762.回帰篇:小説を書けたらどうなりたいか

 今回は「小説を書けたその先」についてです。

「小説を書けるようになったら、最終的にどうなりたいのか」

 これをあらかじめ決めておかないと、いざそのときが来てもどう対処してよいのかわかりません。





小説を書けたらどうなりたいか


 あなたは「小説を書けるようになりたくて」本コラムをお読みかと存じます。

 これは大前提です。「別に小説を書けるようにならなくても、読み物として楽しめる」というのであれば、筆者としてそれはそれで喜ばしいことではあります。

 ですが、できれば本コラムをお読みいただいているすべての方に「小説が書ける」ようになってもらいたいのです。

 日本にはまだ埋もれている才能が必ずあります。

 あなたが胸の内に秘めているひとひらのストーリーを小説として発表すれば、なにがしかの反応を得られるかもしれません。そのストーリーが読み手を惹きつけてやまないかもしれません。

 そんな作品を私は読んでみたいのです。

 だからこそ、皆様にはぜひ「小説が書ける」ようになってもらいたい。




どうなりたいか

 これから「小説を書きたい」方は、「小説が書ける」ようになったら「どうなりたいか」を今のうちに決めてください。

 すでに「小説が書ける」方も、これから「どうなりたいか」を定めておくのです。

 なぜそんなことを言うのか。不思議がる方もいらっしゃるでしょう。

「小説が書ける」とさまざまな可能性が開けてきます。

「プロの書き手を目指す」方もいらっしゃるでしょうし、「小説投稿サイトで人気を集める連載を書く」方もいらっしゃるでしょう。「小説賞・新人賞を狙って一攫千金」の方もいるはずです。「趣味として小説を書いてそれだけで満足できる」方だっていてもおかしくはありません。

「どうなりたいか」を決めておかなければ、どのような戦略を持って「小説の書き方」を習えばよいのか。立ち位置に困ります。

 本「小説の書き方」コラムは「小説賞・新人賞を狙う」方と「小説投稿サイトで人気の書き手になる」方が対象です。

「プロの書き手を目指す」には、長編小説の「小説賞・新人賞」を授かって「紙の書籍」化されていくことになります。これがひと続きなので、まずは「小説賞・新人賞」を目指すことを一里塚とするのです。

「プロにならなくていいから、多くの読み手に読まれて評価されたい」のは、「好きなように小説を書いて、読み手を満足させたい」という趣味の拡大に他なりません。

「小説が書ける」ようになったら、万人が「プロの書き手になりたい」わけではないのです。「誰からも指図されず、自分のペースで好きなように書きたい」書き手は存外多い。そうであれば「読み手にウケる小説の書き方」を模索すればいいのです。

「小説賞・新人賞」を授かりたければ「選考さんにウケる小説の書き方」を追求しなければなりません。

 ですから、まずは「小説が書ける」ようになったら「どうなりたいか」を決めておくのです。


――――――――

 私がまだ運転免許証を持っていなかったある晩のこと。店舗から自分のパソコンを自宅へ送るために職場の方の自動車で運んでもらうことになりました。その方は心臓に持病があり、遅番の仕事が務まるのかという方でした。

 私はその自動車の後部座席にパソコンを載せて助手席へ座り、運転者が自動車を走らせていたのです。

 国道のある交差点に差しかかったとき、運転者の方がうめき声をあげたかと思ったら、赤信号なのにアクセルを踏み込んでいきました。

 すぐに「急事」と判断した私は、自動車を安全に停める手段を実行して停車させました。そして呼吸と脈拍を測ったところ双方反応がありませんでした。その場で心臓マッサージと人工呼吸をしながら救急車の出動を要請。結局その方は救えませんでしたが、私は無傷で自動車にも傷をつけることなく安全な状態を確保できたのです。職場の上司からは高評価を得ました。

 なぜこんなことができたのか。

 それは「こんなことが起きたら、どういう対処をすればよいのか」を以前に想定したことがあったからです。

 つまり「自動車に乗っていて、もし運転者が運転できなくなったら、どうやって安全を確保するのか」について想定してありました。

 まずスピードを上げている主因であるアクセルペダルから足をどけさせます。シートベルトをしていますので手だけでやらなければなりません。次いでスピードを落とすためにブレーキを踏まなければなりませんが、足は届きませんから手でブレーキペダルを押しながらハンドルを操作して路肩まで誘導し、路肩を確認してからブレーキペダルを強く押して自動車を停止させ、すぐにサイドブレーキを引きました。これで自動車を安全に停めることができたのです。

 今思えば「ハザードランプ」を点灯させるべきでしたが、当時は「運転免許証を持っていない」ので、ハザードランプのことはまったく頭にありませんでした。

 このように「こんなことが起きたら、どういう対処をすればよいのか」を事前に想定しておくと、いざというときに判断や行動を誤ることがないのです。

――――――――

 閑話休題。


「とりあえず小説を書けるようになったら、小説投稿サイトで発表し、人気が出て、あれよあれよと話は進み、気がつくと『紙の書籍』化の話が進んでいた」というあたりが、多くの方の願望だと思います。

 これはよほど人気を博して「数万人がブックマークしてくれて、新しい投稿を心待ちにしている」くらいにならなければなりません。これが殊のほか難しい。

 最終的に「紙の書籍」化つまり「プロの書き手」を目指すのなら、最初から「プロの書き手」を目指して「小説賞・新人賞」に応募するべきなのです。声がかかるまで待ち続けたところで、出版社レーベルの編集さんに見つけられることはまずありません。




