回帰篇〜あきらめないで書きましょう

755.回帰篇:小説は読まれないもの(毎日連載700日達成)

 今回から「回帰篇」の始まりです。

 原点回帰から新理論までを網羅した新しい着目点でコラムを書いていきます。





小説は読まれないもの


小説は読まれない

 あなたが小説を書いて小説投稿サイトへ掲載したとします。その小説はどれだけの人に読まれるとお考えですか。

「小説投稿サイトでランキング一位を獲って紙の書籍化を狙っている」という方は、まず「あなたの書いた小説は読まれない」という事実を直視してください。

 小説投稿サイトで最大の規模を誇る『小説家になろう』であっても、登録ユーザーは現時点で150万アカウント弱です(2019年3月14日時点)。ざっくりいえば日本人の1.25%しか登録していません。

 つまりあなたが書いた小説は「ほとんど読まれない」のです。

 まずこの認識を強く持ってください。




小説投稿サイト内でも読まれない

 150万アカウントありながら、現在月間ランキングでブックマークが最も多い作品は2万件ほどです。150万アカウントもありながら2万件。実に1.333%しかありません。

『小説家になろう』にアカウントを持つ人が日本人の1.25%、総アカウントの中で最も読まれている作品を読んでいる人はさらに1.333%なのです。日本人全体からすれば0.001666%です。

 この現状を直視して、それでもまだ「投稿した小説は必ず皆に読まれるはずだ。評価されないなんてことはありえないんだ」と思っているようでしたら、潔く筆を置いたほうがよいでしょう。

 最も読まれている小説であっても、たった2万人しかブックマークを集められないのです。

 統計的に言えば、小数点以下は二桁まで出せばほぼ正確に全体を把握できるとされています。アメリカは「アポロ計画」で人類を月へ送り出した際、月へ向かう宇宙船を制御するコンピュータも小数点以下二桁のみの演算能力しかなかったそうです。それでも人類を月へ降り立たせることに成功しています。そして地球へと帰り着いているのです。さらに古くはアメリカの「ボイジャー計画」が挙げられます。こちらも小数点以下二桁のみの演算能力しか持ち合わせていませんが、木星や土星など小惑星帯アステロイド・ベルト外の写真を数多く地球へと送り届け、現在は太陽系外へと飛び去っていきました。このように、小数点以下は二桁あればあらゆることが可能となるのです。その結果として誤差が生じたら、改めて計算し直して軌道修正をすれば済みます。

 では本題に戻ります。

 150万アカウントは日本人の1.25%ですから統計データとしても1.25%しかありません。総アカウントから月間で最もブックマークされた作品も1.333%ですから統計データとしてはこちらも1.33%です。そして日本人全体から月間で最もブックマークされた作品は0.001666%ですから統計データとしては0.00%になります。

 統計データが0.00%ということは、いくら最大手の『小説家になろう』へ作品を投稿しても世間ではまったく読まれていないのと同じです。

 これほどまでに小説投稿サイトは「掲載しても読まれない場所」なのだと、まずは認識してください。

 これまでの努力が無駄に思えてきた方は察しがいいです。

 もし「一人だけにでも読まれたら嬉しい」「ブックマークが増えたらさらに嬉しい」「よい評価をされたらもっと嬉しい」と思えてきた方には未来があります。

 なぜなら「小説投稿サイトは0.00%にしか読まれないメディアなのに、たった一人でも読んでくれて評価してくれたということは、読まれて評価されたパーセンテージは0.00%ではなく実数が生じてくる」からです。




万人ウケを狙わない

 私はあきらめの悪い人間で、0.00%しか読まれなくても「たった一人に届けたい」との思いで小説を書いています。『小説家になろう』には短編しか投稿していませんが、今年中には連載小説を始められそうです。今は「小説の書き方」コラムの執筆を最優先にしています。

「たった一人に届けたい」という思いはいつか必ず報われる。そう思っています。

「読み手を一人に絞る」のは、「万人ウケを狙わない」ことです。

 万人ウケを狙うとどうしても「あれも入れなきゃ、これも入れなきゃ」と物語の膨張が止められなくなります。

 百人中百人に読まれて大絶賛される小説というものはまずありません。

 前述したとおり、あなたの小説が読まれる可能性は0.00%です。読まれないのが当たり前。そこに実際に閲覧数(PV)が増えていくことで「読まれて」いき、実数として0.00%を脱して実数に転換します。

