764.回帰篇:あなたはなにを伝えたいのですか
今回は「伝えたいこと」についてです。
「伝えたいこと」つまり「命題」は長編小説までは通常ひとつだけにしましょう。
連載小説の場合は尺が長いので、複数の「命題」を追うこともできます。
あなたはなにを伝えたいのですか
「小説を書こう」としている方にお聞きします。
あなたはその小説で読み手になにを伝えたいのですか。
あなたが書きたい小説を書きたいように書いて、それを読み手に読ませて悦に入っているだけでは「ジャイアン・リサイタル」となんの違いがあるのでしょうか。
ジャイアンのように「俺様の歌を聴け。お〜れ〜はジャイア〜ン、ガ〜キ大将〜♪」と歌ったら、集められたのび太、しずかちゃん、スネ夫たちは「ボエー」となってしまいますよね。
自分だけが悦に入る「俺様の歌」だけを伝えようとするから、傲慢な「ジャイアン・リサイタル」なのです。
あなたの小説は「ジャイアン・リサイタル」に陥ってはいませんか。
伝えたいことは書く前に決めておく
「伝えたいこと」は、あらかじめ小説を書く前から決めておくべきです。執筆を始めてから「伝えたいこと」を探していくのでは、伝えたいことが見つかるまでは「なんの意図もなく、単に人物が登場して会話しているだけ」の小説になります。これが面白い作品になるのでしょうか。おそらく最初の数ページを読んだだけで回れ右して立ち去っていくのがオチだと思います。
「伝えたいこと」たとえば「命の尊さ」「死を恐れない自爆テロ犯の心境」や「お金と命のどちらがたいせつなのか」「愛とお金のどちらがたいせつなのか」といったものがあったとします。そうなれば小説の文章も「伝えたいこと」に依拠した書き方や語彙の選び方になるのです。
コラムNo.554「書かずにいられない命題」やコラムNo.555「命題からジャンルを決める」でも書いたように、小説には「命題」が求められます。
読み手は書き手が「伝えたいこと」つまり「命題」を、冒頭の数ページ読んだだけでわかるものです。逆に書き手は「伝えたいこと」「命題」がなくても読み手には気づかれないだろうと思い込んでいます。だから最初の数ページを読んだだけで回れ右されてしまうのです。
「主人公が◯◯フェチ」という小説が文学小説には多く見られます。女性の白い手であったりうなじであったり匂いであったり。その「◯◯フェチ」が受け入れられる方にとってはまさにバイブルのような作品になるでしょう。また「この作家は◯◯フェチなんだな」と読み手の間で一目置かれる存在になることがあります。
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『エロマンガ先生』の伏見つかさ氏は「兄妹フェチ」です。と書いても読み手の多くは納得します。大ヒットしたこの二作においてその認識が定着したのです。ですが伏見つかさ氏に妹はおらず、「兄妹フェチ」は読み手のターゲットを絞るためのフィルターのひとつとして機能しています。それが功を奏して大ヒットを記録したわけです。妥協する心があれば「兄妹フェチ」作家を極めることも視野に入ります。しかし毛色の違う作品も書いていますから、「兄妹フェチ」は特定のファンをターゲットに据えた戦略的な作品だったのです。しかしそれらの作品は『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『エロマンガ先生』を超えていません。すでに読み手から「兄妹フェチ」の書き手だと認識されていますから、異なる「フェチ」を伝えようとしても「兄妹フェチ」と思い込んだ読み手はたとえ異なる「フェチ」のファンであっても作品を読もうとは思わないのです。「兄妹フェチ」の読み手からは「なんだ、今回は兄妹フェチじゃないのか」と思われてしまいます。
「小説が読まれる」ときは書き手の「
賀東招二氏は『フルメタル・パニック!』においてライトノベルで巨大ロボットのバトル小説を書き切りました。「ロボット・バトル」に定評のある書き手だという「
慣れないうちは「伝えたいこと」はひとつに限る
小説を書き慣れないうちは「伝えたいこと」「命題」はひとつに限りましょう。
ふたつも三つも「伝えよう」とすれば、どうしたって焦点が絞りきれず散漫な作品になりがちです。
「伝えたいこと」をひとつに絞ること。ウケはひとつ。狙いもひとつ。そうすれば「個性」が生まれて「
