740.事典篇:怪物:スライム

 今回は「スライム」についてまとめました。

 本来は「さまざまな形に伸びてひっつく玩具」の固有名詞であるため、『D&D』でも最近では「ウーズ」と呼称するようになっています。昔は「グリーン・スライム」という呼び方もあったのですが。著作権に厳しい『D&D』ですから、自らが侵害しては本末転倒と考えたのでしょう。





事典【怪物:スライム】


ウーズ(スライム)

 スライムはファンタジー作品などにおける、主にゼリー状・粘液状の怪物のことです。単細胞生物なのか多細胞生物なのかすらも不明であるばかりか、液体金属や溶岩のように無機的な組成の体を持つものまでいます。

 架空の生物としてのスライムが初めて出現したのはアメリカの作家ジョセフ・ペイン・ブレナン氏『Slime』においてのことです。また、現在のスライムにつながる直生の祖先としては1931年にH.P.ラブクラフトが発表した長編小説『狂気の山脈にて』に登場する黒い粘液状の生物ショゴスが挙げられます。

 1974年に出版されたTRPG『D&D』において、これまでさまざまな作品で扱われてきたスライム系モンスターのイメージが整理され、ダンジョン内での危険な存在として定義されたのです。

 このゲームにおけるスライムは、単細胞ないし群体生物のため殺しにくく、触れるものを同化したり、酸性の体液で武器や防具を腐食させたり、巨大に成長して始末に困るなどの特徴を持つかなり厄介な生物でした。殴っただけでは打撃を与えられないこともしばしばで、退治するには炎(ないし冷気や電気などのエネルギー攻撃)を用いないと難しかったのです。これらの性質は、それ以降に登場した数多くのTRPGのスライムに継承されました。

 ところがSir-Tech『Wizardry』やT&Eソフト『ハイドライド』などのコンピュータRPGでは、ゲームの初期に登場する、ひじょうに弱いモンスターとしてスライムが登場しました。物理的な攻撃で退治できるようになった点が大きな変化です。

 コンピュータRPG『DRAGON QUEST』に登場するスライムは水滴のような形状に可愛らしい顔が描かれたコミカルな外見をもち、その後のスライムのイメージに大きな影響を与えました。続編では、仲間として冒険が可能になったのです。

 創作界隈においては、人型に形成して登場人物に仕立てたものにスライムを種属として設定したものも存在します。



 TRPG『Dungeons & Dragons』第五版では、ウーズ(粘体)は暗がりにはびこり、明るい光や極端な暑さ寒さを嫌います。じめじめした地下世界をどろどろ流れ進み、消化できるものは生き物もそれ以外も見境なしに喰らい、地面を音もなく動き回り、壁や天井から滴り落ち、地底湖の岸辺に広がり、岩の裂け目から染み込んできます。ウーズの酸の接触による火傷の痛みを感じるまで、ウーズの存在に気づかない冒険者も多いのです。

 ウーズは動くものや暖かいものに引き寄せられます。ウーズはあらゆる有機物から栄養を摂取できるため、獲物が少ないときは埃や菌類や汚物も餌にするのです。ベテランの探検家は、不自然なまでに清潔な通路は近くにウーズの巣がある証拠だと知っています。

 ウーズは獲物をゆっくりと殺します。ブラック・プディングやゼラチナス・キューブの類は獲物を包み込んで逃がしません。この苦痛に満ちた死に方に何かよい点があるとすれば、手遅れになる前に犠牲者の仲間が助け出せるだけの時間があるということです。

 ウーズが分解できる物質の種類はウーズごとに異なるため、プルプル震えるウーズの体内に貨幣、金属製の装備品、骨、その他のがらくたが浮かんでいる場合もあります。ウーズを退治できればそれらのお宝が丸ごと手に入るかもしれません。

 ウーズに他のクリーチャーと同盟を結ぶような知性はありません。ですが他の誰かがウーズの必要とするものを知っていれば、ウーズを好きな場所に誘い込んで利用できます。頭のいいモンスターは通路の見張りやゴミ処理係としてウーズを飼っているのです。同様に、ウーズを落とし穴の底に誘い込めば、充分な餌を与えている限りウーズが穴から這い上がってくる心配はありません。悪賢いクリーチャーはウーズが特定のトンネルや部屋から出ないように松明や火鉢を巧みに配置しています。

 ほとんどの場合、ウーズに戦術や自己保存欲求という概念はありません。ウーズの動きは直接的で予想どおりであり、知性の欠片もなく襲いかかり喰らうのみ。ですがデーモン・ロードの支配下にあるウーズはおぼろげな知性と邪悪な意図を見せます。

