770.回帰篇:傾向と対策にたいして意味はない
今回は「小説賞・新人賞」を獲るための「傾向と対策」についてです。
確実に獲るために「傾向と対策」を考える発想は受験勉強をしてきた日本人特有でしょう。
しかし「傾向と対策」をしたとして、本当に「小説賞・新人賞」を獲れるものなのか。
私はちょっと懐疑的です。
傾向と対策にたいして意味はない
本気で「小説賞・新人賞」を獲るために、過去に受賞した作品を大量に読み込んで分析する方も多いと思います。
それが役に立つと本気でお思いですか。
考えてもみてください。
その「小説賞・新人賞」の「傾向と対策」を見つけ出したとして、それはあなただけが発見したものですか。競争する多くの書き手が知っていることではありませんか。
となれば「小説賞・新人賞」の「傾向と対策」をしたところで、賞を授かることの難しさ、競争率には変わりがないとも考えられます。
どのレベルでの傾向と対策か
しかしまったく「傾向と対策」をしないことにも害悪があります。
「純愛」をテーマとした「小説賞・新人賞」なのに、冒険小説で応募したらまったくのムダです。冒険小説を募集している「小説賞・新人賞」に応募すべきなのに、投稿する場所を間違えてしまっては、獲れるはずの賞も獲れません。しかも基本的に一度落選した作品をそのまま他の「小説賞・新人賞」へ出し直すことは禁止されています。これでは泣くに泣けません。
「純愛」をテーマとした「小説賞・新人賞」であれば、「純愛」小説を応募すべきなのは当たり前のことです。これは「傾向と対策」以前の問題でしょう。
では目標とする「小説賞・新人賞」で過去に受賞した作品を分析することは正しいのかどうか。
これは「純愛」小説の例と同じことが言えます。
その「小説賞・新人賞」が求めるテーマを知るために分析することは必須です。
「ファンタジー小説」を求める「小説賞・新人賞」は数多くあります。その中でハイファンタジーつまり「剣と魔法のファンタジー」が多く受賞しているのか、ローファンタジーつまり「日常系ファンタジー」が多く受賞しているのか。これを知らなければ、三百枚の長編小説を書いても徒労に終わる可能性があります。
しかしそれはあくまでも「傾向」です。ハイファンタジーが多く受賞している「小説賞・新人賞」であっても、出来がすぐれていればローファンタジー作品も少なからず受賞している。そういう賞のほうが多いと思います。
「100%」ハイファンタジー小説が受賞している「小説賞・新人賞」にローファンタジー小説を応募しても受かるはずがない。
しかし「80%」ハイファンタジー小説が、「20%」ローファンタジー小説が受賞している「小説賞・新人賞」であれば、出来がよければローファンタジー小説でも賞を獲得する可能性もあります。
この「100%」と「80%:20%」、どちらの「小説賞・新人賞」であるのかを分析することこそが「傾向」を知るということです。「傾向」がわかれば「対策」がとれます。「100%」であればハイファンタジー小説を書かなければなりません。「80%:20%」であればあなたが得意なほう、たとえばローファンタジー小説が得意ならローファンタジー小説を書いてもかまわないのです。
「純愛」小説を求めている「小説賞・新人賞」では「100%」「純愛」小説が受賞します。これは間違えようのない事実です。
しかし「80%:20%」で「純愛」小説であれば、たとえば「不倫」小説を書いても受賞する可能性があります。ですがこのくらいの確率ですと、まだ「純愛」小説を書きたいところです。パーセンテージが下がるにつれて、他のジャンルやテーマでも受賞する確率は高まります。
このパーセンテージを見極めることが「対策」なのです。
つまり「傾向と対策」とは、その「小説賞・新人賞」で求められている小説とはどんなものかを見極めることだと言えます。
では、この「傾向と対策」はあなたひとりが見つけ出したものなのでしょうか。
違いますよね。
同じ「小説賞・新人賞」を獲りにきている書き手はほとんどの方が把握していることです。
つまり「傾向と対策」はあくまでもスタートラインであって、ただ盲信してひたすら書けば受かるというものではありません。
