706.事典篇:亜人族:ハーピー

 今回は「ハーピー」についてまとめました。

 ギリシャ神話に登場するので、本来は古代ギリシア語の「ハルピュイア」と呼ぶのが正しいのですが、RPGでは「ハーピー(ハーピィ)」と呼ぶことが多い。





事典【亜人族:ハーピー】


 一般的には英語読みの「ハーピー」として知られていますが、ギリシャ神話発祥なのでラテン語である「ハルピュイア」が正式な名称です。

 ここではTRPGでよく用いられる「ハーピー」を採用してまとめました。




ハーピー

 ハルピュイア、ハルピー、ハーピィは、ギリシャ神話に登場する女面鳥身の伝説の生物です。顔から胸までが人間で、翼と下半身が鳥と描写されます。その名は「掠める者」を意味します。

 ハルピュイアは、ガイアとポントスの子タウマースとオケアノスの娘エレクトラの娘で、虹の女神イーリスの姉妹です。

 黄泉の国の王ハーデスまたはゼウスの手下であり、老婆のような顔、禿鷲の羽、鷲の爪を持ちます。食欲が旺盛で、食糧を見ると意地汚く貪り喰らううえ、食い散らかした残飯や残った食糧の上に汚物を巻き散らかして去っていくという、このうえなく不潔で下品な怪物です。

 神話によってはアエロ(疾風)、オキュペテ(速く飛ぶ者)の二姉妹とも、ケライノー(黒い雲)を加えた三姉妹とも、さらにポダルゲー(足の速い者)を入れた四姉妹とする場合もあります。



 TRPG『Dungeons & Dragons』第五版では、ハーピーは他の者を苦しめて殺すのが大好きな残酷な生き物で、いつも獲物を求めて狩りをしています。その甘美な歌によって死に誘い込まれ、ハーピーに近づいて殺され食べられてしまった冒険者は数知れません。

 ハーピーはハゲタカの下半身と足と翼、人間の女性の上半身と腕と頭を持っています。禍々しい鉤爪と骨の棍棒を振るい、戦いでは侮りがたい相手となるのです。その目はぎらぎらと輝いています。

 ずっと昔、一人のエルフの娘が森をさまよっていて鳥の音を聞きました。その声があまりに美しく健やかだったので娘は涙を流したのです。鳥の声のするほうへ歩いてゆくと、林間の広場に見目麗しい男のエルフが立っていました。彼もまた鳥の音を聞こうと足を止めていたのです。彼は世を離れたエルフの神で、その姿に娘は心奪われます。しかし神はその場を逃れ、初めからいなかったかのように森へ姿を消したのです。

 娘は森をさまよって、見たばかりの恋しい人を探しましたが、足跡さえも見つかりません。心焦がれ、望み失せて、娘は神々に救いを求めた。エルフの空の女神は娘の呼び声に心動き、これを助けようと思い立ったのです。追放された者たちの守り神をかつて恍惚とさせた、かの鳥の姿をとって、女神は娘の前に立ち現れ、かの鳥の美しく心奪う歌を娘に教えました。

 エルフの娘は妙なる歌を歌ったが、エルフの男神を引き寄せることはついに叶いませんでした。娘は神々を呪い、恐ろしい力を呼び起こして自分の姿を変え、最初のハーピーとなったのです。呪いは娘の身体だけでなく心にも影響を及ぼし、愛を求める心を肉に飢え乾く心に変えました。それでもやはり、娘の美しい歌は、彼女の恐ろしい抱擁へと生き物を惹きつけ続けるのでした。

 ハーピーの歌を聴くのは、この世のなにより美しい音楽を聴くことです。陶酔を誘う力に身を委ねた旅人は、声のするほうへふらふらと歩きだします。ハーピーは相手を魅了したうえで攻撃を仕掛けることもありますが、この歌のより有効な使い道は、相手を崖や沼や流砂や命取りの穴に誘い込むことです。囚われあるいは傷ついて身動きできなくなった相手は、怒り狂うハーピーの敵ではありません。

 ハーピーが徘徊するのは、たとえば荒涼とした海辺の崖など、空を飛べないクリーチャーにとっては危険極まりない場所です。ハーピーは正々堂々たる戦いには興味がなく、明らかに有利なときのみ攻撃を仕掛けます。ただし形勢不利になっても戦法を変えるほどの知恵はなく、しかたなく逃げ出して腹が減るのは我慢するのみです。ともかく正面から戦い続けることはありません。

