761.回帰篇:たくさん書いてたくさん落選しよう
今回は「たくさん落選することで心を強くしよう」ということについてです。
戦後派の方は精神的にたくましい方が多い。バブル全盛期は自意識過剰、バブル崩壊後は自信喪失、ゆとり世代は失敗することに慣れていないのです。
ですから、自意識過剰な方は鼻っ柱をいったん折ったほうがいいし、自信喪失の方はひとつずつステップアップすればいい。失敗することに慣れていない方は満足な結果が得られない時期が続いて失敗慣れしたほうがよいと思います。
それだけの心構えができないと、「皆に認められる小説」は書けないでしょう。
たくさん書いてたくさん落選しよう
「小説の書き方」コラムとしては、いきなりとんでもないことをぶちあげました。
しかし、この心構えがないと小説をうまく書けるようにはなりません。
あなたが最初に書きあげた「処女作」を「小説賞・新人賞」に応募して、見事に玉砕してください。
あえて玉砕するのです。なぜか。
精神的に強くたくましくなるためです。
「小説賞・新人賞」に応募して大賞を得ようと欲して自信作を送ったのに、「一次予選すら通過できない」ということが往々にして生じます。ほとんどの書き手は「自信作が箸にも棒にもかからないで落選した」経験を持っているものです。
この精神的ダメージはとても大きい。それが渾身の一作だった場合はとくに。たった一度落選しただけで「プロの書き手」への道である「小説賞・新人賞」をあきらめることもあります。
こうならないためには、書いた自分でも自信が持てないような作品を「あえて応募」するのです。もちろん「瓢箪から駒」がないとも限りません。ですがおおかたは一次選考すら通過せず見事に玉砕します。でもそれでいいのです。
「小説賞・新人賞」は狙いにいっても確実に大賞が手に入るようには出来ていません。同じ賞に「十年に一人の逸材」が応募しているかもしれないからです。そうなれば「あなたの自信作」ですら大賞がとれなくて当たり前。これは完全に「運」なので致し方なし。次の賞に狙いを定めて新作を書くしかないのです。
小説賞・新人賞と受験の関係
「小説賞・新人賞」の受賞は、よく受験の合格と比較されます。
受験者の上位何人が合格する「大学受験」とは少なからず近しいものもあるのです。同じ年に屈指の頭脳の持ち主が同じ大学を受験すれば、当落線上にいるあなたの合格は危うくなります。
「小説賞・新人賞」に「上位何人が受賞する」という定員は存在しません。応募者全員の質が悪ければ「該当者なし」で終わるときもあるのです。逆にひじょうにすぐれた作品が複数あったら「同時受賞」もありえます。
同じ受験でも「自動車運転免許の筆記試験」を例に引けばある程度わかりやすいかもしれません。「運転免許の筆記試験」は「八十点以上を取れば運転免許を交付」してもらえます。人の命がかかっている「自動車運転」に関して交通法規の八割だけ理解していても交付されるという現実は、交通事故や煽り運転を助長しかねません。これは自慢ですが、私は「九十八点」を取って交付されました。その際窓口で間違えた問題を教えてもらい、ミスを自覚することができました(霧の中での警笛の使用可否についてです)。道路交通法に詳しい方が「自動車運転」をしていれば、交通事故も煽り運転も総数ははるかに減るはずです。「運転免許の筆記試験」は「大学受験」と異なり、試験後に自分の点数を知ることができます。
「小説賞・新人賞」に応募しても、あなたの作品が「何点取れたのか」は教えてくれません。唯一察することができるのは一次選考通過、二次選考通過、最終候補作に残るという過程を通じてのみです。一次選考すら通過できないと、あなたの作品が「及第点を取れたのか」はまったくわかりません。
小説投稿サイトで開催されている「小説賞・新人賞」へ応募していたら、応募作がその小説投稿サイトに公開されていますので、何人が閲覧し、何人がブックマークに加え、何人が評価してくれたのか。数字でわかります。このあたりが「運転免許試験」に似てるのです。
ですので初心者ほど「小説投稿サイトで開催されている小説賞・新人賞」へ応募するようにしてください。あなたの作品を客観的な物差しで測れます。もちろん応募総数が紙媒体とは桁違いの多さなので、完全に比較できるものではありません。しかし「今作は何人から評価された。次回はもっと評価されたい」というのも立派な執筆動機になりえます。
だから「たくさん書いてたくさん落選する」ことがたいせつなのです。
落選しても読み手にどれだけ支持されたのか。それがわかるのは小説投稿サイトを用いて「小説賞・新人賞」に応募する最大の利点です。
売れると踏めれば可能性はある
「小説賞・新人賞」は「上位何人」が受賞するわけでも、「何点取った」から受賞するわけでもありません。主催または共催した出版社レーベルが「この出来なら紙の書籍にしても売れるな」と思えば何作だって受賞できるのです。よほどのことがなければ大賞は一作品に絞られます。しかし最終選考に残った作品でも「紙の書籍化」されたケースは存外多いものです。
