説」はたいてい小学校の国語の教科書に載っていたものだと思います。それが大好きで国語の時間が楽しかったという人もいるでしょう。

 受験勉強のために読んだ小説は「面白くなかった」と感じていませんか。それは国語の得点を一点でも上積みするために読んだ小説は、楽しむのではなく「分析する」ためのものだったからです。「文豪」の作品が嫌いになってしまうのも、たいていは「国語の得点を上げるため」だったからではないでしょうか。

 受験を控えている方は、「小説を読む」ことを「読解力を高める」「漢字を知る」ためという観念にとらわれがちです。だからどうにも面白く感じない。

 受験が終わった方なら、「小説を楽しく読める」ようになっているかもしれません。受験勉強の反動で「小説は楽しく読めない」方もおられるかと存じます。

 ですが「大好きな作品」を持たずに「小説の書き方」を勉強しても、得られるものは少ないのです。

 だからあなたにとって「大好きな作品」を探してみましょう。


 今はネット通販大手の『Amazon』などでレビューの付いている作品が多いので、とりあえず気になった作品を検索して、レビューを読むことから始めましょう。

 レビューのよかった小説を読んでみて、噂に違わぬ名作であると確認できたら、その小説を「大好きな作品」にしてもかまいません。

「小説が書きたい」と思えるには、とにかく「大好きな作品」を最優先で見つけ出してください。本コラムのような「技術論」「創作論」はその後に必要となるものです。




大好きな作品を深く知ろう

「大好きな作品」が見つかったら、その作品を深く知りましょう。

 読んでいて感動できる「大好きな作品」ですから、「分析する」のも受験勉強のように嫌々ではなく能動的になれるはずです。

 まずは普通に楽しんで読みましょう。「分析しよう」なんて気は起こさないでください。頭を物語に没頭させてください。「ここがこうなっているから感動的なんだな」などと思わないことです。

 楽しく読めましたか。それでは次の段階に進みましょう。


 次は「起承転結」「主謎解惹」の構造を考えながら読んでください。複数巻ある場合は、まず第一巻だけで小説の構造を分析しましょう。

 章単位でも「起承転結」「主謎解惹」の構造がとられているものです。また節単位でも同様になります。基本的に「起承転結」「主謎解惹」の構造がわかる最小単位は節の下の「項」です。

 ですから「大きく分けたら、それをさらに小さい単位で分析していき」ましょう。


 項単位で「起承転結」「主謎解惹」がわかったら、次は会話文と地の文のバランスを見ていきます。

 これは「文学小説」と「エンターテインメント小説(大衆娯楽小説)」と「ライトノベル」とでは大きく異なるのです。「文学小説」は地の文が多め、「ライトノベル」は会話文が多め、「エンターテインメント小説」はその中間になっています。

「ライトノベル」で地の文の分量が多くなるようなら、それは「ライトノベル」とは呼べなくなってしまうのです。だから「ライトノベル」を「大好きな作品」に選んだら、「ライトノベル」としての地の文と会話文のバランスをチェックすることが望ましい。けっして国語の教科書に載っている「文豪」の「文学小説」と比較してはなりません。

 この地の文と会話文のバランスのチェックは、小説の「息遣い」を知るのが狙いです。「息遣い」を知ることで、文章にリズムが生まれます。あなたが小説を書くときも、「大好きな作品」と同じリズムで執筆すれば、あなたの言葉で「大好きな作品」と似た読み応えを読み手に与えられるのです。


 さらなる「分析」は必要ありません。

「えっ、これだけでいいの?」と思われるでしょう。これくらいでいいのです。これ以上細かく分析してしまうと、それはあなたの言葉ではなく、「大好きな作品」の「劣化コピー」になってしまいます。誰が読んでも「あなたが書いた文章」と認められなければ、「劣化コピー」でしかなくなるのです。





最後に

 今回は「理想とする書き手を見つける」ことについて述べました。

 ガイドもなしに小説を書くのは、暗闇で地図を書こうとするようなものです。

 理想とする書き手、大好きな作品。それを持つことで「こういう小説が書きたい」ということが明確になり、ガイドを得られるのです。

 ガイドを持ったら、その「息遣い」に注意して読みましょう。地の文と会話文の割合をリズムと考えて読むのです。「地の文を三文、会話文を入れて、また地の文三文」のようなリズムがわかってくると、適切な小説の文章が書けるようになります。

「文豪」の作品は、古風すぎて今という時代にそぐいません。

 お笑い芸人ピースの又吉直樹氏が「太宰治氏の大ファン」でそれをベースにして三百万部売れた『火花』を書いたのですから、まるっきりダメというわけでもないのですが。又吉直樹氏の場合は、圧倒的な読書量があるため「太宰治氏の劣化コピー」にならずに済みました。

 小説を読まなければ、小説は書けません。



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