 ハーピーは獲物を襲うときは相手をなぶりものにし、悲鳴を「音楽」として楽しみます。無力な相手をゆっくり時間をかけて切り刻み、何日も痛めつけたうえでようやく慈悲深い死を与えるのです。

 ハーピーは光り物、貴重品、その他の戦利品を持ってゆきます。誰が一番素敵な宝物を手に入れるかで、仲間内で争うこともあるのです。値打ちのあるものがなかったときは、獲物の毛や骨や体の一部を巣に持ち帰ります。ハーピーの巣はたいていの場合、人里離れた廃墟に隠れているのです。ハーピーの巣に挑む冒険者たちは、高価な宝物や魔法の品が腐肉の山の下敷きになっているのを見つけることもあります。



 TRPG『PATHFINDER RPG BESTIATY』では、悪意ある堕落したクリーチャーによく見られるように、ハーピーは他のクリーチャーの思考と行動をよく理解しています。この理解力は、彼女らが大好きな食べ物を見つけた時に有利をもたらすのです。野生のクリーチャーは容易く心を奪う歌の犠牲者となります。しかし、この悪辣な鳥女たちは複雑な知性で味付けされた食べ物を好むのです。単純な獲物には飽き飽きしています。

 きわめて野蛮で自らの行ないになんの良心の呵責も覚えないにもかかわらず、かなりの数のハーピーが人型生物の社会のすぐそばで暮らし、いつか餌食にするかもしれないクリーチャーたちとの交流を楽しんでいます。

 ハーピーは人間のピカピカ光る装身具に心を奪われがちで、犠牲者から奪った安ピカでチャチな装身具を身に着けていることが多い。このクリーチャーに近づくと、貪り食った犠牲者の腐臭がするのです。まれに羽毛にこびりついた血糊と腐肉の臭いをかいだ犠牲者が正気に戻ってしまうことがあるため、ハーピーの多くは香水や香油を使っています。

 ハーピーの外見は地方によって大きな差があります。ハゲタカと女性の混合物のように見えるハーピーもいれば、翼に鷹や隼のような堂々たる模様がつくハーピーもいるのです。熱帯の僻地の住む珍種にはオウムのような色とりどりの羽毛を持っているものもいます。



 TRPG『ADVANCED FIGHTING FANTASY』第2版『モンスター事典――奈落の底から――』では、長い間伝説のハーピーは荒れ果てた地で旅人を脅かす邪悪な羽を持つ生き物だと語られてきました。人間に若干似ていますが、醜く大きすぎる頭と発育不足の痩せた体をしているのです。手足の間には広げると巨大な皮膜があり、コウモリ人間のように見えます。足は鳥のようで先端には鋭い爪を持つのです。この不愉快な存在は、独りで旅をする者や冒険者をいたぶることに喜びを覚えるらしい。泣きわめくような声で空から舞い降り、翼で打ちすえたり、鉤爪で切りつけたりします。こうして呆れるほどいつまでも犠牲者を傷つけるが、やがてそれにも飽きて獲物の息の根を止めるのです。その後、死体をバラバラにして巣穴に持ち帰り(多くは崖の高いところにある洞窟や岩棚で、そこから弄ぼうとする者を何キロも先から物色する)、そこで食い散らします。



 TRPG『Tunnels & Trolls』完全版では、ハーピィは見た目は人間と巨大な鳥の混血に見えますが、実は違います。魔法の力を借りて繁殖したにせよ、ハーピィの数の多さはそれでは説明がつきません。

 見た目は大型の猛禽類の胴体に、先端がカミソリのように鋭い鉤爪になった力強い脚を生やしています。人間的なところは顔と頭部だけ、あるいは頭部と女性の上半身だけでしょう。いずれの場合も、腕の代わりに翼が伸びています。見た目が美しいものもいれば、恐ろしいものもいます。羽毛の生えた幅の広い翼で自由に空を飛べますが、腕と手がないので、特別に調整された道具や武器、魔法しか使用できません。

 すべてのハーピィは女性のように見えます。他の有翼の人型種族は惑星トロールワールドのどこでも見られますが、ハーピィはそうした種族とあまり頻繁に接触しません。ハーピィの人口が安定していることを考えれば、単為生殖というのも有り得る話でしょう。


 TRPG『Tunnels & Trolls』完全版『MONSTERS! MONSTERS!』では、ハーピィは女性の顔と身体に、獰猛な鳥の胴と鉤爪のあるモンスターです。つねに腹を空かせています。

