769.回帰篇:小説賞・新人賞を狙うには

 今回は「小説賞・新人賞を狙うには」です。

 芥川龍之介賞を狙うには五つの「紙の小説雑誌」のいずれかに掲載されなければなりません。ハードルが高いがゆえに競争倍率はそれほど高くないようです。でも本コラムをお読みの方で芥川賞を狙っている方はまずいないと思います。(獲れるような技術論も書いてはありますが)。

 大衆娯楽小説(エンターテインメント小説)も基本は「紙の小説雑誌」です。でもインターネットで応募できるところもあります。

 ライトノベルは現在では基本的に「小説投稿サイトで開催される小説賞・新人賞」を獲得できれば「紙の書籍化」を狙えます。

 つまりプロデビューしたければ「小説賞・新人賞」を獲るしかないのです。

 ではどうすれば獲れるのでしょうか。

 先人たちの知恵に学びます。





小説賞・新人賞を狙うには


応募のハードル

「小説賞・新人賞」を獲得するのは、小説投稿サイトでランキング上位を占めるよりも簡単に達成できる可能性があります。

 小説投稿サイトでランキング上位を占めるには、短編小説か連載・長編小説で多くのブックマークと高い評価を集めなければなりません。

 しかし「小説賞・新人賞」を選考するのは、出版社レーベルの編集さんや新人のプロの書き手であることが多いのです。つまり小説投稿サイトでのランキングに関係なく、応募作が純粋に「面白い」か「面白くない」かが問われます。

 評価する母数が決定的に少なく、それでいて審美眼を持っているのです。であれば、ランキング上位を占めるよりも「小説賞・新人賞」を狙ったほうが、あなたの筆力を正確に評価してもらえます。

「小説賞・新人賞」には、紙の小説雑誌や出版社レーベルが企画しているものと、インターネットの小説投稿サイトが企画しているものがあります。

 どちらを狙ったほうがよいのでしょうか。


 まず文学小説ですが、こちらは事実上「紙の小説雑誌や出版社レーベル」が企画している「小説賞・新人賞」しかないと思ってください。出版社レーベルのWebサイトや小説投稿サイトでも稀に文学小説の公募をしています。ですが文学小説は圧倒的に「紙の小説雑誌や出版社レーベル」の力が強いのです。

 文学小説は組織(文壇)が旧態依然として昭和のシステムを「絶対正義」だと思い込んでいます。文藝春秋の『文學界』、新潮社の『新潮』、講談社の『群像』、集英社の『すばる』、河出書房新社の『文藝』という五つの雑誌に作品が掲載されない限り、芥川龍之介賞の候補にすら挙がりません。当然芥川賞を授かることもできません。これらの雑誌はそれぞれ「小説賞」を設けています。いきなり芥川龍之介賞を狙いにいく野心的な企みよりも、各雑誌の「小説賞」を狙いにいってついでに芥川龍之介賞が付いてきた、くらいの感覚のほうが執筆するプレッシャーは減るでしょう。


 大衆娯楽小説も基本的に「紙の小説雑誌や出版社レーベル」が企画している「小説賞・新人賞」を狙いにいくことになります。こちらは推理小説・ミステリー小説の「横溝正史ミステリ大賞」「鮎川哲也賞」「江戸川乱歩賞」「日本ミステリー文学大賞新人賞」といった「新人賞」があります。しかも競争倍率はライトノベルの1/10以下と、賞が多いのに倍率が低めです。推理小説・ミステリー小説が書ける書き手の方は、ライトノベルでデビューを目指さず推理小説・ミステリー小説の新人賞を狙いにいったほうが確実にプロへの近道となっています。

 SF小説で長編の新人賞は「ハヤカワSFコンテスト」くらいのものです。必然的に倍率は推理小説・ミステリー小説よりも高くなります。

 ファンタジー小説を含むライトノベルの「紙の新人賞」は「日本ファンタジーノベル大賞」「スニーカー大賞」「電撃大賞」「スーパーダッシュ小説新人賞」「小学館ライトノベル大賞【ガガガ文庫部門】」など、皆様にお馴染みの出版社レーベルが揃っています。

