756.回帰篇:小説は小学生でも書ける

 今回は「小説なんて小学生でも書けるんですよ」というお話です。

 私は小学五年生で初めての小説を書きました。とても下手でしたけどね。

 書こうと努力すれば、小学生でも小説は書けるのです。

「時間ができたら小説を書きたい」と思っていてまったく書いていない方もいるでしょう。






小説は小学生でも書ける


 小説は、なにも中高生になっていなければ書けないというものではありません。もちろん中高年を過ぎてからでも始められます。年齢は妨げにならないのです。

 最低限日本語の読み書きができて、物語を筋道立てて構築できれば、小学生でも小説は書けます。実際私は小学五年生で初めての小説を書いたのです。語彙が貧相で出来は相当悪いですが、書こうと思えば書けてしまうもの。それが小説です。

 なにごともやる気があれば、年齢や性別など関係なしにできてしまいます。そこに難しいことはひとつもありません。



中卒レベルの国語力があれば書ける

 私が小学五年生で小説を書けたのは、単純に学校の国語の成績が良かったからです。

 小学校の通信簿を最近発掘したところ、国語と美術と算数の評価はつねに最高でした。

 これは私が小学校に上がる直前まで養護施設で育ったことと関係しているかもしれません。養護施設では男女がエリアを区分けされて生活していて、行き来することはできないようになっていました。つまり日常的に異性と接する機会がなかったのです。だから私は今でも異性を宇宙人のように認識しています。恋愛感情を抱けないのもそのためでしょう。そんな私ですから恋愛小説が書けるはずもありません。まぁ生まれと育ちでできることとできないことが生じるのは世の常です。

 しかし保育園児から中学三年生までの男子が一緒のエリアで暮らしており、保育園児だった私は小学生や中学生と遊んだり一緒になって勉強に取り組んだりしていたのです。

 算数の二桁の掛け算を四歳のときにパズルの要領でマスターしていましたし、お絵かきも見よう見まねで鉛筆でのデッサンに取り組んでいました。

 国語に関しては以前お話ししましたが、『アーサー王伝説』の本が大好きでよく読んでいました。小学生向けの書籍でしたが、ワクワクしながら読んでいたのを今でも憶えています。ここも養護施設育ちの子どもにありがちな夢を見ていたものです。「自分もアーサー王のような高貴な生まれなのではないか」。そんな根拠もない夢物語。そんなこんなで漢字の読み方も小説の読解力も養護施設で自然と身につけたのです。

 小学校に上がると同時に母親に兄弟ともども引き取られます。このときまで兄弟という認識がない者同士がひとり親に養われることとなったのです。そんな私が小学校に通えば、成績で「無双」していたことは想像に難くないと思います。

 つねに上の学年の勉強を自習し、図書室で『マンガ日本の歴史』や『怪盗ルパン』『シャーロック・ホームズの冒険』といった児童文学なども好んで読んでいたのです。そして気づいたら小学五年生で中学三年生の国語力、計算力、デッサン力を身につけていました。音楽の授業も大好きで、身を入れて学んだものです。

 小説を読むことが大好きで、読める漢字も義務教育レベルに達していれば、小説を書く土壌はすでに出来あがっていました。


 話は前後しますが、私はコンピュータというものを小学二年生のときに認知し、「将来はコンピュータの世界になる」と直感が働きました。最初は「BASIC言語」の独学から始めたのです。そしていくつかのゲームに触れているうちに「ゲームを作ってみたい」という衝動が生まれました。

 当時の「ゲーム」はゲームシステム、シナリオ、グラフィック、音楽、プログラミングをすべてひとりでこなさなければ作れなかったのです。それを知ったとき私は各方面の独学を開始します。幸い当時はアドベンチャーゲーム全盛であり、ゲームシステムは考えなくてもよかったので、シナリオとして物語を書くこと、グラフィックとして絵を描くこと、BGMとして音楽を作ること、すべてをまとめてコンピュータが理解できるようにプログラミングすること。これをすべて独学で勉強したのです。そして小学六年生の頃に母親にねだってNEC製「PC-6001mkII」という「マイコン」を手に入れました。それでゲームを作ろうと思ったのです。

 アドベンチャーゲームはシナリオが鍵を握っています。これで面白いかつまらないかが決まります。

 私がそれまで多く読んできたのは『アーサー王伝説』『怪盗ルパン』『シャーロック・ホームズの冒険』といった作品です。その中で『アーサー王伝説』は養護施設の頃から親しんでいましたので、ジャンルは「剣と魔法のファンタジー」で行こうと決めました。

 しかし「剣と魔法のファンタジー」を書こうとすると、どうしても行き当たるのが「どういった戦術や戦略で勝利するか」という点です。これが最大のネックになりました。

 そんなとき私は中国古典の兵法書『孫子』に出会いました。この書籍は「戦術や戦略」についておおいに得るものがあったのです。

 本小説投稿サイトに投稿している拙作『兵法の要点』は、『孫子』を始めとする中国古典から、内政、政略、戦略、戦術、戦法といったものに区分して、いつでも「兵法の奥義」を読み返せるように作ったものです。「剣と魔法のファンタジー」を書く方は、これらを避けて通れません。できれば原典に当たってほしいのですが、時間とお金がないのであれば『兵法の要点』を参考にしてくださいませ。

 こうして小学生のうちに一本シナリオを作ることができました。これは二作目の小説ともなったのです。

 そうなのです。特別な才能がなくても、やる気さえあれば小説は書けます。

 年齢を理由にして小説を書くのを敬遠している方も多いのですが、必要なのは義務教育レベルの国語力だけです。そしてジャンルや題材に関する知識を持つことで、必ず小説を書けるようになります。