趣味で書きたい

 物好きな人はどこにでもいます。

「小説を書けるようになれば、報告書や論文がすらすらと書けるようになるのでは」くらいのノリで「小説の書き方」を学ぼうとする方が実際にいらっしゃるのです。

 これは完全にミスマッチなのですが、学ぶ側は至って真面目。「小説の書き方」教室に「文章の書き方」を求めてきます。逆もよくあるのです。「文章の書き方」教室に「小説の書き方」を求めてくる方もまた多い。

 これほどではなくても「趣味で小説が書ければそれでいい」というくらい軽い気持ちで取り組まれる方もいらっしゃるのです。


「趣味で書きたい」方は、義務を背負うべきではありません。つまり「締切に追われる」ような書き方ではダメなのです。

 小説投稿サイトの連載小説はよくも悪くも「一定の間隔で新しい話が読める」ことが重視されます。だからどうしても「締切に追われて」しまうのです。「一定の間隔」で投稿できない作品の評価は軒並み低くなります。「趣味で書きたい」方も、できれば多くの方に読んでもらいたいはずです。

 しかし「趣味」なのに義務が生じてしまうのでは本末転倒。「趣味」は自分のペースで自分のやりたいようにやるから楽しいのです。

 毎日二千字前後から五千字前後の投稿を続けなければならない。これは義務でしかありませんよね。私は本コラムを毎日連載しているので、妙な義務を感じています。だから「趣味」の方に「毎日連載」はオススメできないのです。

「趣味で小説を書きたい」方は、「週一投稿」「隔週投稿」をオススメします。

「毎日」ではあまりにも締切が早すぎて、他のことをやっている余裕がなくなるからです。「週一」「隔週」なら一週間や二週間のうちにゆっくり構成に想いを馳せながら、少しずつ物語を構築して一万字前後の話を作っていけます。無理がないのです。無理がないから、怪我や病気になったとしても原稿を落とす危険性を極力減らせます。




投稿間隔を守れなくなりそうなら

「趣味」にしろ「小説賞・新人賞狙い」にしろ、連載を落としそうなら投稿当日より前から「落としそうだ」と判明した時点で「あらすじ」「キャプション」で「◯◯のため次話は△△日に投稿します」と告知しておきましょう。

 告知さえしてあれば、読み手は待ってくれます。やってはいけないのが「連載を落とした後になってから次話は△△日に投稿します」と告知することです。

「趣味」にしろ「小説賞・新人賞狙い」にしろ、連載する限りは義務が生じます。読み手に規則正しく次話を提供する義務です。これができないとそもそも社会人として生活することすらおぼつかなくなります。

 社会人とは他人との契約のうえで生計が成り立つ人のことです。約束を守るから他人は信頼して契約してくれます。約束を守れない人は誰からも信頼されないのです。それでは「趣味」「小説賞・新人賞狙い」関係なく、読み手があっと言う間にいなくなってしまいます。気づいたら閲覧数(PV)が0になっていた。ブックマークが激減していたなんていう悪夢すら現実のものとなるのです。

 小説投稿サイトで読み手があなたの小説を応援してくれるには、あなたが信頼に値する人物となる必要があります。どんな些細な約束であっても違えてはならないのです。一度でも破ってしまったら取り返しがつきません。

 ただし連載を落として事後報告することが避けられないケースも存在します。病気や交通事故や事件に遭遇して入院する羽目になった、または被疑者となったときです。こればかりはケガや病気の程度や拘留期間によって長期休載を余儀なくされ、しかもその事実を小説投稿サイトに書き込めない状態が発生します。

 入院や拘留となった場合、日常に復帰できたとしてもあなたの小説を追ってくれていた読み手たちの多くはすでに離れているのです。ここから連載を再開して、それこそゼロから再スタートするつもりで連載を再開してください。そして「活動報告」や「あらすじ」「キャプション」などで「長期休載になった理由」を書き添えましょう。事情がわかれば読み手が戻ってくるかもしれません。入院は同情から人々を集めやすいのですが、拘留は人々が離反していくことにはなります。それを覚悟のうえで「長期休載になった理由」を公開してください。

 すべてにおいて完璧な人物など存在しません。思わず罹患したり、うっかりケガをしたり、ちょっとしたことで人を傷つけたりするものです。そうなったら「これもひとつの試練」と割り切りましょう。人間「開き直った」ときがいちばん強い。

 閲覧数が減った、ブックマークが減った。へこたれて当たり前。そんなときこそ「開き直る」のです。「減ってしまったものはしょうがない。これからの投稿で新たな読み手を獲得し、できれば離れてしまった読み手に戻ってきてもらえたら」くらい「開き直り」ましょう。

 あなたが小説投稿サイトに作品を投稿するのは、それが「趣味」だからですよね。であれば連載間隔は自分で決められますし、長期休載も可能です。閲覧数(PV)やブックマークが減ったところで失うものなどなにもありません。「趣味」とはそれほど書き手本位でよいと思います。





最後に

 今回は「小説を書けたらどうなりたいか」について述べました。

「趣味」として「小説を書きたい」方もいるでしょう。「趣味」であれば義務を背負うべきではありません。できるだけ定期的に投稿することが望ましいのですが、事前に告知して連載を一回休むのも選択肢のひとつです。それができるのも「趣味」だから。

「趣味」は「小説を書く」ことが楽しくて書くのです。誰かに強要されるいわれはありません。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る