 ライトノベルに関しては「出版社レーベルのWebサイト」に応募する形のものが多い。「富士見ファンタジア大賞」などはWebで作品を募集しています。




小説投稿サイトの賞はハードルが低い

 小説投稿サイトで企画されている「小説賞・新人賞」に応募したいと考えている方も多いでしょう。

 小説投稿サイトが開催している「小説賞・新人賞」は、小説投稿サイトに作品をアップロードする際に専用の「キーワード」「タグ」を付けるだけでエントリーできるのです。この手軽さがウケて、小説投稿サイトが開催している「小説賞・新人賞」は紙媒体のものよりも一桁応募総数が多くなります。単純に倍率も高くなるのです。

 ただし「応募作をすべて読んでみよう」と思う猛者の読み手も現れます。よって「小説賞・新人賞」にエントリーするだけで、これまでよりも閲覧数(PV)が増えるのです。

 小説投稿サイトを利用していて「小説賞・新人賞」に応募しないのは、あまりにももったいなさすぎます。みすみす閲覧数(PV)が増える機会を棒に振っているからです。

 なので小説投稿サイトを利用している多くの書き手の方に「小説賞・新人賞」へエントリーすることをオススメします。

 お題設定型の賞もあれば、ジャンルフリーの賞もある。自分が応募できそうなジャンルであれば、積極的に参加してみてください。その行為それ自体が、プロの書き手の執筆工程を体験できます。

 まず編集さんから「お題」を提案される。資料を集めて執筆する。推敲して編集さんに渡す。校正が返ってくるので都度変更して決定稿にする。

 校正をやってくれる方がいないだけで、お題設定型の「小説賞・新人賞」はプロの書き手の予行演習にはもってこいです。

 ジャンルフリーの「小説賞・新人賞」も数多くあります。おおかたは異世界ファンタジー小説で、次に現実世界ファンタジー小説、異世界恋愛小説、現実世界恋愛小説あたりが人気です。つまり倍率が高めになります。

 ですが賞へのエントリーは先ほども申しましたが、開催している小説投稿サイトへ普通に投稿して「キーワード」「タグ」に専用の文字列を挿入するだけと至極簡単です。このハードルの低さが小説投稿サイトの「小説賞・新人賞」に多くの作品が集まってくる要点となっています。

 あまりに応募総数が多いため、大賞以外の作品が「紙の書籍化」することもよくあるのです。最終候補に残った多くの作品が「紙の書籍化」されています。一回に十作品くらい「紙の書籍」化される作品が出てくることもありえるのです。なにせ「紙の小説雑誌」の公募の十倍も作品が集まります。大賞に選ばれなくても「紙の書籍化」に耐えられる作品が数多く集まるからです。

 ですから小説投稿サイトの「小説賞・新人賞」は多くの各賞に賞金だけでなく出版権が付与されています。大賞、各賞、佳作、最終候補の中から「紙の書籍」化した作品は数知れません。

 もちろん応募するかぎり「小説賞・新人賞」の大賞を狙うべきです。しかし大賞を意識するあまり奇抜すぎる作品を書いてしまうと二次選考にすら残れないこともあります。



一次選考は通過して当たり前

「小説賞・新人賞」の一次選考は、作品の面白さよりも「日本語の小説として成り立っているか」どうかが問われます。一次選考で通過本数が前もって決まっていることは稀です。選考を担当する編集さんは割り当てられた応募作から、本数は決めずに「日本語の小説として成り立っているか」をチェックして講評を添えて審査します。

 つまり「一次選考すら通過できない」というのは、小説の体をなしていないのです。それではどれだけ時間をかけて小説を書いてもまったく報われません。

 まず「通過して当たり前」とされる一次選考対策を練りましょう。

「てにをは」は適切か。用語用例に間違いはないか。漢字は正しいか。難しい単語を用いすぎていないか。文章の流れは自然か。

 このあたりを重点的にチェックすれば、一次選考は通過するはずです。

 一次選考を通過すると途中経過として通過リストが掲載される「小説賞・新人賞」もあります。小説投稿サイトであなたの応募作の閲覧数(PV)が急増するきっかけとなるのです。読み手は内容を吟味してブックマークに加えてくれたり評価をしてくれたり、場合によっては感想をもらうこともあります。

