704.事典篇:亜人族:メロウ、セルキー

 今回は「メロウ」「セルキー」についてまとめました。

 ともに伝承上の存在です。しかし「メロウ」は『D&D』の、「セルキー」は『T&T』の固有となっています。

 とくに「メロウ」は「デーモンの邪悪に染まった人魚」として登場させると『D&D』の著作権を侵害するのです。

 名称または形態を変えることで、固有の外に出ることができます。





事典【亜人族:メロウ、セルキー】


 邪悪に染まったマーフォーク(マーマン、マーメイド)のことを「メロウ」と区別したのは『D&D』のみです。しかし「メロウ」という名称自体は古アイルランド語ですから、あなたの「剣と魔法のファンタジー」に「メロウ」という名のクリーチャーを登場させても著作権には抵触しません。

 ただし「メロウ」を「デーモンの邪悪に染まった人魚」として用いると『D&D』の著作権に抵触します。あなたの「剣と魔法のファンタジー」に出したいのなら設定を変えてください。




メロウ

 アイルランド民話・伝説上の「人魚」または「半魚人」。

 メロウはアイルランドに伝わる人魚です。姿はマーメイドに似ており、女は美しいが、男は醜いといわれています。この人魚が出現すると嵐が起こるとされ、船乗りたちには恐れられていたのです。また女のメロウが人間の男性と結婚し、子どもを産むこともあるといいます。その場合、子供の足には鱗があり、手の指には小さな水かきがあるとされるのです。

 19世紀発表の二編で広く知られました。ひとつは人魚が「魔法のフード」を奪われて人妻となる『ゴルラスの婦人』、もうひとつはメロウの男性と漁夫が友誼を結ぶ『魂の籠』です。

 メロウは緑髪または全身緑色で、手に水かき状の膜や、魚のような尾を持っているといいます。ところどころの地域では、人魚と夫婦となり子をもうけた、または、ある家系が人魚の子孫であるなどの伝承が残っています。

 古アイルランド語で「メロウ」に相当する祖語を直訳すると「海の歌い手」を意味し、本来は「セイレーン」を意味したようです。「セイレーン」は形状が人魚で、催眠効果のある歌を持つ怪物として描写されます。

 1828年にT.クロフトン・クローカー氏による民話集『南アイルランドの妖精物語と伝説』にメロウの話が掲載されており、このときのクローカー氏の注釈がのちの民俗学的なメロウの礎石となりました。

 女性のメロウの場合、その容姿は〈上半身は人間、下半身が魚〉とする西洋一般の典型的な人魚像と大差ありません。その下半身は緑のかかった鱗が密集しています。緑色の毛髪を持ち、ときには手に携えた櫛で髪を梳かすのです。指と指の間にはおぼろげながら水かきがついており、それは卵の殻の薄皮のように白く薄い膜とされます。

 メロウは「つつましく、親しみ深く、優しく恵み深い」とも評され、「人間との絆をつくる」こともできますし、異種同士での婚姻がおこなわれた例もあるのです。子孫に「鱗状の皮膚」や「手指・足指の間の薄膜」などの兆候が現れた例が伝わります。

 しかし何年も生活を共にすることはあっても、そのうち一種の帰巣本能が働き、メロウは海中に戻ってしまうのです。家族の愛ですら引き止めることはできません。その衝動を抑えさせるには人魚妻の持ち物である「魔法のフード」を見つけられないように厳重に保管する必要があります。

 メロウの女性は、ときおり若者を波の下の世界へ誘いますが、誘惑された若者は魔法をかけられ海中で暮らすようになるといわれるのです。

 メロウの女性は美しいが、男性は醜いものとされていて、メロウの女性がときおり陸上の人間に伴侶を求めるのもそれで説明できる、との考察もあります。

 メロウの音楽は、はるかな深海から聞こえてきますが、その音は海上をふわふわと漂うかのようです。メロウは砂浜でも波上でも、音楽に合わせて踊るといわれます。

 メロウの男性は、魚人が航海で溺れた人たちの魂を籠に封じ込め、それらを飾って眺めて暮らしているという設定です。しかしこれは創作であって民話ではありません。創作ですが、メロウの男性は体も髪も歯も緑色をしており、鼻は赤く、目は豚似で、鱗に覆われた下肢の間からは魚の尾を生やしており、腕はヒレのように短かったとされています。

 TRPGでは『D&D』に登場します。それ以外は「マーマン、マーメイド」として一緒に扱われています。『D&D』でメロウが邪悪だとされているのは、「男性が醜い」からでしょう。



 TRPG『Dungeons & Dragons』第五版では、メロウは陸に近い水辺を荒らしまわり、漁師やマーフォークなど食べられる生き物を見つけたら何でも食べます。この獰猛な怪物は不用心な獲物をひっつかんで丸かじりし、水死体は海底の巣穴に持ち帰って喰らうのです。

 大昔、マーフォークのとある部族が海底でデモゴルゴンの像を見つけました。像の正体を知らぬまま、彼らはそれを宝として王に献上したのです。この像に触れた者はみな狂気に侵され、王もまた狂ってしまいました。狂える王はアビスへの門を開くべく生贄の儀式を行なえと命じたのです。

