765.回帰篇:物語のゴール・目的地はどこですか

 今回は「ゴールと目的地」についてです。

 物語には「ゴール」が設定されていなければなりません。

 その「ゴール」に到達するためにはどこを「目的地」にするのか。それも決める必要があります。

「エタる」連載小説が出てくるのは、書く前から「ゴールと目的地」を決めていないからではないでしょうか。

 だから物語に終止符が打てない。

 もし明確な「ゴールと目的地」が設定してあれば、そこまでたどり着かない限り、書き手は落ち着かないものなのです。





物語のゴール・目的地はどこですか


 小説には必ず「結末」があります。

 ショートショートでたった一行しかなくても「結末」には違いありません。




エタるのはゴールを決めていないから

 小説投稿サイトで物語を延々と連載し続け、いつの間にか更新が止まってそのまま放っておかれる小説がかなりあります。こういう小説を指して「エタる(エターナル:永遠に終わらない)」と呼ぶそうです。

 とても面白くて反響の大きな連載小説なのに、なぜ「エタる」のでしょうか。

 それは「書く前から物語のゴールを決めていなかったから」です。

 マンガがわかりやすいと思いますので、いくつか例を挙げてみます。


 青山剛昌氏『名探偵コナン』は二十年以上連載している推理マンガながら、いまだに物語が完結しません。

 当初「黒の組織」の黒幕である「あの方」は阿笠博士だったゴールを設定していたらしいのです。しかし多くの読み手から「あの方は阿笠博士だ」という声があがったことで、「あの方」の正体を別人に設定する必要が生まれてしまいました。そして「黒の組織」がとても大きな組織となり、それを支える資金の出処や多数の部下を従える権威など「あの方」に求められる要素が増えていったのです。そして最近ようやく「あの方」に迫る情報が明らかになりました。つまりようやくゴールが定まったのです。

 あとはゴールに至る道を整備するため、「黒の組織」につながる情報をひとつずつ解決していって「黒の組織」を追い詰めるような展開をする必要があります。現在登場人物の恋愛関係がかなり解決しており、どんどん「黒の組織」を追い詰めるための準備が進んでいるのです。おそらく100巻は超えるでしょうが、さほど遠くない時期に「黒の組織・解決編」が始まるかもしれません。


 尾田栄一郎氏『ONE PIECE』も二十年以上連載が続いていますが、いっこうに「|ひとつぎの大秘宝(ワンピース)」にたどり着けそうにありません。

 近づいているはずなのに、横道に逸れすぎて収拾がつかなくなっているように思えます。二十年も航海を続けていたら、地球ならすでに何百回も世界一周ができてしまいます。「ファンタジー・マンガ」だからと言っても長すぎです。

 バトルシーンが多すぎて、話がなかなか先に進まなくなっています。これは「ワンピースがどんなもので、どこに置いてあるのか」を最初に決めていなかった可能性があるのです。もしかすると「そもそもワンピースなる大秘宝は存在しなかった」「ワンピースを目指して海賊たちがしのぎを削って実力を身につけるための方便だった」という可能性すら考えられます。


 冨樫義博氏『HUNTER×HUNTER』も二十年以上連載していますが、いまだに終わりません。

 こちらは「ゴール」が明確だったのに、そこで終わらせてもらえなかったから連載が長引いているだけのように映ります。

 主人公ゴンが当初抱いていたゴールと目的地は「ハンターになって父親であるジンと会うこと」だったはずです。それはすでに達成されています。にもかかわらず連載が続いているのです。終わるべき時を逸して迷走したと見て間違いないでしょう。

 担当編集さんや週刊少年ジャンプ編集部が冨樫義博氏になにを求めているのかは定かではありません。しかし終わるべき時に終わらせなかったツケは誰かが払わなければなりません。少なくとも冨樫義博氏ではありません。続きを書かせ続けた担当編集さんにはそれだけの権限はありません。とすれば「ジャンプ編集長」が責任を負うべきなのです。冨樫義博氏の腰が思わしくないことを知りながら、終わるべきときに終わることを許さず続きを書かせ続けたのです。


 森川ジョージ氏『はじめの一歩』も二十年以上連載していますが、こちらもいっこうに終わる気配がありません。

 ボクシングマンガである以上、ゴールは「幕之内一歩と宮田一郎との世界タイトルマッチ」であることは疑う余地がないでしょう(まぁ『あしたのジョー』のようなこともありえますが)。しかしそこに至るまでには両者とも二十戦近くかかるのが普通なので、時間をワープさせないかぎりどうしても連載は長期化するのです。