「剣と魔法のファンタジー」が最も読まれているから書く。これはまだいいほうです。

「勇者と魔王」ものがウケるから、「追放」ものがウケるから、「ざまぁ」ものがウケるから、「兄妹」ものがウケるから。これらをすべてひとつの作品に詰め込んでしまったら、あなたの小説はどのように評価されると思いますか。

 よほど腕のある書き手であれば、すべてを有機的に結合させて「大勢の読み手」を確保できるでしょう。

 しかしそんな腕の持ち主であれば、すでに「紙の書籍」デビューしているはずです。

 これから小説投稿サイトで腕前を磨こうとしている段階であれば、こんなに詰め込んではなりません。

 やるのならウケの良い要素の「ひとつ」だけを掘り下げてください。

「ひとつ」だけで読み手を惹きつけられるのか。不安に思う方もいらっしゃるでしょう。大丈夫です。腕前を磨くにはたった「ひとつ」のウケる要素を追求したほうが、物語からムダがなくなります。

 ムダのない作品は「ひとつ」の「ウケ」を徹底的に掘り下げられるのです。結果として、その「ウケ」において屈指の書き手と見なされるようになります。

 1980年代の邦楽シーンにおいて「夏」に照準を絞って成功したのがサザン・オールスターズであり、TUBEでした。「冬」に絞ったのが広瀬香美氏。ともに季節を絞ったことで、「夏」や「冬」の定番となりえました。また「卒業」をテーマにした曲や、「桜」をテーマにした曲がそれぞれ乱立した時期がありました。

 定評が得られるようになってから他の要素を狙いに行くことで新鮮味を出せたのです。サザン・オールスターズもTUBEも定評を得てから「冬」の曲を発表して多様性を見せました。




個性とはウケと狙いの掛け算

 小説に「個性」があるならば、それは書き手がどんな「ウケ」に訴求しようとしているのかと、なにを「狙っている」のかの掛け算にあるでしょう。

「遠距離恋愛」ウケに訴求しながら「悲恋」を狙ってみたら、ありきたりですが「儚い遠距離恋愛」ものが書けます。「悪役令嬢」ウケに訴求しながら「悲恋」を狙えば、「報われない悪役令嬢」ものが書けます。

「ウケ」はなにを訴求してもよいのです。個性は書き手がなにを「狙っている」のかに尽きます。上記の書き手は明らかに「悲恋」を狙っている書き手です。「悲恋」ものを読みたくなった読み手は、こういった「悲恋」に定評のある書き手の作品を読もうとするのです。

 なんら不思議なことではありません。私たちがプロの書き手の小説を買う動機として最初に挙げるのが「好きなジャンル」かどうかです。

「剣と魔法のファンタジー」を読みたいのか「異世界恋愛」を読みたいのかで、選ばれる書き手は異なります。

 次に「好きなウケ」が書かれているかどうかです。「追放されてざまぁ」するものを読みたいのか「王道の勇者パーティー」ものが読みたいのか。これは今なら「タイトル」によってある程度分類できます。そして決め手となるのが書き手の「知名度ネームバリュー」です。

 たとえば「剣と魔法のファンタジー」で「遠距離恋愛」ものを書いた「村上春樹氏」という組み合わせだってありえます。とても売れるとは思えませんが、「ジャンル」と「ウケ」と「知名度ネームバリュー」の構造を理解するにはわかりやすいたとえでしょう。

 ここでいう「知名度ネームバリュー」は主にその書き手が得意とする「狙い」によって形成されます。

 たとえば田中芳樹氏なら「戦争における駆け引き(政略・戦略・戦術)」に「狙い」を絞っているのです。もちろん『薬師寺涼子の怪奇事件簿』のように戦争とは無関係な作品もあります。それでも読み手が田中芳樹氏に期待する「知名度ネームバリュー」は「戦争における駆け引き(政略・戦略・戦術)」なのです。