出版社レーベルから「これなら紙の書籍として売れる」と判断されるまで、「たくさん応募してたくさん落選して」ください。
そのうち慣れてきて「また落選するだろうけど、今の最高を投稿して腕試しだ」くらいたくましい精神力が培われます。
できれば同じ物語を修正しまくって何度も応募しないほうがよいでしょう。「小説賞・新人賞」の選考をする方が前の作品を憶えていて「よい印象がない」作品はそれだけで損してしまいます。「この物語でどうしても受賞したい」と思っている方は、手直しした原稿を前回とは異なる「小説賞・新人賞」に送るか、同じ賞に別の作品と交互に応募するかしましょう。
少なくとも「今回ダメでも次回に手直しした作品を投稿すれば一次選考を通過できるのでは」という淡い期待を抱いているうちは、永遠に一次選考は通過できないと思ってください。
「小説の文章」として
何度応募しても一次選考を通過しないのは、「小説の文章」として根本から否定されているからです。手直しした程度でどうにかなるレベルであれば、一次選考を通過させるはず。どうせ「紙の書籍化」する際に担当編集さんから指示されて手直しを命じられて「売れる小説」に仕立て直せます。だから「小説の文章」として成り立っていれば、多少日本語が怪しくても一次選考くらいは通過させてくれるものなのです。
「小説賞・新人賞」には「紙の書籍化」権利だけでなく、賞金が懸けられていることが多い。小説を書き慣れるためにも、本命の「小説賞・新人賞」以外に作品を応募してみる価値はあります。なにより引き出しが増えるのは願ったり叶ったりです。
引き出しを増やす
あなたにはどれだけの引き出しがありますか。
別にあなたの机に引き出しが何個あるのかを聞いているのではないのです。
人には得手不得手があります。「剣と魔法のファンタジー」を得意とする人や、ガン・アクションを得意とする人、推理小説を得意とする人もいるでしょう。恋愛小説やBL小説しか書けない人もいるはずです。
しかしひとつのジャンルしか書けないのでは、先細りするだけでネタがすぐに尽きてしまいます。
よく「二作目の壁」という言葉を耳にしませんか。せっかくプロデビューしたのに、二作目を出版していない書き手が殊のほか多いのです。「二作目の壁」を越えたプロの書き手は十人に一人とすら言われています。九割は「二作目の壁」に阻まれて書かせてもらえないのです。
中には大賞を授かったのに「紙の書籍化」されなかった書き手もいます。なぜこんなことになるのでしょうか。
「書き手の知る物語のバリエーションが決定的に少ない」からに他なりません。
「小説賞・新人賞」を授かる努力をするだけで頭が凝り固まって、新しいジャンルや作風の小説が書けないのです。
「二作目の壁」を越えるには、前作とは異なる作品を書くしかありません。
その点、ライトノベルは一作が十巻二十巻と連載されることがよくあります。そのため物語のバリエーションがなくても、たったひとつの物語だけで長期間執筆し続けることができるのです。
ライトノベルの書き手は代表作をひとつは持っています。その連載が終了して新しい連載を始められるのか。これがライトノベルの書き手にとっての「二作目の壁」です。
多くの書き手は「一作目の連載が終了すると、二作目を書かせてもらえません」。それは「一作目の連載終了は人気がなくなったからだ」と出版社レーベルに思われているからです。もし「一作目」が大人気であれば、書き手の意向などお構いなしに連載を伸ばしてくれるよう出版社レーベル側から打診されます。そこで十巻くらい連載して円満に終了できたら初めて「二作目」を提案されるのです。
ライトノベルは「長期連載」が前提なので、「二作目の壁」は当面現れません。しかしそれは確実にあなたを待ち構えています。
「二作目の壁」を越えるために、多くのジャンルの小説を読むようにしてください。物語がストックされていないと、アイデアを思いつくこともできませんよ。
最後に
今回は「たくさん書いてたくさん落選しよう」ということについて述べてみました。
最初の作品から「小説賞・新人賞」を獲れるような書き手はまずいません。
多くの方は「たくさん書いてたくさん応募して」います。その結果「たくさん落選して」いるのです。
時期が悪かっただけの場合もありますが、基本的に一次選考を通過しなかった作品は日本語の使い方が悪いのです。二次選考を通過しなかった作品は物語の魅力が足りません。
そのためにはさまざまなジャンルを書きまくって、とにかく「小説賞・新人賞」に片っ端から応募していきましょう。挫折しても得るものは多いのです。
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