 小説投稿サイトに小説を投稿しようとするなら、まずあなたが応募できそうな「小説賞・新人賞」はないかチェックするクセをつけましょう。

 誰の影響も受けず純粋培養された書き手は、時代の変化に弱くなります。つねに競争にさらされている書き手は、時代の機微を敏感に感じ取れるのです。それにより「今書くべき物語」を見逃さない眼力が養われます。

 であれば、つねに競争をしているほうが、今度こそ「一次選考を突破しよう」とあれこれ考えられますし、時代の変化にも対応できます。

 小説投稿サイトに作品を掲載しようとするその直前に一手間、開催されている「小説賞・新人賞」をチェックするだけでいいのです。応募要項を満たしている作品を書いていたなら、すかさず応募すればいい。次に書く作品を応募するつもりで準備してもいい。成功したいなら、自ら「競争」の中に分け入って旗を掴んでくるくらいの気概が必要です。

「私が書く小説は趣味だから、『小説賞・新人賞』になんて応募したくないな」とお思いかもしれません。ですが、どうせなら「あなたが趣味で書いている小説が世間でどのくらい通用するものか」確認してみてはいかがでしょうか。

 先ほども述べましたが、応募は専用の「キーワード」「タグ」を付けるだけでいいのです。

 もし一次選考にも残れなければ、趣味で書いている作品は誰の心にも届いていない可能性があります。まずは「一次選考」通過だけでもいいので、自分の実力を測る意味でも、小説投稿サイトで企画開催されている「小説賞・新人賞」に応募してみませんか。




二次選考は面白さ勝負

 無事に一次選考を通過された方、おめでとうございます。これから二次選考に入りますね。

 二次選考を通過するのに必要なのは「面白い」かどうかです。ここでグッとハードルが高くなります。

 小規模な「小説賞・新人賞」ならこの時点で最終候補作が絞られるのですから、当たり前です。

 大規模な「小説賞・新人賞」の場合は三次選考を最終選考にして最終候補作が絞られますので、できれば二次選考も通過してください。

 あくまでも目安ですが、一次選考を突破する割合は1/5から1/10ほどです。二次選考を突破するにはそこから1/10〜1/20ほどになります。だいたい50作から100作に1本が通過すると見てよいでしょう。「紙の小説雑誌」も応募総数の50作から100作に1本が二次選考を通過して最終候補作に選ばれます。小説投稿サイトの「小説賞・新人賞」は応募作品数の桁がひとつ多いので、三次選考を行なって最終候補作までさらに絞るのです。

 では二次選考の鍵を握る「面白さ」とはなんでしょうか。

 そこのあなた、「笑わせる」ことかと考えて「ダジャレ」や「ギャグ」を入れようとしていませんか。その「面白さ」ではありません。

「奇抜さ」「斬新さ」のことかと思われた方もいますよね。確かに「面白さ」の中には「奇抜さ」「斬新さ」が含まれていますが、こてこての鉄板作品であっても「面白さ」は生み出せるものです。

 その鍵は「意外性」にあります。


「意外性」という言葉から「奇抜さ」「斬新さ」を見出す方は安直に考えすぎです。「物語の流れが同種の作品とは一味違う」くらいでも「意外性」は出せます。

 なぜ川原礫氏『ソードアート・オンライン』は傑出していたのか。思い出してください。「VRMMORPG」という時代の最先端テクノロジーに可能性を見出だし、その世界を多くの読み手に広めたい。それが執筆の動機でしょう。これは川原礫氏『アクセル・ワールド』にも見て取れます。それでも『ソードアート・オンライン』のほうが人気が出ました。それはなぜか。「誰かがゲームの世界・浮遊城アインクラッドを攻略してクリアしないと、生きてゲームから出られない」という「デスゲーム」の要素を初めて採用したからです。誰もが気楽に楽しめるコンピュータゲームだったはずが、「全プレイヤーの生死を賭けるピンチ」に追い込まれました。これが「意外性」です。

 確かに「VRMMORPG」とというジャンルは「奇抜さ」「斬新さ」を伴っていますが、「デスゲーム」という発想は「奇抜さ」「斬新さ」の視点からは思いつかないでしょう。