大ヒットした小説というのは、ひとつの「伝えたいこと」つまりウケと狙いを極めた作品が多いのです。前述の賀東招二氏『フルメタル・パニック!』では「ロボット・アクション」というウケと「ボーイ・ミーツ・ガール」の狙いをミックスした「個性」によって「
渡航氏『やはり俺の恋愛ラブコメはまちがっている。』は「残念系主人公と残念系ヒロイン」というウケと「ラブコメ」という狙いを掛け合わせた作品です。双方とも「残念系」だからこそ生み出される不器用な恋愛模様は、素直な「ラブコメ」にもなりません。しかし物語は最終章に突入し、いびつな「ラブコメ」にも終焉が迫ろうとしています。ここまで読んできた読み手は、その結末を心待ちにしているのです。しかし終わってほしくないとも思っています。それも『やはり俺の恋愛ラブコメはまちがっている。』の人気を不動のものとし、『このライトノベルがすごい!』で三年連続一位を記録して殿堂入りしたゆえんでしょう。読み手は結末を早く知りたいと思いながらも、いつまでも連載が続いてほしいとも願っています。しかし時間は確実に過ぎていき、決断のときは必ずやってくるのです。果たして結末は読み手に納得されるのでしょうか。ひょっとするとルート分岐するかもしれません。過去に結末をルート分岐したマンガが発売されたことがあります。そうであれば、雪ノ下雪乃ルートと由比ヶ浜結衣ルートに分岐する可能性がなきにしもあらず。大ヒット作品であるがゆえに、あえて結末を分岐させることも考えられるのです。
私としては物語の基本原則である「最初に出会った異性が最終的に結ばれる」という結末が妥当だと考えています。
寓話『シンデレラ』は主人公のシンデレラは冒頭で「舞踏会にやってくる王子様」の情報に接して、最終的に王子様と結ばれました。これがムダのない物語の形なのです。
アニメ・池田成氏&隅沢克之氏『新機動戦記ガンダムW』でも、第1話冒頭で主人公ヒイロ・ユイが「オペレーション・メテオ」で地球に降下する際、ヒロインのリリーナ・ドーリアンがそれを見つけるシーンで始まります。そして海に打ち上げられたヒイロをリリーナが発見して救急に連絡するのです。しかしヒイロは救急隊員を倒して救急車を奪取しその場を去ります。第1話終了間際にヒイロがリリーナに「お前を殺す」と言って物語が終了するのです。これだけで視聴者はヒイロとリリーナが話の中心となる人物であると認識し、最終話において予定調和の「結末」を見て納得します。「反体制テロリスト」と「ボーイ・ミーツ・ガール」を組み合わせた個性を持つ『新機動戦記ガンダムW』は、その個性ゆえに多くの視聴者が物語に惹き込まれていったのです。
そして『新機動戦記ガンダムW』は「完全平和」をもたらすにはどうすべきか、という「命題」で物語が貫かれています。
このように有名作品であろうと「伝えたいこと」はひとつです。
そこから枝葉を伸ばしていくことで「謎解き」を作って視聴者をエンディングまで誘って、次回予告で「惹き」を作ります。アニメやドラマはこのように、継続して視聴させる仕掛けを施しているものです。
小説でもアニメの構成は参考になります。とくにライトノベルを書きたい方は、アニメの構成をしっかり分析する時間を持つべきでしょう。あなたの好きなアニメでかまいません。あなたが好きになったのはどういう点なのか。それを知ることで、あなたが書くべき物語で「伝えたいこと」が明確になります。
「伝えたいこと」が明確になれば、小説はブレなくなるのです。
最後に
今回は「あなたはなにを伝えたいのですか」について述べました。
物語で受け手に「伝えたいもの」つまり「命題」を明確にすることで、作品はブレなくなります。
そして「伝えたいもの」「命題」を確実に受け手へ届けられるのです。
「小説を書こう」と思い立ったら、まずはなにを「伝えたい」のかを見つけてください。
それがどんなにニッチでもかまいません。ニッチは不利ではありますが、小説を好んで読むような方は、たいていニッチな作品が読みたくてたまらない人たちです。
ニッチを狙って、気づかぬうちに鉱脈を掘り当てるかもしれませんよ。
『小説家になろう』で「追放」「ざまぁ」「悪役令嬢」といったニッチが、いつの間にか巨大勢力になっていた、つまり鉱脈を掘り当てたのもそのためです。
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