738.事典篇:怪物:イミテーター

 今回は「イミテーター」についてまとめました。

 馴染みのないクリーチャーかもしれませんが、宝箱に偽装した「ミミック」といえばピンとくる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 ミミックの他にもドアに化けたり床に化けたりとより凶悪なクリーチャーもいます。





事典【怪物:イミテーター】


ミミック(イミテーター)

 ミミックは「真似る」「似せる」を意味する英単語であり、生物学における「擬態」を意味します。

 他のものに姿を変える能力を持つ「シェイプシフター」と総称される怪物の一種。宝箱そっくりの姿をしており、ダンジョンや廃墟の中で数々の難関を乗り越えた冒険者が見つけて宝箱の中の財宝を手に入れるべく開けようとすると、箱の口が牙だらけの口と化して襲いかかり、冒険者は手痛いダメージを受けるというものです。RPGに登場する怪物の中でも比較的新しいものらしく、神話や民間伝承での存在は確認されていません。

 実際に宝箱そっくりの外見なのか、別の外見を持つものが宝箱の姿に擬態しているのかは不明ですが、ゲームのエニックス(現スクウェア・エニックス)『DRAGON QUEST』では『D&D』の影響から、宝箱に擬態するものと解釈されています。またコミックの『ダンジョン飯』においては、ミミックの本体はヤドカリの一種のような姿で描写されており、宝箱だけでなく、戸棚や木箱、幼体は食器や瓶などにも潜んでいるとされているのです。

 宝箱が本物の宝箱かミミックかを見分ける方法として、特に有効なものはありません。距離を置いて攻撃することで見分ける方法も考えられますが、本物の宝箱であった場合は肝心の中身が壊れてしまうこともありうるうえ、宝箱に罠が仕掛けられていた場合はそれが発動する可能性もあるため、有効とは言いがたいのです。また『DQ』シリーズに限らず、ゲーム内でミミックと戦闘となった場合は、箱に入っているためか往々にして防御力や耐久力が高く、生半可な攻撃ではダメージすら与えられないこともあります。



 TRPG『Dungeons & Dragons』第五版では、ミミックは変身能力を持つ肉食の生き物で、動かない物体の姿に化けて獲物をおびき寄せて殺します。この狡猾なクリーチャーは、ダンジョン内では扉や宝箱に化けていることが多い。この姿なら次から次へと獲物が近寄ってくることを知り抜いているのです。

 ミミックは自分の外見や手触りを木材や石材その他のありふれた材料そっくりに変化させる能力を持ち、この能力を用いて他のクリーチャーが近寄ってきそうな物体に化けるように進化してきました。獲物候補が、化けているミミックに気づくことはほぼ不可能です。獲物がミミックの間合いに踏み込んだ瞬間、この怪物は擬足を伸ばして襲いかかります。

 ミミックは変身の際に粘着液を分泌し、自分に触れた獲物や武器を捕らえやすくするのです。ミミックが本来の不定形な姿に戻るとこの粘着液は再吸収されます。この粘着液はミミックが自分の体を動かし這いずってゆく際にも役立つのです。

 ミミックは独りで生き独りで狩りをしますが、他のクリーチャーと狩り場を共有することはあります。ほとんどのミミックは肉食獣と同程度の知性しか持ちませんが、稀に並外れた知能を発達させ、共通語や地下共通語で簡単な会話を行なえる個体もいます。このようなミミックならば、餌と引き換えに自分の縄張りを安全に通してくれたり、有用な情報を提供してくれたりするかもしれません。

 粘着液に触れたあらゆるものはミミックにくっついてしまいます。サイズ分類が超大型以下のクリーチャーは、このミミックにくっついている間、このミミックにつかまれた状態です。このつかみから脱出するための能力値判定には不利がつきます。



 TRPG『PATHFINDER RPG BESTIATY』では、ミミックは、はるか昔に製法が失われた魔法の薬によって非生物に命を与えようという、ある錬金術師の試みの結果であると考えられています。時は過ぎ、この奇妙な、しかし頭のいいクリーチャーは、特に少数のクリーチャーがたまに通りかかる場所で、自分たちの変身能力を使って人工物の形をまねることを憶えました。それにより、獲物の襲撃に成功する確率を高められたのです。