 虐殺されたマーフォークの血が大海原を赤く染め上げ、儀式は完成しました。王は生き残った臣下を引き連れて水中に開いた門をくぐり、アビスのデモゴルゴンが治める階層へ向かったのです。

 このマーフォークたちはアビスで世代を重ね、戦い続けるうちに、アビスによって完全に捻じ曲げられ、邪悪で巨大な怪物へと作り変えられました。最初のメロウが生み出された経緯はかくのとおりです。

「全デーモン族の王」デモゴルゴンは機あるごとにメロウを物質界へ送り返し、大洋に大混乱を巻き起こそうとしています。メロウは弱い者いじめが大好きで、相手が自分より弱く小さいと見れば常に襲いかかるのです。

 メロウの棲む海中洞窟には、犠牲者や難破船から回収した宝物や記念の品が詰まっています。彼らは自分たちの縄張りを示すために、殺した敵の腐乱死体や船乗りの溺死体を昆布で結びあわせて飾っているのです。

 銛を持っていますが、噛みつきや爪なども用いて一度に二回攻撃してきます。





セルキー

 セルキーはスコットランドとくにオークニー諸島やシェトランド諸島の民間伝承に語られる、アザラシから人間の姿に変身する神話上の種族です。

 ふだんは海中で生活していますが、陸にあがるときは「アザラシの皮」を脱いで人間と化すると言われています。

 脱衣した皮を農民が盗み、海に戻れなく困っている女性を強いて妻とする「白鳥乙女の伝説」型(羽衣伝説型)の異種婚姻譚が多い。また男のセルキーを愛人とした女の古謡バラッドや噂話も記録されています。

 オークニー諸島では「セルキー」と呼ばれる場合が多いが、シェトランド諸島では、こうした「アザラシ人間」をマーマンやマーウーマンと称する記録例も見られるのです。

 男性のセルキーは非常にハンサムな姿で、人間の女性を誘惑することに長けているとされます。そして彼らは決まって、漁師の夫の帰りを待つ妻のような、人生に不満を抱いている者を探すのです。人間の女性の方から男性のセルキーと会いたいならば、海に七滴の涙を落とさなければならないとされます。

 また、もし人間の男性が女性のセルキーが脱いだ皮を盗ってしまうと、彼女は男性の言いなりとなってしまい、妻になるしかなくなるのです。彼女らは妻としては完璧であると言われますが、彼女らの本来の住処は海なので、結婚してからも恋しそうな面持ちで海を眺めていることが多いとされます。また盗られた皮を見つけると、彼女らは海にある本当の家や、時にはセルキーの夫の元へと直ちに戻るのです。

 話によってはセルキーの乙女が人間の妻とされ、数人の子どもをもうけたこともあります。このような話では、子供の一人が皮を発見し(たいていはそれが何かを知らずに)、セルキーはすぐに海へと帰ってしまうのです。セルキーは普通人間の夫と再び会うことを避けるが、子供たちに会いに戻ってきて、波の中で一緒に遊ぶ姿が描写されることもあります。



 TRPG『Tunnels & Trolls』完全版では、アザラシに似たセルキーは、マーフォーク同様、地上に上がるときには「アザラシの皮」を脱いで人型種族の姿を取ることで、陸上と水中を自由に行き来できます。哺乳類の仲間なので水中では呼吸できませんが、素早く泳ぐことができ、アザラシの姿でも人型種族の姿でも、人間より深く長く潜ることができます。

 人型種族の姿で地上にいるときは、大きな黒い目と、つるつるした短い髪の生えた頭部でそれとわかります。彼らの髪は伸びません。また、マーフォークとは異なり、セルキーの指には水かきがありません。「アザラシの皮」を手元に置いておかねばならないという意味では、彼らは無防備です。普通、その皮は小さなベルトにして、他の衣服の下で肌に直接巻きつけてあります。変身するのに必要なこの皮を奪われると、アザラシの姿に戻れなくなるからです。

 マーフォーク同様(彼らとは不穏な関係にあります)、小さく軽い武器を好み、重い鎧を避ける傾向にあります。セルキーはそう簡単には溺れませんが、鎧が重いとあっというまに溺れるでしょう。





最後に

 今回は「亜人族:メロウ、セルキー」についてまとめました。

 マーフォークが狂気化したものを『D&D』では「メロウ」と言います。

 冒頭に書きましたが、名称自体には著作権はありません。

 しかし「デーモンの邪悪に染まった人魚」という設定だと『D&D』の著作権に引っかかります。

『D&D』は神話や民間伝承、J.R.R.トールキン氏『指輪物語』以外にもオリジナル設定のクリーチャーを作っているのです。「剣と魔法のファンタジー」を書いている方は、安易に『D&D』のクリーチャーを登場させないようにしましょう。

 その点では『T&T』のほうが伝承に近い種族が多い。「セルキー」も伝承をそのまま引き写しています。



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