 ウーズに睡眠は必要ありません。

【オーカー・ジェリー】

 オーカー・ジェリー(黄土色のゼリー)は黄色い粘体です。扉と床の隙間や細い割れ目をすり抜けて獲物を追いかけ、喰らいます。ジェリーは数の多い相手を避ける程度の動物的な勘を備えているのです。

 オーカー・ジェリーは安全な距離を保ちながら獲物の後をつけます。ジェリーの消化酵素はあっという間に肉を溶かしますが、骨や木や金属など他の物体には何の効果も及ぼしません。

 斬撃や雷撃を受けると二つに分裂します。

【グレイ・ウーズ】

 グレイ・ウーズ(灰色の粘体)は石が混沌の力によって液状化したものです。液体の蛇のようにうねりながら進み、鎌首をもたげて襲いかかります。

 動かないでいる限り、油の浮いた水たまりや濡れた岩と見分けがつきません。

 魔法でない金属製の武器は腐食し、金属製の鎧を着ていても腐食して破壊されることもあるのです。

【ゼラチナス・キューブ】

 ゼラチナス・キューブ(ゼラチン質の立方体)は分かりやすい一定のパターンに従ってダンジョン内の通路を音もなく舐め尽くし、通った後には塵一つ残しません。キューブは生き物の肉を溶かすが骨やほかの物質は溶かせないのです。

 ゼラチナス・キューブはほぼ透明であり、キューブに襲われる前にその存在に気づくのは難しい。犠牲者の骨、貨幣、その他の物品がキューブの体内に浮かんでいるため、たらふく食べているキューブは見つけやすくなります。

 このキューブの中にいるクリーチャーを外から見られますが、中のクリーチャーは完全遮蔽を有します。

 中に閉じ込められているクリーチャーを引っ張り出したり、自力で脱出したりすることもできなくはありません。

 キューブは大型以下のクリーチャーのいる場所に移動することで、包み込めます。包み込めるのは大型1体、または中型以下4体までです。

 包み込まれると呼吸ができなくなり、拘束状態になり、酸のダメージも受けます。

【ブラック・プディング】

 ブラック・プディング(黒いねばねば)はべたべたした黒い泥の塊が波打っているように見え、薄暗い通路にいると単なる影にしか見えません。

 ブラック・プディングは肉、木材、金属、骨を溶かします。後に残るのはきれいに舐め尽くされた石ぐらいです。

 このプディングにヒットした魔法でない金属や木製の武器は腐食します。腐食が進めば破壊されます。

 斬撃や雷撃を受けると二つに分裂するのです。



 TRPG『PATHFINDER RPG BESTIATY』では、グレイ・ウーズとゼラチナス・キューブとオーカー・ジェリーがいます。

【グレイ・ウーズ】

 寒冷な沼地やじめじめした湿地帯、時にはダンジョンや洞窟をもひっそりと移動しながら、グレイ・ウーズは遭遇したあらゆる有機物を捕食します。知性がないにも関わらず、グレイ・ウーズは“透明”なせいで最も厄介なクリーチャーです。グレイ・ウーズは壁を登るのも泳ぐのも得意ではないが、沼地の水辺のどんよりとした一見無害な水たまりに身を置いたりする習性により、グレイ・ウーズは危険なまでに見落としやすく、また踏み入りやすくなっています。

 賢者の中には、グレイ・ウーズは錬金術の実験が失敗した結果生まれたと感心する者もいれば、原初のグレイ・ウーズは魔法的な廃液槽の残りかすから自然発生したとの仮説を立てる者もいます。こうした、グレイ・ウーズは有機生命体ではなく希少な腐食性の粘体と魔法的な廃棄物が不幸にも混ざり合って出来た錬金術的な産物でしかないという説は、当然ながら、長い魔法的な汚染の歴史があるわけでもないのにこのクリーチャーがはびこっている地域に住む者たちから一笑に付されているのです。

 グレイ・ウーズは環境の変化に容易くかつ速やかに適応します。単純で原始的な体構造と分裂という増殖法によって、こうした変化はほぼ確実に生じます。以下に上げるのは冒険者たちが遭遇するであろう亜種のうち2種です。

 おそらくグレイ・ウーズの亜種の中で最も異色なイド・ウーズは原始的ながらも知性を発達させており、他のウーズとテレパシーで意思疎通する能力や、さらには精神力そのものの波動を敵に浴びせる能力すらも持ち合わせています。イド・ウーズは100フィート以内にいる別のイド・ウーズとテレパシーを用いて単純な共感による意思疎通ができるのです。さらに回数無制限の疑似呪文能力として「レッサー・コンフュージョン」を使用できます。