 ミミックは生まれつき邪悪というわけではありませんが、一部の賢者はミミックが人間やその他の知性のあるクリーチャーを襲うのは、単に食事のためではなく楽しみのためであると信じています。他者を完全に騙したいという願望が彼らの本質のひとつであると考えられており、他者に対する奇襲攻撃はそのような願望の到達点なのです。

 典型的なミミックは体積150平方フィート(5×5×6フィート:約1.5×1.5×1,8m)で体重約900ポンド(約400kg)。伝説や物語によればさらに大きなサイズのミミックもおり、家、船、ダンジョン全体の形を取る能力を持つとされます。彼らは宝物(実際のものと偽物の両方)で飾り立て、食べ物が疑いもなく入ってくるのを誘うのです。



 TRPG『ADVANCED FIGHTING FANTASY』第2版『モンスター事典――奈落の底から――』では、地下の暗い場所には奇妙な変形のできる、イミテーターと呼ばれる生物が潜んでいます。本来の姿は不定形な流動性の物体で、いわば粘つく泥がたまったようなものです。彼らは好物の温かい肉を求めようとする際には、他のものに見えるような姿に変われます。賢くない生き物を捕らえるためには相手の常日頃の食べ物をまね、より賢い人間やオークに対しては、扉や宝箱のふりをするのです。

 そうした愚かな餌食がイミテーターに触れると、この生物が分泌する糊に似た物質に捕らえられてしまい、たちまちくっついてしまうのです。同時に大きな拳のような突起で殴りかかってきます。一度この“拳”を切り落としてしまえば、犠牲者はイミテーターにとどめを刺す余裕ができ、その後ゆっくりと、その糊から自身を引きずり出せるでしょう。

【チェスト・トラップ】

 不用心な冒険者はときとして、宝箱を開けようてしてぞっとする最期を迎えます。毒の針やガスの噴出、猛毒の蛇といったものが、こうした危険に数えられるが、最も警戒すべきはチェスト・トラップの怪物です。

 彼らは箱や宝のひつの中でのみ見つかり、誰かや何かが開けるのを悪意満々で待ち構えています。グレムリンに近縁の小さないたずら好きの人型モンスターであり、とても長い腕と強靭な鉤爪を備えているのです。このモンスターは絶好の獲物が隠れ家に近づいてくるのを聞き取ると、中で身をかがめ、跳び出して攻撃する準備を整えます。蓋が持ち上がった瞬間、そいつは跳び上がり、鉤爪で最も近くの生物を激しく攻撃するのです。一度現れると、以降は普通に攻撃できるようになります。こうした宝箱には、過去の犠牲者の遺品がごっそりとため込まれています。



 TRPG『ソード・ワールドRPG』完全版では、イミテーターは、古代王国の魔術が創造した粘土状の人工生命体で、扉や宝箱をかたどって作られ、財宝や重要人物を警護するために、城や迷宮のあちこちに配されました。普段は仮死状態でまったく動かず、石か金属のように見えますが、生き物が振れるとただちに活性化し、攻撃してきます。仮死状態のまま何千年でも生きることができるため、現在でも多くのイミテーターが古い迷宮の中で侵入者を待ち受けているのです。

 イミテーターは侵入者を撃退するか全滅させるまで攻撃をやめませんが、特定の場所に留まるように命令されているため、逃げ出した敵は追いません。

 戦闘が終わると、イミテーターは殺した犠牲者の体を酸で溶かして、すっかり吸収してしまいます。吸収に要する時間は、小型のイミテーターなら数時間でが、大型のものならほんの数十秒にすぎません。イミテーターは鉄も吸収しますが、金や銀、宝石などは溶かせないので、吐き出してしまいます。ですから、イミテーターのそばには犠牲者の持っていた財宝が散らばっていることが、しばしばあります。吸収を終えるとイミテーターはもとの仮死状態に戻ります。

 イミテーターは知性を持ちません。イミテーターが理解できる言葉は、創造したときに魔術師によって与えられたキーワードだけです。キーワードを言えばイミテーターは攻撃してきません。たとえ戦闘の最中であっても、キーワードを聞くとただちに仮死状態に戻ります。