 小学五年生でも小説は書けたのです。また75歳で芥川龍之介賞を授かった黒田夏子氏もいらっしゃいます。

 面白い小説を書くことに年齢は関係ありません。

 必要なのは中卒レベルの国語力と、着想力・想像力・構成力だけです。これだけあれば、誰にでも小説が書けます。




書けると評価されるは別

 問題はそれがどう評価されるかです。評価を気にしなければ小学五年生でも小説は書けます。ですが読み手から評価を得ようとするのなら、ただ書けるだけではダメなのです。

 まずあなたの書く小説に「需要」がなければ評価されません。

 私は「剣と魔法のファンタジー」で「戦略・戦術」を駆使するような作品をよく書きます。ときどき「日常」ものを書いたりしますが、これは完全に息抜きです。つねに「剣と魔法のファンタジー」だけを書いていると思考が硬直してしまうため、頭を切り替えるために「日常」ものを書いています。

 では「需要」はどうなのか。残念ながら「剣と魔法のファンタジー」で「戦略・戦術」に特化した小説に「需要」はさほどありません。そこで「剣と魔法のファンタジー」で「ヒロイック」な小説を目指すように方向転換したのです。「ヒロイック」な表現として「戦略・戦術」が活かせればいい。そう考えたことで、読み手が少しですが増えました。方向性は間違っていないようなので、「ヒロイック」な方向性での連載小説を準備中です。本コラムでときどき名の挙がる『秋暁の霧、地を治む』がそれです。

 すぐれた書き手になるためには、まず「需要」を予測する力を身につけましょう。「需要」のない小説を書いても誰にも読まれませんし、評価もされません。せっかく書くのであればたくさんの方に読んでもらって、いっぱい評価してもらいたいものですよね。

「評価」されるには、そもそも「需要」があることが前提です。

 プロの書き手になれば担当編集さんが「需要」を見極めてくれます。担当編集さんは多くの書き手を受け持っていますし、市場で今よく売れている小説がどんなものなのかも知っているのです。

 だからプロデビューする前のほうが、デビュー後よりも時流を見極める目が必要となります。このあたり本末転倒しているようですが、事実ですので受け入れてください。

 少なくともプロデビューした方々は、デビュー前に「需要」を見極める目を持っていたことは確かです。




需要を見極める

 どうすれば「需要」を見極められるのか。

 最も確実な方法は『このライトノベルがすごい!』をチェックすることです。しかしこの方法はどうしてもタイムラグが大きくなります。年一回しか発行されていませんから、業界の大きな流れを読むには適しているのですが、今どのような物語の「需要」があるのかまではわからないのです。

 ではどうすればよいのか。書店に出向いてライトノベルや{大衆娯楽エンターテインメント小説のコーナーに行ってください。そして平積みや面陳されているものをチェックします。

 書店で平積みされている書籍は新刊か、今話題になっている作品のいずれかです。新刊は今市場に投入される「需要」のありそうな物語で占められています。なぜなら「需要」がなく売れないと判断される書籍をわざわざ在庫のリスクを抱えてまで出版する会社などどこにもないからです。出版社レーベルによって「需要」の予測に違いはあります。ですが、どんな物語に「需要」があるのかを見極めるには、新刊をチェックし続けることがいちばん確かです。

 既刊で平積みまたは面陳されている作品は、話題になっている作品であることが多い。その書籍を見やすいように陳列することで売上を高めようと、書店側の思惑が働いているからです。これは書店店長の経験からも言えることなので私を信じてください。出版社レーベルによっては自レーベルのイチオシ作品を書店に送りつけてアピールしてくるところもあります。つまり誰かが「需要」があると判断しているからこそ平積みや面陳されているのです。

 アニメ化の決まったライトノベルが大量に平積みや面陳されているところを、買い手であるあなたは見続けてきましたよね。これは「購入」という「需要」が見込めるから行なわれることなのです。アニメを観た人が「原作を読んでみよう」と思い立っても書店に置いていなければどうなるか。せっかく「原作を読んでみよう」と思ったのに買わずに終わってしまうのです。「アニメ化は原作の売上には貢献しない」との見方もよくされていますが、少なくとも私が書店の店長をしていた頃は「アニメ化」「ドラマ化」「映画化」が決まれば確実に売上はよくなっていました。





最後に

 今回は「小説は小学生でも書ける」ことについて述べてみました。

 私は文章に関してはかなりの早熟で、そこからなかなか才能が伸ばせない状況が続いています。ですが小説を書くことから、アルバイトで書店員になり、一カ月後に社員採用され、三カ月後に主任に、そして三カ月後に店長を任されたのです。その後その書店の通販事業の立ち上げも主導しました。

 良い意味で解釈すれば、私の人生は小説によって塗り固められてきたのです。

 そんな小学五年生でも小説が書けます。それよりも年齢が上で人生経験も豊富なあなたに、小説を書けないはずはないのです。

「小説は書けるけど評価されない」方は、まず「需要」を見極める努力をしましょう。残念な真実として「需要」のない小説はいっさい評価されません。どんなにすぐれた小説であっても「需要」がなければダメなのです。プロの書き手の場合、出版時の「需要」に合わず部数を稼げなかった書籍も、他の作品で小説賞を授かることでドンと売れることがあります。直木三十五賞やノーベル文学賞を獲得した書き手の作品群はよく売れる。過去の「需要」に合わなかった作品が、小説賞の肩書を得た途端「需要」が発生して売れていくのです。

 小説投稿サイトで頑張っている方も、たとえ今連載している小説が「需要」を満たしていなかったとしても、「小説賞・新人賞」を獲得できれば「需要」は必ず発生します。

 腐らずにきちんと連載を終える努力をすることで、将来の資本が増強されていくのです。



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