「新人賞・小説賞」は資格試験や大学受験とは異なります。資格試験は80%正解できれば資格を取得できるものがほとんどです。しかし「小説賞・新人賞」は80%の完成度の作品が書ければ受かるものでもありません。大学受験は受験者のうち上位何名かが合格して入学資格を得ます。どんなに点数を獲っても上位何名に入れなければ合格できないのです。しかし「小説賞・新人賞」には「該当者なし」という結果があります。大学は運営していくうえで必要な人数を入学させますが、「小説賞・新人賞」は質が担保されなければ賞を授けないのです。
資格試験や大学受験と「小説賞・新人賞」とはこうまで違います。資格試験も大学受験も「傾向と対策」をバッチリ行なっていれば合格することがほとんどです。しかし「小説賞・新人賞」は前記したとおりスタートラインに立つだけ。これを踏まえたうえで、あなたが書きたい小説を書くことに注力しましょう。
書きたいものを書け
「傾向と対策」でどんなジャンル、どんなテーマ、どんな作風、どんなキーワードが過去に受賞したのかを知ったところで、同じ「傾向と対策」をわきまえた他の書き手と同じような作品しか書けません。確かに「傾向と対策」を踏まえれば、データの裏付けはあるのです。不安が消し飛び、精神が安定した状態で小説を書けます。裏を返せば他の書き手と差別化できないということでもあるのです。これを「凡百な作品」と呼びます。
「傾向と対策」に大幅な時間を割いて「凡百な作品」を書くくらいなら、あなたが書きたい小説を書いたほうがよほど建設的です。
もちろん最低限の「傾向と対策」であるどんなジャンル、どんなテーマを求める「小説賞・新人賞」なのかは把握しましょう。お門違いの傑作で応募しても受賞することはいっさいありません。
求められるものだけを確認したら、それを踏まえてあなたが書きたいように書けばいいのです。傑作は、書きたいものを思うがままに書いたときにしか生まれません。「小説賞・新人賞」に傑作を応募できれば、受賞する確率は飛躍的に高まります。
最低限の枷だけを嵌めて、あとは伸び伸びと書きたいように書けばいい。そう考えると不安が晴れませんか。
傾向と対策に時間をかけるな
「小説賞・新人賞」の「傾向と対策」は求められるジャンルとテーマを見出だすだけでじゅうぶんです。
これ以上の分析に時間をかけるくらいなら、「小説の文章」や「物語の構成」に意識を砕いてたくさん文章を書き、作品を量産しましょう。
小説を書き慣れている方が作品を読めば、書き手の経験値の高低はすぐにわかります。読み慣れている方も、いい小説か悪い小説かの区別がつくのです。
さまざまなジャンルやテーマを設定して、とにかく作品を量産してください。
書いた量でしか小説を書く力は培われません。
「傾向と対策」を調べるよりも、ひたすら小説を書き続けましょう。上昇志向で書き続けていれば、いつか必ず陽の目を見れます。
そのためには「小説賞・新人賞」にはどのような作品が求められているのか。募集要項をよく確認して、お門違いな作品を応募しないよう注意しましょう。それができていれば、正しい努力ができます。
最短距離で「小説賞・新人賞」を得たいのなら、募集要項は何度も確認してください。間違っても求められている作品とは異なる物語を執筆しないように留意しましょう。
最後に
今回は「傾向と対策にたいして意味はない」ことについて述べました。
「小説賞・新人賞」を是が非でも獲りたいと願っていても、すべてを「傾向と対策」の追究に当ててはならないのです。
そんな時間があるのなら、小説を書きまくってください。「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる」と言います。書き続けていれば、いつかは当たりが出るものです。
ただ書きまくるのではなく、「小説の文章」「物語の構成」を意識してください。
そのうち一定水準以上の作品が書けるようになります。そうなれば「小説賞・新人賞」の一次選考を通過できるようになるのです。
「傾向と対策」にたいした意味はありません。書き手側の精神安定剤としての役割があるだけです。
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