 イミテーターにはさまざまな形や大きさのものがありますが、一般的なのは「チェスト・イミテーター」「ドア・イミテーター」「フロア・イミテーター」の三つです。また、作られたイミテーターが逃げ出し野生化したものである、シングと呼ばれるモンスターも存在します。

 イミテーターやシングは他のものに化けて「不意討ち」を行ないます。

【チェスト・イミテーター】

 宝箱の形をしたイミテーターです。盗賊が調べようと手を触れたとたん、攻撃してきます。チェスト・イミテーターは実際に宝箱として使われることもあるので、倒した後にその体内から財宝が見つかるかもしれません。

【ドア・イミテーター】

 扉の形をしたイミテーターです。ノブに触れたとたん、攻撃してきます。最初のラウンドでドア・イミテーターの攻撃が命中した者は、片腕をつかまれたこととなり、以後のラウンドでは回避にペナルティーを受けます。戦闘にはもう一方の腕しか使えませんし、動きが制限されますので古代語魔法も使えません。腕を振りほどく方法は「締めつけ」と同じですが、つかまれていることによるダメージは受けませんし、声を出すことも可能です。

【フロア・イミテーター】

 イミテーターの中でも、最も危険な種類です。一つの部屋の床全体がイミテーターで、室内に入ってきた者を攻撃します。動き出したフロア・イミテーターの上に乗っている者は、足場が不安定なために攻撃と回避にペナルティーを受けます。

 フロア・イミテーターは、自分の上に乗っている者なら何人でも攻撃できます。フロア・イミテーターの攻撃が命中した者は、その不定型の体に包み込まれて「締めつけ」られてしまいます。

【シング】

 イミテーターと同じく、シングも不定型生物で、一説によれば野生化したイミテーターだといわれています。違うのは知能を持っているということと、人間に近いサイズのものならいかなる生物にも化けられることです。その巧妙な変身を見破ることはほとんど不可能ですが、イミテーターとは逆に、無生物に化けるのは得意ではありません。

 シングはしばしば人間を食べます。人間かエルフの姿で獲物に近づき、相手をしっかり油断させてから、一人のときを狙って襲いかかるのです。人間を狙うのは、他の動物に比べて騙しやすいからです。動物は嗅覚が鋭いので、いかにシングが本物そっくりに化けても、臭いの違いで見破ってしまいます。

 戦いのときには、身体を変形させて多数の腕や触手を出すことにより、シングは最大六回の攻撃を行ないます。



 TRPG『ロードス島戦記RPG』では、チェスト・イミテーターとドア・イミテーター、シングに分けられています。

【チェスト・イミテーター】

 チェスト・イミテーターは宝箱に擬態した魔法生物です。戦闘時は腕一本と足二本が生え、腕で攻撃します。近づくものを排除し、倒した後は周囲を汚さぬように体内へ取り込んで消化します。犠牲者の所持品を体内に取り込んでいたり、この魔法生物の作り手が実際に宝箱として使っていた場合もあるでしょう。

【ドア・イミテーター】

 ドア・イミテーターは扉に擬態した魔法生物です。戦闘時は腕二本と足二本が生え、腕で攻撃します。侵入者を排除し、体内へ取り込んで消化します。遠目には、扉の前に犠牲者の所持品が散らかっているように見えるでしょう。

【シング】

 シングは暴走して意思に目覚め、野生化したイミテーターだと考えられます。人間やエルフに擬態し、人語を解し、狡猾に犠牲者へ近づこうとします。戦闘時は上半身から触手4本が生えて攻撃してきます。役割を与えられていなくても、人間などを捕食しようという意思を持ち続けています。



 TRPG『クリスタニアRPG』では、床や宝箱など、他の物体を装う疑似生命体。魔術師たちが財宝を守るために創造した番人。カモフラージュで姿を隠し侵入者の不意を討ちます。複数への同時攻撃が可能で、攻撃が大成功すると相手を絞めつけていることになるのです。





最後に

 今回は「ミミック」に代表される「イミテーター」についてまとめました。

 擬態して冒険者を油断させて襲いかかる狡猾なクリーチャーですが、知能はそれほど高くはありません。



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