 クリスタル・ウーズは、グレイ・ウーズの好む沼地で一般に見かけるものより、ずっと深い水界に住む〈水棲〉の亜種です。クリスタル・ウーズは〈水棲〉の副種別を持ち、水泳移動速度30フィートを有します。クリスタル・ウーズはグレイ・ウーズの持つ“締めつけ”能力を持っていませんが、麻痺毒を分泌し、この毒は攻撃が命中した相手を麻痺状態にしてしまうのです。

【ゼラチナス・キューブ】

 ダンジョンで最も奇妙で、ダンジョンに特化した捕食者であるゼラチナス・キューブは、ダンジョンの部屋や暗い洞窟を無心でうろつきまわることに生涯を費やし、植物、生ゴミ、死体、時には生きたクリーチャーなどといった有機物を飲み込んでいきます。金属や石のようなゼラチナス・キューブが消化できない物質はそのまま貯まってキューブをいっぱいにすることがあるため、時々一部が体外に排出されるのです。過去の犠牲者の所持品や宝物がゼラチナス・キューブの体内に残され、それらが幽霊のようにも見えます。

 賢者たちは、このクリーチャーはグレイ・ウーズが特化した変化を遂げたものであると判じています。ゼラチナス・キューブをダンジョンや地底の城砦の番人として利用する者もいるのです。彼らはこの巨大なクリーチャーを金属製の頑丈な箱に詰め込み、奴隷か魔法の力で彼らが最終的に守るべき部署に運び込みます。彼らはまた、ひじょうに高効率な廃棄物処理装置にもなるのです。ゼラチナス・キューブが這い上がることのできない落とし穴などに閉じ込めることができた者たちは、創意工夫次第でゴミ捨て場や恐るべき罠として使えます。

 ゼラチナス・キューブは一辺およそ10フィート(約3m)で、体重は15,000ポンド(約6.8t)以上。しかし、地下を探索したものの中には、最も深い洞窟や回廊にさらに大きな個体が這い回っていたことを報告しています。食料が豊富にある場所では、ゼラチナス・キューブは数千年とはいかないまでも数百年間生きられるのです。しかし、有機物を半年得ることができなければ、ゼラチナス・キューブは縮み始めます。この負荷は体壁にストレスを与えるため、ゼラチナス・キューブの体は急速に気化する粘液を漏らしながら崩れ、やがて完全に消えてしまうのです。

【オーカー・ジェリー】

 オーカー・ジェリー(黄土色のゼリー)は、黄色と橙色と茶色が混じり合った胸の悪くなる色合いを持つ、自律行動する原形質(訳注:細胞の中で“生きている”とされていたゼリー状の物質)の塊です。動きを止めている間、オーカー・ジェリーの脈動する平たい体はおよそ6インチ(15cm)の高さがあり、かなりの直径まで広がります。動いているとき、オーカー・ジェリーはたいてい震える球状の姿に丸まり、ほとんど転がりながら移動しているように見えるのです。形を自在に変えることのできる体により、オーカー・ジェリーは自分の接地面よりもはるかに小さな裂け目や穴に入り込めます。地面の下に住むクリーチャーはよくオーカー・ジェリーに対する防御を固めるために、巣の小さな裂け目を塞ぐことがあるのです。

 オーカー・ジェリーのひじょうに特殊な酸は肉のみを溶かします。この発見により、多くの毒使いや金のためならなんでもする錬金術師が研究のために検体を探し求めることと相成ったのです。このような実験の結果、特殊な武器の中には非道な方法で生身の身体を標的とするものも存在します。数年前、生きているクリーチャーの細胞壁を破壊し、ゆっくりと効果が持続する毒の噂が広まったことがありましたが、その作成者は命がけで秘密を守り抜いているのです。

 長らく忘れられていた書物の添え書きに、はるか彼方の地で行なわれている、火葬に似た葬送習慣のことが言及されています。遺体を焼いて荼毘に付す代わりに、葬送者は遺体と共に、遺体を溶解できるオーカー・ジェリーを石棺の中に封じるのです。しかる後、葬儀屋がオーカー・ジェリーを大きなカノピック(訳注:ミイラの作成時に遺体の内臓を収める壺)に入れ、故人の名を記した青銅の銘板を付けることで完了します。この習わしは遺体(それ自体はきれいな白骨のみを残して速やかに無に帰す)と一緒に埋葬されたアイテムを守り、そのクリーチャーの精髄は、生きたオーカー・ジェリーとなお共にあると信じられているのです。