 水野良氏なら「戦いを通じて精神的に成長する」ことに「狙い」を絞っています。『ロードス島戦記』『魔法戦士リウイ』『グランクレスト戦記』はいずれも、主人公が「戦いを通じて精神的に成長する」物語です。そこに「正統派の剣と魔法のファンタジー」という「ウケ」を掛け合わせることで、水野良氏の「個性」が構成されます。読み手は「正統派の剣と魔法のファンタジー」で「戦いを通じて精神的に成長する」物語を読みたければ、その「個性」を有している書き手の作品を選びます。つまり水野良氏の作品が選ばれることになるのです。

 これが真の意味での「知名度ネームバリュー」となります。

 川原礫氏の『アクセル・ワールド』と『ソードアート・オンライン』は「VRMMORPG」もので「不利な状況からの痛快逆転劇」が魅力的です。川原礫氏の「個性」もこのように表せます。この「個性」があるからこそ「知名度ネームバリュー」が高まるのです。




小説投稿サイトでも個性をたいせつに

 統計的に日本人の0.00%にしか読まれない「小説投稿サイト」を攻略するにあたり、たいせつにしたいのもまた「個性」です。

「ウケ」はその時々の「ウケ」を用いてもかまいません。しかし「狙い」は必ず統一しましょう。どんなジャンルに作品を投稿しても、軸となる「狙い」にブレがない。そういう書き手は読み手から信頼されるのです。それがその読み手にとってあなたの「知名度ネームバリュー」になります。

 そのうえで「ウケ」をある程度統一すれば、書き手の「個性」が読み手に伝わるのです。平坂読氏や伏見つかさ氏のように「ウケ」を「兄妹」ものに統一すれば、それが彼らの「個性」となります。

 もし「小説投稿サイトから紙の書籍化を目指したい」とお考えなら、まず「個性」を確立してください。その「個性」を活かして小説投稿サイトと出版社が共催する「小説賞・新人賞」へ応募するのです。先に「個性」が確立していますから、読み手や選考さんも安心して読めます。

 逆に応募したい「小説賞・新人賞」で求められる「ウケ」を見極めて、それに沿った作品をあなたの「狙い」どおり書く、という手法も考えられます。「小説賞・新人賞」によって「個性」がブレてしまいますが、「賞レース」にぴたりと当てはまる作品を書くにはこの手法がベストです。この手法なら、引き出しはたくさんあったほうがいいので、とにかく既存の主要な小説を徹底的に読み込んでください。世の中にはどんな「ウケ」が存在するのか。その「ウケ」を小説にしたらどんな物語が出来るのか。それを憶えるのです。

 幸い「小説賞・新人賞」の中には「お題」が定まっているものがいくつかあります。その「お題」が「ウケ」になるわけです。「お題」をあなたの得意とする「狙い」に従って書くだけで、あなたの「個性」あふれる作品に仕上がります。

 何を書けばいいのかわからない。そういう方は、ぜひ「お題」設定型の「小説賞・新人賞」に応募するべく執筆してください。





最後に

 今回は「小説は読まれないもの」について述べてみました。

 統計的に見ると、小説投稿サイトの小説は0.00%の人しか読んでいません。つまりはなから「読まれない」ものなのです。

 だから閲覧数(PV)がひとつ加わるだけで心の中で感謝し、喝采をあげてください。最終的にそのひとりだけで終わるかもしれませんが、あなたの小説は0.00%ではなく実数を伴ったのです。これはじゅうぶん誇っていい。小説投稿サイトの中には閲覧数(PV)が0のまま埋もれてしまう作品が殊のほか多いのです。

 ひとりに読まれたら、ひとりからブックマークをかちえる努力をしましょう。ブックマークがひとつ加わったら、ひとりから評価される努力をするのです。

 今トップランナーとして快走している書き手の中にも、初期の作品ではたったひとりにしか認められなかった人もいるでしょう。

 統計的な0.00%から実数を伴うようになるまでがツラいのです。そこを乗り越えてしまえば、後はすいすいと上昇気流に乗ることもできます。そのためには「ウケ」と「狙い」のかけ合わせである「個性」を磨くことです。



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