 ある意味『ソードアート・オンライン』は「架空のVRMMORPGのリプレイ」作品なのです。「リプレイ」においてプレイヤーが現実で命を懸ける状況など「奇抜さ」「斬新さ」の範囲外。「生と死」という「テーマ」を取り入れ、「友情」面は薄いですが、「恋愛」面では主人公のキリトとヒロインのアスナとのやりとりが描かれました。これにより『ソードアート・オンライン』は「架空のVRMMORPGのリプレイ」の中に「生と死」「愛情」を「テーマ」として構築していった結果生まれた作品なのです。

「意外性」とは「これはきっとこんな小説なのだろう」という読み手の期待(思い込みとも言います)をよい意味で裏切ることを指します。


 ここまでかなり噛み砕いて「意外性」について述べてみましたが、これでもわからない方はいらっしゃるでしょう。その場合は、今売れているライトノベルを三作ほど読んでみてください。タイトルどおりの作品もあれば、そこからよい意味で裏切られる作品もあります。

 ライトノベルで個人的にオススメなのは賀東招二氏『フルメタル・パニック!』、川原礫氏『ソードアート・オンライン』、鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』、渡航氏『やはり俺の恋愛ラブコメはまちがっている。』あたりです。長期連載されているものばかりですが、長期連載をするためには唯一無二の「意外性」が不可欠です。なにも全巻を読む必要はありません。読み手を惹きつける第一巻、第二巻あたりを読むだけで「意外性」に気づくでしょう。



最終選考まで残れば

「意外性」という武器を持って「小説賞・新人賞」の最終選考まで残った方、おめでとうございます。

 ここから「大賞」に選ばれるためには、「日本語の小説として成り立っている」「意外性を前面に立てた面白さ」ではなく、「商業的にヒットするかどうか」というきわめて大人の事情が働くのです。

 ここで急に現実に引き戻されてしまったと思います。

 開催している小説投稿サイトと共催している出版社レーベルが「小説賞・新人賞」を企画しているのは、「紙の書籍にして売れる作品を見つけよう」という思惑のためです。

「小説賞・新人賞」はボランティアで開かれているわけではありません。今回の受賞作を出版して開催費用を回収して利益を出すために開かれているのです。

 であれば「大賞」を選ぶ基準は「商業的にヒットするかどうか」であることは自明だと思います。

「商業的にヒットする」ためには「テーマ」が普遍的であることがたいせつでしょう。文学小説で述べましたが「生と死」「友情」「愛情」といった人間なら誰もが持ちうる観念は普遍的な「テーマ」になりえます。

 仮に普遍的な「テーマ」が見当たらない作品の場合であっても、「面白い」のなら救いはあるのです。「面白い」小説で魅力があるのなら、編集さんと二人三脚で推敲と校正を重ねて普遍的な「テーマ」を入れ込めばいい。そういった作品は佳作入選することが多いので、「小説賞・新人賞」の最終候補作が出揃ったらすべての作品を読みましょう。そして自分なりの講評をつけてみるのです。そして「大賞」以下各賞が発表されたら、自分の書いた講評と「小説賞・新人賞」の公式講評を比べてみて、どこが当たっていてどこが違っていたのかを検証してください。そうすることであなたの小説を見る眼力が養われますし、需要のある作品とはどのようなものなのかが読み取れます。





最後に

 今回は「小説賞・新人賞を狙うには」について述べてみました。

 現在ではインターネットの小説投稿サイトで開催されている「小説賞・新人賞」が最も手軽に応募できます。しかし「紙の小説雑誌」に掲載された作品だけが受賞できる「小説賞・新人賞」もありますので、そういったものを狙いたい方は、原稿の送付方法を各出版社レーベルのWebページで確認するのとよいでしょう。

 現在の狙い目は「紙の小説雑誌」が企画する推理小説・ミステリー小説です。こちらは小説投稿サイトに応募される小説の1/30ほどしか集まりません。つまり受賞確率も30倍ほど割がよいのです。

 ジャンル替えはいつでもできます。最初は推理小説・ミステリー小説を書いていても、出版社レーベルとの独占契約が終われば、ライトノベルへ転向してもかまわないのです。



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