 ハーピィは女性の頭と胴体に、鳥の翼、鉤爪を持つモンスターです。性格は狂暴で、相手が自分の食料になると思えば容赦なく襲ってきます。

 ハーピィは空を飛びます。しかし人間を持ち上げるほどの力はありません。



 TRPG『ソード・ワールドRPG』完全版では、ハーピィは胸と頭部は人間の女性、それ以外の部分は鳥という生物で、肉食性です。ハーピィにはディーラとフリアの二種族がいます。

【ディーラ・ハーピー】

 ディーラ・ハーピーは海岸に棲み、美しくて言葉をしゃべることもできます。人間に対しては中立です。ディーラ・ハーピーは人間の男性と交わって卵を産みます。このとき、ディーラは歌声による「魅了」の能力を用います。ディーラ・ハーピーの歌を聞いた者は魅了されてディーラの言うがままになってしまいます。

【ディーラ・ハーピー・キング】

 ハーピィには通常、雌の個体しか生まれません。しかし、極稀に雄が生まれることがあります。雄に恵まれた群れは人間の男性を使わずとも子孫を残すことができるため、その雄を王として頂きます。そうした群れでは、人間を使う必要がないことと、その王の存在を知られないようにするために人間を魅了しようとはせず、関わりあいを極力避けるようになります。

 ごくまれに生まれるハーピィの雄は、通常の雌よりもひとまわり大きな体をしています。また歌声による「魅了」の能力はありません。

【フリア・ハーピィ】

 フリア・ハーピィは山岳地帯に棲んでいて、醜くて知能が低く、常に攻撃的です。フリアは鷲の雄と交わるので、鷲とともに遭遇することもあります。特殊能力はありません。



 TRPG『ロードス島戦記RPG』では、ディーラ・ハーピィとフリア・ハーピィがいます。

【ディーラ・ハーピィ】

 ディーラ・ハーピィは人間の女性の頭部と胸を持ち、その他は大型の鳥という姿です。ディーラ・ハーピィは美しい外見をしており、海岸沿いに集団で暮らしています。美声で歌ったり、人間とコミュニケーションも取れるのです。単独での繁殖力がなく、代わりに人間の男性との間に子をもうけられます。

【ディーラ・ハーピィ・キング】

 ディーラ・ハーピィ・キングは、ごく稀に生まれる、男性のディーラ・ハーピィです。この個体がいる群れでは、人間の男性がいなくても子孫を残していけます。

【フリア・ハーピィ】

 人間の女性の頭部と胸を持ち、その他は大型の鳥という姿をしています。フリア・ハーピィは醜い外見をしており、山岳地帯に集団で生活しています。知能が低く攻撃的です。単独での繁殖力がなく、代わりに猛禽類の雄との間に子をもうけることができるため、そうした鳥とともに姿を現すことがあります。



 TRPG『クリスタニアRPG』では、鷲の胴体に、美しい人間女性の上半身が合体した姿の魔獣。知性は低く性格は攻撃的です。山岳地帯などに数匹で群れをなして棲んでおり、侵入者を見つけるとけたたましい鳴き声をあげながら、鋭い鉤爪で攻撃します。



 TRPG『グランクレストRPG』では、ハルビュイアは上半身と顔が人間の女性、腕と下半身が鳥の姿、という魔獣。人間を見かけると手当たり次第に群れで攻撃を仕掛けてきます。



 TRPG『ログ・ホライズンTRPG』では、女面妖鳥ハルピュイアは岸壁に棲む精霊亜人で、上半身は人間の女性、下半身は赤い翼の鳥の身体といった姿をしています。女面妖鳥ハルピュイアに代表される精霊亜人とは、確固とした実体を持たない純粋な精霊とは異なり、エネルギーと親和性の高い肉体を持っているタイプの精霊の呼称です。数匹程度の集団で狩りを行ない、けたたましい金切り声をあげて襲いかかります。その声は人間には聞くに堪えない罵声となって響く魔力が籠もっており、相手を精神的にいたぶり楽しむ邪悪な性質を持つのです。『大災害』後には罵声の内容が個人のトラウマに関わるさらに厄介なものになりました。



 TRPG『ゴブリンスレイヤーTRPG』では、歌鳥人ハルピュイアは、未だ文明と接触していない、鳥人の蛮族です。両腕が翼になった美しい男女で、蹴爪と歌で自衛を行ないます。





最後に

 今回は「亜人族:ハーピィ」についてまとめました。

『D&D』のハーピーはギリシャ神話の凶暴性を受け継ぎ、『SW』『ロードス島』では凶暴な種と、あまり害のない種に分かれています。『T&T』でもハーピーには善良なものと邪悪なものがいるとされているのです。



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