 オーカー・ジェリーの体高は約6インチ(約15cm)、広がると直径10フィート(約3m)をわずかに上回り、体重は2,600ポンド(約1.2t)以上。戦闘時は、オーカー・ジェリーは自分の体を高く積み上げ、しずくを垂らす長い偽足を繰り出して、動くものすべてに叩きつけや組みつきで襲いかかります。

 地下世界の深奥では、この種の精神を持たぬ捕食生物は途方もない大きさまで成長しうるのです。さらに恐ろしいことに、獲物を捕らえる手段を得たオーカー・ジェリーがいるという噂もあります。冒険者たちの話では、触れるだけで敵に毒を与えたり、目や喉を灼く大量の毒ガスを放出したりできるオーカー・ジェリーが存在し、近づきすぎた者は為す術なく巨大な原形質のバケモノにのしかかられ、食われ始めるというのです。



 TRPG『Tunnels & Trolls』完全版『MONSTERS! MONSTERS!』では、原始細胞からなる、汚らわしい泥の塊です。実際に殺すのは不可能ですが乾かしてしまったら動けなくなります。この生き物は沼地を好みます。

 スライム・ミュータントはどろどろのヘドロのようなモンスターです。沼地などに潜み、近づくものを包み込んで、消化してしまいます。武器では傷つけることができません。魔法や火などでのみ抵抗できます。耐久度/MRを0にしても完全に殺すことはできず、時間が経てば破片がより合わさり、再生します。しかし、ここで完全に乾かしてしまえば(「炎の嵐」魔法などが有効でしょう)、再び水を得るまでいっさい活動はできなくなります。



 TRPG『クリスタニアRPG』では、不定型の巨大アメーバー。魔法生物を創造したときの失敗作です。廃墟や洞窟などに潜んでいて、全身を変形させるようにして移動し、目標に張りつくと酸を分泌して、溶かしてから体内に取り込もうとします。精神魔法は無効。



 TRPG『ログ・ホライズンTRPG』では、緑不定形グリーンスライムは不定形をした緑色のゲル状人工生命体。防具を溶かす体液や自在に変化する触腕で獲物を弱らせ、取り込もうとします。主に湿度の高いダンジョンに棲息し、音もなく天井や壁を這い回るのです。『大災害』後は、女性の冒険者が戦いたくない怪物ランキングの常連として名を馳せています。

貪り食う汚泥オルクスジェリー

 ダンジョンなどに生息する粘体生物の中でもとくに巨大なモンスター。黄土色の身体は全体が強酸性のゲルで出来ており、近づくと装備が劣化するため、多くの冒険者から忌み嫌われていました。加えて『大災害』後は全身から凄まじい異臭を放っていることが明らかになり、忌避感に拍車をかけているのです。



 TRPG『この素晴らしい世界に祝福を!TRPG』では、ドロドロとした粘液状の生命体。その多くは明確な意思や思考を持たず、本能的な食欲に従い活動します。その粘液は強酸性の消化液で、取り込んだ獲物を溶かして捕食するのです。さまざまな亜種が存在し、毒性を帯びたポイズンスライムや、麻痺毒が分泌するパラライズスライムなどもいます。



 TRPG『ゴブリンスレイヤーTRPG』では、粘菌スライムは巨大な這いずる粘液の塊です。古の魔術師による召喚の失敗作と言われています。動きは鈍いですが、天井から滴り落ちて獲物の顔に張り付き窒息させます。青や白をはじめ色はさまざまで、「死」の迷宮に現れたものは血肉を思わせる淡い桃色だったそうです。

赤粘菌レッドスライム

 鮮やかな朱色に染まった粘液の塊です。知性を持たないにも関わらず、恐るべきことに呪文を操る能力を持ちます。その色と魔力の源は、犠牲となった哀れな魔術師たちの血肉や脳だといわれています。

緑粘菌グリーンスライム

 鮮やかな緑色に染まった粘液の塊です。なにを捕食したのか体内に毒素を貯め込んでおり、またそれを本能的に活用して獲物を弱らせ、そのまま捕食する恐るべき存在となっています。





最後に

 今回は「スライム」についてまとめました。

『D&D』では「ウーズ」と呼ばれますが、過去の版では「グリーン・スライム」などもいたため、『D&D』初出のクリーチャーの可能性があります。

 ただし「スライム」は別の会社が商標を取得しているので、『D&D』でも「ウーズ」という呼び方をしなければならなくなりました。

 日本でも「スライム」は商標登録されていますが、「剣と魔法のファンタジー」においては今でも「スライム」がクリーチャー名として用いられています。



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