 もし仮に「一年以内に連載を終了してください」と言われたら、一歩がボクシングに復帰して世界チャンピオンとなり、宮田と世界タイトルを賭けて戦うところまでひとっ飛びするでしょう。逆に宮田が世界王者になって一歩に「タイトルマッチを受けろ」と指名して一歩が実戦復帰するという流れかもしれません。

 どちらにせよ、一歩がボクシングに復帰しない限りゴールに到達できず『はじめの一歩』は終了できないのです。


 美内すずえ氏『ガラスの仮面』は四十年以上にわたるひじょうに人気のある連載マンガですが、近年に至るまで遅々として新刊が出ない時期がありました。

 あるマスコミのインタビューで「美内さん自身も結末がわからないから先に進まないのでは」と聞かれたそうです。そのとき美内すずえ氏は「私にはラストが明確に見えています」という旨の発言をしました。

 真実であれば『ガラスの仮面』はゴールがすでに決まっていて、そこへ至る道が見えていないだけなのではないでしょうか。となれば『名探偵コナン』同様、ゴールへ向けて環境を整えることに腐心されているものと思われます。


 このように、物語には「ゴール」が必要で、それが達成されることで物語は正しく終われるのです。

「ゴール」を設定せずに連載小説を「気分だけ」で始めてしまい、回が進むごとに人気が出てしまって期待に応えようと頑張って執筆します。しかし「ゴール」がありませんから、どういう状態になれば「ゴール」となるのかが明らかではありません。だから終わり方が見つからずに「エタる」のです。

「エタりそう」か判断するには、登場人物の関係が整理されてきているか、物語が始まった頃から提示されていた「ゴール」に近づいているか、そこを見てください。いっこうに人間関係が整理されず、「ゴール」にも近づけていないようなら、その作品は間違いなく「エタり」ます。


 当初は「勇者パーティー」の一員で魔導師として随行していながら、ある日突然解雇されてしまいます。『小説家になろう』でお馴染みのいわゆる「追放」ものです。とすれば主人公の魔導師が辿り着くべき「ゴール」は「勇者パーティーに一矢報いる」ことになります。そうしなければ「ざまぁ」「主人公最強」といったキーワードが生まれてきませんからね。

「異世界転生」をして「魔王」になったから世界征服しようというのも安直ですが「ゴール」です。

「元勇者のおっさん」が「辺境でスローライフ」を行なうことは、出発地であり「ゴール」にもなりえます。

 俗に「なろう系」と呼ばれるこれらの小説たちも、「ゴール」があるから執筆していけるのです。そして読み手もその予定調和を楽しむためにフォローし続けます。




目的地にたどり着けば終了できる

 物語には必ず目的地があります。多くは出発地にたどり着くことで物語が完結するのです。

 寓話『桃太郎』もおじいさんとおばあさんの住む村を出発して鬼退治へ向かい、見事鬼退治をして金銀財宝を携えて村に戻っていきます。

 寓話『浦島太郎』も浜でいじめられていた亀を助けたことから竜宮城へ連れて行かれ、地上へ戻って浜に帰ってきてから玉手箱を開けてしまったのです。

 このように童話や寓話などでは、出発地へ戻ることで物語が終わります。

 妻の元を突然去った夫が、出来事を起こして妻の元へ帰ってくる、ということもよくあるのです。映画・山田洋次氏『幸福の黄色いハンカチ』では、主人公は「もし自分のことを許してくれるのなら黄色いハンカチを掲げてくれ」と手紙を書きます。そして出所してお節介な男女に連れられてその女性の元へやってきたとき、家には無数の黄色いハンカチがはためいていました。これなどは目的地としてはまさに理想的な場所です。

 目的地はゴールにもなりますし、ゴールを迎えるために目的地へ向かうこともあります。「卵が先か鶏が先が」論争にもなりますが、どちらも考えられるのです。

 マンガ・高橋留美子氏『めぞん一刻』は、主人公の五代裕作が一刻館で管理人をしている音無響子と出会い、淡い恋愛がスタートします。そして最終的に結婚し娘を出産した響子が裕作とともに一刻館へ帰ってくるのです。これも出発地が目的地になった一例です。





最後に

 今回は「物語のゴール・目的地はどこですか」について述べました。

 物語には必ず「ゴール」を設定してください。恋愛小説なら「結ばれる」か「結婚する」か「破談する」かを決めるのです。

 それとは別に「目的地」も設定しておきましょう。どこから物語が始まり、どこへたどり着いて物語が終わるのか。その場所が「目的地」です。

 長編小説までの分量であれば「ゴール」と「目的地」が同一であってもかまいません。

 連載小説の場合は、放浪の旅が長く続きますので、「ゴール」と「目的地」が分かれていてもよいでしょう。ただし「ゴール」と「目的地」を決めずに連載を始めるのはなしです。決めずに書き始めるとほとんどの場合は「エタり」ますよ。



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